決行3
10 決行3
「うん?」
ふと見ると先頭の影がこっちに向かって手招きをしているような・・・、暗くてよくわからんが恐らく赤城だろう・・・俺を呼んでいる・・・。
そうか・・・俺はすぐにリュックを降ろすと、中からコントロール装置を取り出し赤城の隣へと向かう。
すぐにセットして起動させようとすると、まだ待ての合図だ。
一体どうしたのかと思っていたら、赤城はその場に座り込んでしまう。
うーん、緊張が長く続きすぎて疲れ切ったのか・・・?
赤城が身振りで俺たちも座れと指示しているように見えるので、そのまま床に座ると・・・なんとあろうことか赤城はそのまま目をつぶってしまった。
うーん・・・、大胆というか・・・、いいのだろうか?
まあ、動くなというのであれば動かないでいましょう、赤外線ライトを消して通路は真っ暗闇に・・・。
恥ずかしい話だが作戦行動の最中はトイレに行くこともままならんことが想定されるため、大人用のおむつを装着して臨んでいる。
先ほどトイレを見つけたので、早めに攻略してしまえばおむつは不要と考えていたのだが、どうやら当てが外れてしまったようだ・・・。
「・・・・・」
しばらくして、体を揺り動かされて目が覚める。
赤城の身振りを何とか理解してコントロール装置を起動すると、扉の前に立って霧島博士が準備してくれていた信号の電波を発信する。
『ガーッ』すると、予想通りに扉が開いた。
中にはきらびやかな電飾が付いたパネルが満載の装置が・・・、恐らくここが集中制御室というか操縦室だろう。
最低限のセキュリティとして、管理者にしか扉を開けられないようにしてあるのだ。
すぐに操縦室の中に入って行って、コントロール装置にケーブルを取り付け、それらしい差し込み口を探し回る。
『コンコンッ』ちょうど正面に立つ影が、ノックして差込口らしい存在を教えてくれた。
電飾きらびやかなパネルの前にヘッドレスト付きの大型の座席が2×2列で4席あり、その前方に差込口があるようだ。
すぐにそこにカードを差し込んで、コントロール装置で今度はファイルを再生する。
『ピピッ』すぐにコントロール装置画面が切り替わり、コックピットのような画面が起動された。
どうやらアクセスに成功したようだ・・・、急いでユーザー管理プログラムにアクセスして管理者IDを探り、一つ一つパスワードを書き換えていく。
これをしておかないと、すぐにリモートで管理を奪われてしまいかねない。
管理者IDはわずかに3つだけのようで、書き換えを終了してから皆にゴーグルを外すよう、手ぶりで促す。
そうして操縦室の照明を点ける・・・、明かりがまぶしい・・・。
「やりました・・、乗っ取り成功です。」
俺は笑顔で皆に告げる。
『キュイーンキュイーン』するとすぐにけたたましい警報が鳴り、扉を開けたままの通路では回転灯が回り始めた。
「そうでもないようだな・・・、操縦用の制御と円盤コントロール用の制御が分かれているのか、あるいはいち早く気付いた向こう側が、我々を排除するよう指示を出していたかだ。
他の国の潜入が完了するまで、行動を控えていたのだが感知されたと考えた方がいいだろう。
すでに日本では家畜の受け渡しなどとっくに終わっているだろうから、風船で膨らましただけの着ぐるみではばれてしまったのかもしれないな・・・、他の国の潜入組が成功していればいいが・・・。
まずは、扉を閉めてくれ・・・。」
『ガーッ』赤城の指示通り、コントロール装置を使って扉を閉める。
この辺の操作は、東京基地のシャッター開閉と同じだから簡単だ。
そうか、他国での家畜の収容が実施されるまで時間をやり過ごしていたというわけか・・・、かといってあの家畜倉庫にそのままいたら地上に送り返されてしまうから、着ぐるみだけを残して通路で時間をやり過ごしていたというわけだ。
「阿蘇は、他のチームにこれまでの進み方を伝授してくれ。
もうすでに向こう側の世界にばれてしまっているだろうから、急がなければならない。
新倉山君は何とか警報を切ることができるかと、ガードロボットが起動していたら、それらの動きを止められないか試してみてくれ。
筑波以下、戦闘班はドア周辺を固めろ・・・、火器使用はマシンガンまでにしておけ、バズーカやロケット砲は使用禁止だ・・・、取り敢えず操縦制御は奪ったようだからな。
壊してしまっては元も子もない。
捕獲装置を持ってきているだろうから、試してみてくれ。」
赤城が矢継ぎ早に指示を出し、戦闘班が配置につく。
『ガンッガンッガンッ』ハンドアームマシンだろうか・・・、扉を破ろうとしているのだろう、結構厚い金属製の扉に見えるのだが、少しづつ打痕が浮き出てきて、変形し始めた。
幸いだったのは、ここの扉だけがセキュリティ対象であったことだ。
管理者のパスワードを書き換えたので、破る以外にあけられないだろう。
「こちら日本チーム・・・、聞こえますか?
円盤内部に潜入して、家畜倉庫を出て通路を進んでいくと一番奥側に操縦室の扉があります。
その扉は・・・」
阿蘇が扉のセキュリティを解除する手順を無線で連絡し始めた。
じゃあ俺は警報を・・・うーん、どれが警報のスイッチだろうか・・・、東京基地には警報なんてついていなかったから、操作パネルのどこにそんな機能があるのかわからない。
第一この操作パネルは恐らく円盤の操作用であり、俺が扱っていたマシンの操作画面とは全く異なるので、何をどう触っていいものやら・・・。
『ドゴッガゴッ』ふとコントロール装置画面から視線をあげると、ドアの変形が大きくなってきて、破壊音も大きくなってきた。
筑波たちが銃をもって身構える・・・しかし、ガードマシンやハンドアームマシン相手では、マシンガンだけではマシン表面に傷をつけるくらいしかできないだろう。
どう戦うつもりだ?
『バリバリバリッ・・・・』ついにハンドアームマシンに扉がひきちがれ、数台のマシンが顔をのぞかせる。
まずい・・・。
『ボゴッ・・・ズンッ』『ボゴッ・・ズンッ』すると筑波が構えていた銃から火花が・・・、いや火花ではなく花火が・・・、でもなくて花火のように見える白い蜘蛛の巣状のものが飛び出し、マシンを包み込んで壁に貼りついた。
なんだあれは・・・、『ボゴッ・・・ズンッ』その後も、別な隊員が発射していきネットがマシンを包み込んでいく。
『キュイーン・・・』そのネットに包まれたマシンは、床に貼りついたまま動けない様子だ・・・、そうか磁石だ・・・、ネット周辺には強力な磁石がいくつもついていて、それが円盤の壁の鉄成分に貼りついてマシンを固定させているのだ。
まさに、円盤内部だからこその捕獲だが・・・、『キュイーン』中には磁石が樹脂部分に当たってしまったのか、マシンをつなぎ留めておくことができずに、外れてしまうネットも・・・。
「ドア周辺を固めろ・・・、自分が盾になってでも中に入れるな!」
すぐに筑波が大声で檄を飛ばす。
『ガガガガガッ』『キュイーンチィーンッ』マシンガンでの応酬が始まるが、表面ではじかれてしまうだけだ。
まずいまずい、急がなければ・・・、警報なんかどうでもいいから、まずはマシンを何とかしなければ・・・。
気を取り直して冷静に考える・・・、そうか・・・すぐに先ほど仕入れたIDと書き換えたパスワードをこのコントロール装置に管理者登録したのちにログオフして、そのIDの一つを使ってログインし、いつものようにマシンのコントロール画面を起動させる。
うまいこといってくれ・・・と思ったが、コントロール下のマシンは1台もいない。
すぐにログオフし、別な管理者IDを使用してログインしてみると、今度のIDではマシンが何台も表示される。
すでに別ユーザーIDに振り分けられてはいるが、この管理者IDで切り替え可能だ。
設定されているユーザーIDとの接続を切り離していく・・・・『キュィーン』すると、操縦室の中に入り込もうとしていたマシンの動きが止まって、その場の空中に浮かんだままとなった。
ようやく成功だ・・・。
「阿蘇・・・円盤の管理者IDのパスワード書き換え方法と、マシンのコントロールを奪う方法を教えるから、無線機を持ってきてくれ。」
「おお・・・、分かった・・・。」
すぐに阿蘇を呼び寄せて、マイクに向かってこれまでの手順を説明していく。
他国のチームでもコントロール装置の扱いに慣れている奴が潜入しているはずだから、口で説明するだけでわかるだろう。
『オーケィ・・・センキュー・・・』無線機の向こう側から、明るい声で返事が返ってくる。
すでに乗り込んでいれば、あとは何とかなるだろう。
さあてと・・・マシンの操作プログラムを一旦待機させて、コネクターケーブルを接続しなおして、ログイン用の信号を・・・と思っていたら、すぐにコックピットのような画面が起動する。
しかも右下のアイコンに赤い警告文字と点滅表示が・・・、そうか・・・コントロール装置自体もログインIDで起動しておかないと、操作画面は起動しても実際のコントロールはできないという事か・・・、先ほどマシンコントロールのためにログインしなおして正解だ。
点滅アイコンをクリックして停止させると、通路の回転灯とアラームが止まる。
「阿蘇、申し訳ない・・、先ほどの手順は少し間違いがある・・・、パスワードを書き換えた円盤内の管理者IDでコントロール装置をログインしなおさないと、操作画面は起動しても実際には使えない。
マシンに襲われていればその解除のためにログインしなおすだろうが、そうでない場合もログインしなおしが必須と伝えてくれ!
そのためには、コントロール装置にそのIDを管理者権限で登録しておくことが必要なことも一緒にね!」
すぐに、無線機の前の阿蘇に大声で叫ぶ。
「うん・・・?まあ、よくわからんが聞いたままをそのまま伝えるよ・・・。
もしもし・・・、先ほどの手順の一部修正・・・。」
阿蘇がすぐに無線機に向かって、通信し始める。
まあコントロール装置を渡したときに、IDとか管理者権限とかも説明しておいたから、何とかなるだろう。
それよりも、この円盤のコントロールが先だ・・・、行き先表示・・・???
なんだあ・・・?NだのSだのWだのEだの・・・、枠があって何かを入力するようだ、ふうむ・・・。
「どうだ?動かせそうか?」
コントロール装置画面を眺めながら思案していたら、背後から赤城に声をかけられた。
「はあ・・・、行き先を入力すれば勝手に行ってくれるようですが、東京何区の何番地とかじゃあないようなんですよ、どうすればいいのか・・・。」
マシンのように画面を見ながら前進や後進に右左を操作するだけなら簡単なのだが・・・。
「これは・・・、地球上の座標を入力するのじゃないのか?
北緯何度何分、東経何度とかいうような・・・、HaとHという欄もあるが、これが地上からの高さだろうな。
まあ、メートルなんだかフィートなんだかセンチってことはないだろうが・・・、試しにこの座標を入れてくれ。
HaとHの意味は分からんから、試しに500にしておいてくれ、あまり低いとビルに激突しかねんからな。」
赤城がメモした座標を入力し、HaとHに500を入力して起動させる。
すぐに軽いGを感じたが、すぐに収まった。
もう到着したという事だろうか・・・?
「阿蘇・・・、霧島博士を呼び出せ・・・。」
「はい・・・。」
阿蘇がすぐに無線機に向かって呼びかける。
「こちら霧島・・・、順調かね?」
「赤城です・・・、とりあえず円盤の制御はこちらにうつり、ガードマシンの制圧にも成功しました。
今、そちらに向かっています・・・、見えますでしょうか?」
「なっ・・・なんだって・・・?
ちょ・・ちょっと待ちたまえ・・・おい君、ハンディタイプ・・・とも言えんか・・・、移動用の無線機をもって、すぐについてきてくれ。」
『ガタガタガタガタッ、・・・・・・・・・・』霧島博士の慌てた声とともに、そこらじゅうが騒がしくなり、やがて収まった。
「こちら霧島・・・、まだ何も見えんな・・・。
高度何フィートで飛行している?」
しばらくして霧島博士の声が聞こえてきた・・・、地下から地上へ急いで出てきたのだろう。
「それが・・・、座標と高さを入力するようですが・・・、高さの単位がよくわからなくて・・・、とりあえず500としました。」
赤城が、少し悩ましい声で答える。
「おお・・・あれがそうか・・・、見えてきたぞ・・・高さは恐らく500メートルだな・・・。
今、頭上だ・・。」
霧島博士の無線の言葉とほぼ同時に、少しのGがかかってすぐに収まる。
自警団司令部の上空に到着したという事だ。
「家畜たちを収容した装置は使えるか?霧島博士に乗り込んでいただこう。
そうすれば、もう少し手際よく操作できるようになるかもしれん。」
はいはい・・・そうですね・・・、転送ビームは・・・っと・・・。