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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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隠密作戦

12 隠密作戦

『ブロロロロロロロッ』街路灯を消した月明りだけの明るさの操車場の中を、スモールライトのみ点灯させた大型バスがゆっくりと走っていき倉庫脇に停め、ドアから数人の白衣姿の者たちが地下鉄の引き込み線へと走っていく。


「待っていました・・・、でもいくら隠密行動といっても、バスのヘッドライトはつけて運転しないと危険ですよ。」

 その危なっかしい様子を見ていた阿蘇が、思わず注意をする。


「ああ・・・なにせうちの運転手はスパイ映画が大好きでね、向こう側の世界の隠しカメラが、どこに仕掛けられているかわからない中で隠密行動する必要があると言ったら、もう張り切ってしまって・・・。


 操車場の手前からライトを消して、ゆっくりと走ってきたよ。

 誰か係員でも歩いていてぶつからないか、本当にひやひやものだった。」

 霧島博士が、あまりのことに苦笑いを浮かべている。


「今夜は操車場の夜勤業務も休止して、だれもいないはずなのでご安心を・・・、ですが壁に衝突でもしたらけが人が出かねませんから、帰りはライトをつけて運転するよう指示してください。

 それよりも、移送器は持ってきていただけましたか?」

 少し前に到着していた赤城が、笑顔で答える。


「おお・・・今回はマシンを送り込むという話だったから、念のために30センチの移送器のほかに、通常サイズの1mのものも2セット持ってきてみた。

 大きなものを移送してくるのであれば、こちらを使用することになるだろう。」

 霧島博士が、男の研究員4人がかりで運んできた大きな黒い箱を示す。


「いえ、ご心配には及びません。

 向こう側には、俺がこちら側へ移送してきたときに使った次元移送装置がありますから、今回もそれを使う予定です。


 必要なのはマシンを向こう側へ移送するための次元移送装置と、向こうの移送器の電源用のバッテリーですね。

 こちら側にある移送器には限りがありますから、なるべく消費は避けたいですからね。

 ちょうどマシンをコントロール装置に接続したところですので、準備はOKです。」


 コントロール装置からの電波を拾われないよう、マシンは俺と阿蘇が麻袋にくるんで縛ったロープを担いで運び入れ、廃線ホームでようやくコントロール装置と接続させたのだ。

 ここからは重いマシンを持ち運ぶ必要性はない。


「ああそうか・・・じゃあ君たちすまないが、この移送器はバスに戻しておいてくれ。

 マシン1台だけなら、30センチの移送器だけで十分だろう。

 我々だけで行くから、君たちはそのままバスの中で待機していてくれ。」


 そういって霧島博士は大きな箱の中から4つの小さな黒い箱を取り出すと、大きな箱を返して、4人の研究員をそのままバスに引き上げさせた。

 残ったのは、霧島博士のほかには女性の研究員が1名のみだ。


「では、行きましょう。」

 廃線のホームからマンホールを開け、梯子を降りていく。


 手荷物は阿蘇が引き受けることになったが、30センチの次元移送装置はそれほどの重さはないが、一緒に持ってきた小さな黒い箱はずっしりと重い。

 よく見るとコンセントの差込口があり、俺が持ち込んだ無停電電源装置だ。


 こんなもの4つも持って穴の中を降りていくことは到底無理なので、バッテリーはハンドアームマシンの片方のアームに2個ずつ吊った。

 幸いにもマンホールの径は1mよりも少し大きめなので、ハンド部分を上下にして穴をくぐらせる。


 あとから入れて頭の上に落ちてきては嫌なので、常に先行させて進んでいく。

 外であれば大きな遮蔽物がない限り、直接の電波でも数キロ以上はコントロール可能なのだろうが、鉄筋コンクリートの壁や鉄柱の多い地下空間では、見える範囲でなければ操作は難しいだろう。

 少し進ませては我々が進んでいき、そうしてマシンを進ませてと・・・交互に進んでいく。


「ふう・・・終電が終わって電車が来ないことはわかっているけど、線路を横切って横穴を通り、斜めの穴をロープだけを頼りに降りてくるのはしんどいね。」


 ところどころ横穴の壁にぶつかったのか、土まみれになりながらようやく阿蘇が下りてきた。

 体の大きな奴にとっては、このような狭いところを伝って移動するのは苦手ということなのだろう。

 まあ、最初の時のように落ちてこなくなっただけましだ。


「ええと・・・ここが前回移送器をセットした場所だから、またここにセットするのがいいだろうね。

 それで移送器を動かして、向こうの様子を見てみよう。」


 前回セットしたポールの上に、女性研究員が阿蘇が運び入れた次元移送装置をセットしていく。

 装置につけた電源スイッチを入れた後、リモートコントローラーについたスイッチを一つずつONにしていく。


「おお、向こうの映像が届いたぞ、やはり移送器の電源はまだ残っているようだな、カメラも無事だ!

 これで見る限り、向こうの地下施設はいまだに放射能に汚染はされていないようだ!」

 自分で運び入れた10インチほどのテレビモニター画面を、食い入るように見つめながら霧島博士が叫ぶ。


「そうですか、それでは早速マシンとバッテリーを向こうの世界に送信しましょう。」


「おお分かった・・・、では一旦移送器の電源を切ってくれ。」


「はい。」

 霧島博士の指示で、次元移送装置の電源スイッチを女性研究員が切ったのを確認してから、次元移送装置の4角の枠の中に、マシンと無停電電源装置を置いていく。


「では、送信してくれ。」

「はい。」


 そうして女性研究員が、次元移送装置の電源スイッチを入れる。

 次の瞬間、ハンドアームマシンと無停電電源装置が視界から消える。


「おお・・・、電波状態は良好ですよ。」

 すぐにコントロール装置のモニターに、懐かしい風景が映し出される。


 霧島博士の持つテレビモニターでは明るさが足りないのか、画像が鮮明ではなく違和感を感じていたが、マシンのカメラから映し出される景色は、2年近く前に俺がいた職場の景色そのものだ。

 こちら側の世界から送り込んだテレビカメラ用のライトだけで照らされているのだが、デジタル処理された映像は薄暗い中でも鮮明に映し出される。


「では、お宝発掘いたします。」


 俺はそういいながら、ハンドアームマシンの両アームに吊っていたバッテリーを降ろし、まずは俺たちガードマシン班がいたのとは反対方向・・・、つまりハンドアームマシンを担当していた女性人たちの座っていたデスクの方へマシンを向かわせる。


 そうしてコントロール装置を1台ずつ持ち上げると・・・、やはりコントロール装置のセットはパソコン本体にモニターなのだが、そのほかに黒い掌型の部品がケーブルでつながれていた。

 恐らくこれが操作用グローブなのだろう。


 一旦降ろすとマシンのハンドアームではなかなかつかみにくいのだが、何度かやり直してようやく電源コンセントを外し、コントロール装置を操作用グローブごと持ち上げて傍らの床に置くと、芋づる式にデスクの下側からケーブルでつながれた何か装置が・・・、恐らくこれがフットペダルなのだろう。


 俺が以前、移送したときに使った次元移送装置に囲まれた枠の中にこれらを納めていく。

 当たり前だがスイッチはONになったままだが、向こう側の無停電電源装置はバッテリー切れで、次元移送装置は動いてはいない。


「何があるかわからないから、移送器の電源にバッテリーをつないでおいてくれ。

 そうすればマシンがコントロール不能になったとしても、それまで移送器の移送範囲内にセットした分だけでも移送できる。」

 向こうのテレビカメラの映像を監視している霧島博士が指示を出す。


「分かりました。」


 すぐに俺はマシンを取ってかえさせて、先ほど置いた無停電電源装置をハンドアームでつまみ上げ、次元移送装置の1台目のところにもっていく。

 そうして次元移送装置の電源プラグをなんとかマシンのアームで引き抜くと、無停電電源装置のコンセントにつなげた。


「バッテリーにはリモートの起動スイッチを付けておいたから、電源はONにしておいてくれ。」


「分かりました。」


 霧島博士の指示通り、無停電電源装置の起動ボタンをハンドアームマシンの指で押すが、ランプが点灯しないところを見ると、リモートでOFFとなっているのだろう。

 引き続き、残りの3台の次元移送装置を無停電電源装置につなげていく。


「では、引き続きお宝を・・・」

 俺はそういいながら2台目のコントロール装置を次元移送装置の枠の中に運び入れ・・・その後、次々とルーチンワークをこなし、女性用の5台のコントロール装置全て運び終えた。


「次いで、ガードマシン用のコントロール装置を回収します。」

 そういいながら、3台のジョイスティック付きのコントロール装置を次元移送装置の枠の中に運び入れる。


「あとは備品ですが・・・、俺たちが使っていたデスクというか、コントロール装置を置いてあった机には引き出しなどの収納スペースはなく、接続先切り替え用の非常ボタンのような赤いボタンがついているだけでした。

 そのため他には何もないとは考えますが、取説なども全部持っていきますか?」

 俺はそういいながら、ロッカーを開けて文書類を運び始める。


「ああ、そうだ、申し訳ないがバッテリーを少し運んでくれないか。

 今回で、持ってきたもらったバッテリーのうち4つも消費してしまった、充電はこちらでもできるから移送してほしい。」


 霧島博士からリクエストが出たので、床板を少し剥いで無停電電源を出すと、10個ほど抜き取り次元移送器のところに持ってきた。


「じゃあ、もうそろそろ始発電車が動き出すころだ、本日はここまでとしよう。

 何かあると困るから、念のためマシンを含めていったんは次元移送しよう。」


 赤城の指示を受けて女性研究員がコントローラーのスイッチを操作すると、何もない空間に突如として黒光りするマシンやコントロール装置が出現した。

 そういえば送信したところは何度も見ているが、受信というか物が出現するところを見るのは初めてだ。

 不意に物が出現する光景は、分かっていても何か不思議だ。


「では続きはまた明日だ。」

 とりあえず一人ひとつずつコントロール装置をもって、外に出ることになった。


 俺は申し訳ないが自分のコントロール装置があるので、勘弁していただいた。

 操車場の外に出ると、夜が白みかけていた。


「ぐずぐずしていると、向こう側の世界の監視網に引っかかるかもしれない。

 皆さん速やかに、そして目立ぬようお帰りください。

 では、また明日・・・というか本日の深夜、ここへ集合お願いいたします。」

 赤城が注意を促し、全員無言のままその場ですぐに解散して、それぞれ他方向へと散っていった。



『カチャッ』そっと音をたてないようにアパートのドアのかぎを開け、ゆっくりと扉を開ける。

 車はアパート前の駐車場に止めると近所迷惑なので、東京基地前の空き地に停めて、走って帰ってきた。


 ふう・・・疲れたからこのまま眠りたいところだが、なにせ地下の穴倉に潜ったせいもあり土埃でドロドロだ。

 申し訳ないが。シャワーだけは使わせていただく。


『シャー』体の泥を落とす程度、最低限の時間でシャワーを終わらせ、タオルで体のしずくをふき取ると、ドライヤーで髪を乾かすこともせずに、そのままソファーで眠りにつく。


『おぎゃー・・・おぎゃー』(うん?)

 大音響の鳴き声で、ふと目が覚める。


「ごめん・・・、目が覚めちゃった?

 帰ってきたの明け方だったでしょ?

 なるべく起こさないようにしていたんだけど、ちょっと無理だったわね。


 お〜よしよし・・・、パパはお疲れでちゅから・・・静かにしてね・・・。」

 台所に立っていた朋美が、テーブルの上に寝かせていた順二をあやし始める。


「ああ・・・ごめん、なるべく静かに帰ってきたつもりだったが、起こしちゃっていたか?

 まあ、どろどろになっていたからシャワー使わせてもらったしな・・・、ごめん。」

 眠い目をこすりながら、頭を下げる。


「ああっ・・・いいのよ、ちょうどこの子が目を覚ましてお乳をのませた後だったから、別に起こされたわけじゃなかったのよ。

 それよりも、ここじゃうるさいだろうから、奥の部屋のベッドで寝た方がよくない?


 今日も遅くなるのでしょ?何時に起こせばいい?

 私は今週いっぱいまでは産休だから、大丈夫よ。」

 朋美が、俺のことを気にかけてくれる。


「ああ・・悪いね、じゃあ、奥で寝させてもらうよ。

 また今日も穴倉へ潜らなければならなくなった・・・、だけど終電後の集合だから深夜出勤で問題ないようだ。

 とりあえず、夕方まで眠らせてくれ。」


 そういって俺は、そのまま奥の部屋の朋美のベッドで深い眠りについた。

 なにせ、昨日は朝からずっと働き詰めなのだ・・・。



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