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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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秘策

11 秘策

「このように、各国ともに引き渡された綿花や蚕および麻を繊維にして生地を作り、縫製加工しています。

 仕上げに関しては、そちらから添付されてきたデザイン画通りに作り上げました。

 各国ともに、そちら側の衣服のデザインを気に入ったようで、国内販売していいか問い合わせが来きましたので、もちろん構わないと答えておきましたが、いいですよね?


 原料から糸に紡いだため、染色しなければならないものに関しては今回納期には間に合いませんので、来月以降の引き渡しとなりますので、ご承知おき願います。

 決して数量を誤魔化したり、染色を面倒として嫌っているわけではございませんので、ご了承願います。」


 上空に飛来した円盤に対し、各国工場で撮影した映像を編集したものをメール添付して指定アドレスに送付し、視察結果を報告する。


「そうですか、天然染料で直接糸から染色するようなオーダーをされた国が多かったようですね。

 今回は白色の衣料製品のみの納品であること、承知しておきましょう。


 それよりも、こちらから発注した衣料品のデザインが気に入られたというのは、大変興味深いものですね。

 デザインもこちら側の世界からの供給物の一部ととらえていただき、それにより利益を上げていただくのは一向にかまいません。


 時代背景により人々の嗜好は変化するといいますが、今のこちら側の世界と、そちら側の世界の嗜好で共通する部分があるということでしょうかね。」


 いつもの通り、所長が無線機の向こうから応対してくる。

 そういえば最近、ラッキョウの声を聞いていないな・・・。


「まあ、物珍しさということもあるのでしょうが、洗練されたデザインが好まれるということもあるのでしょう。

 それに・・、恐らくそちら側の世界の生き残りの方たちは、政治家以外では企業のトップなどのお金持ちが多いわけでしょう?


 だったらファッションのトップデザイナーなどの方もいらっしゃるでしょうから、広く世に好まれるデザインをされたとも言えるのではないでしょうか。

 特に、下着・・・主に女性関係のなのですが・・・、すごく人気があるようでしたよ。」


 デザインが人気という話をすると、所長の声のトーンが上がったようで、気をよくしているのがうかがえる。

 とりあえず、ごまをすって置く意味からも、少しほめたたえておこう。


「すでに引き渡しを終えた、食料品に関しても同様に高い評価を得ています。

 牛肉や豚肉、鶏肉の質の良さと味の良さ、今回はどちらかというと支給品ということで安値で卸されたのですが、来月からはブランド品として高級品の棚に並ぶことになります。


 返送割合を増やしてでもいいから、もっと大量に供給してほしいなどの要望も来ております。」

 ついで赤城も、今度は食肉の品質について報告する。


 そういえば加工された肉に関しては、当初異次元肉といわれてどちらかというと忌み嫌われ、毒性はないという評価を下した後、学校給食や公共機関の食堂用に無理やり支給されたようだ。

 孤児院にも支給された肉の一部が配布されたと、朋美がそのまた一部を調達してきたときに話していた。


 ところがその肉の味のいいことから、すぐに調理担当者から追加注文が続出し、すぐに品切れとなってしまったらしい。

 そのため次回からは高級ブランド品として市場に回るというわけか・・、面白い話だ・・・。


「おやそうですか・・・、それは喜ばしいですね。

 牧場や農場の管理プログラムの作成者たちが喜ぶことでしょう。

 世界共通のプログラムで運営しておりますからね。


 地域によって気候の違いはあっても、それぞれの土地柄に合った品種改良を施して、最適な環境で最適な飼料や肥料を用いて育てられたものです。

 それらの品質の好評価をいただけたのはありがたいですね。

 今後も継続的にお付き合いいただけるということでしょうからね。


 では、本日は工業製品の引き渡しをしていただいて、明日には作物と食肉の支給をさせていただきます。

 支給先と供給場所が変更になる場合は、事前にご連絡ください。

 では、失礼いたします。」


 そう言い残して円盤は音もなく消えた。

 公園内に積み上げられていた衣料品が詰められた段ボール箱の一部は、いつの間にか消えてなくなっている。

 ハンドアームマシンが円盤から出てきて、積み込んだのだ。


 東京基地でハンドアームマシンの担当をしていた彼女たちが操作していたのではないかと想像すると、何か懐かしい気がする。

 俺だけではなく赤城も随分と持ち上げた話をしていたので、気分良くお帰りいただけたことだろう。


 日本では遠く九州や北海道の業者も参加しているのだが、北や南へ引き渡し場所が離れていても、とりわけ苦情は言われなかった。

 マッハいくつかは知らないが、恐らく超高速で全国各地へ飛行できるのだろう。

 次元を超えて物資のやり取りをするくらいだから、このくらいの距離なら問題はないということなのだろうな。


「まあ何とか、工業製品の引き渡しも無事終了ということでいいだろう。

 時差があるから、これから各国分の引き渡しが次々と継続していって、すべての国の引き渡しが終わるには、まだ1日以上時間がかかるがね。


 前回で懲りているから、今この状況で向こう側の世界に反旗を翻すような国はいないと考えるよ。

 最早、自殺行為でしかないわけだからな。


 それよりも、先ほど言いかけた話の続きを聞きたいね。

 マシンを自由に使うというのは、どういうことなんだい?」


 巨大円盤との物資のやり取りを無事に終え、マシンを基地へ呼び戻したところで赤城が質問してきた。

 彼もこのままではいけないと、いつも思案しているのだろう。


「はい、今この基地には5台のハンドアームマシンがありますが、対するコントロール装置は1台だけです。

 霧島博士が作成してくれたコントローラーはありますが、アナログ装置を用いているのでどうしても動作タイミングが遅れ、向こう側の世界のガードマシンと戦うのは難しいでしょう。


 さらに飛び道具のないハンドアームマシンで、コントロール装置のキーボード操作で操らなければならず、果たして1対1の戦闘になったとしても、勝利できるかどうか疑問なところです。

 それでも、このハンドアームマシンは向こう側の世界の技術を用いて作られた装置であり、今のところ唯一の対抗手段であることに変わりはないのです。


 資料を見るとハンドアームマシンの操作には、操作用グローブというものが適しているようで、そのグローブを2本の手に装着すると、ハンドアームの5本の指をあたかも自分の指のように細かく操作できることが分かっています。」


 俺はまず、今所有しているガードマシン用のコントロール装置を用いて、ハンドアームマシンを操作する限界について説明することにした。


「それはわかるのだが・・・、しかし、こちら側の世界ではコントロール装置など作り出すことは到底できないぞ。

 霧島博士が作り出したコントローラーが限界だろう。

 それを否定されてしまっては、打つ手がなくなってしまう。


 もとはといえば、ガードマシンの武装を外した状態で、お前さんに向こう側の世界のマシンの相手をさせたことが間違いだったと言いたい気持ちはわかるし申し訳ないとは思うが、すんでしまったことは仕方がない。」

 赤城は俺の意見に不満顔だ。


「まあ霧島博士が言っていた通り、コントローラーはマシンをコントロールしようとして作ったのではなく、発信する電波にマシンがどう反応するか確認するために作り上げたものですからね、一つ一つの動作タイミングが遅くても問題ないし、そもそも作られた目的が違うわけです。


 やはり本物のコントロール装置、しかもハンドアームマシンの操作用グローブのような備品も含めて、手に入れる必要性があります。」

 俺は話がそれていかないよう、本題を切り出した。


「コントロール装置って言ったって・・・、こちら側の世界にはどこにもそんなものなかったはずだよ。

 東京基地の中にはもちろんないし、国内の他の基地を攻略したときのリストにも入っていなかった。


 恐らく他国の基地の中にも破壊を免れたマシンが残っていることはあっても、コントロール装置はないと思うよ。

 あれば、報告が来ているはずだ。

 なにせ君がコントロール装置を使ってガードマシンやハンドアームマシンを操作する映像は、ニュースなどで何度も放送されているからね。


 世界中の人がコントロール装置のことを知っているけど、君と一緒に地下基地へ行って回収してきた2台以外のコントロール装置は、こちら側の世界には存在しないはずだ。


 それとも、地下基地の中に取りこぼしがあったとでもいうのかい?

 この間大人数で行ったけど、何もなかったはずだよ。」

 阿蘇も、俺の意見には否定的だ。


「いや、だから・・・、地下基地から向こう側の世界の東京基地にあるコントロール装置を取ってくるんだ。

 あそこには、コントロール装置のほかにハンドアームマシン用の操作グローブもあるはずだし、その他の備品もそろえられる。


 この前向こう側の世界に次元移送装置とテレビカメラなど送り込んだから、これから行って向こう側の世界の様子を探って、放射能など安全かどうか確認することだってできるはずだ。」

 これから行うべきことを説明する。


「いやだから・・・霧島博士が言っていたように、君がもう一度次元移動できる可能性は非常に低いよ。

 君だけが生きたまま移動できた理由ははっきりしてはいないから、絶対に無理とは言わないが、それでも想定される可能性から考えると、はるかに低い確率だろう。


 あの時実験で送り込んだ実験用のマウスの二の舞だろう。

 気持ちはわかるが、無茶はやめた方がいい。

 仮に向こう側へ無事行けたとしても、こちら側へ戻ってこられるという保証だってないのだからね。」


 阿蘇が再度大きく首を振る。

 そんなことは重々承知の上だ。


「いや、向こう側の世界に送り込むのは俺ではない・・・、ハンドアームマシンだ。

 ハンドアームマシンを送り込んで、それを使ってコントロール装置や備品などを集めて、こちら側に送り込むことは、十分に可能なはずだ。


 なにせ、向こう側の世界がいつもやっていたことだからね。

 操作用グローブがないから多少は動きが悪いだろうが、邪魔する相手もいないわけだからゆっくり操作すれば問題はない。


 ハンドアームマシンを最初に送り込んで地上の様子を把握したり、建築資材を搬送したりしたのだろうから、あの穴を通すことは問題ないはずだ。


 だが注意しなければならないのは、せっかく向こう側の世界の人たちが、こちら側の世界との通商が開始されたことに満足しているというのに、裏で反撃の策を練っているようなことがばれでもしたら大変だ。

 秘密裏に事を進める必要性がある。


 それには今日と明日が一番だろう、なにせ今日は巨大円盤で日本中を飛び回って衣料品や紙などの工業製品を収集し各地域に配布して回り、明日には農作物や家畜を収穫して引き渡さなければならない。

 なにせ日本国中に基地があったが、どうやら巨大円盤は日本では一隻だけの様子だ。


 恐らく日本各地の地下シェルターへ、それぞれ配布して回っているのだろうと考えている。

 準備はしているのだろうが、今日明日は向こう側の世界も忙しくて、こちら側の世界の監視の目は緩くなるのではないかな。」


 俺の計画の全容を説明する。

 もちろん、あのような重いマシンをもって地下基地へ入るなどといったことは無理だろう。

 コントロール装置を用いてマシンを操作して、いったん地下基地までいかなければならない。


 操車場を経由して廃線ホームへ入り込むのだが、どこに向こう側の世界の監視の目があるかわからないので、隠密行動するには、向こう側の監視の目が緩むタイミングでなければならないのだ。


「ああそうか・・・、確かにあのマシンなら向こう側の世界へ行き来することは可能だろうし、向こう側の世界にあるものをうまく運び込むことができるだろう。

 しかし大きさからいって目立つから、ニュースなどで報道されると困るわけだな。


 いいだろう、今日明日は報道管制を引いて、マシンの行動に関して一切の報道を禁じることにする。

 今日の深夜にでも操車場を通って地下基地へ運び入れてしまえば、明日の朝からでも向こう側の世界へアクセスが可能となるだろう。


 終電後であれば電車もいないし、この基地からでも遠隔操作可能なわけだろう?」

 赤城が俺の顔をのぞき込む。


「はい、遠隔操作は可能なことはわかっていますが、この基地からの発信電波を向こう側の人間に監視されていたら困ります。

 そのため、操車場まで車にマシンを積んだ状態で運び入れ、直接マシンを近距離で操作する必要性があります。


 明るいうちは目立つでしょうから、やはり夜ですかね。」

 これまで地下基地へ向かった時と、向こう側の世界との関係が大きく違うため、隠密行動が必須となるのだ。


 ましてやマシンを運び入れることが分かってしまえば、その目的は見え見えなのだ。

 今はまだ、反撃の準備を進めようとしていることが向こう側の世界に知られてはまずい。

 感情を害さないよう、持ち上げ気味に応対したのはそのためだ。


「分かった、今夜決行だな・・・、各テレビ局と新聞社には手配しておくとしよう。


 次元移送装置は霧島博士のところにあるはずだから、説明して向こうから来てもらった方がいいだろうな、取りに行くのも大変だし、何より送り込んだカメラや測定装置の操作は、我々にはわからないからな。

 協力を依頼する必要性がある。


 二人はここに残って準備を進めてくれ。

 ああっと、阿蘇はこれから霧島博士に連絡して、研究員とともに操車場に向かってもらうようお願いしてみろ。

 じゃあな。」

 そう言い残して赤城は急いで車に乗って出て行った。


「じゃあ、僕はどこか電話を探して霧島博士に連絡を取ってみるよ。」

 阿蘇も近くの公衆電話を探しに行くようだ。

 携帯やコンビニがないのは、やはり不便だな・・・。



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