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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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平穏再び

14 平穏再び

「このように、食品加工および繊維製品含めた工業製品の工場は、衛生的でありかつ効率的に行われていて、そちら側からの供給物を誠実に加工して、一部を返送するようシステムが確立しております。


 供給物の品質の高さを実感し、こちら側の世界でも残分をブランド品として販売することにより大きな利益を上げられることが分かり、加工を希望する業者が殺到している状況です。

 あまりに評価が高く人気が出ると、供給品の加工品を戻さずに現地産品に入れ替える不正が懸念されるため、政府職員立会いの下、厳重に管理して生産しております。」


 ソビエト連邦を皮切りに、オランダやスウェーデンなど北欧を回り、ドイツ経由でフランスにやってきたときは、もう食品の引き渡し期日である15日となっていた。


 空港から直接、現地の旧強奪基地へと向かい、捕獲したガードマシンを直接コントロールして、指定場所で巨大円盤に俺が直接現地視察してきた資料を送付し、内容報告開始したところだ。

 こちらでも供給食肉の品質の高さは評判で、現地生産品より倍以上の値段で取引されるようになったらしい。


 しかも原価はただ・・・、実際は返送分の加工賃が原価とはいえるが、販売価格がほぼ利益のため加工を引き受けようとする業者が殺到し入札も満足に行えないため、ある一定の品質レベルが見込まれる業者に対して抽選で毎回選定していくことになったらしい。


 当初入札を行っても希望業者が見つからず、政府が報奨金を払って加工をお願いしたときが、遠い幻のようだったと現地の通訳が話してくれた。


「誠実な対応を感謝する。

 引き続き衣料品や紙製品の加工をお願いします・・・といっております。」

 現地のフランス自警団員が通訳してくれる。


「そうか、おおむね良好だね・・・よかった。

 現地のスタッフから何か向こう側の世界に対する質問とか要望はないのかい?

 折角だから、伝えてみたらどうだい?」


 コントロール装置を持っている俺がいるときに、何か希望があれば向こうに伝えておいた方がいいだろう、基地内にいる数人の自警団員の顔を順に眺めていく。


「そうですね・・・我々も向こう側の世界の人たちの現状とか、今後どうするつもりなのかとか、まったく相手が見えないですから興味がありましたが、日本でのやり取りの議事録を報告書で読んで、ある程度理解はしているつもりです。


 それにしても衣装の高いデザイン性ですとか色彩の感覚など、どうやって養っているのか、実を言いますと国内ではそういった質問が殺到しているのですが、異なる文化の流入により目新しさだけでもてはやされているのではないかとも一部では評価されています。


 ファッションも文化ですからね、ただで流入してくるのをありがたがって取り入れるのはいいが、あまり傾倒するなという警告が出ており、当面は様子見です。」


 通訳が少し戸惑いながら教えてくれる。

 うーん・・・流石ファッションの本場は考え方が違うというか、自分たちの文化に自信を持っているのだろう。


「じゃあ、また・・・月末には工業製品の引き渡しだが・・・、アメリカの西海岸で行うと伝えてください。」


「了解しました。」

 すぐに俺の言葉をマイクに向かって通訳してくれる。

 その後すぐにコントロール装置のモニター画面が明るくなる・・・、巨大円盤が音もなく遠ざかっていったのだ。


「ご苦労様でした・・・お疲れのところ申し訳ありませんが、引き続き、引き渡し業務に移らせていただきます。」

 俺がコントロール装置のマイクスイッチを切ったとたんに、現地通訳が小声で告げる。

 今回視察の裏の任務の遂行だ。


「はい・・・、ではコントロール装置1台と取扱説明書をお渡しいたします。

 時間が足りなかったため、日本語のみで申し訳ありませんが、現地で翻訳をお願いします。」

 阿蘇がスーツケースの中からコントロール装置とモニターのセットおよび、操作グローブを引き渡す。


 フランスではガードマシン4台とハンドアームマシン2台の捕獲に成功しているが、コントロール装置は希少であるため1台のみの配布で、さらにガードマシン用のジョイスティックかハンドアーム用の操作グローブかどちらかのみの選択配布ということになった。


 取扱説明書に関しては、ロッカーの中に装置台数分あったので、手書きの写しを作るまでもなく、印刷物を配布できることになった。

 実際のところはコントロール装置の中に電子マニュアルがあるので不要とも考えるのだが、翻訳用にはやはり紙の文書が必要ということで、添付されることになった。


 それでもマシン捕獲に成功した20ケ国全てへの配布はできず、11台のうち俺と阿蘇が1台ずつで、霧島博士の研究用に1台+予備として1台計4台は日本保管で、残り7台を地域ごとに区分けして配布することになったのだ。

 ソビエト1台をすでに配布してきており、ここフランスの次はアメリカで、来月は南アメリカやアフリカにも配布していく予定と聞いた。


 日本ばかり優遇と世界会議でも批判されたようだが、各国ともに地下基地を特定して、必要であればそれぞれ自国で調達すればいいと赤城が強硬に押し切ったらしい。


 確かにすでに次元移送装置は所有しているため、ハンドアームマシンとコントロール装置があれば、地下基地さえ見つけることができれば、俺たちが行ったのと同様のことができるはずだ。

 なぜならその特性上、各国の強奪基地も地下深くに設置されている可能性が高く、そこは地下シェルター化していると推定される。


 しかも、その施設の目的から避難施設としてのシェルターとして使われることはないだろうと推測され、恐らく無人で資材を回収することは可能なはずと、一応の納得は得た模様だ。


「では、ハンドアームマシンの操作方法をお教えします。」

 引き渡したコントロール装置を起動させ、マシンに接続する。


 操作用グローブをはめて、マシンを浮かばせ初歩的な動きから解説を始める。

 それにしても直接とはいえ、マシンにアクセスできてよかった・・・。


 操作者を切り替えるには、当然のことながら管理者権限でアクセスしなければならず、管理者名とパスワードを知らなければ、せっかく捕獲したマシンであっても無用の長物と化してしまう。

 ところが俺が知っている管理者名を入力してみたところ、意外にもヒットして接続可能となったのだ。


 管理者名は俺がクーデターを起こしてネットワークを乗っ取った時に、すぐに取り換えさせられないために、全ての管理者のパスワードを俺が切り替えたのだが、それがそのまま生きているのだ。


 理由はわからないが、向こうの世界のセキュリティ管理者がよほどの甘ちゃんで、一度設定したパスワードを書き換えることもせずに、単純に管理者追加だけでネットワークを再構築したためか、あるいは俺がアクセスするであろう余地を残しておいてくれたのか・・・と当初考えていた。


 しかしそうではなくて、この基地が対応している向こう側の世界の基地が、東京基地同様こちら側からの攻撃により破壊され、ネットワークから独立しているのだろうと今では推察している。

 いくらなんでも、俺をそこまで甘やかしてくれるなんて到底考えられない。


 世界規模の核攻撃で破壊されたために、俺が籠城したときに変更した管理者権限がいまだに生きているというのが、正解だろう。

 この基地内であれば管理者として通用するわけだから、捕獲してきたマシンに対しても、管理者権限でアクセス可能なわけだ。


 なにせOSのインストールディスクや各プログラムのバックアップディスクも見つかったので、最悪の場合は再インストールも辞さない覚悟だったのだが、そこまでしなくて済んだのだ。


 OS程度であればインストールはほぼ自動だから問題はないのだが、マシンと接続させるためのソフトに関してのインストールは、初期設定が全く自信がなかったので助かった。


「分かりました・・・・、植民地支配されたギリシャとイタリアに関してですが、世界政府に属さない独立国として宣言し、生き残った難民に関しては帰国も認められました。

 そのため、出戻りの難民に紛れてスパイを送り込むことに成功しました。


 とりあえず周辺国からの資材を使い、住居及び工場を建築しているようです。

 力のある成人男性は建築の仕事に従事させられ、女子供に関しては金属鏡の生産・・・というか仕上げの研磨に従事させられているようです。


 食品の加工にも従事させられ食料物資は潤沢・・・国民の90%以上は巨大円盤の攻撃の犠牲となり、1割程度しかいないため当たり前ではありますが・・・で、以前より生活水準が向上したという意見もあるようです。」

 通訳である自警団兵士が、ヨーロッパ内の植民地化された国の状況を報告してくれる。


 彼らは霧島博士に師事していたため、俺がクーデターを企てたときにも地域の基地の破壊を最小限度に抑えて制圧に成功させたグループの一つということだ。

 霧島博士制作の妨害電波発生装置もいち早く設計図から作り上げ、マシンの捕獲にも成功したのだ。


 希少なコントロール装置の配布条件として、強奪基地がある程度機能していなければマシンを起動するための動力を得られないため、基地の損傷状況の確認が行われたのだが、使用可能と目されたのが7ケ所にとどまったということのようだ。


 それらはすべて、霧島博士門下生がいる地域に限定されたらしい。

 おかげでコントロール装置の配布に関しても、操作手順説明に関しても非常にスムーズに行うことができた。


 それにしても植民地化されたとはいえ、生活レベルが向上したというのはうらやましいというか・・・、少し安心した。

 植民地の住民の生活を考えず、ひたすら使役を課されては、こちら側の世界全体からも反発を受けかねないため、心配していたのだ。


 そうなれば全面戦争で、いつまた核の雨が降らされるのかという、恐ろしい事態に発展しかねない。

 なにせ、お互いに相手の持ちカードを知らないわけだ・・・、俺だってこちら側の世界であとどれくらい核兵器を保有しているのか聞いてもいないし、さらに向こう側の世界が送り込んできていると想定される攻撃衛星に、どれだけ核の残弾があるのかもわからないのだ。


 むやみやたらに突っ走って、相手に最後のカードを切らせることだけは避けなければならない。

 それにしても・・・鏡の生産とは・・・、向こう側で生き残った人にはそれだけ女の人が多いということなのだろうか・・・?


 だとしてもいくら何でも鏡ぐらい持っているだろうに・・・、化粧品のコンパクト用の鏡だろうか?

 あれだと確かに消耗品ではあろうが・・・、それにしてもこちら側の工場で生産しなければならないほどひっ迫しているということなのだろうか・・・?うーん、わからん・・・。



『ガガガガガッ』ガードマシンのマシンガンがうなりをあげて発射されると、ターゲットの材木が瞬時に形を残さずに粉砕される。


「オオ・・・ワンダフル・・・。」

 ジョイスティックを操作するアメリカ人は、うっとりとした恍惚の表情で、着弾の跡が生々しい基地の内壁を見つめる。

 ここはアメリカ西海岸、旧ロサンゼルス基地内部。

 フランスの後はスペイン、ポルトガル、イギリス、カナダ、およびアメリカ東海岸はニューヨークと経由して、本日ようやく到着したのだ。


 工業物資の引き渡しに立ち会い、工場の様子をガードマシン経由で巨大円盤に報告した後、ここでも取得したコントロール装置を引き渡し、操作方法を教えているところだ。

 アメリカらしく、ハンドアームマシン用の操作グローブではなく、ガードマシン用のジョイスティックを希望してきたのだ。


 向こう側の世界の監視カメラがどこにあるかわからないので、マシンガンの試射などできるはずもないとお断りしたのだが、シャッターを閉め切れば基地内は電波も通さないし完全防音だからと押し切られてしまった。

 しかし、そのすさまじい発射音は、ヘッドフォン型の耳栓をしていても、鼓膜が破れそうになった。


「あとは・・・、基地内の壁にこすらないよう、注意して動かしてみてくれ!」

 自然と声を張り上げて叫ぶようになってしまう。


「オーケーオーケー」

 コントロール装置を扱う若い男は、始めて操作するとはとても思えないくらいスムーズに、上下左右にマシンを操作する。


 これだったら、何日間も練習した阿蘇よりはるかにうまいのではないだろうか・・・。

 それもそのはず、彼はピンボールゲームのスペシャリストで、世界チャンピオンということだった。

 さすがにゲーマーだと指先の操作に関してなれるのが速いというか、コンピューターゲームなどやったことはないだろうに、こともなげに初めて触るジョイスティックやテンキーによる操作を使いこなしている。


 ソビエトでもフランスでも、その国のゲームのチャンピオンを指名したのだが、どの国でも操作の飲み込みは速く、少しの手ほどきでマシンを扱えるようになったのは助かった。


「こちらでも中米の島国が植民地化され、独立宣言しています。

 多くの人々が犠牲となりましたが、残った人々の中に送り込んだスパイからの報告によりますと、食料も豊富で生活水準は高いようです。


 資源に乏しく貧しい周辺国からは、生活が豊かになるのなら植民地化もいいのではないかという意見まで出始めているようで、各国ともに国民を押さえることに苦労していると聞いております。

 それからこれですが・・・、ヨーロッパでも報告があったかと思われますが、金属鏡のサンプルです。


 このサンプルを回収するために、5名が犠牲となりました。

 植民地の国境周辺にはガードマシンが配備されており、簡単に近づくこともできなくなっているようです。」

 通訳の自警団員がこちらの地域の現状を説明してくれる。


 ううむそうか・・・植民地の人々の生活水準が高いことは、あまり望ましいことではないということだろうか。

 それこの金属鏡・・・やけに大きい・・・、こんなのでコンパクトを作ったら、とても女性のバッグに収まるとは思えないし、拡大鏡でもないのにこのサイズは必要ないだろう。



「これは半導体製品を作るときに使うウエハーだろうな・・・、これにマスクというもので区画を区切って、いろいろな不純物をドープ・・・つまりその区画に埋め込むのだが、それによりP型半導体やN型半導体を作り出し、その結合状態によってトランジスタなど制作する。


 我々の世界では、今のところ2インチのウエハーに1ミリ幅のパターンを作り、2ミリ角のトランジスタを作り出すのがやっとだ。

 それを職人が手でブレイク・・・つまり割るのだが、ちょっと力加減が悪いと斜めに割れてしまい1列がパーだ。


 うまいこと切り出せたら銅枠にはんだ付けして、パターン部分に熱した金線を人が顕微鏡で見ながら打ち込み、あとはそれをうまく金属の板で封じ込めれば、歩留まりおおよそ40%くらいでトランジスタが完成する。

 非常に高価だが真空管のように熱を発せないし、応答も早く効率もよくサイズも小さくできるから、今注目の技術だ。


 向こうの世界のものは、恐らくこちら側より何倍も微小サイズで加工していると考えるね。」

 ハワイ経由で帰国すると、赤城に呼ばれて霧島博士のところへ出張報告だ。

 思えばこの金属鏡のおかげで、やがて世界が2分されることになるとは、この時は考えもしなかった。


     続く



植民地化された地域の生活水準が向上と、少々複雑な状況となってきました。果たして、どちらの生活が幸せなのか・・・、また巨大円盤に対抗する術は見出すことができるのか・・・。

とりあえずここまでで一旦休載いたします。1から2週間ほど休みをいただいて、もう平和とは言えない冒険の書の連載を再開する予定です。よろしかったらこちらもご一読願います。

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