表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
66/117

両世界の関係

10 両世界の関係

「そうは思いません・・・、たまたまこちら側の世界ではセンサーを用いて検査していたからよかったので、これが何も検査せずにそちら側の世界の方たちを信頼してそのまま口にしていたらどうなったのでしょうか?

 多くの犠牲者が出たはずですよね。


 次回からは反省して、決して行わないと信じられますか?

 いえそうではありません、今度は何とかセンサーに引っかからない方法を模索するはずです。


 ですので、今回の処置は仕方がないことなのです。

 このような国々が、今後も増加しないことを願っております。」

 そう聞こえた後、一瞬で周囲が明るくなった。


 淡々と話してはいたが、反抗する国に対しては容赦しないという意思が明らかだ。

 無駄に血を流すつもりはないといっていたが、必要とあらば仕方がないということの裏返しでしかない。

 果たしてどれだけの国が、そこまで向こう側の世界の意図を理解していただろうか・・・・。


「ふう・・・・行ってしまいましたね。

 交渉は決裂というか、取りつくしまもなかったですね。

 一方的に話しただけで、行ってしまった。


 これでは交渉というより、事後報告というだけですよね。」

 思わずため息が出る・・・。


「ああそうだな・・・、まあ向こう側としては、これにより全面戦争に移行するわけではないことだけを、伝えたかったのではないかな。

 協力的な国とは、今後とも仲良くやっていくということなのだろう。


 そうして最初の言葉通り、協力しない場合は滅ぼして独自に調達するということなのだろうが、植民地化して生き残った人々を使うということだったのだな。

 まあ、生きた人間を送り込んでくることができないのだから、そうなるのだろう。


 考えてみれば、向こう側の世界の生き残り数というのはごく少数なわけだから、いくつかの国を植民地化してしまえば、十分に食料の調達は可能なのかもしれない。

 最初からそうしなかったのは向こう側の配慮というか、流石に一方的すぎると感じたのだろうな。


 ところが協力するふりをして、毒を忍ばせてきたわけだ。

 それでは容赦しませんよということなのだろう。


 仕方がないというか・・・、その行為をとがめるだけの理論がすぐには浮かばないというか、どのみち交渉すらさせてはもらえなかったがね、これ以上被害が拡大しないよう、各国には慎重な対応をお願いするしかないだろうな。」


 赤城は厳しい表情で、コントロール装置のモニターをにらみつけている。

 そこには先ほどまで巨大円盤がいたはずの、透き通るような青空が広がっているさまが映し出されている。


「とりあえず今の会話に関しては、世界政府事務局あてにそのままダイレクトに無線をつなげて送信しました。

 緊急性は少ないようですから、あとは本部に戻って翻訳して各国へ配信することになりますね。」

 阿蘇がそう言いながら、無線機を片付け始める。


「おおそうだな・・・、攻撃されている国からの難民の受け入れに関しての協議も始まるようだし、とらわれて植民地で働かされるという生き残りの民をどうするのか・・・、下手に救出しようとすれば向こう側の世界から怒りを買うだろうし、難しいなところだな。


 まあ一旦本部に戻ってから、日本国政府とも詰めなきゃならん。

 新倉山君と阿蘇は、各国の工場周りを再開してもらうことになるだろう。

 協力する意思というのを、きちんと示しておく必要性があるだろうからな。」


 マシンを戻して基地に収容すると、車を運転して阿蘇たちとともに自警団本部に向かう。

 唯一向こう側の世界との対抗手段と目されていたマシンも、今や向こう側の世界との通信装置にすぎなくなってきている。


 もしかすると向こう側の世界が俺とコントロール装置を指定しているのは、コントロール装置を解析させない目的もあるのかもしれないが、マシンを対抗手段として使わせない、そう考えさせないという深い意味合いがあるのかもしれない。


 全面戦争への移行を警戒してか、本部内は騒然としていたが、赤城が状況を報告し収まった。

 赤城の予想通り、俺と阿蘇は明日からまた、各国の工場周りということになった。

 今回攻撃を受けているフィリピンとインドネシアを飛ばして、タイから継続する計画らしい。


 とりあえず、韓国・中国・ベトナムの視察結果をレポートにまとめて提出しておく。

 工場内部の映像はコントロール装置で記録したので俺が編集する必要性があり、少しでも時間を作ってやり始めなければ簡単には終わりそうもない。


 明日は朝早くから空港へ向かうため、あまり遅い時間まで残っていてはつらくなるので早々に引き上げる。

 阿蘇は、もう少し残って仕事を片付けていくといっていたので、そのまま別れた。



 それから10日間かけて東南アジア諸国を回り、工場での作業状況を視察して回った。

 どこの国も最新の工場設備を用い最新技術で生産するという力の入れようで、おそらく向こう側の世界でもこの対応には満足していただけることだろう。


 一時帰国したため、また長時間かけてタイまで出向くこととなり、時間的には大きくロスをした。

 そのため視察終了が引き渡し期日ぎりぎりになってしまい、月末の深夜にようやく空港に到着した。

 明日は、衣料品や紙などの工業製品の引き渡し期日の月末だ。


 視察中も、毎日遅くまで編集していたため、映像記録はほぼ大丈夫だ。

 あとは、視察状況をレポートにまとめて報告書類とするだけだ。


 空港から自警団本部に行ってもよかったが、早朝から引き渡しとなるため、俺だけ直接東京基地へ向かう。

 阿蘇は本部で報告してから、明日の朝に東京基地へ行くということで空港で別れた。


『ガンガンガンガンガンッ』アパートには顔も出さずに、ひたすら東京基地の中で書類をまとめ、終了したと思い顔をあげたら、シャッターをたたく音がする。

『ガラガラガラガラガラッ』「おはよう、早いね。」


 早いも何も俺は徹夜なのだが・・・、阿蘇の奴はあれから自警団本部へ行き報告書をまとめてから来たのだろうから、恐らくこいつも寝ていないだろう。


「よう・・・、視察ご苦労だった。

 阿蘇の報告を見る限り、どの国も協力的な様子だな、あれなら安心だ。

 映像資料はまとまっているかい?」

 大きな体の阿蘇の後ろから、赤城がひょいと顔を出す。


「はい、ようやくつい先ほど終了しました。

 ちょうどこれからマシンを外に出そうとしていたところです。」

 マシンを操作してシャッターをくぐらせ、基地の外に浮かび上がらせる。


「そうか・・・、何とか間に合った様子だな。

 強行軍で申し訳なかった・・・、それもこれも信頼関係を築くためだ。

 引き続き、来月も世界中を回ることになるだろうが、協力してくれ。」

 赤城が、すまなそうに頭を下げてくる。


「いえ、何でもありませんよ、それに俺だって今や自警団員ですからね。

 必要業務は遠慮なく命じてください。

 それよりも、報復攻撃を受けた国々はどうなりましたか?」


 気にはしていたのだが、向こう側の世界への配慮なのか、毒物を仕込むなど反抗した国々への向こう側の世界からの攻撃に関しては、どこの国でもニュースとして報道されることはなくなった。

 こちら側の世界が攻撃されていることを報道することにより、国民感情が刺激されることを恐れているのだろう。


「ああ・・・、毒物を仕込んだり有害な添加物を含ませたりした国は、フィリピン・インドネシア・イタリア・ギリシャなど10ケ国に上った。

 それらの国々はすべて報復攻撃を受けて、ほぼ全滅・・だな。


 陸続きの国は何とか避難民が国境を越えて隣国へ逃げ込んだようだが、それでも島が多い国ばかりだから、逃げられなかった人たちが多くいたことだろう。

 多くの犠牲者を出す羽目に陥った。


 それらの国々の隣国では追加でコンクリートや石膏ボードにブロックという、建築資材の要求があったようだから、破壊しつくした後に工場など建築させるつもりなのだろう。

 もちろん、生き残った人々たちが自力で建築することになる。

 まさに使役ということだな。


 どの国も反撃することもできないため降伏すればよかったのかもしれないが、やはり敗戦国は全員処刑と考える風土があるため、どの国からも降伏宣言がされることはなかった。

 反対に向こう側の世界からこれ以上の攻撃は虐殺となってしまうとして、戦争終結宣言が途中で行われたほどだ。


 それにより隣国との国境付近へ避難していた人々が、隣国へ逃げ込むことができたくらいに感じている。

 生き残った人々は、逆に向こう側の世界に感謝していると言っているくらいだ。」

 赤城が苦虫をかみつぶしたみたいに、厳しい顔をする。


「まあ、次元間の考え方の相違もありますからね。

 これからどうするのですか?

 植民地化された国々は、そのままにしておくのですか?」

 俺はコントロール装置でマシンを指定の公園方向へ飛行させながら尋ねる。


「難しいところだな・・・、解放してくれといったところで聞いてくれるかどうか・・・。

 なにせ、向こう側の世界だって食料物資の供給先が必要なわけだからな。

 植民地化して、自分たちの監視の下で安全に調達できるのであれば、それに越したことはないわけだ。


 いずれは向こうの技術を使った工業製品の生産も始まるかもしれないと、霧島博士は予言している。」

 そうか・・・LSIや超LSIなど半導体製品か・・・、こちら側の世界ではトランジスタですら作り始めたばかりだから、そこまで進むにはまだ数十年はかかるだろう。


 だが技術力と装置があれば、生産することは可能なはずだ。

 それをこちら側の世界で実現できれば・・・、向こう側の世界の不安要素は、老朽化していく設備の維持管理だろうが、半導体製品など手に入らないものに関しては、確かに一番の心配事だっただろう。


 いくら備蓄があるといっても、それらを消費した先を心配するに決まっている。

 そのためにも、今回のような植民地を手に入れることは、大いなる希望が見えてくるというわけだ。

 もしかすると、向こう側の世界では今回の犯行を喜んでいるくらいなのかもしれない。


 一方的に武力で従えようとすると反抗心が芽生えるが、柔らかく懐柔の手を差し伸べて、それに反抗した場合は強硬策に出る。

 そうすれば他国から見てもやむを得ないと考えることになる。

 まさに向こう側の世界にとっては、絶好のチャンスだったわけだ。


「このままいくと、完全に向こう側の世界の思い通りに事が進んでいくわけですね。

 それが不満とは言いませんが、もともと向こう側の世界がこちら側の世界に干渉してきたわけであり、過剰な譲歩はするべきではないでしょう。


 なにせ交易とはいっても向こう側が提供してくる資材は、全てこちら側の世界のものでしかないわけですからね。

 例えば病気などが蔓延して、向こう側の世界で飼育している家畜に被害が出たときは、恐らくまたこちら側の世界の牧場から強奪行為が行われるはずです。


 農作物の場合も同様でしょう。

 俺も当初は、交易により平和な世の中がお互いの世界に戻ってくるのだと喜んでいましたが、やはり違うのでしょうね。


 今の状態は向こう側の世界の奴属でしかないのだと考えます。

 つまり、圧倒的武力差をひけらかされて、多少不利な条件でも交易をさせられている。

 それに反抗しようものなら国を滅ぼされてしまうため、その恐怖から贖えない状況と言えると思います。


 元々は向こう側の世界の食糧事情から始まった次元を超えた干渉行為であり、本来であればこちら側の世界が優位な立場に立って交渉の場につけるはずなのです。

 しかし、まったく逆の立場になっているのは是正する必要性があるでしょう。」

 このまま、この状況に甘んじているわけにはいかない、立ち上がらなければ・・・。


「そんな話は霧島博士も主張しているし、政府内でも何度も議論されていることだ。

 しかし具体的にどうすればいい?

 お前さんも知っての通り、向こう側の世界とこちら側の世界では、圧倒的に科学力というか技術の進歩の度合いが異なる。


 その違いが攻撃兵器の差に直結しているわけだ。

 たまたま遠隔装置の通信を妨害することができてマシンの操作を無効化できたわけだが、そのあとに出てきた巨大円盤に関しては、打つ手がない。


 なにせ神出鬼没だから妨害電波の発生装置を準備する暇もないのだが、君のマシンとの交信するときに、操作電波の周波数を測ったことがあったのだが、君のマシンに対してアクセスしてきた交信用の無線の周波数以外で、操作用とみられる通信は感知されなかった。


 つまり、あの巨大円盤は誰か人が乗って操作していると推定させるくらい、遠隔操作している様子が見られないということだ。

 こちら側からの砲撃が円盤本体にかすることすらないのだし、打つ手がないよ。」

 赤城は目を伏せながら大きく首を横に振る。


「そうですね・・・こちら側でもマシンがもっと自由に使えればいいのですが・・・、それに関して俺に思いついたことがあります。

 まずは本日の通信が終わってからお話しします。」


 俺はこの間からずっと考えていた計画を試すのは今しかないと考えている。

 それは向こう側の世界に知られてしまえば恐らく妨害されるだろうし、反抗の意思ありと目されてしまう行為かもしれない。

 そのため、秘密裏に行う必要性がある。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ