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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
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日本の様子

第6話 日本の様子

 今度は荷台部分の幌をレーザーで焼いて行く。

 高熱のレーザーによりすぐに燃え上がり、骨組みごと幌が崩れ落ち丸裸になったトラックの荷台部分では、隠れるところが無くなって行く。

 右手のジープの影で動く姿が見えなくなったので、マシンガンを今度はトラックの後方へと向け乱射する。


 すると堪りかねたのか、バズーカ砲を担いだ一人の男が、正面に出てきて構えた。

 俺はすぐに反応して自分のマシンでその男に体当たりした。

 男は、バズーカ砲の引き金を引く暇もなく、鮮血を飛び散らせながら後方へ数メートルは吹っ飛んでいった。


 そうして奥のシャッターをバックに、右手のマシンガンを水平に構えると、すぐに兵士たちはめくれあがった入り口のシャッターから逃げ出して行った。

 先ほど見た限りでは、これで攻撃してきた全員が逃げ出したであろう。


 先ほど体当たりしたバズーカ男も、2人がかりで担いで行った様子だから、残りはいないはずだ。

 俺は発射ボタンから手を離し、倉庫の中をゆっくりとマシンを回転させて見回って行く。

 すると状況を察知したのか、奥のシャッターが開いて、ハンドアームを持った球体マシンが出てきた。


 中国部隊の女性たちのと同じマシンだ。

 そのマシンは器用にアームを操作しながら、倉庫内部の死体を片付けていく。

 ついでに、壊れたシャッターのレールを外して付け替え始めた。

 こういった作業に余程手馴れているのか、器用なものだ。


「いやあ、素晴らしい。

 日本基地の危機を察知して、救出に向かったという訳だね。

 君は英雄だ。」

 途端に、俺の席の後ろで先ほどまで必死で戻る様に叫んでいた上司が、ほめたたえてきた。


「え、ええっ?」

 俺は、何のことか判らずに、椅子に座ったまま後ろを振り向く。


「いや、分っているよ。

 この他基地の監視モニターを使っていたんだろう?

 作戦行動中に、よその基地の画面を見ていることは褒められる行動ではないが、今回はそのおかげで日本基地の危機を察知して、迅速に行動できたと言う訳だ。


 君の行為は良い風に解釈しておこう。」

 上司はそう言いながら、机の横についている赤いボタンを押した。


 1回押すごとに表示される景色が変わって行く。

 最初は、マシンカメラからのモニター画面だが、それが中国基地の定点カメラ画面に変わって、それから別の基地のような倉庫の画面に切り替わって行く。


 何回かボタンを押すと、破壊された中を忙しく動き回るマシンの居る基地が映し出された。

 そこが、俺が今いる日本基地なのだろう。

 中国市場での戦闘が終わった際に、暇つぶしの為に日本基地の状況を眺めていたと勘違いされているようだ。


「あ、ああ・・・はい。」

 とりあえず生返事を返すが、俺は、こんなボタンには気づいていなかった。


 なにせ操作パネルとは離れて、机の天板側面についているのだ。

 また、知っていたとしても、赤色のボタンなど、非常時ボタンだろうと、製造関係のバイトをやったことがあるものなら、誰でも思う筈だ。


 非常停止ボタンを押すと、ものによっては復帰に手間がかかる場合があるので、本当に緊急時以外は押さないのがふつうだ。

 それでも俺は話を合わせておいた。

 勝手に勘違いしてくれているのだから、無理して俺の考えをいう必要もないだろう。


 その後の状況から、どうやら俺の行動は、不問に付される様子だ。

 ラッキーではあったが、俺の心は晴れることはなかった。

 なにせ危険を冒してまで、はるばる中国基地から飛んできたにもかかわらず、目的の場所の景色は見慣れたものとは異なるのだ。


 中国でのことだから、似たような番地とか辻違いなんかで、近場の別の場所を見たのではないかと考えたのだが、日本の場合はそうではない。

 多少の違和感はあるものの、見慣れた風景を辿って来たのだ。


 倉庫に表示されている住所も合っている。

 それなのに、建屋の構造とかも、俺の知っている現実のものとは微妙に異なっている。

 大きさ的には記憶のものと変わりはしないのだが、何度も修復したように、壁の色や模様なども部分毎に様々であり、綺麗な近代的倉庫だったバイト先とは、雲泥の差だ。


 つまり、やはりここは現実世界ではないのだ。

 ではなぜ、俺のいたずら書きの問いかけに答えてくるのだ?

 ゲームのプログラムで、問いかけに対しても答える様にプログラミングしているという事か?


 それとも、スーパーコンピューターに接続しているような、本格的なシミュレーションプログラムで、あらゆることに人工知能が対処するようになっているのだろうか?


 だとしてもなぜ、基地が敵の攻撃に陥落してしまい、遥か彼方の別基地のマシンが飛んできて、その敵を排除してしまうなんてことが出来るのだ?

 こんなことは一般的な想定の範囲外の事だろう。


 ここまでの細やかな対応は、シミュレーションで期待される結果に対して、マイナスの効果にしかならないのではないか?

 俺は決して日本基地の陥落を知っていた訳でもないし、モニターを盗み見ていた訳でもない。

 あくまでも、中国市場で返事が記入されていたことを気にかけて、現実世界かどうかの確認をしたい一心で、飛んできただけだ。


 目的は、日本基地周辺を見る事だけだった。

 そんな余計な動作までいちいち実現していると、結果の取得の妨げになるのは当然だ。

 なにせ、用意すべき画面設定とか動きが、膨大な量になってしまうから、検索するだけでも時間がかかり、動作が鈍くなるわけだ。


 そうなると、やはりゲームの中の住人はコントロール対象外、つまりプログラミングされてはいないことになる。

 だからこそ、俺の問いかけに返事を書いてきて、行為を止めさせようとするし、追い詰められると命乞いをして素肌をさらすのだ。


 しかし、たった今見た通り日本基地は現実のものとは異なる。

 俺がバイト先にあったモニュメントを見たから勘違いしている訳ではなく、間違いなく球体マシンがあって略奪をしている基地が、俺の元バイト先の住所にあって、ところがそこは外観から微妙に現実世界のものとは異なっているのだ。


 俺は頭を抱えてしまった。

 いや、待てよ・・・。

 時代が違うのか?

 ここは過去の日本なのか?


 俺は、倉庫の外へと飛び出して、少し離れた主要道路の歩道にレーザー光線銃で文字を刻んだ。

『私は新倉山順三です。

 今は西暦何年ですか?』

 今回はイニシャルではなく、名前、しかも本名を刻んだ。


 構う事はない、どうせ今の世界ではないのだ。

 過去の世界である可能性も考え、年代を聞くつもりで、冗談ではないことの証として名前を入れた。

 しかし過去の日本で、球体ロボットの侵略を受けたなんて歴史的事件は聞いたことが無い。

 更に、時空移動が可能になったというニュースも知らない。


 あのモニュメントが電送装置で、中国基地で略奪した食料を、日本基地へと電送して、それを毎日トラックに積み込んでいるのだと考えたのだが、どうやら違うみたいだ。

 この日本基地でもまた、周辺から略奪してきた食料を、奥のシャッターの向こう側に詰め込んでいるのであろう。


 シャッターの向こう側に、空白のスペースを取り囲むように、円錐の上に大きな玉が乗ったモニュメントが配置してある。

 過去の世界から食料を略奪して、現在世界へと運んでいるのであれば、話の筋は通るのだが・・・。


 まあ、明日にでももう一度中国から飛んできて確認してみよう。

 今日のことがあるから、明日もまた飛んでこられるだろう。

 俺は、日本基地の修理が落ち着いて、外側のシャッターが閉じられるようになったことを確認してから、中国基地へ戻ろうと施設の外へと出た。


 ところが、そこで上司に止められた。

 日本基地の攻撃マシンが全て破壊されてしまったので、俺のマシンを残しておくようにとのことだった。

 夜勤の人間でもいて、夜の警備でもするのであろうか。


 まあ、これから2時間近くもかけて中国基地へと飛んでいくのは残業にもなるし、暗くなっては道も分からない。

 なにせ、ナビもオートパイロットもなく、あくまでも目視で操縦するのである。

 戻れる自信もなかったので、ありがたい事ではある。


 俺は、マシンを施設内に置いて、本日の業務終了で帰宅した。

 そのまま家へは帰らずに、昔住んでいた実家近くで親しくしていた奴の元を訪ねた。


 そうして、一緒に近場の居酒屋へ飲みに行こうと誘う。

 そいつも、俺と同じ倉庫でのバイトをしていたので、懐かしいなあと話しながら、わざと倉庫方面へと歩を進めてみる。


 片側2車線の道路に面した倉庫街は、今では監視カメラの大行列で、下手な行動は起こせない。

 不審な行動を取る者が出ると、すぐにパトカーがやってきて職務質問されると、友人が不満顔で話す。

 カメラ映像を24時間どこかの警備会社が監視しているのだ。


「でもいいなあ、ゲームの腕を買われて就職したんだろう?

 1日中ゲームのモニターか?

 うらやましいよ。」


 そいつには、今の就職先を簡単に話してある。

 しかし、まさか世界的な一流企業の正社員として就職して、1日中ゲーム三昧と説明しても信じてはもらえないだろうし、詳細は話せないので、子会社のゲーム会社に就職したという事にしてある。


 なにせ業務内容は家族に対しても明かさないと、誓約書を書かされているのだ。


 俺はわざと元のバイト先の倉庫近くの歩道で、酔っ払ったふりをして転んだ。

 そうして地面に這いつくばって、綺麗に舗装された歩道に、俺が刻み込んだ文字の痕跡でも残されていないか、街灯の明かりに透かして、慎重に確認した。


「そういや、ここ、1週間ほど前に突然バイト全員の首を切っちゃって閉鎖していたんだけど、今日の夜になって突然バイトの募集を始めたんだ。

 ネットのアルバイト情報に大きく出ていて、それも、緊急募集で明後日からだって。


 そんな勝手なことをして、集まるかどうか疑問ではあるけれど、まあ、バイト代が結構いいからね・・・。」

 友人が、俺が転んだことをきっかけに、話してくれる。


 やはり、なんの痕跡も見つからなかった。

 まあ舗装の修復と言うのは、古くなったアスファルトを剥いでから行うので当然だろう。

 それにしても、奴の話が気になる。


 1週間前くらいから旗色が悪くなって、食料の調達が困難になった。

 更に途中のどこかで倉庫内へ敵軍に入り込まれ、ガードマシンは全て破壊されてしまい、内部シャッターまで開けられようとしていた。


 それが、たまたま今日飛んできた俺の目に止まり、敵を殲滅して基地を守った。

 だから、明日からまた略奪を開始して、明後日から運び出すという事なのだろうか。

 話のつじつまは合う。


「まあバイト代は良くても、休み時間もほとんどなく荷物をトラックに詰め込む作業の繰り返しで、かなりきつかったからね。

 俺たちの歳では、元運動部なんて言うやつじゃなきゃ、無理になってきているな。」


 俺は1週間で音をあげて辞めてしまったが、こいつは1ヶ月間程バイトを続けていたはずだ。

 金を溜めて海外旅行に行くなんて言っていたはずだが、何か目的でもなければ、あのようなきつい仕事は続かないのだろう。


 この日は、こいつの部屋に泊めてもらい、翌日はそのまま職場へと向かった。

 この方が職場には近くて楽なくらいだ。



 翌日、職場へ顔を出すと、5人の見慣れない男たちが向かい側の席に座っていた。

 いつも、女性たちが操作しているマシン用のコントローラー席だ。

 そうして、珍しく朝会を開くと言ってきた。


 始業時間になって、上司がおもむろに口を開く。

「おはようございます。

 昨日の新倉さんの功績により、日本の基地の奪還に成功いたしました。


 陥落間近であったにもかかわらず、たった1機で乗り込んでの戦果は表彰にも値するものでしょう。

 自動プログラムで操作していた中国基地が陥落し、日本では早くからゲームが得意なメンバーが対応していましたが、日本の基地も陥落寸前まで行きました。


 急遽新倉さんたちのようなゲームの達人たちを募った訳ですが、その効果は絶大なものです。

 このため、今まであの基地を担当してきたチームには、安定してきた中国の基地を担当していただき、激戦区である日本の基地をゲームの達人集団である、我々のチームが担当して行きます。


 勿論、他の基地が危うくなった時には、ここから他基地の応援へ向かう事もあり得ます。

 特に、昨日の功績が大きい新倉さんと、チーム内の最高得点を継続しているラッキョウさんには、各基地から応援依頼が来ると思いますので、よろしくお願いいたします。」


 意外にも、日本基地を担当することになったばかりか、昨日の事のお咎めもなく、別基地の応援まで依頼された。

 俺が考えている、これからの作戦計画に対して、非常に有利な事である。

 それでなくとも、他基地の応援作業と言うのは、こちらから提案しようと考えていたことだ。

 俺は内心、ほくそ笑んだ。



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