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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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潜入作戦1

   6 潜入作戦1

 1週間の休みはあっという間に過ぎた・・・というか、園の子供を連れて遊園地に行った以外の日は、順二の面倒を見るつもりでいたのだが、昼飯の心配もあるからと、朋美に命じられて順二と一緒に園へ通わされた。


 そこで、保父さんさながらに子供たちの世話にかかりきりだったのだが、最初の時と違い子供たちとも顔なじみだし、何よりゲームを通じて尊敬まではされていないにしても、一目置いてくれているので、いう事を聞いてくれるから楽ではあった・・・。


 高校生の時に大人に混じってピンボールゲームのアマチュア大会に参加して上位の成績を収めた大雪君は、高校卒業と同時に本場のアメリカへ武者修行に出かけているので、俺がゲームの手ほどきをするという相手は、中学校から帰ってきた健ちゃんたちに変わっていた。


 さらに阿蘇も2日ほど来てくれて子供たちと一緒に遊んでくれたので、昼寝までゆっくりできたほどだ。

 それでも瞬く間に終わってしまい、何かもっと他にできることがあったのではないかと、終わってから後悔している。


「じゃあ、今日からは東南アジア諸国をメインに回ってもらうことになる。

 各地に配布する資料は、この小冊子にまとめてある。」


 連休明けに自警団本部に出勤すると、赤城が段ボール箱の中から、少し厚めの教科書のようなものを取り出した。

 ううむ・・・小冊子なんて言いながら、結構嵩張りそうじゃないか・・・、まあ仕方がないか30ケ国以上回るわけだものな・・・。


 阿蘇と2人で半分ずつをスーツケースの中にしまい込み・・・(持っていく荷物が多いと聞かされていたので、着替えは最小限で現地調達のつもり)阿蘇と2人で空港へ向かう。

 どこに向こう側の世界の監視の目が光っているかわからないので、怪しまれそうな大荷物は極力避けなければならないのだ。


 東南アジア諸国はすでに2回訪問し監査は終了しているので、新規参入の工場の監査という名目(それだって支給される原材料が年々減少する中で、参入する隙などないはずなのだが、無理やり作ったような理由だ)にて、工場を視察して回った。


 もちろんレポートとして報告するので、きちんと業務をこなし、その合間に土産物の小冊子を配って回った。

 そうして1ケ月かけて帰国した。


 もちろん、今回も子供たちへの土産物を準備してくれようとする国が多かったのだが、阿蘇が事前連絡として孤児院の子供向けに家で眠っている文房具を寄付してくれるよう募ってくれていたので、大量の鉛筆やノートに便せんや手帳など、各国の色とりどりの文房具で帰りのスーツケースが埋まり、週末に阿蘇と一緒に園へ届けることにした。



 帰国してから1週間後、自警団本部の地下施設の会議室に呼び寄せられた。

 そこには十数人の体の大きな若い男たちがひしめいていた。


「えー本日集まっていただいたのはほかでもない・・・、すでに概略は伝わっていると思うが、向こう側の世界の基地ともいえる農場の位置を突き止め、そこから敵円盤内へ潜入しようとする作戦がついに決行される予定だ。

 この作戦はいわゆる特攻作戦で、無事戻ってこられる保証はどこにもない過酷なものだ。


 そのため作戦に参加するか否かは各人の自由判断であり、決して命令ではない。

 今回集まっていただいたメンバーは、作戦への希望を申し出てくれたありがたい勇士たちだが、これから説明する作戦内容を聞いたのち、無理と感じたらその場で退席してくれてもかまわない。


 それほど厳しい条件の作戦であり、内容は包み隠さず全て説明する。

 その上で無理をしないよう、悔いを残さないよう、再度検討してみてくれ。

 では、この作戦の指揮を執る赤城参謀から挨拶がある。」


 いかつい顔をした軍服姿の中年男性が、会議室前方に立ち大声でこの会議の概要を説明してくれる。

 そうなのだ、あの巨大円盤に潜入しようとする作戦は、本人の希望を募って行われるわけだが、俺は迷うことなく参加を希望した。


 朋美には話さずに勝手に俺一人で決めたことだが、まあ、詳細説明を聞いてから話せばいいだろうと考えている。

 意外と簡単そうな作戦だったりするわけだからな。


「・・・・・・・・・・、では、この作戦の中心プランを立案してくださった、霧島博士から説明していただく。

 しっかり理解して、そのうえで自分が参加して役に立つことができるか、成功に寄与できるか検討してほしい。


 そのため質問があれば、説明の最中でもどしどししてもらって構わない。

 少しでも不明点があれば、必ず確認するように・・・、では霧島博士、お願いいたします。」


 赤城の挨拶が終わり、霧島博士が壇上に立つとともに、するすると天井から白い布のようなものが下りてきて、そうして部屋の照明が消される。

『カチッ、ジー・・・』そうしてスクリーンに映像が映し出される。


「あー本日はお集まりいただき、ありがとうございます。

 まずは順に説明していきましょう。

 ここは、長野と山梨の県境の山岳地帯ですが、尾根の木々はところどころ伐採され牧草地に変わり、一部山を削り田畑を開墾しています。


 人が入ることのない人里離れた山奥に、向こう側の世界は農場を作っていたのです。

 このような場所が北海道内に2ケ所、本州はここ1ケ所で九州にも1ケ所発見されています。

 どこも厳しい渓谷を越えなければ行きつかないよう周囲環境が工夫されていて、よく調べなければそれが人工的に作られたものであることすらわからないようになっていました。


 これにより何十年間もの長い間、我々に知られずに彼らは食料調達用の農場を経営していたのです。

 もちろん上空から眺めても簡単には農場であることがわからないよう、木々の配置など工夫されているようです。

 そうして今では、この農場から毎月我々の世界に加工用の原材料を調達しては供給しているのです。」


 映画のようにスクリーンに映し出される映像は、山奥とはとても思えない広大な農場の風景だ。


 もちろん向こう側の世界に見つからないように隠れて撮影しているのだろう、どの映像も遠目から望遠で撮影しているため、農作物が何なのか区別がつきにくい点はあるが、牛や羊など放牧されている様子はうかがえるし、まぎれもなく人が作った農場であることは明らかで、時折ハンドアームマシンが飛び交う以外は、普通の農場風景と変わりはない様子だ。


「これがつい先日の、収穫の様子です。」


 画面が切り替わり、牧羊犬が牛や豚などを追い立てて、牧場の一ケ所にまとめると、上方に円盤が出現して光のビームが当てられ家畜たちが円盤へと吸い込まれていく。

 さらにハンドアームマシンが大きな荷物を担いで小屋から出てきて、先ほど家畜たちを追い込んだスペースに並べていく。


 ハンドアームマシンがいるなら、牧羊犬など不要ではないかとも考えるが、ハンドアームマシンで追い立てると家畜にとっては違和感のある存在だしストレスにもなり、またアームなどが当たるとケガをしたりするから、古くからの技術である牧羊犬を使っているのだろうか・・・。


「家畜たちは生きたままで収容し、農産物はハンドアームマシンが刈り取り、袋に詰めて収容しているようですね。

 米や麦などは、恐らく脱穀もしているだろうと考えています。


 ただ家畜たちを放牧したり、米や麦など農作物も種をまくだけで育った分だけを円盤に吸い込ませているだけかと考えていたのですが、きちんと手をかけて育てていることが分かり驚愕の一言でした。

 まあ、手をかけなければあのような高品質の肉などできはしないという事でしょうね。


 遺伝子操作などしただけで、あとは手もかけずに楽々というわけではなさそうです。


 脱穀を終えた米や麦のわらや家畜たちのふんなどはたい肥として使用されており、もちろん野菜や穀物は家畜たちのえさになるわけですから、この農場だけで食物の循環サイクルは出来上がっていて、手間はかかっているようですが化学肥料や薬品などは使わずに有機農法にこだわっているようですね。」


 霧島博士がため息をつきながら説明してくれる。

 すぐにでも日本国中の農場に取り入れたい技術なのだろうが、そのノウハウは遠目からではわからないだろう。


「質問があります!

 その・・・円盤に潜入する方法ですが・・・、家畜たちに紛れて一緒にあの円盤の中に吸い込まれるという事なのでしょうか?」

 最前列に座っている若い男が、手をあげて霧島博士に尋ねる。


「そうです・・・、ですがただ紛れ込むというわけにはいきません。

 牧羊犬もいるようですし、何より円盤からのビームでは家畜たち以外の牧場の草や牧羊犬は吸い上げていないのです。


 つまり対象物の大きさなどで区分しているのか、選択的に吸い上げているようなのです。

 そのため、牛や羊に見えるような着ぐるみを作成中です。


 収容した家畜たちが、環境の変わった円盤内で暴れないようにするためか、支給される状態では家畜たちは生きてはいますが、麻酔で眠らされているようです。

 一緒に眠らされることのないように、酸素マスクも装着して着ぐるみの中に入ってもらいます。」


 霧島博士の合図により画面が切り替わり、今度は原材料供給時の家畜たちの映像を映し出す。

 ずいぶんとフィルムの入れ替えが速いなと感じて振り返ると、映写機が5台並んでいた。

 説明の内容により切り替えられるよう、スタンバイしているようだ。


「はい!

 円盤に乗り込むことができたとして、どのようにするのですか?

 爆弾を仕掛けてから脱出ですか?」

 今度は、部屋の中央部分に座った男が手をあげて立ち上がり質問をする。


「これが、コントロール装置と円盤をつなぐケーブルです。

 うまく操作できれば、円盤をこちら側で自由にコントロールすることができるようになるはずです。

 まずはコントロールすることを試みて、それが無理なら爆薬を仕掛けて脱出という事になります。」


 画面が切り替わり、クレジットカード大の板状の金属片にUSBケーブルが取り付けられた画像が映し出される。

 あれが、以前説明を受けた円盤とコントロール装置のインターフェースケーブルなのだろう。

 コントロール装置を繋げて円盤をコントロールする計画だ、だが・・・。


「すいません、質問があります。

 コントロール装置を円盤に接続できただけでは、円盤のコントロールは奪えません。

 管理者権限を持つIDとパスワードがなければ、操作できないはずです。


 俺が持っている管理者権限で、世界中の生き残った基地でマシンに対する接続ができることは分かりましたが、それは俺がクーデターを起こして1時的に向こう側の世界のネットワークを奪って、管理者のパスワードを切り替えたからです。


 その後、向こう側の世界は核攻撃に会い、ネットワークが寸断されたため、俺が書き換えた情報がいまだに残っているにすぎません。


 ところが巨大円盤は、現在向こう側の世界のコントロール下にあります。

 つまり向こう側の世界のネットワークに入っているという事であり、俺が書き換えたパスワードは使えないという事になります。


 ですので、せっかく乗り込んだとしても何もできずに終わってしまう公算が大ですけど・・・。」

 やむを得ず手をあげて質問をする・・・、以前説明を受けたときにこの辺りも明確にしておくべきだったのかもしれない。


 俺が世界各地を回り、コントロール装置を配布しながら各地域でマシンに接続していったことを知っているため、俺のもつIDとパスワードが通じると期待されていると大変なことになってしまう。

 もう一度計画を練り直していただかなければならないことになるかも・・・。


「ああそうですねえ・・・、新倉山君が向こう側の世界で強奪にかかわっていた時点では、すでに円盤は役目を終えていたわけだしね・・・、そのため君が持つ権限は通用しないことは理解しています。

 これは、牧場内で円盤が出現して家畜たちを回収している前後に受信された信号です。」


『ピィーゴロゴロゴロ』霧島博士が後方をのぞき込むようにすると、スクリーンに映し出されるのは光だけになり、代わりにノイズのような音が鳴り響く。


「月末月初の2日間、全国の牧場で受信された信号と、海外で受信された信号も全て重ね合わせて解析しました。

 デジタル信号だったから、AD/DAコンバーターを通してみたりしたのですが、暗号化されている様子で、中身は全く分かりませんでした。


 だがコントロール装置に通してみたら、IDかパスワードが違うためログインできませんという表示が出ます。

 つまり最初の情報は円盤への通信のためのログイン情報という事が分かりますね。


 詳細に調べてみると、信号の最初から0.5秒間はどの信号はまったく同じ波形という事が分かりました。

 つまり、自動ログインをしているという事なのだ・・・という結論に至りました。」

 霧島博士がにやりと笑う。


 霧島博士に引き渡したコントロール装置はもとより、各国に引き渡したコントロール装置は、いちいちIDとパスワードを入力という習慣がないこちら側の世界の人たちのために、起動とともに自動ログインするよう俺が設定してから配布してあるのだ。


「この0.5秒間だけの信号を取り出して、電源を落としたコントロール装置に通すと、起動画面が立ち上がりIDかパスワードが異なりますといったメッセージが表示される。


 コントロール装置に関しては、先ほど新倉山君が言った通り、彼がパスワードを書き換えてしまったからアクセスを拒否されてしまうのだろうが、恐らく円盤に対しては通用するのではないかと考えています。

 この信号をコントロール装置に録音して、ファイル化してみました。」

 うーん・・・流石、霧島博士はすごい。


「そうですか、安心しました・・・、まあ、念のための確認でしたけどね。


 それと、俺のいた世界では牛から人にうつる恐ろしい病気が発生したことがありまして、世界中で牛の管理を行うために牛の耳のところにICチップを埋め込んだり、バーコードが書かれたタグをつけたりして、一頭一頭を識別していました。


 こちら側の世界ではどうかはわかりませんが、その識別マークを利用していればそれも手に入れないと偽装は完全とは言えません。」

 恥をさらしてしまったので、少しでも名誉回復というわけではないのだが、念のための確認情報はまだあるのだ。


「おおそうかね・・・、それは気が付かなかった。

 最悪牛ではなくて豚に化けるとか計画変更もありうるね・・・、ありがとう、いい情報だ。」

 霧島博士がすぐに研究員たちを呼び寄せて指示を出し始めた。



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