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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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潜入作戦2

   7 潜入作戦2

「では、他に質問はあるかね・・・。


 分かっているとは思うが、このような危険任務を行うのは、日本のほかには世界でも7ケ国だけだ。

 接続ケーブルは10本あるが、コントロール装置を配布したのは7ケ国だけだから、この作戦を実行できるのは全部で8ケ国だけという事になる。


 他の国は牛や豚に紛れ込ませて高性能爆薬を送り込む・・・、収容された家畜たちには申し訳ないがね。

 そのためのカムフラージュの方法を、すでに小冊子にまとめて配布済みだ。

 まあ潜入したのはいいが、どうしてもコントロールを奪えない場合は、やはり爆破することになるがね。


 命がけの任務だから、無理強いはしない。

 何人以上というような規制をするつもりもない。

 希望者だけの精鋭で実行するつもりだ。


 では・・・ここに残って参加するか、無理だと判断して退席するか、30分休憩とするから、それまでに判断してくれ。

 いったん参加するとなったら、それぞれに役割分担を割り当てるから、ドタキャンは堪忍してもらいたい。

 どんなことになっても必ず駆け付けるという、意気込みを持つ者だけ残ってもらいたい。」


 最後に赤城が最終決断を促して、とりあえず会議は一旦終了した。

 俺はもちろん出ていくつもりはさらさらないし・・・、今のところは退席するようなメンツは一人もいない。

 阿蘇も残る意向のようだ。


「ふうん・・・異世界からの来訪者さんは、いろいろと知識をお持ちのようだが、そんなもの一旦死地へと向かえば、何の役にも立たないぞ。

 こんな特攻ともいえるような作戦が成功するかどうかなんて、理屈じゃないんだ気持ちだよ気持ち・・・、ハートが強ければどんな窮地だって脱することができるはずだ。


 男なら多少苦しそうな作戦だって、いちいち理屈をこねずに与えられた任務をうなずくだけでこなさなければいけないんじゃあないのかな。」


 会議室後方に座っている俺のところに、前方からがっしりとした体つきの男が、鋭い目つきでにらみつけるように近づいてきた。

 うーん・・・どこかで見たことがあるような・・・。


「おお・・・、やっぱり筑波も参加するんだね、君がいてくれると心強いよ。」

 俺の隣に座っている阿蘇が笑顔でそいつを迎える。


 そうだ・・・、俺がこちら側の世界に来たばかりの時に取り調べと称してさんざん暴力を振るってきたやつだ。

 確か、こちら側の世界の俺とペアを組んで、マシンに攻撃を仕掛けてきていたやつだ。

 そうか・・・こいつも参加するのか・・阿蘇は嬉しそうだが、一気に気が重くなる。


「阿蘇か・・・、お前は事務系の人間だったはずだが、こんな命知らずの作戦に名乗りを上げるとは珍しいな。

 まあ、お前はともかく・・・、理屈ばかりで頭でっかちの異世界の坊ちゃんと一緒じゃあ、成功の芽も摘まれかねない。


 なあ皆・・・、この世界を救うための作戦に、異世界の奴が参加することを許せるか?

 もともとこいつがいた世界が原因というのに、この世界に逃れてきてのうのうと生きているような奴が、何の役に立つ?


 俺たちの世界は俺たちが取り戻すべきだ、異世界の奴にはお帰り願おうじゃないか!」


『オーッ!』

 筑波のとんでもない意見に、数人の同調者が歓声を上げる。

 先ほど筑波が座っていた席の周りの奴らだ・・・、恐らく同僚か仲間だろう。


「この作戦は自警団員であれば、誰でも希望すれば参加可能と聞いている。

 但し、危険な作戦で必ず帰ってこられるとは限らないから、十分考えて結論を出すよう重ねて言われているがね。


 俺は今ではこの世界の自警団員だし、希望してこの場にいる。

 つまり、君が何を言おうが俺がこの作戦に参加することを止めることはできないはずだ。


 俺だって君に関していいイメージを持っていないし、一緒の作戦行動は憂鬱だが、この場から君を追い出すような画策をするつもりはない。

 命がけの作戦に参加するという事であれば、その意を汲んで一緒に頑張ろうと決めたところだ。」


 筑波は俺の席の脇に立って、俺を見下ろすような形でいるのだが、面倒くさいから顔を見上げることもせずに、ただまっすぐ前を見ながら答える。

 もともと、こいつに今回の作戦行動に対する任命権などないことは承知しているから、相手をしなくてもいいのだが、まあ俺なりの考えを告げておくことにする。


「ふうん・・・大人だねえ・・・、筑波もあきらめて席に戻った方がいいよ・・・、もうすぐ30分経つから、赤城先生たちが戻ってくるはずだ。」


「ちぃっ」

 阿蘇が腕時計を示すと、筑波が舌打ちをした後、前方の席に戻っていった。

『ガラガラガラッ』その直後、引き戸を開けて赤城たちが戻ってきた。


「おお・・・一人も帰るものは出なかったか・・・、ありがとう。

 では、これからのスケジュールと各人の役割を決めていくとしよう。


 まず、出発は今日から2週間後となる。

 分かっていると思うが、月初の原料引き渡しの時の家畜の回収に紛れるつもりだから、1ケ月に一度しかチャンスはない。


 日本国中の牧場の様子を撮影した映像を分析して、各牧場にそれぞれ世代を分けた家畜を分散させていて、毎回全部の牧場から収容しているという事がうかがえる。

 恐らく流行病などによるリスク回避だと考えているが、それなりに余裕を持たせているようで、それでも1ケ所に偏らずに収容していっているようだ。


 目的地は普通の登山ルートではない過酷な環境を進まねばならず、車で1日かけていった後は徒歩で3日ほどかかる。

 あまり早めについて近くで寝泊まりしていると、向こうの世界の偵察に見つかる危険性もあるし、かといって遅れるわけにはいかないので、ギリギリのスケジュールをそつなくこなしていかなければならない。


 すべてが一発勝負だが、これは世界中どこの地域も全て同じだ、失敗を許されない一発勝負、これを間違いなく実行する必要性がある。

 各人の役割分担だが・・・。」


 赤城が書類の束に目を通しながら名指しで指名していく。

 恐らく、作戦参加希望者の個人の経歴など紹介票を手にしているのだろう。


「円盤の制御との接続に関しては、新倉山君にお願いする。

 無人の円盤ではあるが、制作してこちら側へ送ってくるまでは、人が介在して制御していたはずだから、必ず制御室のような場所があると、霧島博士が推測している。


 そこをどれだけ早く突き止められるかに、作戦の可否がかかっているといっても過言ではない。」

 俺は予想通りコントロール装置担当で、円盤との接続ができた後は操縦も担当する予定だ。


「通信担当は、阿蘇にお願いする。」

 阿蘇は連絡係という事のようだ。


 円盤を乗っ取ることに成功したチームから、その手順を他のチームへと連絡する役割で、そんなことできるのかと聞いたら、向こう側の世界が使っている電波の周波数は、マシンをコントロールしているときの20種類の周波数帯のうちのどれかであり、その周波数帯の電波であれば円盤の内外でも円盤が増幅してくれるはずだというのが、霧島博士の推論だ。


 その周波数帯を使って、霧島博士がフォーマットしたこちら側世界独自のデジタル通信を使えば、向こう側世界には傍受されずに連絡できるという予想だ。

 大き目の登山リュックひとつ分くらいの無線機になってしまいそうという事だが、もしかすると運ぶための体力を考慮しての任命かもしれない。


「戦闘チームには・・・筑波、・・・」


 筑波は仮に円盤内でマシンなどとの接触が発生した場合の戦闘担当という事のようで、恐らく基地周辺で目的地や行動などをプログラムされて出発してしまえば、その後は独立して人工知能がコントロールするため、我々の存在が円盤内で見つかったとしても、向こう側の世界にすぐに連絡がいくことはないだろうと推測しているらしく、仮に連絡されたとしても、全ての地域で円盤に乗り込むか爆薬を送り込んでさえいれば、対処は可能だろうという事のようだ。


「爆破しなければならなくなった場合の、爆薬担当者は・・・」


 次々と指名されていく。

 都度立ち上がって周りに挨拶するため、顔も覚えることができた。

 まあ、阿蘇はこの場にいる全てのメンバーと顔見知りのようだから、俺が覚えていなくても大丈夫のようだが。


「では、今日のところはこれで解散とする。

 あとで、カムフラージュ用の着ぐるみなどがそれとなく届くから、あまり騒ぎたてずに冷静に受け取るように。

 また、決死の作戦だが、この後の2週間は申し訳ないが普通通りに業務を継続していてくれ。


 くれぐれも羽目を外してケガをしたり、あるいは目立つような行動をすることがないよう気を付けてくれ。

 君たちにこの世界の今後がかかっているという事を十分に認識して、努めて平静を装っていてくれ。

 家族や親しい身内などに話すことは禁止しないが、きちんと事情を説明して理解してもらうことと、やたらと口外しないことを徹底させてくれ。


 では、解散。」

 赤城が締めくくって、会議が終了した。


 みんな無言のまま部屋から出ていくようだ・・・、まあそうだろうな、重要任務に参加できることは名誉なことだが、まさに命がけの任務だから騒ぐことも控えるわな・・・。

 その後、通常業務をこなした後で帰宅することになった。



「ええっ・・・、生きて帰れるかどうかわからない作戦に参加するですって?

 どうしてそんな重要なことを、あたしに相談もしないで勝手に決めちゃうのよ・・・、だめよ、許さない。」

 朋美に特攻作戦に参加することを打ち明けたら、ふくれてそっぽを向かれてしまった。


「いやだから・・・、この作戦は世界中で行われる非常に重要な作戦で・・・この作戦如何に、この世界の未来がかかっているんだ。」

 俺は必死で朋美にわかってもらおうと説明する。


「だからと言って、その重要な作戦にジュンゾーが参加しなければならない特別な事情があるわけ?

 コントロール装置担当って言ったって、マシンをコントロールするわけじゃあないんでしょ?

 動かしたこともない円盤の操作だったら、誰が担当したって同じことでしょ?


 ねえっ・・・、順二の大好きなパパは、順二を置いてどこか遠くへ行ってしまおうとしているのよ。

 順二も引き留めて・・・。」

 質問攻めとさらに子供まで使ってきた・・・。


「パーパパーパ・・・。」

 何も知らない順二は、俺の膝の上で笑顔を振りまく。


「まず・・・コントロール装置に関しては、やはり俺が一番詳しいし、万一準備しているIDパスワードの電波が通じなかった場合でも、俺がいれば数ある管理者IDの一つ一つを試していくことだって可能だ。」


 やはりコントロール装置に関しては俺以上に熟知している存在はいないわけで、更に俺がパスワードを書き替えた管理者IDも多数あるわけだ。


「ジュンゾーはコントロール装置を使ってマシンを動かすことは、自分の手足のように簡単だって言っていたけど、それ以外の機能などは何一つ理解できていないって言っていたじゃない。


 それに、その管理者のIDとパスワードだって、ジュンゾーがすべて書き出しておけばいいわけでしょ。

 何もジュンゾーが行く必要性はないはずよ。」


 完全否定されてしまった・・、ううむ・・・コントロール装置のことやログインの重要性など、俺が知る限りの知識は何でも包み隠さずに全て話していたことが災いした。

 何を言い繕おうが、理由付けしての説得は困難な様子だ。


「確かに俺が行かなくてもいいことなのかもしれない。

 だけれど俺は、他の奴らに任せずに自ら参加して作戦を成功させたいと考えている。


 阿蘇も参加するといっているし、筑波とかいう奴も参加するようだ。

 彼らだけに任せておくことは、俺にはできない。」

 最後はやはり自分の気持ちだ・・・、正直に話して理解してもらうしかない。


「あ・・・中が参加する気持ちはわからないでもないけど、阿蘇君まで・・・?

 そんな危険な作戦というのに、どうして・・・?」

 朋美が押し黙ってしまった。


「マーマ・・・マーマ」

 うつむいてしまった朋美を心配したのか、俺の膝の上から離れて順二がよたよたと近寄っていく。


「うーん・・・、困ったパパたちでちゅよね・・・、またママを置いていこうとして・・・。」

 朋美が順二を抱きしめながら、涙を一滴床に落とす。


「いや・・・、朋美を置いて逝くことはしない。

 必ず帰ってくると約束する・・・。」


 俺は慎重派だから、できもしないような約束は決してしないつもりだ。

 それに、円盤がAIで操作されているという点が、俺が参加を決めた理由の一つである。

 対人戦闘が予想されていれば、俺は決して参加を希望しなかっただろうし、機械相手であるから無理が効から、何とかなるのではないかという目論見があるのだ。


 かといって、今回の作戦に対して必勝法が浮かんでいるわけでもなんでもないのだが、何が何でも成功させてかえって来るつもりでいる。

 それができなければ、この世界は向こう側の世界の植民地と変わらなくなってしまうのだから。


「分かった・・・、信じる・・・。」

 目をウルウルとさせながら、朋美はじっと俺の顔を見つめている。


 そうしてその後、この件は俺たちの間で話題に上ることはなかった・・・、もちろん園に行っても朋美は園長先生たちにも打ち明けることはなかったようだ。



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