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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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ハイテク

   4 ハイテク

「ここが通信室・・・というか情報交換の・・・いわば会議室だな・・・。

 つまり、このような施設を世界中の国々が所有して、それぞれを専用の電話回線でつなげている。


 向こう側の世界に習って、デジタル通信を用いて世界各国とのやり取りをできるようにしている。

 それにより、一度に7ケ国まで同時通信が可能だ。」

 霧島博士がモニター下の黒いボックスを触ると、いつの間に運び入れたのか、100インチの液晶モニターに映像が映し出された。


「ハーイ・・・、霧島博士ご無沙汰しております。

 また一緒に研究できるようになってとてもうれしいです。」


「霧島博士、お久しぶりです。」


「はーい、グッドモーニング、ミスターキリシマ・・・お会いできて光栄です。

 おー・・・、ミスターアソ、アンド、ミスターニイクラヤマ・・・、その節はお世話になりマスタ・・・。」


 液晶モニターが8分割され、そのうちの7画面には顔立ちや骨格の違う外国人の姿が映し出された。

 西洋系が多いようだが、とりあえず日本語で話しかけてきてくれているようだ。


「霧島博士の門下生ともいうべき、海外の大学の研究者たちだ。

 君たちもコントロール装置の引き渡しの時に、会っているはずだがね・・・。」

 俺も阿蘇も目を白黒させていると、赤城がそれとなく耳打ちしてくれる。


 そういえば、確かに見たことのある顔がいるようだ・・・、それにしてもはるか何千キロも離れた場所とテレビ電話できるなんて・・・、俺がいた世界とそれほど変わりないハイテクだ・・・、しかも巨大液晶画面に映し出されているのだ・・・、画面は白黒だが素晴らしい。


「私の指示どおりに設定されているようだね・・・映像信号に関しては、向こう側の世界のデジタル化は解析終了している。

 そのため、この液晶モニター用の信号を作り出すことには成功した・・・といってもAD/DAコンバーターというデバイスを通せばいいことが分かっただけだがね・・・。


 だが通信を傍受されないために、通信に用いるデジタル信号に関しては異なる変換形式(フォーマット)を作り出した。

 その信号をいったん変換してからさらにコンバーターに通すため、どうしても処理に時間がかかってしまう。

 そのためカラー信号はあきらめた・・・、白黒映像と音声データのみで通信する。


 この作業だけでも、さっき見たコンピューターをフルに動かしてようやくなのだ・・・、これがこちら側の世界でのハイテクの限界とも言える。」

 霧島博士が、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 そんなことはない・・・、俺は向こう側の世界出身だが、霧島博士が今言ったことですら何を意味しているか分からないし、今目の前の光景ですら最新技術と思えるくらいに感じている。


 スマホだのタブレットだの、俺のいた世界には当然のようなアイテムではあったが、ではいざその物の原理とか仕組みとか聞かれてもまったくわからないし、作り出せと言われても一つの部品名ですら思いつかないだろう。

 それなのに、そんな文明に触れたこともないはずの霧島博士は、向こう側の世界から持ち帰った100インチの液晶モニターを解析しただけでその原理を解明し使いこなしてしまうのだ、本当にすごいとしか言い表せない。


「それで・・・、君に質問だ・・・新倉山君。

 これは、アメリカの研究室に渡したコントロール装置の中から発見された図面だ・・・、予備コントローラーとしてロッカーの中から発見されたものだったためか、他の装置には含まれていないファイルがいくつか見つかっている。


 そのうちの一つがこれなのだがね・・・、なんだかわかるかね?」

 霧島博士が、1枚の巨大な用紙をモニター前のテーブルに広げて見せてくれる。

 何かの図面のように見えるのだが・・・。


「分かりません。」

 俺は極力正直に答える・・・、分からないものはわからないのだから仕方がない。


「ふむそうか・・・、光子エンジンという言葉を聞いたことがあるかね?」


「えっ・・・格子型のエンジンですか・・・?

 そんな曲がりくねった管なんかを通したんじゃ、効率が悪いような・・・。」


「いや、鉄格子とかの格子ではない、光の光子だよ・・・、光波動エンジンともいえる。

 光の力でエンジンを回すのだ・・・、高効率で高出力が予想される。」

 霧島博士が無知な俺に説明してくれるのだが・・・、光の力でって・・・???


「光の力で動くエンジンだなんて、聞いたことがありません。

 ガソリンエンジンやディーゼルエンジン・・・、LNGで動くエンジンとかなら聞いたことはありますけど・・・。


 ほかには燃料電池とか電気で動くEVとかですかね・・・、その両方の特徴を持つハイブリッドなんて言うのもありましたね・・・。」

 ううむ・・・、電気自動車全盛ではあったのだが、俺はガソリンエンジン車が好きだった。


「ああ・・・自動車の話かね・・・、それなら植民地の自動車事情ということで、情報は入ってきているよ。

 そうではない・・・、恐らくこれが巨大円盤の推進システムではないかと予想されているのだ。

 あのような巨大円盤が・・・、恐らくは軍事利用されていたはずだが、どこの国が所有していた技術だね?」


 そうだった・・・・、すでに植民地ではハイテクな自動車が登場しているのだった。

 それにしても、あの円盤の推進装置とは・・・。


「申し訳ありませんが俺のいた世界でも、あのような巨大円盤など見たことがありません。

 超音速のジェット旅客機などはありましたが、あのような円盤型の乗り物など・・・、そりゃ、UFO・・・・つまり未確認飛行物体ですが・・・、という奴で騒がれることはありましたが、実際の現物など見たことも聞いたこともありませんでした。


 もっと言いますと、強奪マシンのガードマシンやハンドアームマシンですら、どのような原理で宙に浮いているのかすら、俺には予想もつきません。

 あのようなハイテクな技術は、俺がいた世界でもおそらく一般人は知らないことでしょう。


 だからこそ、強奪ロボットが介在していた世界が現実のものではなく、コンピュータープログラムによる仮想現実であると誰もが信じていたのだと今でも思っています。」


 俺は、自分の罪を軽減させるつもりととられないためにも、強奪マシンのような技術を知らないことは、あまり話さないようにしていた。

 知っていたとか知らなかったとかではすまされないことを、俺たちは長い間行ってきていたのだ。


 だから知らないという事は、俺にとっては禁句であったのだが、この場では正直に言っておいた方が、今後の混乱も避けられることだろう。


「ふうむ・・・、一般には極秘の新技術というわけだね・・・、なぜ、公開しなかったのか・・・。


 君のいた世界でも、国家間の戦争は収まっていたわけだよね?

 このように世界規模で異世界へと略奪行為を行うくらいだから、多少の反目はあったのだろうが、表面的には平和で協力し合っていたわけだろう?」

 すると霧島博士は、なぜか俺がいたころの世界情勢に質問を切り替えてきた。


「はい・・・内紛が勃発するような国はありましたが、基本的には平和で・・・、世界政府ほどではないけど国連という機関があって、国家間のもめごとなどは基本的に話し合いで解決していました。


 それでも一部の大国では軍事力強化を進めていて、それに対抗して別の大国も・・・、というようなことは年中行われていて、世界規模の戦争こそなかったですけど、日本も含め軍事費は結構使われていたような記憶があります。」


 もはや数年前のことになるが、外交問題や経済事情よりも景気判断重視で、少しでも早く就職状況が好転するよう祈る毎日・・・、他のことには関心のない人間ではあったのだが、それでも各国の国防予算云々などといったことが毎年初めにはニュースになっていたことだけは覚えている。


「平和な世の中であっても、そのような対立姿勢を見せることにより、ある程度の緊張感を作り出して軍事費をねん出し、巨大円盤や強奪マシンなどを開発していたのだろう。

 そうして、こちら側の世界へ干渉を始めた・・・、まさに全世界規模での犯罪行為と言わざるを得ないね・・・。」

 赤城があきれたとばかりにため息をつく。


「そっ・・・その、光子エンジンというのはどのような原理でエンジンを回すのですか?

 まさか、光を当てるだけでタービンが動くという事ではないのですよね?」

 ううむ・・・、ちょっと話を戻そう・・・。


「いや、まさに光を当てるだけで駆動用のタービンを動かすのだ。

 それも超強力な光を当てるわけだね・・・、光は熱を含んでいる場合が多いから・・・炎のようにね・・・、その熱を使って湯を沸かして蒸気を発生させて、その圧力でタービンを動かすというのが一般的だが、この技術は光を特殊加工したプロペラに直接当てることによって回転させるようだ。


 モーターなどを使って電気を回転力に変換すると80%以上の効率で運動エネルギーに変換できるが、発電にも同じようにモーターの原理を用いて行うため、蓄電した電気を使う場合は変換効率を含めると80%×80%でおおよそ64%程度でしかない。


 それでも先ほど言った蒸気機関では20%程度だし、ガソリンエンジンでも30%に満たない効率だから、十分高いわけだが、光子エンジンではその効率は98%近いと予想されている。

 つまり、蓄えたエネルギーの効率100%に限りなく近く使えるという事のようだ。」

 霧島博士が説明してくれる。


「そっ・・・その光というのは・・・、まさか太陽の光ってことではないですよね。

 そりゃあ確かに俺がいた世界では太陽光発電なんてシステムは一般にも販売されてはいましたが・・・。」

 ううむ・・・太陽の光で動く円盤なら、昼間であればエネルギーは無尽蔵だ・・・。


「いや、流石にあのような巨大な円盤は太陽の光だけでは動かせないだろう。

 そうではなく核エネルギーだな・・・、それも原爆などとは異なる機構・・・、いうなれば核融合ともいえるシステムだ。


 しかも熱エネルギーを利用しているのではなく、光エネルギーをエンジンの駆動力に変換しているのだ。

 まさに、究極の高効率エンジンといえるだろう。


 燃料は重水素や3重水素・・・、これなどは海に行って海水をくみ上げれば容易に手に入る・・・、まあ、大量に組み上げる必要性はあるがね・・・。」

 なおも霧島博士が説明する。


 ほう・・・核融合・・・、そういえば小学生のころ夢のエネルギー資源とかで結構話題になっていたような・・・、それなのにいつの間にか取り上げられることもなく、記憶から消えていったような気が・・・。

 あれは開発が難しすぎて断念したというよりも、こちら側の世界で利用されていたという事なのだろうか・・・。

 もしかすると、向こう側の世界の核シェルター内の動力だって・・・。


「燃料は海水をくみ上げるって言いましたよね・・・、それって円盤が再出現した当初、海から海産物を吸い上げたデモンストレーションがありましたが、あの時は魚など魚介類でしたが、代わりに海水をくみ上げることも簡単にできるってことですよね・・・。」


「ああ・・・魚介類は加工を申し込まれてはいないが、直接向こう側の世界へ送り込んでいるのだろう。

 今でも世界中の公海上では円盤が漁をしているという報告が上がってきている。

 その時に海水も大量に吸い上げて燃料にしているという事だろうな。


 こちら側には気づかれず、自然に燃料調達もできていたという事のようだ・・・、恐ろしく頭の切れる奴が指導しているのだろう・・・。」

 赤城が歯ぎしりするようなしぐさを見せる。


「核融合技術はウランの核分裂とは異なり、水素原子が融合してヘリウム原子核を作り出すクリーンなエネルギーだ。

 大量の熱とともに光子も発生するから、熱は熱で利用して光子は光子エンジンで利用するのだろう。


 ヘリウム原子核はいわゆるアルファ線と呼ばれているが、円盤が飛来する毎月1日と15日及び月末にも、日本国中のアルファ線の分布を2年間にわたって測定してきた。

 円盤の飛行ルートはこちら側には告げられていないため、民間航空機は受け渡し日には飛行制限をしているからな。


 航空機の安全のための警戒と称して、自警団の哨戒機を飛行させながら、各地で測定して回っていた。

 日本国内では道央と本州では山梨と長野の間の山岳地帯及び九州中央部に自然界より2倍以上多いアルファ線が確認されることが分かった。


 恐らくこれらの地域に円盤発着場が・・・、加えて農場もあると予想されている。

 現在、該当地域の自警団に、山岳地域を重点的に調査させているところだ。

 敵基地が分かり次第、作戦行動に移る。」

 霧島博士が、いつになく真剣な表情で話す。


「では・・・、いよいよ戦闘開始ですね・・・。」

 敵円盤基地が分かり次第、集中攻撃をかけるという事だろう。

 その際は、俺が操作するマシンの出番もあるに違いない。


「いや、そうではない・・・、あの円盤相手では1個中隊程度ではまるで歯が立たんからね。

 潜入するんだ。」


「へっ・・・潜入・・・・?」

 霧島博士が突然意外な言葉を発する・・・、潜入って・・・?スパイもの・・・か?


「ああそうだ・・・、まさしく潜入するのだ。

 月初には牧場の牛や豚に加えて農作物を収穫して、我々に供給してくれる。

 だんだんと供給量が減少気味ではあるが、いまだに継続してきてくれているから、ありがたい。


 牛や豚なども屠殺してから供給されていると困るのだが、今のところ生きたまま供給されてくるので、恐らくあの円盤内の貯蔵庫には空気はあるものと想定している。」

 霧島博士が、自信ありげに告げる。


「という事は・・・、牛や豚に紛れて円盤内に潜入するという事でしょうか?」

 勘のいい阿蘇が、恐る恐る尋ねる。


「もちろんそうだ・・・ただし、少なくともある程度成長した牛や豚など家畜を見極めてから収容しているだろうから、それなりに見えるような工夫が必要となる。


 いわゆるカムフラージュだな・・・、着ぐるみみたいなものを作るためにも、刑務所の面会室では限界があったというわけだ、これから製作に入る。」

 霧島博士は平然と答える。



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