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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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突きつけられた条件

4 突きつけられた条件

「今までの一方的な強奪ではなく、お互いに交流するということですね?

 こちら側の世界にとってもありがたいことだと考えますが、前回俺がこちら側の世界からの支援を受けるよう勧めたときには頑として拒否され、強奪行為を再開するとおっしゃっていました。


 どういった心境の変化でしょうか?

 やはり、妨害電波でマシンの活動を阻害されたことが原因ですか?

 こちら側の科学力の進歩は侮れないと反省し、こちら側の世界に帰属する道を選んだということでしょうか?」


 俺は今一度、向こう側の世界の考えを確認するつもりで問いかけてみる。

 なにせ、言ってみれば180度の方針転換であるからだ。


「勘違いなさっているのかもしれませんが、我々側の世界がそちら側の世界に屈服して従属関係を結ぼうとしているわけではありません。

 あくまでも対等の立場でこちら側は物資の原料・・・つまり家畜や穀物野菜などですね・・・を提供し、その加工したものの一部をこちら側に供給してほしいというのです。


 言ってしまえば加工貿易という形態となるわけですが、そちら側の世界では残った分の物資はただで手に入る資源となりますから、メリットはあると考えます。

 もちろん提供いただく物資の中には食材だけではなく、衣料品や紙製品など生活必需品も含みます。


 これらの原材料・・・、綿花や蚕および原木なども提供するつもりです。

 ですので、そちら側の世界に帰属して、我々の科学力を提供する見返りに食料物資を要求するのではありませんので、あらかじめお断りしておきます。


 加えて、なぜ方針展開したのかということに対してお答えしておきますと、そちら側の対応の進化に対抗するには、もはや全面戦争するしかないとの考え方が、こちら側の世界の大半を占めております。

 そうなると、どちらが生き残るかといった戦争になりかねません。


 こちら側の生き残ったごく少数の人間のために、そちら側の世界全てを巻き込んでもいいのかとの考えもあり、何とか穏便に済ませる策として交渉に至った次第であります。

 この結果いかんでは、全面戦争に移行いたしますので、それなりの覚悟をお願いいたします。


 返事をすぐに出すことは難しいでしょうから、2週間の猶予をあげます。

 2週間後の同じ時間にこの場所でお待ちしております。

 では、よろしく。」


 その通信を受けた後、すぐにマシンの周囲がまぶしいほどに明るくなった。 一瞬であの巨大な円盤が消えるように飛んで行ったようだ。

 ううむ・・これは大変なことになった・・・。


「まいったね・・・、こんな難しい外交の回答を2週間だなんて・・・、とても各国の意見がまとまるとは考えられないよ。」

 阿蘇がため息交じりにつぶやく。


 そう、まさに外交問題ではあるのだが、こんなことが許されるのだろうか・・・、まさに一方的な向こう側の都合に対して、こちら側の対応を要求されているのだ。

 しかも交渉の余地はなく、断れば全面戦争の可能性までひけらかされているのだ。


「まあともかく、マシンは引き上げさせよう。」

 すぐに俺はマシンを池中央から上空高く浮上させ、東京基地へ向けて発進させる。


『ガラガラガラガラガラガラッ』マシンが戻ってくるタイミングに合わせてシャッターを開けると、マシンをシャッターの隙間をくぐらせ中に収納し、自分たちは外に出てシャッターを閉める。


「じゃあ本部まで戻ろう・・・、何か指示が来るかもしれないからね。」

 それぞれの乗ってきた車に向かう。

 阿蘇は中継用のテレビカメラの長いコードをまとめてしまうのに苦労している様子だ。


「ああっと・・・ちょっと待っていてくれないか・・、いま通信が入った。」

 車の後部ハッチバックを開けて作業していた阿蘇が、両手を大きく振りながら叫んできた。

 すぐにエンジンを切って阿蘇の車へ駆け出す。


「はい・・・はい・・、分かりました。」

 行った時にはすでに通信は終了していた。


「本部には向かわずに、霧島博士の収容されている刑務所に向かうよう指示が出た。

 ここからの道順はわかるよね?わからなくてもまあ、あとをついてくればいいけどね。」

 刑務所には何度か行ったが、たいてい自警団本部から向かっているからな。


 刑務所から東京基地へ来たこともあるが、あの時は地下鉄の操車場を経由したはずだ。

 首都高の降り口とか大体の場所はわかっているが、こっちの車にはナビなどついていないし、念のために阿蘇の車の後についていくことにする。



「よう・・・一見平和的な解決案のようにも感じられるが・・・、裏を返せば奴らの生活物資を無償提供するようなものだ。

 しかも、何の見返りも得られずにだな・・・。」

 いつものように刑務所の面会室に向かうと、赤城が苦虫を噛み潰したような表情で待ち受けていた。


「ええっ・・・でも、向こうは食料や衣料品などに加工するための原材料は提供するって言っていたはずですよ。

 だったら、ある程度ギブアンドテイクでは・・・?」

 阿蘇が赤城の言葉に対して不思議そうに首をかしげる。


「いや、そう聞こえてしまうのだが実をいうとそうではない・・・、なにせ、もともとこちら側の世界の資源を奪い取って、それを育てていただけなのだからね。

 しかもその土地はやはりこちら側の世界のものだ。


 つまり、向こう側の世界から送り込まれたハンドアームマシンを使って耕作地を広げ、牛や羊を放牧し飼っていたのだろうが、もともとは巨大円盤で世界各地から強奪してきた家畜でしかないわけだ。

 なにせ生き物は次元を超えて移動させることはできないのだから、向こう側の世界の家畜や植物の種は送ってこられないわけだ。


 だから、すべてこちら側の世界産のものであり、唯一向こう側の世界が開墾した土地・・・ということにはなるが、恐らく人里離れた高地とかアクセスが容易ではないような場所にあるだろうから、その土地をこちら側の世界が受け継いで・・・ということにはなりえないだろう。


 魚介類だって、あの円盤を使ってこちら側の世界で水揚げした海産物資源でしかないわけだが、網も使わないあのような漁法など到底真似できるものではない。

 あくまでも巨大円盤で収穫してきたものを受け取って、それを加工して引き渡すような形となるはずだ。


 加工した一部を引き渡しとなってはいるが、それがどれだけの量なのかもわからない、半分なのか3分の1なのか・・・、まあもともと収穫していたというのであれば、百億という人口に対して十分な収穫量があって、そこから生き残った人数ということに対してごくごく一部なのかもしれないが・・・。


 要するに、限られたスペースである核シェルター内で牛や豚など、食肉用としての加工は難しいというのだろう。

 コメや麦などの脱穀もそうだろうし、ましてや衣料品やトイレットペーパーなど作り出すことは、工場でもなければ困難だろうね。


 生地があれば縫製は手作業でも可能だろうが、核シェルターに逃げ込むような特別待遇の人たちには、まあ無理があるだろうね。」

 ちょうどそこへ白衣姿の霧島博士もやってきた。


「でも、日本を含めて世界中にそういった耕作地や放牧地があるといっていましたよね。

 南米とかの密林の奥であるならまだしも、この狭い日本の中にそのような土地があるとお考えですか?」

 俺は所長の言葉に引っ掛かりを覚えていた。


「うーん・・・どこという特定はできんが、日本の現在の人口が4千万人・・・、狭い国土に人があふれているとはいっても、まだまだ山奥などには開発する余地が残されているのかもしれんね。」

 赤城が腕を組んでうなる。


 うーんそうか・・・日本は俺のいた世界の人口の半分もいないのか・・・、それはそうだろう世界全体で1/5ほどしかいないわけだ、手つかずの土地が多くあっても不思議ではないわけだ。


「でもどうするのですか?すべてこちら側のものだから、加工を任されたとしても供給する義理はないと断るつもりですか?


 それでも構いませんが、恐らく向こう側の世界は武力行使に移行して、こちら側の世界を屈服させたうえで強制労働させられることも考えられますよ。」

 霧島博士に意見を求める。


「こんな理不尽な申し出に応じることは非常に残念ではあるが、現状の両世界間武力差には大きな隔たりがある。

 さらに、こちら側の世界に送り込まれているという攻撃衛星の問題・・・、これすらも片付いてはいないのだ。

 妨害電波でマシンを何とか無効化させたわけだが、次は巨大円盤だ。


 仮にこれに対抗できたとして今度はどんな手段に出てくるのか、皆目見当がつかん。

 最終的には攻撃衛星を使って共倒れを狙われても困りものだ。

 いったんは受けてチャンスを待つくらいしか策はないだろう。」


 霧島博士は目を伏せ気味に答える。

 向こう側の世界は娘さんの敵でもあるだけに、このような協力体制に移行していくことは非常に悔しいのだろう。


 圧倒的武力を背景に一方的な要求を突き付けられて、それを受け入れざるを得ない状況では、娘さんを襲った犯人捜しを要求することも難しいと考えられる。

 とりあえず協力するふりをして時期を待つ・・・、賢明な決断だと俺も考える。


「一応、日本政府には霧島博士の考えを、日本軍経由で打診しておいた。

 これから2週間の期限まで、世界政府内で検討されるものと考える。

 まあ、ほかに対抗策もないのだから、そのように決まるだろう。


 加工コストを考慮して、材料の3分の1以下しか引き渡さないなど、下手な条件を付けることもしないつもりだ。

 別に今のこちら側の世界では、食料調達に困っているわけではないからね。


 そりゃまあ・・・収穫量が増えるに越したことはないわけだが、増加分は発展途上国への援助物資として利用させてもらうことを提案している。」

 赤城がため息交じりに話す。


 まあ、俺としては向こうの世界の生存が危ぶまれることもなく、さらに両世界間で全面戦争に移行せずに済んで、ほっとしている。

 向こう側の世界の応援をするつもりは毛頭ないが、やはり全滅してしまっては気の毒だ。


 このままずっと継続してくれればいいのだが、そうはいかないのだろうなあ・・・。

 せめて、向こう側の世界の技術力の一部だけでも供与するから、共存していきましょうとなってくれるといいのだが・・・、供与する技術が尽きた時のことを考えると、そのようなことはできないのだろうなあ。


 まあ、こちら側の技術力が、十分に向こう側の世界に対抗できるようになってしまったならば、向こう側の世界はこちら側の世界に従属するか、滅ぼされてしまうという危惧があるのだろうなあ。

 それなりのことをしてきたのだし、そう考えても仕方がないことか・・・。



「早く早く・・・、もう始まっているわよ。」

 朋美にせかされて、ベイエリアの多目的ホールで行われる、ピンボールゲームの全国大会会場へと向かう。


 あれから早2週間・・・、向こう側の世界との交渉期日を明日に控えているのだが、いまだに世界政府から回答は来ていない。


 どうせ結論が出るのはぎりぎりになるだろうからと赤城の了解も得て(というか休日である日曜だから、本来は大手を振って自由に過ごせるはずではあるのだが、時期が時期だけに・・・)、大雪君の全国大会応援に駆け付けたのだ。


 念のため、朝、自警団本部に顔を出してから阿蘇と一緒に取って返して孤児院経由で来たため、ぎりぎりになってしまった。

 大雪君と応援の子供たちはすでに手配した大学のバスで到着しているはずだ。


「走っちゃダメだって・・・、転んだらどうするんだ。」

 気がせいて駆け出す朋美を制しながら、大きな体育館のようなホール入り口の階段を昇っていく。


『ワーワーワー』会場に入ると、はるか下の競技場には十数台のピンボールマシンが並べられ、すでに競技が始まっていた。


 全国大会は、これまでの地方大会と異なり試技が2回行われ、その順位でトーナメント表に割り振られて、1対1の勝ち抜きトーナメントが決勝となる。


 試技で1位と2位となればトーナメントの1回戦はシードされ、さらにトーナメント表の両端に振られるため決勝まで1位2位対戦はなく、互いに有利に働く。

 誰もが予選トップか2位を目指して、試技を行っているだろう。


「遥人は・・・試技の1回目を終わって・・・、5位につけているわよ。」

 朋美が予選順位を連続して映し出している、会場上方の巨大モニターを食い入るように見つめる。


 巨大といっても液晶やプラズマではなく、ブラウン管のため50インチほどの大きさだ。

 2階席の各所にモニターが据え付けられて、試技結果をタイムリーに映し出している。

 会場の後方には巨大なスクリーンが張られていて、そこには今試技が行われている様子が映し出されているようだ。


 2階席の前方に陣取る、孤児院の応援団を見つけて合流する。

 公平を期するためなのか、会場には十数台のマシンがあるが、そのうちの5台しか使われていない様子だ。


 すなわち、各人好みのマシンがあればそのマシンを選択できるようで、各回5人ずつの試技が進んでいく。

 中にはいつも行くゲーセンに置いてある機種もあるようで、大雪君も恐らく使い慣れたマシンを選択したことだろう。


「1万2千点か・・・ずいぶんと低い点数だな・・・、まさかとは思うが、試技は1球だけなのかな?」

 思わず口をついて言葉が出る。


 俺だったら・・・、というつもりはないのだが、大雪君の点数を見る限りちょっとレベルが低いのでは?

 普通だったら5球で10万点は超えるはずなのだが、ちょっと低すぎるように感じる。


「そうね・・・、進行を早めるために予選である試技は1球ずつと書いてあるわね。

 さらに本選トーナメントは、ボール径を一回り小さくした特殊ボールで行われるようよ。」

 朋美が試技の順位表とともに映し出される大会ルールを、モニターを見ながら読み上げる。

 ありゃりゃ・・・、それは大変だ・・・。



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