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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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宝の山

13 宝の山

 翌日も、深夜になってから穴倉に潜り作業開始だ・・・。


「あれ?ロッカーの中・・・、マニュアルの下に何かありますね・・・。」

 マシンのハンドアームで冊子が保管されているロッカーから取説を運び出していたら、一番下の段に何かあるのを発見した。


 主に、ネットワークや東京基地の施設に関するマニュアルであるため必要ないと考えていたのだが、貴重な資料だからと霧島博士に是非にといわれ、ロッカーから運び出しているのだ。


 昨日移送した操作用グローブのおかげで、ハンドアームマシンの操作は非常にスムーズ・・・、両手の動きをそのまま伝えてくれるため、モニター画面を見ながら実際にそのものを手でつかむ感覚で操作できるから、ずいぶんと楽になった。


 なんと物をつかむとその感触がグローブを介して指先に伝わってくるので、繊細な操作が可能なのだ。

 ハンドアームマシンでマニュアルに埋もれていたケースを取り出して開けると・・・。


「おお・・・、これは予備のコントロールマシンですね。

 2台ありますよ・・・、ガードマシン用が3台とハンドアームマシン用が5台に加えて予備が2台で合計10台となりますね。


 さらに備品として操作用グローブとジョイスティックがそれぞれ2セットずつあるのは、どちらが故障してもすぐに入れ替えできるためでしょうかね。」

 1台きりのコントロール装置だったのが一気に11台になった・・・、だからといって俺が一人で複数台動かせるはずはないのだが、阿蘇がいるし操作者は養成していけばいいだろう。


「その奥にあるのは何だね?」

 赤城が、俺の背中越しにコントロール装置のモニターを見ながら聞いてくる。


「うーん、なんでしょうね・・・、何か雑多なケーブル類のような・・・。」

 半透明のプラスチックケースの中には、色とりどりの細いケーブルが詰め込まれている。


 中には一目でLANケーブルと分かるものもあるが、それ以外ではUSBケーブルやシリアルケーブルのほかにケーブルの先にカードがついているものもある。

 ノートパソコンに拡張するためのものだろうか・・・。


「こちらにはLANのネットワークもないし、プリンターもないからケーブル類は不要ですかね・・。」


「いや・・・装置間のインターフェイス用のケーブルということだろ?


 だったらそれらを解析すれば、こちら側の装置をガードマシンやハンドアームマシンに接続できるよう改造ができるかもしれない。

 悪いがそれらも移送してくれ。」


 ハンドでつまんだ箱をロッカーの中に戻そうとすると、奥の方から声がかかった。

 テレビカメラモニターの方で観察している霧島博士の声だ。

 指示通り、ケーブルが詰まったプラスチックの箱も、次元移送装置の枠内に運び入れる。


「では、こんなところですかね・・・。」


 次元移送装置の枠内には、東京基地の天井からつりさげられていた巨大モニターも含まれている。

 有機ELのモニターだが、俺たちが操作していたガードマシンの点数評価をタイムリーに表示していた、審査ボードに使われていたものだ。


 操作用グローブを用いるとハンドアームマシンの指は人間のものと変わらず動くため、ロッカーにあったドライバーなどの工具を使って取り外して移送備品に加えたのだ。

 恐らく清掃用の掃除機やはたき、モップ・雑巾以外はすべて送付することになったのではないだろうか。


 無停電電源装置に至っては、床下に設置していることからすべての床板をはぐことはできないため、次元移送装置のエリア以外は机を一ケ所にまとめて床板をはぎ、取り出せるだけ全て・・・恐らく50台以上を移送することになった。

 そのため、次元移送装置のエリアを広げざるを得なくなってしまったほどだ。


「ああ・・・、では移送してくれ・・・。」

 赤城に言われて女性研究員がコントローラーのスイッチを入れると、一瞬で宝の山が出現する。


「じゃあ、また各自持てるだけ運び上げてくれ。」

 赤城の指示で、各人移送されてきた装置類を運び出すことになった。


「穴の前に研究員を数人待たせてあるから、持てない分は彼らに運ばせる。

 だが・・・このテレビは・・・、こんなに大きかったのかね?・・・。」

 霧島博士がため息を漏らす・・・、100インチを超えるサイズの有機ELモニターは、どう見ても直径1m程度の穴を通り抜けそうもない。


 仮に土の部分を大きく広げることができたとしても、廃線のホームへと続くマンホールは広げられないだろう。

 そうなると線路伝いに運ぶ必要性があるが、いくら営業時間終了後に行うといっても簡単なことではない。


「テレビを運び出す方法はあとで考えよう・・・、バッテリーは何往復してでも手で運び上げるようにするさ。」

 霧島博士は、気を取り直したように笑顔を見せた。


「じゃあ俺が最後にガードマシンと一緒に出ていきますから、その時にアームを伸ばして穴を少しでも広げながら出ましょうか?」

 霧島博士に確認してみる。


「いや・・・なにせ踏み固めていない土にあけただけの穴だからね・・・、結構な深さがあるから上方の土の重みでしまってはいるだろうが、むやみに穴を広げるのは危険だろう。

 穴が埋まってしまっては困るので、全て運び終わってから慎重に広げることにするよ。


 こちら側の世界だって地下鉄技術は進んでいるから、地下トンネルを広げるくらいは可能だろう。

 まあ、多少時間はかかるだろうが大丈夫だ。」

 霧島博士は明るく笑って答えてくれた。


 まあそうだな・・・、土砂に埋まってしまえば再び掘り返すということは容易ではない。

 なにせ今の時点では、この場所が唯一向こう側の世界と安全に接続できる場所なのだ。

 地下基地が地下基地として形作っているうちに、地上とつなぐトンネルを作った方がいいということだ。


 どのみち50台もの無停電電源装置だって、人力で運び出すことは容易ではないし、ロッカーに詰まっていた書類に関しても同様だ。

 こんな1mほどの斜めの穴ではなく、正規のトンネルを作って運び出すつもりなのだろう。


「分かりました・・・じゃあ、極力穴を壊さないよう、慎重にマシンを操作しますね。」

 そういいながら、マシンの両アームに来た時同様4個の無停電電源装置を括り付ける。

 皆が上がった後にマシンを宙に浮かせ、慎重に操作して斜めの穴を登らせていく。



『ガガガガッ』ハンドアームマシンのアームが基地内壁にこすりつけられ、火花を発生させる。


「ありゃりゃ・・・操作グローブをすればもっとスムーズに操作できるって聞いたけど、僕の聞き間違いかな?

 全然操作性は向上していないよね。」

 阿蘇の不慣れなマシン操作のためか、基地内壁はひっかき傷だらけになっている。


「操作グローブで向上するのは、ハンドアームを使ってのものを掴んだり離したりする操作だけだ。

 マシン自体を動かすのは以前と同じテンキーを使って行うから変わらない。

 フットペダルを使うのは、まだ早いだろう。


 いい加減操作になれてくれよ・・・阿蘇は車の運転がうまいんだから、マシンを思い通り操作するくらい簡単じゃないのか?


 折角、東京基地の床下の収納スペースに予備のハンドアームがあったから、先日の戦闘で故障したアームを交換してもらったばかりだというのに、これだったらアームなしで操作練習した方がいいくらいだ。」

 備品は豊富にはなったが、それよりも傷ついて使用不能になっていく分が増えては、折角の苦労が台無しだ。


「うーん、あとづけのハンドアームの取り付け方に不具合があるんじゃないかね、なんかバランスが悪いようだ。」

 阿蘇が、上半身を右斜めに傾けながらマシンを右旋回させようとする。


 どうも、阿蘇の場合はマシンを動かす方向へ体を傾けてしまう癖があるようだ。

 その為コントロール装置のモニターを見つめる目線が変わり、視差が生じるので遠近感がつかみにくいのだろう。


 モニター画面は常に同じ視点から観察する必要性があり、そのためには常に正しい姿勢でモニターに相対する必要性があるのだ。

 この点が阿蘇に向いていない理由だろうが、かといってどうやって直せばいいものか・・・。


 マシン操作用のフットペダルも回収してきたのだが、足先の微妙なタッチが必要なため、阿蘇にはまだまだ基礎練習で慣れてもらう必要性がある。


 妨害電波発生装置が準備できるまで、ラッキョウたちが操作するマシンのおとりとなったときに右アームを破壊されたのだが、東京基地から備品を次元移送したときに補修部品も見つけることができたのだ。


 霧島博士に拝み倒すようにお願いされたため、当初しぶしぶ床板を剥いで無停電電源装置を一つでも多く運び出そうとしたのだが、その時に部屋の片隅に収納スペースを見つけたのだ。

 なんとそこにはハンドアームの予備部品のほかに、ガードマシン用のレーザー砲とマシンガンが各5丁ずつ保管されていたのだ。


 霧島博士の見立てでは、ハンドアームマシンもガードマシンもその武器やアームの接続部分構造は変わらないので、いつでもガードマシンを組み立てることができるということのようだ。


 ラッキョウと恐のガードマシン2台を捕獲したのだが世界政府に回収されてしまったため、今回発見した補修部品に関しては報告せずに、東京基地で保管すると赤城が決めた。


 妨害電波で他国でもガードマシンやハンドアームマシンを捕獲に成功しているため、赤城に言わせると恐らく100台近くはマシン在庫があるらしいので、5台分くらいの補修部品を報告しなかったとしても大丈夫だろうという判断のようだ。


 というより実際のところは、俺の操作するマシンを武装することを許可しない世界政府とやらに、腹を立ててくれているということだろう。

 今度マシンによる襲撃があったら、遠慮なくマシンガンとレーザー砲で武装して駆けつけろと、発破をかけられた。


 まあ巨大円盤に立ち向かえと言われても無理な話だが、またマシンによる強奪が開始されることになったら、その時は俺も武装して出かけるつもりでいる。


「じゃあ、今日のところはこれくらいにしておこうか・・・、明日からはまた外国周りになるね。」

 阿蘇が、自分で崩した基地内壁の破片を箒ではき始めた。


 向こう側の世界からの要望でもあるため、俺が直々に世界各国を回って、支給された材料を正しく加工されているか確認して回るのだ。


 今回はヨーロッパ各国へ回る予定で、約1ケ月かけてアメリカを回って帰国する、まさに世界一周の出張旅行だ。

 途中、フランスとアメリカで向こう側の世界の担当者に対して、調達品の加工状況を報告するという予定になっている。


 もちろん、両国ともにガードマシンとハンドアームマシンをそれぞれ数台ずつ捕獲しているので、俺がコントロール装置を持っていって直接接続して操作し、通信を試してみる予定だ。


 霧島博士が現地の日本語通訳も手配してくれている。

 実をいうと、今回の出張には重要な特命が含まれており、なんとしても秘密裏にやり遂げなければならないのだ。


「それじゃあ、明日、空港で・・・。

 1ケ月も家を空けると、順二の奴が俺の顔を忘れてしまいやしないか心配だよ・・・。」

 このところ夜間業務が続いたため、ほとんど子供の顔を見ていない。


 昨日というか今日の早朝まで地下に潜っていて、帰宅したらそっとソファーで仮眠して、昼になって東京基地で回収したコントロール装置の動作確認を行っていた。


 朋美たちと一緒に過ごしたのは何日前だったろうか・・・、指折り数えなければ思い出せなくなってきている自分が恨めしい。

 これで明日は早朝から空港へ行かなければならないのだ・・・、任務とはいえ家族との時間を犠牲にしているのは、ちょっとやるせない気持ちだ。


「大丈夫だよ・・・僕の姉の子・・・いわゆる甥っ子なんだが、めったに会いに行く時間が取れないけど、僕が行くといっつも満面の笑顔を見せてくれて、それはもうかわいいったらない。


 まだ1歳にもなっていないから言葉は話さないけど、たぶん僕のことを覚えてくれているはずさ。

 家族なんだから、ちゃんと覚えていてくれるさ。」

 阿蘇が笑顔で慰めてくれる。


 しかし、それは体が大きいわりに人懐っこい、阿蘇の笑顔のせいではないかと俺は思う。

 まあるい顔に親しみを感じているだけではないのか・・・。

 納得はできなかったが、奴を責めても仕方がない・・・、阿蘇と別れて東京基地を後にする。



「じゃあ行ってらっしゃい・・・、順二がいるから空港まで見送りに行けなくってごめんね。」

 翌朝、アパートの駐車場まで順二を抱いて見送りに降りてきた朋美が、申し訳なさそうにする。


「いや、大丈夫さ。俺は車で行くから、荷物も運べるし問題ない。

 それよりも、本当に来週から病院勤務を再開するのかい?

 出産後1年くらいは産休を取ってもいいんじゃないかな・・・?」


 自警団の専用駐車場が成田空港近くにあるようなので、車はそこに停めておくことにしたのだが、子供が生まれてまだ1ケ月だというのに、もう働き始めるだなんて・・・、以前だったらともかく、今は俺だって自警団員でそれなりの稼ぎもあるし、朋美が働きに出なくても十分食べていけるくらいは稼いでいるはずだ。


「何を言っているのよ・・・早い人なんか、出産後2週間くらいからもう働き始めるのよ。

 私なんかゆっくりした方で、病院も忙しいようだから私がいつまでも休んでいると、みんな有給も取れない状態で、早いところ復帰しないといけないの。


 いつまでも迷惑をかけられないわ。」

 朋美は、結構深刻な顔をして首を振る。

 まあ、職場の事情というのは分からんでもないのだが・・・。


「でも・・・、順二はどうするんだい?

 保育園にでも預けるのかい?」

 まさか順二をおぶって看護師業務などできるはずもない。


「保育園も考えたけど、結局は園に預けることにしたわ。

 お母さんがぜひそうしてほしいっていうものだから、甘えることにしたの。」


 朋美がそう言って舌を出す・・・、そうか孤児院に預けるというわけか・・・、まあ、あそこなら確かに保育園と変わりはないわな・・・。


「分かった・・・でもあまり無理はしないようにね・・・、向こうへ着いたら電話するけど、時差があるからうまくタイミングを見計らってかけるからね・・・。」


「うん、待ってる・・・。」

 朋美が少し恥ずかしそうに手を振ってくれる・・・うーん、かわいい。



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