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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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新たな砦

  3 新たな砦

「大学のバスが到着いたしました。」

 女性職員がパーテーション裏から応接へ声をかけてくれる。


「おお到着したようだな・・・、出迎えに行こう。」

 赤城がソファから立ち上がると、そそくさと廊下へと出ていくので、俺と阿蘇も後に続く。


「いやあ申し訳ない・・・、午前中には到着と思っていたのだが、昼にかかってしまったな。」

 白衣姿の霧島博士が真っ先にバスから降りてきていた。


 そういえば白衣の下はスーツ姿だ・・・、いつも囚人服のようなグレーの作業着姿しか見たことがないので、少し印象が違って見える。

 気難しい人のようなイメージだったのだが、結構さわやかで優しそうな中年といった印象に変わったように感じる。


「まあ、大学から刑務所経由だとラッシュがなくても1時間半近くかかってしまいますからね、それなりに引っ越し作業は必要でしょうし、仕方がないですよ。

 こちらの方は研究室の準備は整っておりますから、機材さえ降ろしてセットしてしまえば、すぐに使える状態になっております。」


 赤城が霧島博士からカバンを受け取りながら笑顔を振りまく、刑務所を出て自警団で活動してくれることを決意してくれたのが、よほどうれしいのだろう。


「おおそうか・・・、恒温槽や冷凍庫や加熱炉も準備できとると言うことかね?」

「はい、整っております。」


「おお・・、無理を言ってすまなかったね・・・、そのような装置はどう考えても刑務所で必要であることの理由付けができないから予算取りもできないし、刑務所の面会室には不釣り合いの設備だから置くこともできないと、所長に泣きつかれてしまったものだからね・・・。」

 霧島博士が笑顔を見せる。


 そうか・・・、刑務所の面会室での研究では、限界を感じたという事のようだ。

 それはそうだろう・・・、研究室の学生を刑務所内の面会者用の施設に住みこませていた行為だって、考えてみれば越権行為だろうし、人権侵害とも受け取られかねないのだ。


 まあ、学生にとっては尊敬する霧島博士と研究さえできれば、場所はどこだっていいという気持ちではあったのだろうが、それにしても刑務所とは・・・、しかも重犯罪者用の刑務所でなくてもいいのにとずっと考えていたのでよかったといえよう。

 なにせ中にはうら若い乙女もいるのだから。


「で?学生たちの宿泊施設は大丈夫なのかね?」

「はい・・・、男子学生には日本国軍の兵士寮を利用していただきます。

 女子学生には自警団員用の女子寮を準備しています。」

 霧島博士の問いかけに阿蘇が笑顔で答える。


 日本国軍は男性は徴兵制度があるのだが、女性にはない。

 それでも自警団員としては男女問わず募集しているので、自警団員向けには女子寮があるのだ。

 それにしても、学生への扱いが刑務所の時と大して変わり映えしないのは、少し悲しい・・・。


「じゃあ、あとで部屋割り表を学生たちに見せてもらうとして・・・、新倉山君がいるからちょうどいい。

 早速研究室へ向かうとしよう。」

「分かりました・・・、こちらです。」


 赤城が霧島博士を招くように手を差し出したのちに、日本国軍司令部ビルの中の廊下をまっすぐに進んでいく。

 そうして、自警団本部の事務室へ向かう昇り階段も通り過ぎて奥へとさらに進んでいく。


 ふうむ・・・こっちには俺もあまり来たことがない・・・、恐らく日本国軍の本部長とか参謀とかえらいさんたちの執務室があるのだろうと考え、近づかないようにしていた場所だ。

 なにせ自警団に所属して3年間経過しているとはいえ、その8割がたを海外か東京基地か刑務所で過ごしているため、実際のところ日本国軍本部ビルでは自警団の事務所と食堂とトイレ以外は、行ったことがないのだ。


 確かに廊下の両側の重厚そうな扉の上には、参謀だの副本部長だのという表札がかかっているが、そこも素通りしたのち赤城が廊下の突き当りの壁に向かって何か操作している・・・、あれ?行き止まりじゃないのか?

『ガーッ』すると、壁のように見えたのが左右に開くと、そこには金属板に囲まれた小さな空間が。


「エレベーターです、お入りください。」

 赤城がついてきた全員に手招きをする。


 エレベーターだって・・・?自警団本部は日本国軍の司令部ビルに居候しているのだが、5階建てのこのビルにはエレベーターらしきものはついていないと聞いていた。


 建築法上は6階建て以上のビルには云々などといった法律を俺のいた世界では聞いたこともあるのだが、そんなことよりも軍属たるもの常に体を鍛えて然るべしという観点から、5階へ行くにも階段が当然という事ではなかったのか・・・?


 確かに自警団事務所はこのビルの5階にあるのだが、やはり地下鉄の時のように霧島博士は別格で、エレベーターを使ってくださいという事なのだろうか。

 それはそれでも構わないのだが、別に俺たちは階段で上がって行けと命令されれば素直にいつも通り階段で上がっていくのだ。


 何も、俺たちまで一緒に特別待遇にしてくれなくても構わない・・・、などと思いながら阿蘇の方を見ると、阿蘇も驚いた表情をしているので、このエレベーターの存在は知らなかったのだろう。

『ガーッ』そうして全員が乗り込んだ後で赤城がエレベーターのボタンを操作すると、扉が閉まりゆっくりとエレベーターが動き始める。


 うん?ちょっと不思議な感覚が・・・、いやエレベーターという閉鎖された空間だし、人は上下に動く感覚には慣れていないから・・・、とか思いながらふと見ると、エレベーターの行き先表示はB1・・・地下なのか?


 このビルに地下があることなど聞いたことがなかったし、たかが1階から地下1階へ行くだけでわざわざエレベーターなど使わなくても・・・、学生たちの荷物もせいぜいショルダーバック程度で、重そうな荷物を持っているのは一人もいないのだ。


 そりゃ折角ある施設なのだからと自慢してみたい気持ちもわからないでもないが・・・などと考えていたらやけに長い・・・、なかなか止まらないなこのエレベーター・・・、あまり高層建築がない世界だから、エレベーターの駆動技術も進んではいないのだろうか・・・。


『チンッ・・・ガーッ』とか考えていたら、ようやく止まったようで、扉が開いた。

 止まった先もやたらと長い廊下が続いているようだ。


「地下60メートルの施設です。」

 赤城がエレベーターを降りようとした霧島博士に告げる。

 60メートルだって・・・?どんだけ深く掘っているのよ・・・まるで核シェルター・・・。


「おうそうか・・・、ついに出来たというわけだ・・・、向こう側の世界に対抗するスペースが・・・。」

 霧島博士がその空間を満足そうに眺める。

 いや別に・・、向こう側の世界と穴掘り合戦しているというわけでは・・・。


「向こう側の世界の人々が地下の大規模な核シェルターで生き残っているという事と、こちら側の世界でも一部の国々が主要都市を核攻撃で破壊されたことを受けて、4年ほど前から急ピッチで地下施設の構築を行ってきた。

 有事の際はもちろん核シェルター化して、日本国軍及び自警団の司令部として機能する予定だが、通常時はここで極秘研究を行う計画だ。」


 赤城が自慢気に、廊下の両側のドアを一つ一つ開けていく。


 学校の理科の実験室のような部屋もあれば、講堂のようにずらりと椅子が配置された部屋、冷蔵庫のような大きさの箱がずらりと何台も並んでいる部屋・・・箱の上部にはプラスチックの円盤が回っているようだ・・・、更に簡易ベッドがいくつも並んでいる部屋まで・・・、これに食堂が加わればまさに非常時のシェルターと言えるのかもしれない。


「おお、コンピュータールームまで備わっているのだね。」

 冷蔵庫上部に目玉のようなプラスチック円盤を貼り付けた装置に向かって、霧島博士も満足そうに目を細める。


「こっ・・コンピューター・・・ですか・・・?」

 コンピューターといえば、ゲーム機か俺が持つコントロール装置のようなものを思い浮かべるのだが、これが同じ機能を持つ装置という事なのか?


「ああ・・・一部真空管なども残るが、大部分をトランジスタやダイオードに置き換えて作り上げた、計算機だ。

 君が以前言っていた命令形式だが、8文字分8ビットが最小単位といっていたが、この計算機は命令単位が4文字いうならば4ビット計算機だ。


 1秒間に1万回信号のやり取りを行うという、現状この世界最速の部類のマシンで・・・、ひーふーみー・・・、それを20台並べているからその20倍、1秒間に20万回の信号を処理できるというわけだ。

 それでも君の持つコントロール装置の何万分の一の能力でしかないがね。


 だが私は、コントロール装置で計算するためのプログラム言語を知らないので、扱うことができない。

 そのため、コンピューターも準備してもらったというわけだ。


 まあ、主だった計算は君から借りっぱなしの卓上計算機で済ませられるのだがね、複雑な軌道計算など入力ミスをチェックできるよう、プログラム化して計算した方が効率がいい場合もあるわけだ。」

 霧島博士が、コンピュータールームに並ぶ箱の仕様と台数を確認しながら、満足そうな笑みを浮かべる。


「はあー・・・本格的ですね・・・、じゃあ向こう側の世界からの支配というか、通商関係を解消したり植民地化された地域を開放したりすることは、まだあきらめてはいないんですね?」


 ここ3年間というもの、俺は向こう側の世界のために世界中を飛び回っていた。

 その間、諸外国含めて向こう側の世界の人々をほめたたえたり持ち上げたり、本当に営業トークの毎日だった。

 なにせ一部反逆した国は除いて、通商に従っている国々に対しては友好的関係を継続してくれているのだ。


 圧倒的武力差を背景にもっと強引に・・・、例えば引き渡した原材料を加工したのち全てを引き渡せとか、あるいはエネルギー資源である石油や天然ガスも引き渡せだの・・・、もっと過度な要求があって然るべしと、誰もがそう思っていた。


 なにせ強奪マシンをコントロール不能にした矢先には、圧倒的な優位に立っていたこちら側の世界だが、巨大円盤が出現し、更に反逆した国々を短期間で滅ぼし植民地化してしまったことで、立場は完全に逆転してしまった。

 それなのに円盤出現当初と変わらずに、あくまでも通商として原材料を供給してその一部を加工して引き渡すだけという関係を、すでに3年間も続けている。


 最早、もともとこちら側の世界の家畜であり種であるとか、土地だってこちら側のものだとかは、どうでもよかった。

 高品質の原材料を供給され、加工業者は加工して一部を引き渡した残りを販売するだけで十分な利益を上げることができるため、最近の引き渡し量の減少を嘆いているくらいなのだ。


 俺としては、この友好的関係が継続することを望む反面、本当に今の関係が両世界にとって良い関係であるのかどうか、いつも疑問に感じていた。


 向こう側の世界が食料や日用品の供給を絶たれ全滅してしまえとは思わないが、それでもこちら側の世界に対して迷惑をかけたことを反省してきちんと謝罪したうえで、当たり前のことだが首謀者ともいえるトップは罰せられる必要性があるのではないかと考えている。


 まあ、どちら側の世界の法律で裁かれるのかはともかくとしてのことだが・・・、そうしたうえで、物資援助をこちら側の世界から続けていくべきと常々考えていたのだが、そんな考えとは裏腹に、向こう側世界主導というか圧倒的有利な立場のまま、ここ数年が・・・、いや強奪していた時から考えると、そんな関係が最早30年以上も継続しているのだ。


 次元が異なるとはいえ同じ人類だし、同じ星の上に成り立って生活しているわけだ・・・、確かに文明の発達スピードに大きな差があり、それがそのまま両世界の軍事力の差につながっているわけだが。


 こちら側の世界からの反撃にあい、向こう側の世界では恐らく9割どころか99%の人々が犠牲になったことだろう。

 しかし、その原因を作った異次元世界から物資を強奪しようと画策した首謀者たちは、今でものうのうと核シェルターの中で生き延びていることは明らかなのだ。

 彼らの罪を問わない限りは、両世界間に真の友好関係は果たせないだろうと常々考えていた。


 ところが、この3年間の俺の役割といえば、向こう側の世界から引き渡された原材料が、正しく加工されているか、異物や不純物など添加されていないかなど厳しくチェックすることが主な業務で、まさに向こう側の世界のために奉仕していたようなものだ。


 当初入手したばかりのコントロール装置を代表国に配布して、その国で捕獲したマシンの操作方法を伝授して、さあこれで一大決戦かとも考えていたのだが、そのようなことは妄想でしかなかった。


 コントロール装置を配布した国々からの問い合わせも一切ないまま、ただただ各国の工場を回ってひたすらチェックするという監視業務に明け暮れていたのだ。

 もう、このまま平和な日々が続くのであればそれでいいやと、あきらめてしまったのだとばかり考えていた。


 帰国した際に霧島博士を訪ねて刑務所に行っても、ハンドアームマシンで回収してきた無停電電源装置や液晶モニターの解析ばかりを続けていて(百インチを超す巨大モニターは、いつの間にか刑務所の面会室に掲げられていたので、地下に穴を掘って回収することに成功したのだろう)、これといって戦略兵器の開発などしている様子は見られなかったのだ。


「当たり前だ・・・私の娘がなぜ死ななければならなかったのか、まだその理由を奴らに聞いていないし、首謀者も明確になっていないではないか。

 奴らの非道な行いによる犠牲者は一層増えているのだぞ・・・、それをただ黙ってみているだけでは決して済まさない。


 だが、やみくもに戦ってみても討ち死にするだけだ・・・、植民地化された国々のようにな。

 だから、慎重に行動しなければならない。

 せめて奴らの兵器に対抗しうる手段を開発出来ないうちは、黙っておとなしくしているしかないわけだ。


 その研究を行うのが、この施設というわけだ。

 なにせ、向こう側の世界に知られぬよう、極秘に研究をしなければならないのだからな。

 情報の漏洩対策など一般の研究所では難しい面がある・・・、そのため刑務所にこもっていたのだが、それも限界だった。


 この地下施設完成の連絡を受けて、ここに拠点を移すことに決めたのだ。」

 霧島博士がコンピューター室から出て、別の部屋への扉に向かった



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