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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
71/117

未知なる技術

本日から連載再開します・・・。

1 未知なる技術

「はい、これで今月分の物資の受け渡しは完了・・・、全て期限内にきっちりと受け渡しされているようだね。」

 阿蘇が向こう側の世界への物資供給リストの最終チェックを終え、満足そうな笑みを浮かべる。


「ああ、そうだな・・・当初は返送される牛や豚なども数トン単位だったのだが、落ち着いたのか少しずつ減少し、今では日本分だけなら食肉は1トンを下回るときもあるようだ。

 おおよそ3割の返送だから供給される畜産物の量も減少して、高級食材として売り上げに貢献できる分が少なくなってしまうから、もっと供給量を増やしてくれという要望まで上がっているくらいだ。


 あの時はマシンによる強奪を妨害電波で完全にシャットアウトした矢先だったから、今後のことが心配である程度余裕を見て大目の供給量にしていたのだろう。」


「最近の要求量から推測すると、日本でシェルター内に生き残っている人の数は恐らく数万人程度ではないかと霧島博士の推計報告が発表されている。

 他の国でも、おおよそ同程度だろうとも予想しているようだ。」


「地下深くにトンネルを掘って作る施設だからな。

 空気清浄機とかも必要となるだろうし、備蓄の食料などこちら側の世界からの強奪継続の可否なども考慮すると、あまり大きな施設は作れなかったのだろう。


 なにせ起こるかどうかも知れないような反撃予想に対しての、安全策であったわけだからね。

 まあ、それにしても1ケ所何千人かだろうから、大きいと言えば大きい施設だけれどね。」


「いや、分からんぞ・・・、なにせフィリピンはじめこちらで植民地化された国々では、大量の食材を毎週のように送付しているらしい。

 恐らく、向こう側の世界では物資を電送するシステムが完備されているのではないかと、霧島博士は予想している。


 つまり、次元間移送する装置のほかに、同次元で離れた場所にも移送できる装置があるはずだと。

 それがあれば、何もわざわざこちら側の世界と通商を継続する必要性はないわけだ。

 自分たちの植民地となった地域で厳正な管理のもとで食材を供給させればいい。


 常に毒や不純物など混ぜられていないか、検査しながら扱う必要もなくなるわけだ。

 いまだに交易を継続しているのは、友好的なこちら側世界との関係を崩さないための、あくまでも外交的な姿勢ではないかというような推測も出ている。」

 阿蘇と現況をそれとなく話していたら、後方から聞きなれた声が・・・。


「赤城先生・・・おはようございます、珍しいですね、基地に出勤されるなんて。

 今日は霧島博士のところにはいかないのですか?」

 そこにはがっしりとした体格の中年男性の姿が・・・、阿蘇が笑顔であいさつするのは自警団参謀の赤城だ。


「だ・か・ら・・・、先生はやめろといっているだろ?


 変化する向こう側世界との関係に対して常に最新情報を得るためにも、刑務所の面会室での研究では限界を感じ、ようやく霧島博士も重い腰を上げてくれた。

 本日からこの自警団基地内に研究室を移設して、対応してくれることになった。


 協力を申し出てくれた当初からすでに部屋を確保したうえで移動をお願いしていたんだが、かたくなに断られていて、いやあ・・・長かった・・・。」

 赤城が苦笑いともとれるように口元に笑みを浮かべる。


 そう、向こう側の世界との円盤を介しての交易を始めて、早3年が経過していた。

 その間、さほど変わり映えのしないこちら側世界の様相とは裏腹に、植民地化された国々では驚異的な発展が遂げられているという情報が続々と入ってきている。


「ジェット旅客機ですか?

 俺のいたときにもマッハで飛ぶような旅客機は世界中で運行されていましたよ。

 成田からニューヨークまでも十数時間なんて感じでしたからね。」


「おおそうか・・・、植民地化された国間では独自の移送手段がとられているようで、超音速の旅客機などがすでに飛行を開始しているらしい。

 フィリピン、イタリア間をわずか10時間ほどでつないでいるという事だ。

 我々側の世界のプロペラ機では、途中の給油も含めて1日はかかっていたのにな・・・。


 速ければいいというわけでもないのだが、一度に5百人以上の旅客が十分ゆったりとした座席で移動できるという事のようだ。

 いま、そのような夢の技術なら、ぜひともこちら側の一般世界へ技術輸出してくれないかと、世界政府が交渉を開始し始めたところだ。


 ほかにも超高層ビルの建築や太陽の光から電気を作る技術など、こちら側の世界では実現しがたい技術が、植民地化された国では当たり前のように行われているということだ。


 そういった技術の何か一つだけでも手に入れることができれば、産業革命ともいえるような飛躍的な発展が望めるだろうと、霧島博士も提言しているくらいだ。」

 赤城が向こう側の世界の技術力の高さについて、改めて感心させられたと言ってため息をつく。


「へえ・・・、そうですか。

 確かに俺のいた世界では、こちら側の世界よりも数十年先を行っているという感じはありましたからね。」

 別に俺のことを褒められているわけではないのだが、何かうれしい。


「まあ、強奪マシンといい巨大円盤といい、到底かなわぬ軍事力を見せつけられた後だからな・・・、こういった一般の生活に直結するような技術を見ると、うらやましくなってしまうのは当然と言えば当然だ。

 君が持ち込んだコントロール装置といい、分解して解析しようにも、まったく手が出せないものもあるしな。


 基礎技術も何もないのに、いきなり先進技術を望んでも、どうしようもないことぐらいは承知しているのだが、少しでもこちら側世界の発展に役立つ技術であれば、何とか取り込みたいと画策しているところだ。」


 赤城がないものねだりをする子供のように、植民地化された諸外国の調査レポートを見せてくれながらつぶやく。

 植民地のレポートといっても、送り込んだスパイからの報告ではない。

 植民地自らがアピールするかのように、その現状を衛星通信を通じて送ってきているのだ。


 それはまさに俺が住んでいたころの向こう側の世界そのもの・・・、家電製品ではエアコンによる空調からIHクッキングヒーターに電子レンジに液晶や有機ELの薄型テレビやパソコン。

 自動車は電気自動車や燃料電池車に加えて、自動制御の安全ブレーキシステム。


 植民地間ではジャンボジェットが飛び交い、超高層のマンションや商用ビルが立ち並ぶ、まさに近代国家となっている。


 1時は90%ほどの国民が犠牲になったと言われたが、すぐに1割程度は回復しているという話も伝わっている。

 医療技術も急速に進歩し、新生児の死亡率が激減したことも要因の一つらしい。


 たった3年間でまさにV字回復ともいえるような急激な進歩を遂げた裏には、まさにあの金属鏡が関係しているという事のようだ。

 鏡と見まがうような鏡面のウエハー表面にパターンを作って半導体を形成する。


 何層にも重ねられた複雑な回路を形成し、LSIや超LSIを作り上げる技術・・・、恐らく最初のうちは向こう側の世界から供給された予備部品としての半導体や基盤を用いて装置を作り上げ、その装置で微細化の進んだ技術をもって、こちら側の世界でミクロン単位からさらにナノミクロンのLSIへ進化させていったのだろうと、霧島博士が歯噛みしていた。


 思い起こせば、俺もいくつかバイトを転々としていた時に、交代勤務の手当ての良さに引き寄せられて、半導体工場で働いたことがあった。


「えっ、君は半導体制作の経験があるというのかね?」

 霧島博士が意外そうな表情で俺を眺める。

 植民地に送り込んだスパイが持ち込んだ金属鏡を解析していた時の話で、すでに3年ほど前のことだ。


「えっ・・・いやあ、制作というほどのこともないのですよ。

 ただ単に半導体を作っていた工場でバイトというか、その時は派遣社員でしたね・・・、12時間勤務の2交代制で、週に4日働くと3日休みというシフトでした。

 結構手当てもよくて、長く続いた方の仕事でしたね。


 俺が受け持っていたのは、モールドっていう樹脂封止の工程で、半導体チップをリードフレームっていう金属板に接着した後に結線するのですが、その後結線やチップの保護のために樹脂で固める工程でした。


 といってもほとんど機械任せで、金型っていう樹脂封止用の型を交換する以外は、封止前の製品が入ったマガジンを慎重に運んで機械にセットしたり、樹脂のタブレットを補給したりするくらいで、慣れてくると何台か台持ちさせられましたが、結構楽な仕事でしたよ。


 クリーンルームっていう、頭から全身を覆う特別な無塵服を着て、マスクした顔だけ出して作業するのは、多少息苦しくは感じられましたが、それも3ケ月ほどで慣れました。

 俺はタバコは吸わなかったので、休憩時間も短くて済みましたしね。


 その時は、金属鏡のようなものは扱っていなかったですね。」

 俺は、何年も前のバイト経験を思い出しながら話す。

 1年近く続いた、俺の業務経歴の中でも長い方の仕事先だ。


「おおそうか・・・金属鏡というのはウエハーといって、封止など行う半導体組み立てと異なり、ウエハー自体にパターンを形成していく、我々は前工程と言っている工程だな。

 君が言っていた、リードフレームにボンディングする半導体チップというものがいくつも並べられているものが、ウエハーというものだ。


 しかし樹脂封止といったね・・・、ふうむ・・・こちら側の世界では抵抗やダイオードは樹脂封止で作るが、トランジスタは金属筐体の真空封止のみだ。

 そうでなければ発熱により内部酸化が発生してしまう。


 だとすると、パワートランジスタのようなものではないという事なのかもしれないね・・・、単に電気信号のみを流して処理するような・・・、そうか・・・君から借りっぱなしの卓上の電子計算機だったか・・・、機械式に3桁までの四則演算を処理する装置があるが、あの機構を信号化して処理しているのだろうかね。


 そうすると大掛かりな機械は不要となり、あのような手のひらサイズの箱型で高度な計算ができるようになるという事だ。

 だが、それだけのからくりをあの中に押し込めるとなると・・・、何層もの入り組んだ回路が必要となるな・・。


 ううむ・・・、何とかして君が言うLSIとやらをこちらの世界でも現実のものとしたいところだな、恐らく飛躍的に工業力が増すだろう。

 いや、工業のみならず、農業だって・・・、気象情報の精度だって記憶装置を使って過去何十年かの天候を記録させておけば、数日先の天候だってある程度の確率で可能となるはずだ。


 まあ、それには人工衛星などでもっと高高度から気象情報を取得する必要性が出てくるがね。

 そのようなロケット推進技術ひとつとったとしても、そういった半導体技術を用いた計算機・・・、いわゆるコンピューターだね・・・、それにより飛躍的な向上が見込める。


 きみはその・・・、半導体の制作をどこまで理解しているのかね?」

 霧島博士が目を輝かせながら俺に詰め寄ってくる。


「いやあ・・・、俺なんか単に1作業者としてその作業に従事していただけでして・・・、言ってしまえばただ装置にマガジンという金属製のフレームがたくさん入った箱をセットして自動ボタンを押していただけですからね。


 もう一度同じ作業をやれと言われればできないことはないですけど、全てその時の正社員の方たちにこの位置にセットしてから始動ボタンを押して、あとは機械任せで自動的に終了するから、そうしたらここから取り出して・・・って教えてもらった通りに作業していただけですからね。


 その役割が、半導体製造のどのような意味をなしていたのかすら、詳しくはわかりませんよ。

 確か、最初のオリエンテーションで半導体の作り方なんて言うのも、ビデオを見せてもらいながら説明を受けましたけど、難し過ぎて全く頭に入っていませんね。」


 俺は少しどぎまぎしながらも、正直に答える。

 こんなことなら自分が携わっていたものくらい、もっとしっかり理解するよう勉強するんだったと今更後悔してももう遅い。


「そっそうか・・・、こちら側の世界にある顕微鏡の倍率では、恐らく向こうの世界のLSIのパターンすら認識できないだろう。

 構造を理解するどころではないため、解析することすら着手してはおらん。


 なにせ、コントロール装置も数はそろってきたが、それでも一度分解してしまえば、再度組み立てることはままならん状態だからね。


 仕方がないので機能だけを書き出して、それらを実現させるにはどのような回路が必要か、現在あるだけの技術でなしえるための設計図を作成しているところだ。」

 霧島博士が残念そうにうなだれる。


 あとで聞いたのだが、今こちら側の世界にあるトランジスタやダイオードなどを用いて、俺が貸した関数電卓を作ろうとしたならば、十畳一間よりも大きな容積が必要という事らしい。


 それはもちろん容積が大きい分、パワートランジスタなどふんだんに使うために、その冷却のためのスペースも必要という配慮かららしいが、それにしても、それが手のひらサイズに収まってしまうのだ。

 さらに計算に時間がかかるのは否めないという事らしい・・・、恐らく数十倍は時間がかかるといっていた。


 コントロール装置に至っては、機能を成し遂げるだけでも一つのビルに匹敵する大きさになるのではないかと言われてしまったのを覚えている。

 現在は少しでも効率的な回路設計を進めていると聞いているが、なかなか一朝一夕では進んでいかないだろうな。



「それにしても、この街宣活動を何とかしてほしいですよね・・・、自警団の中にも、あんなに暮らしがよくなるのであれば、いっそのこと向こう側の世界の指導の下で暮らした方がいいんじゃないかなんて言う、不届き者が出てきていますからね。」

 阿蘇が、応接間のテレビのスイッチを入れながらつぶやく。


 そうか、もうそんな時間・・・・毎日・・というか、平日の10時から決まってテレビ放送が始まる。

 それは向こう側の世界からのメッセージ・・・というよりも、やはりこちら側の世界のものではあるのだが、各国用に翻訳されたナレーションがついて放送されてくるのだ。


 植民地化された各国の現状の放送であり、当初は悲惨な生活を強いられているのではないという事を伝えたいのだろうと考え、植民地化された人々の生活環境が普通以上であることに喜びすら感じていたのだが、機械化され電子化されていく生活の様変わりの仕方があまりにも急激すぎて、本当にこの同じ世界の中で行われているのかと、時々疑いたくなってしまうほどだ。


 それはまさに俺がいた世界そのものではあるのだが、こちら側の世界にすでに5年もいる俺にとって、まさに夢物語に出てきそうな世界に映る。

 それくらい植民地化された地域は急速な発展を遂げているのだ。


 もちろん電波ジャックして無理やり放送しているのではなく、植民地化された国がスポンサーとなって、各国に対してメッセージを送っているのだ。



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