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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
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新たなる脅威

2 新たなる脅威

「核シェルターには保存食として、おそらく1年や2年間くらいの収容人数分の食糧備蓄はあると思うのだが、やはり新鮮な生野菜や魚介類や肉を補充するために早い段階で強奪を開始したのだろうと考えている。

 食料が枯渇するぎりぎりに強奪行為を再開して、何か不都合でも出たら困るしね。


 だから今は、それまでに強奪しておいた分や保存食でやりくりしているのだろうが、いずれは何かしらかの手は打ってくると考えている。

 それこそ霧島博士が予測しているように、コントロールする無線の周波数を切り替えて対応してくる可能性が高い。


 なにせ、その周波数帯をつかまれるまでは暫定的に強奪行為を行うことが可能だし、妨害電波を作られたらまた変えればいいわけだ。

 もしかしたら妨害電波で通信が途絶えたら、自立して帰航するプログラムなんてのも開発中かもしれない。


 そうなると本当に鼬ごっこで、彼らのマシン自体を1台ずつ破壊していかなければ、強奪行為を排除する策はないだろう。

 こちらで戦えるマシンの数はごく少数で、しかも今は東京基地にある分しか稼働できない。


 だからこそ霧島博士は世界展開できる妨害電波の開発に踏み切ったのだろうが、やはり対抗しうる戦闘マシンも開発してほしいところだ。」

 阿蘇に、俺が予測する今後の展開を説明する。


 いかに科学力に大きな差があるとはいえ、こちら側の世界では世界一丸となって検討することも、研究開発することも可能なわけだ。

 地域ごとに閉鎖された地下空間で閉じこもっている向こうの奴らに比べて、断然有利のはずと考えているのは俺だけなのだろうか?


 いや、閉鎖された限られた空間でしか生き延びる術がないため、奴らの方がそれだけ必死なのかもしれないな。


「生まれや育ちは違っても、新倉山は新倉山だね。

 やっぱり自分が戦闘に参加することを望むわけだ。


 徴兵期間が終わって自警団として残ることに決めた後でも、事務職よりも実際に戦闘にかかわる地域の自警団に所属するといって、新倉山と筑波の2人は地元の自警団所属を望んでいったわけだからね。

 僕はどちらかというと事務職の方がいいから、自警団でも本部付を望んだわけさ。」

 阿蘇が笑顔で俺の顔をまじまじと見つめなおす。


 ううむ・・・ことあるごとにこちら側の世界の俺と比較されることに、すでに慣れっこになったつもりではいたのだが、いい加減解放してくれ・・と言いたくなってきた。

 まあ悪気はないのだろうから、仕方がないことではあるのだが。


「未知なる文明との戦闘用の武器に関しては開発中という話は聞いているが、進捗状況に関しては僕もまったく知らされていない。

 こちら側からの反撃の情報が漏れていたということにショックを受けて、上層部は作戦内容を内部に対してもひた隠しに隠すようになってきた。


 霧島博士には、赤城先生がつきっきりで進捗確認と備品手配などの外部とのやり取りを行っていて、僕にさえ何も話してはくれない。

 ただ断片的に部品が納品されたりするところを見かけるから、何か作っているんだろうということがわかるけど中身ははっきりとしない。


 妨害電波の時のように、その実験段階くらいまでは、どんな兵器が作られているのかさえ、まったく予想がつかないだろうね。」

 阿蘇がため息交じりにつぶやく。


 そうか・・・、妨害電波のことは異世界から来た俺だから何も知らなかったのかと思っていたのだが、阿蘇も知らなかったというわけか。


 意外と内部機密は厳格に守られているということだろうか・・・?いや、漏れを警戒して情報を出さないというのであれば逆か・・・、漏れやすいからこそ、ごく一部のものだけしか情報を与えないような・・・。


 それはそうだろうな・・・向こうの世界の連中が、どのような方法でこちら側の世界の機密情報を入手しているのか、いまだに分かっていないわけだからな。

 そんなことを考えていたら、事態は思わぬ方向へ展開しはじめた。



「おはよう、今日も穏やかな一日で終わるといいね。」

 自警団本部に出勤すると、いつものようにすでに出勤している阿蘇が、笑顔で声をかけてくる。


 俺の仕事といえば、日々送られてくる衛星の動きに関する情報をもとに、攻撃衛星かどうかの見極めと、核攻撃を行う前触れかどうかを判断するだけで、ほとんど定時には終わるためチャイムが鳴るとすぐに帰宅している。


 まれに海外からの情報など定時ぎりぎりに入ってくる場合など遅くまで残業となるのだが、阿蘇はいつも俺が帰る時間まで必ず事務所に残っているし、どれだけ遅くに帰っても、朝出勤してくると事務所にいる。

 こいつはいつ家に帰っているのだろうか?


 こいつの家は、この自警団本部なのではないかと考えていたら、日本国軍の独身寮が敷地内にあって、本来であれば兵役終了とともに退寮して実家に戻るなり近くのアパートに居住するはずなのだが、なぜか特例を認められて、いまだに独身寮に住んでいるらしい。


 この事務所から歩いて5分くらいのところというから、通勤ラッシュもなくてまことに羨ましい限りの待遇だ。


『ウーウーウー』突然、事務所内に警報が鳴り響く。

「うん?どうしたんだ?」

 阿蘇が辺りをきょろきょろと見まわす。


「テレビ?テレビをつけろというのかい?」

 廊下から顔を出した誰かが、事務所奥の応接にあるテレビを指して何か叫んでいるようだ。


「どうれ、行ってみよう。」

 すぐに阿蘇と一緒に、パーテーションで囲まれた応接スペースに備え付けてあるブラウン管テレビのスイッチを入れ、大きめのソファーに腰かける。


「なっなんだ・・・これは・・・。」

 俺も阿蘇もその光景を見て絶句する。


 テレビ画面には大きなテロップが映し出され、そこには『巨大円盤再び・・・、世界中で牧場や田畑に被害』と書かれていて、画面に映しきれないほどの巨大な円盤が、放牧してある牛や羊などを、吸い込んでいく姿が映し出されていた。


 円盤下部が大きく開き、そこから光線が出るとまるで重力がなくなったかのように動物たちや、麦や野菜などの農作物が円盤に吸い込まれていく。


 圧巻なのは海上での光景だ。

 円盤が海面に向けて光線を放つと、なんとマグロやタイにヒラメなどの魚たちのほかに遠目から見てもカニやタコなどの海産物が水しぶきとともに吸い込まれていくのだ。


 これは網なども必要なくて便利だ・・・、などと考えていたら更にテロップで、明日の午前9時に東京・・・にて・・・と、番地指定でメッセージが映し出された。

 世界中に出現した円盤から同様のメッセージが発信されたのだと、ニュースキャスターが最後に告げる。


「うーん・・・座標から察するに、東京基地の近くの公園だね。

 まるで、君にマシンを操作してやってこいと言っているようだ。」

 阿蘇が、テレビ画面を見たままつぶやくように告げる。


「そうだな・・・俺のマシンを使って、何らかの交渉を行いたいのだろう。

 なにせ、奴らからの通信だと一方通行だからな。」

 俺もその言葉に大きくうなずく。


「おお・・・、ニュースを見ていたかね?

 大変な事態となったようだな・・・、強奪マシンを攻略してやれやれと思っていたのだが、あの巨大円盤の方がかえって厄介かもしれんな。


 なにせ、どのような殺りく兵器を搭載しているのかわからん。

 下手に刺激して、辺り一面焼き尽くされても困りものだ。」

 するとそこに赤城がやってきて、困惑したようにうなだれながら頭をかく。


「そうですね、強奪マシンのような素早い動きがない分攻撃は容易でしょうが、装甲がそれなりに厚いでしょうし、何より昼間時間に出現してきたということは、攻撃されても問題ないという絶対的な自信があるからと考えます。」

 俺が赤城に告げる。


「そうだな・・・、日本では千葉や茨木の牧場や養鶏場および田畑に加えて、太平洋上で収穫が行われたようだが、世界中至る国で同様のことが行われた。

 目撃報告のあった円盤だけでも世界中で1000機以上・・・、日本でも数ケ所で目撃されたが、その証言から恐らく同じ円盤が数ケ所で活動した様子だ。


 他の地域でもそうだろうが、それでも数百機の巨大円盤が存在することになる。

 それからこれは、刺激が強すぎるのでニュース放送では割愛させたのだが・・・。」

 そういいながら赤城は、黒い四角い箱をテレビ台の中にある装置に挿入した。


 以前の録音装置に入れた小さな板状のものより数倍大きな箱だ。

『ドーン、ドーン・・・ガッガガァーン』すると画面が切り替わり、巨大円盤が煙に包まれ始めた。

 よく見ると、地上には戦車や装甲車が並んでいて、空に浮かぶ円盤に向かって発砲しているようだ。


「アメリカやヨーロッパなど一部の地域で軍の演習場近くの牧場が襲われたようで、すぐに軍が出動して対処にあたった様子だ。


 しかし、いくら砲撃しても円盤自体には着弾せず、少し手前で破裂してしまい、被害を与えることはできなかったようだ。

 さらに・・・。」


『ガガガがガガガガガガッ』赤城がそう告げると、テレビ画面が一瞬閃光で何も映らなくなり、ノイズとともに復活した画面には、溶け落ちた戦車の砲身や真っ赤に焼けただれてひっくり返った装甲車などが映し出された。


「霧島博士の想像では、なにか強大な破壊兵器・・・、一瞬で周囲温度を数千度にまで上げることができるような・・・、と言って核とは異なる何か・・・、恐らく強烈な電磁波攻撃ではないかといっていた。

 円盤に砲弾が当たらないのも、円盤周囲を強烈な電磁波でシールドしているからだろうとも言っている。


 つまりバリアーだな・・・、そんなものSF小説の中だけのものだと思っていたのだが、実在するようだ。」

 赤城がため息交じりに告げる。

 相当ショックを受けている様子だ。


 無理もない・・・俺の操るマシンがいる関東地区以外では、マシンに対抗する術などないと思っていたのだが、少ない実証実験からマシンの操作電波を妨害して動きを封じることに成功し、それにより数ケ月間も強奪行為が世界中で沈静化していたのだ。


 あとは妨害電波をかいくぐるために周波数を変更してくるであろう敵に対して、どれだけの妨害電波を準備できるかという、いわゆる互いの開発力の戦いになるだろうと予想されていたのが一転、より強烈な兵器を投入されてしまったのだ。


 これでは地域ごとに対応していくといったようなことでは到底追いつけない。

 世界全体として巨大円盤による強奪行為に対抗していかなければならないのだが、今のところこれといった策はないだろう、なにせ、こちら側の世界では俺の操るマシンだけが唯一の対抗手段といってもいいくらいだったわけだ。


 ところが、そのマシンですら到底かなわないような巨大な円盤が投入されてしまったのだ。

 20年くらい前には円盤が飛来し始めて牧場などから家畜が消えるといったことが生じていたというのだから、その時の円盤がどこかに隠されていたと考えてもよかったわけだ。


 そうすれば、このような事態は容易に想定できていたのかもしれない。


「まあ、とりあえず明日になったら指定番地へ行ってみましょう。

 いきなり俺のマシンを破壊することはないでしょうし。」


「そうだな・・どのようなことを言ってくるのか・・・、まあ、あらかた想像はつくわけだ。

 自分たちはこうやって、こちら側の世界の食糧強奪することは可能だから、あきらめて支配されるよう告げてくるのだろうな。


 抵抗しても無駄だから、攻撃してこないよう無条件降伏を勧めてくるといったところだろう。

 そうすることにより、俺たちの生活は保障するとかなんとかだろうな・・。」

 俺も赤城も阿蘇も、これからの展開はおおよそ想像できていた。


 なにせ、圧倒的武力なのだ。

 しかも、これが東京だけでなく世界中どの地域に対しても及ぶ脅威なのだ。

 いったいどこにこれだけの数の円盤が隠されていたのか・・・。



「お帰りなさい・・・、遅かったわね。」

 アパートに帰ると、朋美が夕飯の支度をしていた。


「ああ・・、なにせ大変な事態になってしまったようだからな。

 予定はなかったが、急きょ刑務所の霧島博士を訪ねて打ち合わせをしてきた。

 といっても、あんな巨大な円盤がいったいどこに隠されていたのか、どうやってその基地の位置を探るかといったことを打ち合わせただけだけどね。


 衛星の監視システムなどないこの世界では、あんな巨大な円盤でもいくらでも隠せるそうだ。

 なにせ、一瞬で見えなくなるくらいの高速で飛んで行ってしまったようだから、基地を出発するときも急上昇すれば、恐らく人目に付くことはまずないだろうと霧島博士は言っていた。


 こちら側の科学力であれば、飛行の際にエンジン音や風切り音などが発生するはずらしいのだが、マシンもそうなんだが、小さなモーター音がするだけで、これといった排気音もないしどのようにして飛行しているのかすら、いまだに解析できていない状況のようだ。


 結局、何もわからないから明日の交渉の場で、少しでもそのヒントになるようなことを聞き出すようにと言われてしまったよ。

 交渉といったって、何か俺に話をさせてくれるような場面がくるとは限らないのだがね。」


 俺がため息交じりに答える。

 いつもはうまいに決まっている朋美の手料理だが、この日ばかりはその味を堪能するどころではなかった。



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