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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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交渉

3 交渉

 翌日は、直接東京基地へ向かいシャッターを少しだけ開けて中に素早く入り込む。

 どこにガードマシンが潜んでいて、シャッターの隙間をかいくぐって基地内に潜入したのちに破壊行為を始めるか分かったものではないのだ。


 なにせ今日俺がこの基地に来ることは、奴らに筒抜けなのだから。

 しかも指定された時間からいって、朝来ることも分かっているはずだ。

 ハンドアームマシンに接続して起動させると、すぐに奥のシャッター内に収納して内部シャッターを閉じる。


 阿蘇と一緒にコントローラーの試験がてら操作練習を行っていたので、2台のマシンを基地内前室に置いていたのだ。

 東京基地が襲撃される危険性を踏まえ、使用しないマシンは内部シャッター奥の格納スペースに移しておく。


 こうすれば、少しでも助かる確率が増すというものだ。

 本日出撃するマシンに接続を切り替え、すぐにシャッターを開けてその隙間からマシンとともに外に出る。

 そうして素早くシャッターを閉じる・・・ただし、電波が中継されるよう、少しだけ隙間は開けておく・・・ふう・・・緊張した・・・。


「おはよう、早いね・・・、まだ指定時間まで1時間はあるよ。」

 基地前の広場に、阿蘇がやってきていた。


「ああ・・・君こそ早いね・・・、俺はすぐそこから来るだけだが、朝のラッシュの中1時間以上もかけてきたわけだろ?」


 俺としては、その後のアクセスも考え車で来たが、歩いても朋美のアパートから10分ほどの距離しかないのだが、阿蘇の場合ははるばる高速を使ってやってきているはずなのだ。


「何か準備で手伝うことがあるかもしれないと思ってね・・・、早めに来てみたんだが不要だったようだね。」

 阿蘇が笑顔で答える。


「何もないことはないさ・・・、とりあえずマシンの襲撃に備えて妨害電波の発生装置を指定された番地の公園に仕掛けようと考えていたところだ。

 手伝ってくれるとありがたい。」


 指定場所に円盤だけではなく、強奪マシンがやってくる可能性も考え、妨害電波発生装置を仕掛けるつもりで数台借りてきて、車に積んでおいたのだ。


「ああ・・・、それだったら、ここへ来る途中に公園によって、周囲の木の幹4ケ所に発生装置を括り付けておいたよ。

 君のマシンを操作する周波数だけは妨害しないようマスクしなければいけないはずだったが、前回と同じ周波数を使用するつもりなんだろ?」


 阿蘇が平然と笑顔を見せる。

 ううむ・・・、恐らく俺が基地に来た時間よりももっと早い時間に公園について設置していたのだろう。

 一体こいつはいつ寝ているのだろうか・・・。


「ああ・・・そうか・・・、そいつはありがとう・・・、いやなに・・・、昨日俺が霧島博士に妨害電波発生装置の使い方を習っていた時には、そんなこと一言も言っていなかったから驚いた。

 だったら、俺が装置を借りておく必要性はなかったというわけだ。」


 折角霧島博士に聞いた手順をメモして、昨晩何度も読み返して操作手順を暗記したのだが、どうやら無駄に終わったようでちょっとがっかり。


「いやあ・・・、僕も朝のラッシュがあるから、何時に到着できるか自信がなかったのさ。

 僕が遅くなっても君が準備していればそちらで間に合うだろうし、何事もバックアップというか万一の際の予備はあった方が安心だからね。


 今回たまたま車の動きがスムーズで、あれよあれよという間についちゃったけど、たまに事故なんかがあるとすごく遅れてしまう場合もあるからね。


 そういったことを何度も経験しているから転ばぬ先の杖というか・・・、今回の場合は僕の方がそのバックアップ側のつもりだったんだけどね・・・、まあ、たまたまだよ。」

 阿蘇がまたまた笑顔を見せる。


 ううむ・・・、大きな体に対してずいぶんと繊細な神経の持ち主とは思っていたが、更に慎重派の様子だ。

 まあ、俺も結構慎重な方だから、気持ちはわからないでもないのだが・・・。


「じゃあ・・、俺の計画ではこれから車で公園まで行って、妨害電波発生装置をセットした後一度戻ってきてからマシンを飛ばすつもりだったが、その必要はなくなったわけだ。

 ずいぶん早いが、マシンを公園まで飛ばすとしよう。


 ぎりぎりの時間で待ち伏せでもされるといやだから、早めにマシンを基地から出しておきたかったわけだが、まあいいだろう。」

『キュィーン』俺はマシンを起動させ、上空へと舞い上がらせる。


 通勤や通学する人々の群れをはるか下に眺めながら、指定された公園へ一直線に進む。

 ついた先は大きな池があり、多くの木々に囲まれた、都会には珍しく緑が多いのどかな場所だった。


 いつもならこの公園を突っ切った先にある駅までの近道として使う学生や会社員たちに加えて、のんびりと散歩する老人たちなど多いのだろうが、この日ばかりは規制線が張られて立ち入り禁止になっているためか、人っ子一人見当たらない。


 向こうがどちらの方向から来るかわからないため、比較的周囲の視界が開けている池中央にマシンを浮かばせておく。


「じゃあ、俺たちは基地内に入ろう。

 こんなところを襲われたら、ひとたまりもないからね。」

 マシンを操作している俺たちに直接襲い掛かるようなまねはしないと思うのだが、用心のため安全な基地の中に入っておく。


 どうせコントロール装置モニターを通じての遠隔操作であるので、外でも基地内でも変わりないのだ。

 なにせコントロール装置の信号は、基地内アンテナを通じて衛星回線で世界中どこにでも通信されるのだから。

『ガラガラガラガラガラ・・・・ガッシャーン』シャッターを開けるとともに素早く中に入り、すぐに閉める。


「さて・・・、どこからやってくるか・・・。」

 基地内に据え付けた机の上にコントロール装置を置いて椅子に腰かける。


 モニターを俺の背後から阿蘇が食い入るようにのぞき込んでいるのがわかる。

 振り向くと大きなテレビカメラを抱えている様子だ・・・、そのコードはシャッターの隙間を通って外へ・・・、ここでの交渉内容を同時中継するつもりなのだろう。


「霧島博士たちはどうしているんだい?

 てっきり、ここへ来るもんだと思っていたんだが・・・。」

 俺は後ろの阿蘇を振り向きもせずに問いかける。


「うーん・・・、どうやら今日は別行動のようだねえ・・・、赤城先生とともにどこかへ出かけるような予定になっていたけど、僕には何をするのか教えてもらえなかった。」

 阿蘇が不満そうに答える。


 赤城のブレインとして雇われているはずの俺に対しても、赤城は自分の行動予定を明かしたことは一度もない。

 それは俺が外部(別の世界から来た)の人間だからかと考えていたのだが、そうとも言えない様子だ。


 その時、一瞬で周囲が暗くなる・・・、雨でも降るのかと思ったが、マシンの視線を上方に向けると青空が見える・・・天気雨かとも思いさらに上方へ・・・、そこには光沢をもった金属の巨大な傘があった。


 昨日略奪行為を行った巨大円盤だ・・・、確かにマシンの視界というのはそれほど広いわけではないのだが、それでも広角にして周囲の様子をうかがうために回転させながら監視していたはずなのだが、真上に現れるまで全く気配すら感じさせなかった。


 なるほど、霧島博士が基地の位置を特定するのが難しいと言っていたわけがようやくわかった。

 音もたてずに猛スピードで現れて、さらに慣性の法則に反するかのようにピタッと止まるのだ。


「新倉山さん、聞こえますか?」

 すぐにコントロール装置から懐かしい声が聞こえてきた・・・、今日は最初から所長の声のようだ。


「はい、感度良好です。」

 すぐに俺はセットしておいたアナログマイクで答える。

 こっちはノイズもなくクリアに聞き取れても、向こう側はあまりよろしくはないのだろうなあ・・・。


「そちら側の世界の科学力というのを、過小評価しすぎていたということを実感いたしました。

 妨害電波を使って、マシンのコントロールを不能にするなど、アナログ技術しか持たないそちら側の世界でなしうるとは、想定もしておりませんでした。


 もちろんそれは、こちら側の世界出身である新倉山さん、あなたのご助力あってのことだと考えますが、ご活躍のようですね。

 そちら側の世界では、救世主のような扱い方でさぞかし敬われているのでしょうね。」


 どうやら、ガードマシンとハンドアームマシンによる強奪行為が、妨害電波で不能とされたことを評している様子だ。


 確かに予想もしなかった事態であろう・・・、なにせ強奪行為を始めて20年余り、マシンによる直接的な強奪に代えてから早5年以上もの歳月を経ても、せいぜいバズーカ砲で攻撃するのが精いっぱいで、直撃弾さえ食らわなければ脅威を感じることもなかった相手なのだ。


 核による思わぬしっぺ返しを受けたが、それだって俺が無謀なクーデターを行ったがためであり、こちら側の世界単独でなしえたことではなかったのだ。


「残念ながら俺が手伝ったわけではありません、こちら側の科学力をあまり軽んじない方がいいですよ。

 妨害電波の件だって、俺が何か技術的なアドバイスを行ったわけでもなんでもなく、ただ俺がマシン操作しているところを見ただけで、こちらの科学者の先生が妨害電波発生装置を作り上げたのです。


 つまり俺が何かしたという事ではないというわけです。

 俺の見立てでは、すぐにそちらの科学力に追いつくのではないかと・・・・。」


 どうせ俺は向こう側の世界から見れば裏切り者でしかないわけで、今更言いつくろうつもりはないのだが、霧島博士の名誉のためにも、俺がサポートなどしたわけではないことを明確にしておく。


「恐らくコントロール装置に記録させてある情報を分析して対応策を練ったのだろうというのが、こちら側の見解ですが、それだってあなたがそちら側の世界にたどり着いたからこそであり、あなたの助力であることに間違いはないでしょう。


 あなたがいなかった期間にそちら側の世界ができたことは、こちら側からの強奪行為を1時的に抑える程度のことしかできませんでしたからね。


 そんな新倉山さんに対して大変申し訳ないのですが、我々の世界の大使としての役割を引き受けてはいただけませんか?

 決して我々の世界の都合を押し付けるための仲介役ではなく、そちら側の世界の事情を鑑みたうえでの打開案を検討するための仲介役となってほしいのです。


 昨日の収穫用円盤の様子をあなたもご覧になったはずです。

 我々の世界としましては、直接家畜や農作物及び魚介類を収穫することも可能ということを、まず示してみました。


 つまり土地と資源さえあれば、あなたたちの手を煩わす必要性はないことを、まず証明して見せました。

 これは以前お話しさせていただきましたが、あなたたちの世界を滅ぼしたとしても、我々は生き延びることができることを示唆しております。


 なぜならハンドリングロボットを使えば、家畜の世話や養殖および田畑の管理も可能であるからです。

 そのような収穫を実に十数年続けていたわけですからね・・・、当時の収穫の大半はあなたたちでいう未開の地での収穫だったのです。


 我々の世界から生物を持ち込むことはできなかったため、その種となる動植物を取得して、以降はあなたたちの世界の隅っこでそれらを育て上げて収穫していたのです。

 しかし、そんなことでは追いつかなくなるほど人口増加は続き、事態はひっ迫していったために、マシンによる直接的な強奪行為も加算して収穫量を上げていったわけです。


 今でもあなたたちの世界の片隅では、我々の世界側の食料調達のための田畑や牧場が存在しているのですが、いかんせん我々の世界の人口の大半が失われてしまったがために、農作物の管理に加え家畜の屠殺や食肉の加工が難しくなってきているのです。


 そのため直接的に食料物資を強奪することのみに注力してきました。

 しかしその行為自体はやはり異世界からの強奪行為として、忌み嫌われるものでしかなかったということです。

 その対抗策として、妨害電波によりマシンのコントロールを奪われてしまいました。


 このままでは我々が生きていくための十分な食料や物資の確保が困難となるわけです。

 そこでギブアンドテイクとは申しませんが、我々の世界側がそちら側の世界に作り上げた耕作地と放牧地の収穫物を提供いたしますから、加工してその一部を我々側に戻していただけないでしょうか。


 もちろんその時に毒でも混ぜられてしまってはかないませんから、その監視をあなたにお願いしたいのです。

 耕作地及び牧場は、世界中至る場所にあります。

 いかがでしょうか?」


 またまたとんでもないことを言ってきた。


 こちらに向こう側の世界の耕作地があるから、そこの収穫物の加工を行い一部を分けろという・・・、確かに今までのような一方的な強奪行為ではなくなるわけだ・・・、しかし、そんなことでこちら側の世界は納得するのだろうか。


 こちら側で強奪された家畜や種が元になっているのだろうし、それを世話していたからといって、向こう側の世界の所有物であると評価なんて出来っこないわけだ。

 耕作地だって放牧地だって、こちら側の世界のものであるはずだ。


 いくら未開の地を開拓したとはいっても、はいいいですよなんて言うはずもない。

 かといって・・・断るとどうなるのか・・・、恐らく今度は円盤による直接強奪行為開始となるのではないか?

 家畜や農作物を吸い込んだ時のように、スーパーや市場などに搬入される品物を、途中で奪い取っていけばいいわけだ。


 圧倒的武力をひけらかしてはいるが、それでもある程度公平に聞こえる、農作物や家畜の提供を行うから、その収穫の一部を加工して渡せという、いわば取引のようなものだ。

 ずいぶんと態度を改めたということは、評価できるのではないのか。


 折角ある程度のところまで妥協してきているわけだから、ここで協力体制をというのもありなのかもしれない。

 なにせ、向こう側の世界の進んだ科学力を手に入れる、またとないチャンスでもあるのだ。

 ろくに知識もない俺の乏しい記憶を頼りに向こう側の技術を研究するより、直接学べる方がはるかに進歩が速いに決まっている。



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