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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
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作戦準備

第8話 作戦準備

 今度は、強奪部隊がやられた時のビデオだ。

 部隊が1列になって引き上げてくる時に、行く手に数人の重火器を構えた部隊が立ちはだかる。

 ラッキョウがマシンガンで射撃を始めようとした瞬間に、画面が乱れる。


 最後尾のマシンの映像なのだ。

 そのまま時計回りに回転しながら、マシンは地面に落下していく。

 撃たれた様子も何もわからない・・・、と上司もあきらめ顔であった。


 気になるので、もう一度撃たれた場面を再生してもらった。

 そうして、時計回りに回転して背面を向いたタイミングで画像を止めた。

 そこにはマシンがきりもみ状態なので斜めになっているが、バズーカ砲を構えた男たちの姿が映し出されていた。


 先ほどと同じ男の顔だ。

 さっきも男の顔を見て思ったのだが、その顔には見覚えがある。

 と言っても知り合いの顔ではない。

 あれは、俺だ。


 がっしりとした筋肉質で、精悍な顔つきに変わってはいるが、俺の学生時代の時の面影が残っている。

 今でこそだらだらとした生活を続けて、でっぷりと中年腹をしているが、若い時からスポーツでも続けていたらこうなるんじゃないかと言う、俺の理想ともいえる姿だ。


 しかし、周りの連中は気が付いてはいない様子だ。

 俺も、ここで声を上げることは控えた。

 何も俺をモデルにCGを作ることもないだろうに・・・という事ではない。


 恐らく並行世界で、そこには俺も榛名朋美も存在するのだ。

 向こうの世界の榛名朋美が知っていると言う俺・・・。



 21世紀中盤から、有人ロケットによる宇宙進出と銘打った、月及び火星への飛行。

 既に月面基地が設置され、宇宙開発は木星の衛星であるガニメデなどまで到達している。

 あれは、宇宙資源の探索と言うよりも、増え続ける地球人口問題を回避する為に、移住先を探すことが目的であったのか?


 いや、太陽系内で水と酸素が十分に含まれた空気がある惑星は、地球しかない。

 唯一火星が一番近い環境の星であることは判っているが、現在の火星環境には地表を流れる水もなければ、酸素を豊富に含んだ空気もない。


 太陽系外へ目を向けたとしても、一番近い恒星までも4光年もかかるのだ。

 つまり、光の速さで進んだとしても、4年もかかる計算だ。

 とても、人の一生で辿りつける距離ではない。


 例え居住可能な惑星が見つかって、そこへ到達できる宇宙船が開発されたとしても、そこに到達するまでを見込んで詰め込む食料など膨大になるだろうから、食料危機問題の解決にはつながらないだろう。


 コールドスリープ・・・つまり冷凍状態で冬眠させて運ぶという手もあるのかも知れないが、もし、安全に冬眠できる方法があるのであれば、地球上で一部の人々を冬眠させて、目覚めている人口を減らす方が安全だし、有効的なように考える。


 何年か毎に、目覚める人を交代させれば、必要とする食料も減るし、何より人口増加スピードも抑えられる。

 眠っている人々は、科学が進歩した、はるか未来へ旅するようなものだから、交代で冬眠するということであれば、さほど大きな不満は出ないだろう。


 そんなことが出来ればいいのだが、無理という事なので、並行世界への進出という事だろうか?

 確かに、並行世界と言うくらいだから、物理的な距離は近いのかも知れない。

 その世界に関わる方法を知らないだけで、実際はすぐ隣にあるなんてことは、昔から囁かれている。


 しかし、未だに有人で太陽系を出る術も持たない今の科学力で、別次元へ到達するなんてことが、本当に可能なのだろうか。

 それよりも何よりも、実際に並行世界というものが存在していて、そこには自分たちとよく似た人々が暮らしているのだろうか?


 俺は、ふとある友人の名前を思い出して、そいつの所に電話を入れた。

 高校時代に、SF好きの空想少年であった俺と、気が合って良く昼休み時間などつるんでいた奴だ。

 そいつは俺なんかと違い勉強も良く出来て、物理学専攻で都内の国立大に進学し、今も大学に残って研究を続けているはずだ。


 高校卒業後の進路に大きな差が出来て、僻みもあったのか俺の方から連絡することはなくなっていた。

 そいつも、結構学歴主義のプライドの高い奴だったので、フリーターの俺なんかが声をかけても鼻もひっかけてはくれなかっただろう。

 なので、今の立場を利用することにした。


 さりげなく、一流企業に転職したことを告げ、週末に飲みに行こうと誘ってみた。

 研究に忙しいだろうに、久しぶりという事もあるのか、快諾してくれた。

 ついでに、異次元世界への接触に関して、ちょっと聞いて見た。


「異次元世界?

 ああ、数学の世界で成立している考え方だな。


 実際に行けるのか?だって?

 馬鹿を言うなよ、SF小説や漫画じゃあるまいし。」

 一笑に付された。


 まあ、そんなもんだろう。

 しかし、今実際に起きていることを考えると、異次元世界へアクセスしているとでも考えなければ、つじつまが合わなくなる。


 無理やり考えれば、凄まじく良く出来たシミュレーションプログラムで、理由は判らないが、精巧に考慮されたプログラムの中の人々と、死力を尽くして戦っている、と考えることだ。

 そんなことは判っている、しかし、何のためにこんなことをしている?


 翌日、職場へ行くと、また朝会が開かれた。

 昨日破壊されたマシンのうち、俺たち担当のガードマシンは手配が間に合わず1台だけ追加で、合計4台で日本基地の確保と、食料強奪時の女性陣のハンドアームマシンの護衛をしなければならないらしい。


 日本基地は激戦地区だと言いながら、どうして通常時でも他の基地と同じ5台のガードマシンなのだと、文句を言いたいくらいに昨日は感じたのに、更に1台減ってしまうのだ。

 それでも今日1日だけなので、頑張ってくれと発破をかけられただけで終わった。


 壊滅状態に追いやられた日本基地の為に、5台のガードマシン(1台は俺が中国から持ってきたので、1台中国基地へ配属)を供給したので、今回の2台で1時的に在庫が無くなったらしい。

 まあ、それまでにも、何台も壊されては供給していたのだろうからな。


 仕方がないか・・・。

 多分、こうやって1台ずつ剥いで行き、基地を攻略していくという敵側の作戦なのだろう。

 うーん、さすが日本だ。

 まさに、将棋の世界だ。


 破壊された1台を担当していた、1番年下の元学生フリーター(どうやら、就職が決まって大学中退したらしい)はモニター画面を監視して、敵の襲撃を察知する担当という事になった。


 それでも、シューティングの腕の落ちる3人組が2人組になると、食料強奪に行っている隙に基地陥落なんてことがあってはならないと、俺が基地の護衛に残ることになり、3人組のうちで1番成績の良い奴が、市場への護衛でラッキョウの補助をすることになった。


 シューティングゲームで、全国15位だった奴だ。

 それなら、俺とさほど実力的に変わらないのではないかと考えたが、まあ上司の顔を立てて指示に従う事にした。


 早々とシャッターの外へと出ると、今日も向こう側から歩いてくる人影が見えた。

 一瞬、榛名朋美かと思ったが、今日は男だ。

 よく見ると、あれは俺だ。


 いや昨日見た、精悍な姿の方の俺だ。

 早くも意表をついて、たった1台でのこのこと出て来たマシンを破壊する攻撃・・・かと思ったが、今日はバズーカ砲を抱えてはいない。

 手ぶらだ。


 奴は、俺のマシンの目の前までやってきて、右手の人差し指で自分の顔を指しながらなにやら叫んでいる様子だ。

 その声はいつものように聞き取れないのだが、それでも口の動きと身振り手振りから、言っていることはなんとなく察しが付く。


『俺が新倉山順三だ。

 俺の名を語って、殺戮と強奪をしているのは、誰だ。

 すぐにこんなことはやめろ!』


 なんて言っているのだろうと考える。

 昨日と言い今日と言い、どうして俺のマシンに対して文句を言ってくるのか、不思議に感じていたが、やがてすぐに理由を思いついた。


 俺のマシンだけは中国基地から飛んできたマシンなので、表示が中国語なのだ。

 それぞれのマシンには、黒字に白くNo.が刻まれているが、英数字の他に現地語での表記もされている。

 俺のマシンのNo.は2番だが、両と言う字に似た簡体字が記されているのだ。


 ちなみに、日本のマシンには漢数字が刻まれている。

 恐らく、この変な文字が刻まれたマシンが歩道に文字を刻んでいたことを見ていた奴がいて、その事を聞いた彼らが、俺のマシンが現れた際に出て来るのだろう。


 また、日本基地を奪還したマシンであることも分かっているだろうし、その時にゲリラを殺そうとせずに追い返しただけということも、こうやって平気で近づいてくる理由の一つなのかもしれない。


 俺は俺自身が、モニターに映し出されていることと、どうやら敵部隊の一員として、戦略行動をしているという事に恐怖を感じて、マシンガンの引き金を引いた。

 勿論空に向けてだ。


 しかし、向こうの世界の俺は、一歩も引かなかった。

 榛名朋美から何も聞いていないのか、スプレーで文字を書くこともせずにひたすら俺のマシンに向かって怒鳴り散らしている。


 しまいには、懐から大きな口径の拳銃を取り出して、マシンを狙ってきた。

 俺は、周りを見回しながら処置に困っていた・・、モニターを上司が見詰めていることを確認しながら困り果てていると、『ガガガガガッ』銃声が鳴り響いた。


 音が聞こえるということは、こちらのマシンの射撃音である。

 ふと振り返ると、俺と一緒に基地の護衛をしている奴のマシンが近づいて来ていた。

 彼が引き金を引いたのだ。


「どうしたんだい?ゲリラなんか、すぐに射殺してしまった方がいいだろう?

 どうせ、何を話しかけているのか、聞こえないからわかりゃしないのだし・・。」

 恐らく俺と同世代か、年上かもしれないやつが、したり顔で諭すように話しかけてくる。


 モニターの向こう側の俺の体は、顔の判別も付かないくらいに破壊されていて、ピクリとも動くことはなかった。

 そんな俺の姿を見ているのは忍びなくて、左手のレーザー光線銃で、倒れた体を焼いてやった。

 荼毘に臥したつもりであった。

 

 するとすぐにハンドアームマシンがやってきて、生焼けの俺の死体を持って、施設内へと運んで行った。

 前の席を見ると、ハンドアームは上司が操作していた。


「敵兵の死体はこちらで処理いたします。

 形式的ではありますが、きちんと弔っているということですので、ご安心ください。

 そのままの死体が敵側に戻ると、敵感情が刺激され攻撃が激しくなる傾向があるので、基地周辺の全ての死体はこちらサイドで処理します。


 その為、向こうではすでに死んでいる人のうちの大半が、捕えられ施設内で監禁されていると考えているかもしれません。

 捕えられた人たちの奪還の為に、施設を攻略して、内部シャッターをこじ開けようと考えているのでしょうね。」


 上司は作業しながら、極めて冷静に説明した。

 彼がマシンの操作をするのを、初めて見たと思う。

 まあ今この場には、シューティング班だけで、女性陣もメンテの人も居ないので仕方がないと判断したのかも知れない。


 どうして向こうの世界の俺があんなことをしたのか、全く理解できない。

 戦闘地域というか、我々の基地近くをうろうろしていれば、ゲリラと目されて攻撃されても文句は言えないはずだ。


 ましてや、俺のマシンに対して拳銃まで構えるなんて・・・・、絶対に攻撃されないという自信があったとでもいうのか・・・?まあ、俺は撃とうと考えてはいなかったが、それにしても他のメンバーだっている訳だし。


 向こうの世界の俺を射殺した奴の席の上の成績ボードに、10点が加わった。

 拳銃1丁だけではあるが、一応武器を持っていたので兵士と判断されたようだ。

 俺は、奴が引き金を引いたことを、間違っていなかったと思う事にした。


 目の前で自分が射殺されるのを見たショックは大きいが、今までだって他のメンバーは、ゲリラ兵であれば射殺し続けていたのだ。

 そんな場面の一つに過ぎない訳だ。


 俺は、久しぶりに吐き気をもよおしてきたが、皆には気づかれないように極力平静を装っていた。

 その日の襲撃は、前日程の熾烈さはなかった。

 午前中どころか、11時前には敵の攻撃が収まり、シャッター基地前は静寂に包まれた。


 マシンが破壊されて、手薄になった今が絶好の攻略チャンスだろうに。

 これは昨日同様、市場での強奪時に、ガードマシンが2手に分れることを見越して、この時に総攻撃をかけるのではないかと、上司が俺たちに更なる注意を呼びかけてきた。

 俺も、その考えには賛成だ。



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