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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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土産

   5 土産

「今回も世界同時に行わなければいけないわけだ・・・、なにせ一部の国だけを開放してもあまり意味をなさないからね。

 かえって植民地化するための口実を与えるようなものだ。」

 赤城が、霧島博士の言葉につけ足しをする。


 それはそうだろう・・・、日本だけ円盤を占拠したとしても、周囲国から大量の円盤がやってきて攻め込まれるだけだ。

 世界中で同時に円盤に乗り込まなくてはならない・・・、少なくとも潜入がばれる前までに・・・。


「幸いにも、あの円盤からこちら側との通信時以外の電波は発信されていないことから、恐らく人工知能により独立して動いているのだろうと考えている。

 リモートではこちら側から妨害電波を使えば、捕獲されてしまうからね。


 そのため、円盤内部に潜入してうまく待機することができれば、時を合わせて一斉蜂起することは可能と考えている。」

 霧島博士は自信満々だ。


「円盤内部に潜入して、爆弾を仕掛けて脱出するわけですか?」


「ああ・・・、まあ大半の円盤ではそうなるだろうな、なにせ円盤をコントロールする術がないわけだからな。

 だがコントロール装置があれば、恐らくあの円盤をも操作することができるはずだ。


 この間、地下に潜って向こう側の世界から持ち帰った備品の中に、大量のケーブル類が入っていただろう?

 どうやらあのケーブルの中に、円盤の制御装置とコントロール装置を接続できるケーブルがあるようだ。


 霧島博士が試験しているコントロール装置に、持ち帰ったケーブル類を試しに接続してみたところ、あるケーブルを接続すると推進装置のコントロールプログラムが起動されたようだ。

 それが光子エンジンのものと分かり、円盤の制御プログラムであることが推定されているわけだ。


 同じケーブルは全部で10本あるが、コントロール装置を配布している7ケ国プラス日本の8ケ国で、円盤に潜入して制御を奪う算段だ。

 その他の国では、爆弾を送り込んで内部からの破壊を行う。


 全ての国で爆弾を送り込んで円盤を破壊しないのは、円盤を破壊したところで、植民地化された地域の開放は望めないからだ。

 なにせ現状植民地化された地域では、自動化された工場には多くの強奪マシン・・・というかハンドアームマシンがあるようだからね。


 恐らく向こう側の世界から遠隔操作しているのだろうが、そのマシン相手に戦うのでは、今こちら側の世界で保有しているマシンだけでは、数が少なすぎるので、到底かなわない。

 巨大円盤を支配下に置く必要性があるわけだ。」


 今度は赤城が説明してくれる。

 それにしても、ずいぶんと思い切った作戦を・・・、潜入する組はまさしく命がけというか・・・特攻さながらだ。


「まあ、まだ敵の基地というか牧場兼円盤発着場も見つかってはいない状況だ。

 現在秘密裏に世界中でアルファ線を頼りに捜索している最中だ。


 見つかり次第、作戦開始となるわけだが・・・、君たちにはそれまで各国へダミー制作方法の説明をしてもらう必要性がある。

 なにせ、秘密回線が通じているのは、今この画面に映る7ケ国だけなのだ。


 それぞれその周辺国には連絡してもらうようにするが、アジア地域に関しては日本から回って説明するしかない。

 そのため、引き続き各国を巡回する任務を継続してくれ。


 といっても、これから霧島博士も研究を開始するわけだから・・・、まあ、来週以降ですかね・・・?」

 赤城が霧島博士の方へ振り返ると、こっくりとうなずいた。


「じゃあ、3年間ほとんど休みなく世界中を回っていてくれたことに感謝して、君たちには特別に1週間休暇を与えよう。

 骨休めしてくれたまえ・・・、子供も随分と大きくなっているのだろう?


 といっても明日とあさっての午前中は予定が入っているから、それ以外が休みという事になるがね。」

 赤城がにっこりと微笑みかけてくる。

 そりゃあありがたいのだが・・・、休暇の後の作戦行動が恐ろしいような気が・・・。



『ガチャッ』「ただいまーっ」

「お帰りなさい・・・。」

「パパー・・・」

 アパートのドアを開けると、すぐに小さな影が駆け寄ってくる・・・順二だ。


「おお・・・、いい子にしていたか?お土産買って来たぞ・・・。」

「ええっ・・・わーいわーい。」

 順二が一抱えもある大きな箱をもって奥の部屋へと駆け込んでいく。


 ううむ・・・、やはり土産目当てか?

 いつものように月末は諸外国巡りの結果レポートを報告しなければならず、早朝着の便で成田についてから自警団の事務所へ直行し、阿蘇と2人でレポートをまとめてから霧島博士たちの引っ越しに立ち会ったのだ。


「今朝の飛行機で帰国したんでしょ?

 それなのにすぐに自警団へ直行じゃあ疲れたよねー・・・、お風呂沸いているから、入ってねー。」

 台所に立つ朋美が笑顔で振り返る。


「ママー・・・、ブーブー・・・。」

 順二が自慢そうに、自分の頭より大きな自動車の模型を掲げて朋美に見せる。


「あらーよかったわね・・・、へえー・・・ぶーぶーね!」

 朋美が笑顔でしゃがみ込んで、順二と目線を合わせて笑顔を見せる。

 順二はそのまま嬉しそうに、ブリキ製の車を床に置いて転がして遊び始めた。


「こんな大きな車・・・、高かったでしょ?

 順二がかわいいのはわかるけど・・・、あまり無理しないでね。


 特に・・・、この子を園に預けるときにおもちゃを持っていきたがるから、園の子と差がつきすぎると向こうがさみしがるから困るのよ・・・。」

 喜ぶ順二の背中を眺めながら、朋美は複雑な表情だ。


「ああ・・・、それなら心配はご無用だ・・・、園の子たちにも土産を持ってきた。」

 俺はそういって、大量の箱をスーツケースの中から取り出した。


「もちろん・・・、順二の土産に一番気を使ったけど・・・、他の子のもじっくり選んだんだよ・・・、阿蘇にも見てもらいながらね・・・。」

 女の子用にはお人形さんやぬいぐるみを主に選んで、男の子用には戦車や船や自動車の模型だ。


「でっ・・・でも・・・、こんなにたくさんのお土産・・・、ボーナスでも出たの?」

 その荷物の量の多さに、朋美が驚いた表情を見せる。


「いやあ・・・、実は順二の土産以外は金はかかっていない。

 今回回った国は、以前回ったことのある国ばかり・・・、2回目だからね。

 なにせ食料品と衣類や雑貨とは、引き渡し日が異なるから1ケ国当たり2回ずつ監査に回らなければならないわけだ。


 前回回った時に子供の話をして写真を見せたりしていたら、お土産にって民芸品などを準備していてくれていた国がほとんどだった。

 そんなつもりで話したわけじゃあ、決してないつもりだったんだけどね。


 もちろん断ったんだけど、そういえばって・・・園の子供たちのことを思い出して、その子たちのお土産としていただいていいですかって言ったら、もちろんだって言ってくれて、更に孤児院だったら大きな子供たちもいるだろうって・・・、万年筆にボールペンとかバッグまでもらいもんだけどって言いながら、箱に入った新品を持ってきてくれた。


 行く先々でそんな感じで・・・、あまりに量が多いものだから、阿蘇と2人で吟味させていただいて・・・、ちょっとよさそうなのを選りすぐってきた。

 本当は全部持って帰りたいけど荷物として持てる量に制限があるからという事でお詫びしたら、残りは地元の孤児院などにドネーションするからいいよと快諾してくれたんだ。


 おかげでスーツケースはパンパンで、布製のバッグも頂いた中にあったから、俺の着替え入れ用に使わせてもらった。

 もちろん順二と朋美への土産は、俺が金を出してきちんと選んで買ってきた。」


 朋美への土産の免税店で勧められたブランド香水を手渡しながら、笑顔で説明する。


 看護婦という職業柄、普段からあまり化粧はしない朋美だし、しなくても十分にかわいらしいのだが、やはりそれなりの席では化粧をした方がいいだろうと思うのだが、ほとんど化粧品らしきものを使っているところを見たことがない。

 せめて香水ぐらいはいいものを・・・と、今回選んでみたのだ・・・もちろんさわやか系の香りのものだ。


「へえー・・・、ありがたいわねえ・・・。」

 朋美がため息交じりに土産物の箱を眺める。

 なにせ、一人当たり2個ずつは配れるくらいの土産の量だ。


「それで・・、明日の午前中とあさっての午前中はいつも通りに自警団に詰めなければならないのだが、それ以外は1週間の休暇をいただいた。

 だから、どこか出かけないか?順二を連れて行くんだから、温泉宿とか・・・かな?」

 とりあえず降ってわいたような休暇なのだが、どこか出かけられれば家族サービスができる。


「うーん・・・、ごめんなさい・・・。

 今週1週間は、休みの子が毎日のようにいるから、今から休みを入れることは無理なのよ・・・。

 もし出かけられるんだったら、順二を遊園地とかに連れて行っていただけるとありがたいわ・・・。


 ついでに園の年少組も一緒に面倒を見ていただけると・・・、日ごろお世話になっているし・・・。」

 朋美が申し訳なさそうな顔で、少し舌を出す。



「へえ・・・、孤児院の子も一緒に連れて遊園地?

 大変だねえ・・・、よかったら僕も付き合ってあげようか?

 あさってだったら、僕も予定は入っていないから・・・。」


「ほっ・・・本当かい?助かるよ・・・、大感謝だ・・・。」

 阿蘇の仏様のような笑顔に、抱き着きたい衝動にかられながらもぐっと我慢し、両手を握るだけにしておく。


「いやあ、今日はこれから園に行って、君と一緒に吟味した土産物を子供たちに配布予定なんだけどね・・・、いつも順二を預かってもらっている感謝の意を表すのに、他人のふんどしを使ってばかりじゃあ申し訳ないでしょって朋美が言うもので・・・。」


 本当に一時はどうなるかと心配していたのだが、子供に絶対好かれるタイプの阿蘇が一緒に来てくれるとほっとする。

 考えてみれば阿蘇も俺と同様に1週間の休暇なのだ・・・、貴重な休暇の1日をつぶして申し訳ないのだが、本当に助かる・・・。


「じゃあ、あさって直接園に向かうよ、場所はわかっているから・・・、朝9時でいいんだね?」

「ああ、ありがとう。」

 涙が出てきそうになる。



 各国の監査結果レポートの報告を終え、衣料品や日用品の受け渡しを無事に終え、午前中の業務は終わりだ。

 午後は、園に行って土産物を配る・・・、絶対に子供たちに直接渡さずに、園長先生たちに渡すようにと朋美にきつく言われた通り、園についたらすぐにスーツケースをもって園長室へ向かう。


「おやおや・・・、人の情けというのはありがたいものですねえ・・・。」

 物腰の柔らかな園長先生が、暖かな微笑みを浮かべながら、土産物の多さに目を見張る。


「この万年筆など・・・日本でも有名なメーカーのものですよね・・・・、そんな高級なものまで・・・。」

 へえ、そうなのか・・、文房具には全く興味がないので、知らなかった・・・、朋美も何も言っていなかったし。


「分かりました・・・、本当なら子どもたち一人一人に見合ったものを、こちらから選んで配ってあげるのがいいのでしょうが、今回は様々な国の人たちの善意です。

 それを新倉山君がさらに吟味して選択して持ってきてくれたわけですよね、いいものばかりなわけが分かります。


 今回は子供たちに事情を説明してから、それぞれ好きなものを選ばせましょう。

 それが一番いいと思います。」

 少しの間目を閉じていた園長先生が、おもむろに立ち上がった。


「じゃあ、申し訳ありませんが一緒に食堂まで運ぶのを手伝ってください。」

 園長先生に言われて、スーツケースの中に土産物を入れると、キャスターを転がして食堂へと運ぶ。


 そうして食堂の中央のテーブルの上に、園長先生と一緒に一つ一つを箱から取り出して並べていった。

 もちろん箱は現物の隣に一緒に並べた。

 そうして園長先生は、A4サイズの紙に何かしたためていた。


 あとで見ると、<諸外国の方たちのご厚意です。新倉山さんが持って来てくれました。本当に欲しいものを各自頂きなさい。一人2個まで 園長>と書かれていた。

 ふうむ・・・、こんな簡単な表記でいいのだろうか?


 欲しいものが重なって、取り合いになったりしないかな?・・・ちょっと心配・・と思っていたので、遊園地に行く日に迎えに来た時にそれとなく聞いてみたら、どの子もお行儀よくほかの子と欲しいものを話し合いしながら、仲良く分配していったという事らしい。


 超高級万年筆やブランドのバッグ(ブランドにも疎いので、俺は全く分からなかったのだが)に関しては、社会人になる子たちの就職祝いを兼ねて、皆が優先的に受け取るよう勧めたという事だった。


 仲良く分けることができてほっと一安心なのだが、土産物の質が良かったのは、ひとえに阿蘇の鑑識眼のおかげという事のようだ。


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