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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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通商開始

8 通商開始

「ああ、各国に巨大円盤が飛来して、交渉開始した途端に要求を受け入れたよ。

 国民たちにも巨大円盤の恐怖が伝わったということらしい。

 だから、リストに打ち込んでもらった座標データの、最後の方に入っていたはずだ。」


 赤城が苦笑気味に顔をゆがませて答える。

 なんだそうか・・・、膨大な量のデータを何も考えずにひたすら入力していたので、どの国の座標かすらわかっていなかった。


 まあ、こちら側の世界全てが要求を受け入れてくれたというのはありがたい。

 平和な世の中が、ようやく巡ってきてくれそうだ・・・ほっと胸をなでおろす。


「なにか、先ほどから言いたそうにしていたが、なんだね?」

 突然、赤城が俺の顔をのぞき込んできた。


「いっいえ・・・何でもないです。」

 俺は両手を前に突き出して、激しく振りながら笑顔で否定する。

 平和が訪れそうというのに、何もわざわざトラブルの種を増やさなくてもよいか・・・。



「日本は牛50頭、豚200匹、鶏500羽、羊50頭に加えて、大豆1トン、小麦1トンなどから牛肉や豚肉など加工後の肉の部位と量の注文が添えられてきたようです。

 おおよそ原材料の3分の一くらいの見積もりになります。


 コメや魚がないのは、これらは直接送っているのでしょうかね?

 そのほか綿花や蚕などもやはり送られてきたようで、綿製品や絹製品の衣料の要求があります。

 加えてトイレットペーパーや紙おむつなどの材料として、原木も送られてきたようです。


 諸外国でもおおよそ同じような割合で、食肉などの要求が来ているようですね。」

 無線で状況を聞いていた阿蘇が、記入したメモを読み上げる。

 輸入ともいえる原材料の搬入は、順調に進んでいる様子だ。


「ああ・・・、恐らく乾燥機や精米機などは持ち込んでいるだろうから、米の脱穀・精米や小麦の製粉などは向こう側の世界でも行えるのだろうと霧島博士も予想はしていた。

 そのための隠し農場なのだろうからね。


 野菜などは収穫してそのまま使えるだろうし、魚もそうなのだろう。

 恐らく牛や豚などの肉への加工も可能なんだろうが、どうせ余分に飼育しているのだからとこちらへ加工を委託することにしたのだろうと推定している。


 食料に関しては自給自足できるのだろうが、流石に衣料品や工業製品などは難しいのだろう。

 ましてや紙製品は大きな工場が必要となるから、恐らくシェルター内では無理だろうと考えている。

 もちろん医薬品なども、シェルター内では作るのは難しいだろう。


 まあ、こちらの場合はそれほど嵩張らないだろうから、ストックは十分にあるだろうが、湿布薬とか風邪薬や胃腸薬などの日常使う薬だね。

 これは今までの強奪時にもリストに入っていたから、恐らく品質は確認されているのだろう。


 そのため現状生産が難しい製品を手に入れるために、原料を供給して一部加工品としていただくということを提案してきたのだろうということだ。

 まあ、紙製品はなければどうしても生活できないということはないのかもしれないが、あった方が暮らしは楽にできるだろうからね。


 原木だけ渡して紙製品を受け取るということもできないだろうから、こちら側の世界も利益が出ることを示すために食料を加えたということと推測している。

 あと、小麦は製麺で大豆は豆腐とか納豆とかへの加工を委託されているようだ。


 いずれ、ポンプとか発電機にモーター、ガソリンや軽油なども要求してくるのだろうと予想している。

 流石にテレビやラジオなどの家電製品など、こちら側の世界のものは欲しくはないのだろうがね。」

 赤城が頷きながら答える。


 まあそうだろう、ブラウン管のアナログテレビなど、俺だって小学生のころ博物館で見た記憶があるくらいだ。

 放送方式など異なるだろうから、使えないだろうな。

 娯楽のためのテレビ放送など行われているはずもないから、いずれこちら側の放送受信のために、テレビやラジオなどの要求も出てくる可能性はあると俺は考えている。


 まあそれよりも、施設運営のための機器は補修が必要だろうと予想しているようだ。

 あとは燃料か・・・。


「とりあえず新倉山君は、向こうの世界からの要望通り、こちら側で供給された原材料が正しく加工されているかどうかの確認で各地を回ってもらいたい。

 いずれは世界中の加工工場を回ってもらうことになるだろうが、手始めとして日本国内を回り、時間があれば東南アジア巡りをしてもらうことになる。


 そのコントロール装置を使えば、映像記録も可能なんだろう?」

 赤城がとんでもないことを言ってきた。


「はっ・・・はい・・・、確かに通信用のカメラは付属していますし、映像記録をするソフトもインストールされているようです。


 ネットワークがあれば、直接向こう側の世界と生で視察状況を見せることも可能なんでしょうが、先ほど説明した通り、そのままでは東京基地以外の基地ネットワークは俺のコントロール装置からは使えないでしょう。

 各地の基地の中に入って直接アクセスできれば、もしかしたら通じる基地もあるかもしれません。


 こちら側の世界からの反撃時に、ネットワークから切り離されてしまった基地とかですね、そこなら俺が持っている管理者名とパスワードが使える可能性があります。


 試してみないことには何とも言えませんが、実際には記録した映像を直接円盤に送信することになるでしょうね。

 まあ視察がてら、各地の基地との接続状態を確認していってもいいかもしれませんね。」

 ちょっと意外だったが、とりあえず可能と思われることを答えておく。


 向こう側の世界に対して、そこまでしてくれるということは、今回の提案をこちら側の世界も好意的に考えているということなのだろう。

 俺が間に入って安全性を証明してやることで、向こうがわの世界が強奪に頼らずに物資の調達ができると考えてくれるようになってくれればありがたい。


 ついでに各国に残されている基地の状態確認も行っていけば、うまくすると東京基地から各地のマシンを稼働することだって、可能となるかもしれないのだ。

 向こう側の世界のネットワークから独立した、こちら側世界のネットワーク構築も夢ではない。


「多くは屠殺場の確認となるから、あまりいい気分ではないだろうが、まあ、我々が食している肉だって同様の加工をして、そのおかげで食べられると考えれば平気なはずだ。

 来週から、阿蘇と一緒に回ってもらうことになる。」


「分かりました・・・、加工する工場へは遠いのでしょうか?」


「ああ・・・、それはこれからだな。

 供給される食肉の量と加工して引き渡す量を示されたので、これから業者に対して配分を決めるのだが、そのために入札が行われる予定だ。


 日本では供給過剰で利益が出る分に関しては、発展途上国へ寄贈する予定だが、入札により利益分の見積もり金額が一番多い業者を選定する。

 かといって手を抜いた加工をして、向こう側の世界からクレームをつけられても困るから、阿蘇と一緒に確認して処理の過程を記録して送ってやってくれ。」


 赤城が笑顔で答える。

 さすが日本というか、異世界からの要求に対しても真摯に請け負おうという姿勢には感心する。



 それから2週間は関東地方を中心に、食肉加工場を回って歩いた。

 ついでに基地がある都市部に行った時には、基地内に入ってアクセスを試してみたが、国内の基地は破損状態が激しすぎて機能していないところがほとんどで、管理者権限どころではないことが分かってきた。


 少なくとも通信機能くらいは復活させたいと、霧島博士の研究室がコントロール装置から引き出した資料から補修部品の検討を始めたと言っていたが、光ケーブルすら作り上げる技術がないようで、お手上げ状態の様子だ。


 まあ基地をそのままにしておいて、再修復されて強奪再開なんてことにならないよう、破壊しまくったのだろうな。

 それだけ未知の世界の技術が恐ろしかったのだろうから、仕方がない。

 今後も確認は続けることにして、少しでも損傷の少ない基地が見つかればラッキーぐらいに考えよう。



「以上が、俺が確認してきた日本国内の加工場の状況です。

 間違いなく与えられた食材を加工して、一般の食肉とは区分してパックしていました。

 衛生面も問題なく、きれいな工場ばかりでした。」

 いつもの公園で、受け渡し前日の14日に上空の巨大円盤相手に通信を行う。


「そうですか、安心いたしました。

 他国の食品加工の状況は、連日テレビ放送されているものを、とりあえずは参考にしろということですね。」

 いつものように所長の声が聞こえてくる。


 そうなのだ、俺の視察が行えない他国の加工場の様子を伝えるため、各国のテレビ番組で異世界への交易品の加工状況として、放送が開始されているのだ。

 今後も継続するということらしい。


 各国ともに力の入れ方が半端ないのは、やはり強奪行為ではなくて通商という形に変わったことを評価しているということなのだろう。


「はい、いずれは俺が直接各国の加工工場を視察いたしますが、まず今回は日本国内の視察分だけで、他国の分は現地放送の映像で確認願います。

 後半の衣料品や紙製品などの加工に関しては、近隣国分の工場視察は今月中に行う予定です。」


 日程的に余裕のある工業製品に関しては、各国の生産工場とのスケジュール調整がついたため、俺が現地に直接出向いて確認することになった。

 2週間で東南アジア諸国の工場を回る強行軍だ。

 この時に各国の基地確認もしなければならないので、寝ている暇もないのではないかと阿蘇もびくついていた。


「分かりました、ご協力感謝いたします。

 それはそうと、こちらへの供給分の割合はあらかじめお知らせしてありますが、パック詰めに関してはすべての加工食品は区分なく同一梱包していただくようお願いしていますが、よろしいですよね?


 加工した中の3割ほどを供給いただくのですが、品質の劣る方を選択されてしまったりしても困るので、加工品の中から取り分を選択するのは、こちら側に行わせていただきたいと考えております。

 そのため明日は全ての食材を一律に並べていただくようお願いいたします。


 そこから必要分だけ回収させていただき、残った分はそちら側でお使いください。

 持っていく量に不満がある場合は、おっしゃっていただいても結構です。

 指定分以上は持ち去らないことをお約束いたします。


 この円盤で全国各地どこへでも取りに伺いますので、何も東京へ集荷する必要性はないことも付け加えておきます。」

 そう言い残した後、ふっと周囲が明るくなる・・・、頭上の巨大円盤が音もなく消え去ったのだ。


 ううむ・・・、予想はしていたが用心深い・・・。

 毒など混ぜられないよう、加工後の食材はすべて集めておいて、そこから必要分だけ選ぶとは・・・。



「どうだ・・・、受け渡しの状況は?」

 赤城が、俺の背中からモニターをのぞき込んでくる。


 東京基地の外に数台のテレビとコントロール装置を並べて、本日の受け渡し状況を確認する予定だ。


「はい、東京での受け渡し場所として、いつもの公園を指定されましたが、食肉は冷凍された状態で指定位置に並べてあります。」

 ハンドアームマシンからの映像を眺めながら答える。


「あっ、やってきたようです。」

 晴れていた周囲の景色が一瞬で暗くなる。


 同時に、黒い球体が何台も舞い降りてきた、ハンドアームマシンだ。

 ハンドアームマシンは、食肉が詰められた段ボール箱の一部を持ち上げると、数個ずつ選別するように抜き取っていった。

 その間わずか10分ほどで、すぐに円盤は消え去り周囲の明るさが戻る。


「次は、千葉ですね・・・、こちらは豆腐とか製麺などの加工食品が中心です。」

 すぐに別のテレビモニターを見ると、そこにはすでに巨大円盤が現れていて、ハンドアームマシンが舞い降りてきていた、10分ほどでもう千葉に到着した様子だ。


 各地の様子は地元のテレビ局が放送しているのだ。

 最長で大阪まで調達に向かったようだが、3時間ほどですべての作業が終わった。

 おいおい他国でも食品の引き渡しが行われていくようで、テレビ中継が放送され始めたようだ。



「フィリピン行きは中止だ。」

 阿蘇が空港の公衆電話の受話器を握りしめ、震えながら告げる。


 衣料品の工場視察でベトナムでの視察を終え、次の国へ向かおうと空港へ到着したと思ったら、空港のテレビにはショッキングなニュースが流れていた。

 巨大円盤が、レーザー砲で街を焼き尽くしているさまが放送されているのだ。


 地元軍なのか戦車や高射砲で応戦するのだが、円盤に弾が着弾することはなく、すべてはるか手前の何も見えない空間で破裂してしまい打つ手がない。


 そのくせ円盤からのレーザー砲はその高熱で建物や車などを焼いていっている、フィリピンマニラとテロップが出ているようだ。

 人々は逃げまどうが各方向から火の手が上がり、もはや安全な逃げ場所があるとは感じられないほどだ。

 どうしてこんなことになってしまったのか・・・?



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