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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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いいニュースと悪いニュース

5 いいニュースと悪いニュース

 ピンボールマシンの機種により、ターゲットや役物の配置が微妙に異なる。

 おおよそ仕様的に同じとは言っても、やはりレベルの高い競技ともなると、その差が影響してくる。


 更にシミュレーションゲームやコンピューターゲームとは異なり、実際に球を使って行うゲームの場合は発射装置のばねの強さや、台を設置した床の傾きなども重要な要素であるため、5ボールの試技のうちでいかに早くゲーム台の特徴をつかめるかにかかっていると俺は感じている。


 そのため、最初の一球は捨ててもいいから台の特徴をつかむべく、いろいろ試して2球目から着実に得点を重ねていく作戦だった。


「昨年の全国大会の様子を大雪君に聞いた限りでは、予選会と同様に5球使っての試技と、その後の本選トーナメントだったと聞いているぞ。

 今年からレギュレーションが変わったということなのかい?」

 そんなこと聞いてないよー・・・、と思わず言いたくなってしまう。


「そうね・・・昨年までの大会は、未知なる敵からの強奪行為により先行きの見通しがつかず、ゲームマスターって言ってもそれほど人気のある職業じゃなかったのよね。

 ところが未知なる敵は異次元の我々同様の人たちだってわかって、さらに報復攻撃の成功などで向こう側の世界は存亡の危機に対面しているでしょ?


 少なくとも当分は平和な日々が続きそうということで、ジュンゾーは知らなかったかもしれないけど、今年の大会は参加者がいつもの10倍になっているようなのね。

 いつもだと、東京大会の後は全国大会だったのが、今年は関東予選会も行われたのはそのせいのようよ。


 このルール変更は、大会開催当日である本日午前8時に発表されたんだって。

 関係者以外誰も知りえないことだったから、参加者に対しては公平なはずだって書いてあるわよ。」

 朋美がモニターに表示される、注意事項を読み上げる。


 そうか、俺が異次元の壁を乗り越えてこちら側の世界に来たことは有名だし、霧島博士発明の妨害電波装置の効果で強奪マシンの動きを封じることに成功したため、もう平和な世の中が戻ってきたという期待感が大きかったのだろう。


 巨大円盤の出現は、大会予選が始まった後になってからだものなあ・・・。

 しかし目がいいなあ・・・さっきからいくら大きいとはいえ50インチ程度のモニターに小さく表示される文字を、平気で読み取っていく。


 俺もメガネはかけていないのだが、それでも細かな文字だとかなり凝視しなければ読み取るのがつらいというのに・・・。


「あっ、遥人が出てきたわよ。」

 朋美がはるか下の会場に向かって手を振る。


 大人たちに混じって、高校生の大雪君が2回目の予選試技に挑戦だ。

 1回目の成績の悪かった順に2回目の試技順を決めたようで、この会で予選試技は終了だ。

 これでトーナメントの組み合わせが決まる・・・、上位に食い込めるとよいのだが・・・。


「遥人兄ちゃん、さっきとは別のマシンを使うみたいだ・・・。」


「うんそうだね・・・。」

 前方の席からつぶやく声が聞こえる。

 見ると健ちゃんと大ちゃんのようだ。


「大雪君は、試技の1回目はいつも練習しているマシンでやったのかい?

 それであの結果なのかな?」

 健ちゃんに、1回戦目の様子を聞いてみる。


「うん・・・、いつも練習しているのと同じマシンがあったから、まずはそれで挑戦したみたいだけど、なんだか調子が悪いのかあまり点数が出なかったんだ。

 だからかな・・・マシンを変えるみたいだね、ちょっと心配ー・・・。」


「でも、あのマシンは1位の人が予選で使ったのと同じマシンだよ。

 だから、きっと大丈夫だよ。」

 健ちゃんと大ちゃんが教えてくれる。


 1回目1位の奴は、当然のことながら先ほどと同じマシンを試技に使いたいのだろうが、どうやら下位のものからマシンを選択できるようだ。

 大雪君は5位だからこのグループの中では一番下位だ。


 だから台の選択優先権があるので、1位を取ったやつが使ったマシンを選択したのだろう。

 自分が得意であるはずのマシンで調子が出なかったからのことだろうが、いい選択だ。

 これも駆け引きのうちの一つでもあり、卑怯でもなんでもないし、それにもしかするとマシンのコンディション面もいいとみているのかもしれない。


『スタート』合図とともに、一斉にピンボールマシンのボールが発射される。

 やり直しのできないまさに一発勝負の試技が始まった・・・。



「いやあ、予選試技の2回目にマシンを変えて挑戦したときは、どうなることかと思ったよ。

 でも予選で3位に食い込めて、B組になれたのはよかったよね、決勝まで1位の人とは当たらずに済んだのだから。」


「はい・・・、まさか2回戦目で逆転してあそこまで行けるとは思ってもみませんでした。

 予選の1回目はいつも練習しているマシンと同じ型があったのでやってみたのですが、なにせ練習もなしにぶっつけ本番ですからね、どうやら使い古されたマシンのようで、爪の動きも緩慢で遊びが大きく、細かな動きができずに苦労しました。


 そこで新作のマシンがあったのでそれを選択したのですが、どうやら試技の1回目で予選1位だった人もあのマシンを選択していたようですね。

 同型のマシンがもう1台あったから邪魔はせずに済みましたが、ちょっと申し訳なかった気もしますよね。


 結果的には、同じマシンを使っても破れてしまったわけですから、まだまだですよね。」

 大雪君が後頭部をかきながら、少し恥ずかしそうにうつむく。


 孤児院の食堂で開かれている、大雪君の祝勝会でのことだ。

 予選の試技で3位につけた大雪君はトーナメントも勝ち進み、ついに決勝まで行って準優勝に輝いたのだ。

 高校生でありながら一般の部に参加しての結果なのだから、大したものだ。


「いや、いい選択だったと思うよ。

 予選の試技2回目で大雪君が選択したマシン・・・、今日はあのマシンの調子が一番よかったようだ。


 決勝の時はくじ引きで相手があのマシンを選択したから惜しくも敗れたんじゃないかと、俺は感じているくらいだ。

 もっと、自信を持ってもいいと思うよ。」

 大雪君を励ましておく。


 同型のマシンを使ったとはいっても、決勝では調子のよさそうなマシンを選択した奴が勝っただけのことだ。

 あのマシンを大雪君が選択できていたなら、おそらく結果はひっくり返っていたことだろう。


 機械式のマシンであるから、どれだけ公平に進行しようとしても、やはりマシンの癖やコンディションによって差ができてしまう。

 そのわずかな差を見抜いて、少しでも良いマシンを選択するというのも技量の一つといえるのかもしれない。


 それでもプロへの登竜門ともいえる全国大会で2位というのは、大雪君の道を切り開いたといえるだろう。

 といっても、ここから世界大会へ続いていくと思っていたらそうでもなく、ここからはプロ試験目指して練習していくのだそうだ。


 世界へ挑戦するには、まずはプロ試験に合格する必要性があるのだそうだ。

 そのための全国大会のようで、ここで勝ち残ったメンバーがさらに選抜されて、プロ試験への狭き門に挑戦していくということのようだ。

 まだまだ先は長そうだ・・・。


「大雪君だったっけ、準優勝できてよかったよね。」

 翌日の早朝、東京基地でマシンの準備をしようとしていたら、いつものように朝早くから阿蘇がやってきた。


「ああ、昨日は盛大・・・とは言えないが、それでもささやかな祝勝会を開いた。

 子供ばかりだったから、酒なんか出なかったがね。」


 園長先生たちの送り迎えを頼んだので祝勝会も参加しろと勧めたのだが、朝が早いからと断られてしまい、園の前で別れたのだ。

 孤児院からだと高速に乗って普通でも1時間はかかってしまう距離だし、ましてや休日の夜だと郊外からの帰宅ラッシュで下手をすれば渋滞に巻き込まれて・・・なんて懸念もあったので、引き留めることもできなかった。


「昨晩帰ってから本部に寄ってみたんだけど、夜遅くまで世界会議が開かれていたようだね。

 なにせ、今日の朝までに返答を決めなければならないわけだからね。

 霧島博士が言っていたように、時間を稼ぐためにもいったんは向こうの要求をのむことに決まるのだろうと僕は思っていたのだけど、簡単にはいかない様子だね。」


 阿蘇がテレビカメラとともに長いケーブルを車から降ろしながらつぶやく。

 今日も交渉の様子を、自警団本部へとテレビ中継するのだろう。


 もうすぐ交渉期限というのに、いまだにはっきりと方針が決まらないことは困りものだが、まあ仕方がないといえば仕方がないのだろう。

 なにせ、中には自国の主要都市が核攻撃で消滅させられた国もあるのだから。


 同じように反撃としての核攻撃を向こう側の世界に対して仕掛けたのだが、さらに追い打ちの離島攻撃を仕掛けたために報復攻撃を受けてしまったのだ。

 その発端は俺にあるので、どちらの世界に対しても、すまない気持ちでいっぱいだ。


 俺が裁判の時に、つまらない考えをひけらかさずにいさえすれば・・・、あるいは向こう側の世界だってなりを潜めたまま、いまだに干渉してこなかった可能性だってあるわけだ・・・。


 いや、食料の備蓄量もあるからそれは無理かもしれないが、少なくとも報復の核攻撃は避けられただろうし、向こう側の世界だって一部の離島であれば人々が暮らす余地は残されていたのかもしれない。

『キッキィー』するとそこへ、1台の軍用車両が勢いよく走りこんできた。


「よう、早いな・・・。」

 赤城だった・・・、てっきり世界会議に参加していると思っていたのだが・・・。


「どうしたんですか?会議はもう終わったのですか?

 どのような回答になりますか?」

 阿蘇が突然現れた赤城に矢継ぎ早に質問をする。


 それはそうだ・・・まだ2時間ほど時間はあるといっても、赤城がこの場に来たということは、何か進展があったということだろうから。


「いや・・・・だめだな。何も決まろうとしていない・・・、議論は堂々巡りで結論出ずだ。

 核の被害国が向こう側の世界への支援を完全に拒否しているのが問題だ。

 強奪されるのであればそれは仕方がないが、政府が認めて支援するということは、とても行えないということのようだ。


 人心が付いてきそうもないというので、下手をすれば政府転覆なんて言うことも起こり得そうだから、こちらからも無理強いはできそうもない。」

 赤城はうつむき気味に首を振る。


「それではどうするのですか?

 そちらからの要求はのめないと、交渉決裂ということでしょうか?」

 ちょっと予想外の展開だ・・・、せっかく平和への希望が見えてきたというのに、これでは全面戦争だ。


「まあまだ、会議は続いている。

 といっても、あと1時間とちょっとじゃあ、とてもまとまりそうもない。

 2週間の猶予期間があったのに、いまだに論点が切り替わらずに同じ議論を堂々巡りさせているんだ。


 あと何日あったところで、決まるとは到底考えられん。

 向こう側の要求をのむことに反対しているのは、十数ケ国・・・核攻撃を受けた国とその周辺国だけだ。

 他の国は、材料供給されることを条件に要求を受け入れる考えで間違いはない。


 だから、今この時点で要求をのめない国は切り離して交渉することにした。

 もちろん、これは世界政府の了承を得ている・・・といっても反対派の国は切り捨てるのかと、目くじらを立てているようだがね。


 多数決で決められる問題でもないし、全会一致がモットーなのだが、こうまでこじれてしまっては仕方がないということだ。

 個別交渉を提案させていただこうと考えて、俺がここへ来た。」


 赤城は、厳しい表情で答える。

 そうか・・・個別交渉・・・、恐らく日本は要求をのむことになるだろう。

 しかし、個別では認められないから全面戦争となったらどうするか・・・だな。


「分かりました、じゃあ、とりあえずマシンをスタンバイさせます。」

『ガラガラガラガラガラ』基地のシャッターを開けると素早く中に入っていく。

 すぐにテレビカメラを抱えた阿蘇と赤城が続く。


 シャッターわきに待機させておいたマシンを起動させるとすぐにシャッターをくぐらせて外へ出す。

『ガラガラガラガラガラ・・ガッシャーン』すぐにシャッターを閉じる。

 ふう・・・、これでひとまずは安心だ。


「じゃあ、少し早いですが指定された公園に行って、また池の上にでも浮かばせておくようにします。」

 俺はそういって、マシンを上空高くへ浮上させようとする。


「待て・・・、先に行っておいてもいいが、場所はちょっと変えるようにと、霧島博士からの申し出だ。」

 すると突然赤城が注文を付けてきた。

 どうしたというのだ?



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