表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第5章
57/117

平穏な日々

1 平穏な日々

「じゃあ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい・・・、気を付けてね。」


「ああ・・・、朋美は今日も病院へ行くのかい?

 もう、おなかが大きいんだから、そろそろ休んだ方がいいんじゃないのか?」


 予定日を来月に控え、朋美のおなかもずいぶん大きくなってきた。

 流産とかの心配はもう少ないのだろうが、おなかをぶつけて胎児に影響が出ても困るから、いい加減、産休に入った方がいいのではないかと思っているのだが・・・。


「まだ1ケ月もあるのよ、まだまだ働けるわ。

 何もしないでじっとしているのは、かえって胎教によくないのよ。

 少しは動いていないと・・・、だから仕事はまだ続けるわ。


 これでもみんな気を使ってくれて、患者さんだって私の介助が必要な時でも遠慮して、自分で起き上がろうとしてくれるのよ。

 ちょっと悪いなあって思う時もあるけど、それもリハビリ効果を促進していると思っているから、私も甘えることにしているの。」


 朋美は明るく舌を出して笑う・・・、ううむ相変わらずかわいい・・・。


 未知なる世界からの脅威・・・というか、俺のいた世界からの侵略行為を阻止してから、平和な日々が続いているのだが、俺はいまだに自警団本部に所属している。

 名目としては、地球周辺の衛星軌道上に浮かんでいる攻撃衛星の脅威がなくなっていないということだが、すべてが片付いてもそのまま所属していればいいと、赤城は言ってくれている。


 強奪活動を行うハンドアームマシンとガードマシンに関しては、妨害電波を使って動きを封じることができた。

 世界中の大手スーパーマーケットと市場には、妨害電波の発信器が設置され、飛来するマシンを操作不能にして捕獲してしまったのだ。


 世界20都市ほどで成功すると、それ以降強奪行為は全くなりをひそめている。

 それはそうだろう、恐らく有限であるマシンを無駄に消費することは避けたいはずだ。

 何とか妨害電波に対抗する術を検討しているのではないかと、霧島博士は主張している。


 恐らく妨害電波で使用している20の波長以外の波長での操作を検討しているのではないかと推定しているようだが、それにはマシンの送受信装置を更新する必要性があるだろうということで、次元が異なる世界に存在するマシンをどうやってメンテナンスするのか、検討しているのではないかということだ。


 まあ、それまでは平和といえないこともないのだが、波長を変えて対応してきたところで、その波長をとらえて再度妨害電波を作成すればいいわけで、対応ができたとしても恐らく鼬ごっこに終わるだけで、向こう側の世界が安定的に強奪行為を継続することは、まず無理だろうという見解だ。


 しかし攻撃衛星に関しては、その対象数が膨大となることと、対処するためのロケットをどこの大国も出し渋っているため、排除できないでいるのだ。


 向こう側の世界が食料調達できないのであればと、やけくそになって核攻撃を仕掛けてこないかひやひやしているのだが、さすがにそこまで非道な行いをすることはできないのか、どこの都市も核攻撃を仕掛けられてはいない。


 やはりこちらから仕掛けなければ、核攻撃は行わないという約束は本当なのか、あるいはもはやすべての核ミサイルは発射済みなのではないかという推論も出てきてはいる。

 それらを確かめる術はなく、毎日俺は自警団本部に通って衛星と思しき物体に変化がないか、世界各地の天文台からの報告を確認してまとめているのだ。


 意図してかどうかは不明だが、大きな衛星の一部が少しでも動いただけで大騒ぎとなり、そこからミサイルが顔を出すのではないかと緊張の面持ちで、該当天文台に問い合わせ続けるのだ。

 そんな胃のいたくなるような日々を過ごしたくはないので、早いところ撃ち落としてくれよと願っているのだが、そんな気配すらないのだ。


『ブォン・・・・バタン』車から降りてドアを閉め、自警団本部ビルへ入っていく。

 戦争状態となり自警団が日本国軍に再編成されるところまで行ったのだが、意外とあっさり妨害電波で戦局が大きく変わったため、また自警団という名目に戻ったのだ。


「おはよう・・・、チリ天文台からβ0245衛星の角度が変わったようだって報告が入っているよ。

 向きを変えたようで、地上からの観察で形状が変わって見えるようになったそうだ。」

 事務所に到着すると、すでに出勤していた阿蘇が報告書を持ってきてくれる。


 確認された衛星には連番がつけられ、βというのは南半球側を周回している衛星で、αが北半球側を周回、南北両方を回っている衛星はγを頭につけて分類されている。


 当初1000個以上もの数が確認されていたが、霧島博士に電卓を貸したおかげで再計算が進み、今では486個までに数が減っている。

 それでも全て落ち落とすにはとても不可能な数と、赤城はいつも嘆いているようだ。


 大きなものはともかく、小さなものは俺が思うにごみではないかと考えている。

 かつて、スペースデブリとか名づけられ、地球の外周部はゴミだらけといって問題視されたことがあったはずだ。


 天文好きの父から子供のころ聞いた話だが、かつて打ち上げて不要となった衛星や、衛星を打ち上げたときのロケットの破片などがごみとなって地球の衛星軌道上を浮遊しているといわれた。

 1時期はあまりの数の多さに、宇宙ロケットが飛行する際も衝突の危険性が出てきたなどと騒がれたこともあったように記憶している。


 それが、ある時期からほとんどそういった話が出なくなったのだが、それらの不要物はおそらく攻撃衛星とともに、こちら側の世界へ送られてきたのだと推定している。

 そんな不要物が数多くあるため、ますます攻撃衛星の探知が困難となっているのだ。


 なにせ、それらのごみも人工物であるため、ある程度の形状を保っているので、遠目から見る限り何かの残骸なのかあるいは衛星として機能しているのか、区別がつきにくいのだ。


 小さなものといっても、ロケットの燃料タンクとかならそれなりの大きさはあるだろうし、そうなると攻撃衛星なのかただのごみなのか区分が付かず、ただのごみを破壊するために莫大な国家予算を投じてロケットを飛ばすことになってしまう。


 当初、世界の存亡の危機に際して、自国のロケット消費をためらうのは愚かなことだと思っていたのだが、こうやって毎日のように軌道上の人工物の観察結果をまとめていると、本当に破壊が必要な攻撃衛星かどうかの見極めが非常に重要なのだと考えるようになってきた。


(どうせまた他の小さな浮遊物が衝突して、角度が変わっただけだろう。)1000以上あった衛星と思しき軌道上の物体は数を減らしたとはいえ、カウントしたのはあくまでも1m角以上の大きさのものだけだ。

 それ以下は地上の天体望遠鏡での観察が困難ということから除外されているのだが、数万とか数十万とかあるいは星の数ほどもあるなどといった予想も出ているくらいだ。


 それらの異物というかチリ芥が、高速で地球の軌道上を飛び回っているので、異物同士がたまに衝突して明るい光を放つこともあるようで、時折昼間でも明るい流れ星が見えるのはそのせいだろうと霧島博士が言っていた。


 なんにしてもマシンによる強奪行為が行われなくなった現在の俺の仕事は、攻撃衛星の特定と爆撃の危険性予測・・・どちらも俺のつたない知識でできるとは到底思えないのであるが・・・を任命されており、地球軌道上の物体の動きに際して一喜一憂している毎日なのだ。


 ガードマシンとハンドアームマシンの操作以外では、せいぜい人よりピンボールゲームを長く遊んでいられるくらいの取柄しかない俺に、マシン操作の必要性がなくなってからも自警団の一員として、しかも赤城のブレインのような特別な待遇を与えてくれていることには大変感謝しているのだが、時折その重責に押しつぶされそうになってしまう。


「ええと・・・β0245衛星は南半球の衛星だから、その他の観測所の様子はどうか・・・、ええと、ブラジルの天文台の観測結果では、向きを変えたようだがここ数日前から回転し始めたようだって?」

 あれ?オーストラリアの天文台でも、数日前からゆっくりと回転を始めたって書いているな・・・、その前は・・・やっぱり・・・5日前の22時に弱いスパークが観察されているようだ。


 この衛星の周回軌道で何かが衝突したと思われると記録があるから、オーストラリアもブラジルもその時の影響だろうと推察して、異常報告として挙げていないというわけか。

 チリ天文台は、その報告を見ていなかったのか、あるいは数日観察していなくて突然動き出したように感じたのか、どちらかしれないが、どうやら異常事態でない可能性の方が高そうだ。


 すぐに俺は、その報告書にブラジルとオーストラリアの天文台の記録を添付して、経過観察として処理済みのボックスに書類を入れた。


「仕事には慣れたかい?ここでは大半が事務仕事だから、君にとっては退屈だろうね。

 朋美ちゃんの様子はどうだい?順調かな?」


 阿蘇が、紙コップに入れたコーヒーを持ってきてくれた。

 ドリップコーヒーをコーヒーサーバーから、いつでも注いで飲めるようになっている。


「ああ、とっくにつわりも落ち着いて食欲も戻ってきているし、経過も順調そうだ。

 もうおなかが大きいんだから、看護婦の仕事は休んだ方がいいんじゃないかって言っているんだが、まだまだ働くって言ってきかないんだ。」


 朋美とは知り合いなんだから、たまには遊びに来るように言っているのだが、新倉山(もちろん、こちら側の世界の方の俺だが・・)がいないので、会いに行く用事も見つからないといって、一度も朋美に会いに来たことはないのだ。

 そのくせ俺にはしょっちゅう経過を聞いてくる・・・、気になるなら自分で確かめればいいのにと思うのだが・・・。


「そうだね、君が元いた世界ではどうだったか知らないが、こちらの世界では妊娠した女性は結構ぎりぎりまで働いているか、専業主婦だって家事をこなしているようだよ。


 僕の姉も昨年出産したんだが、出版社に勤めていたけどぎりぎりまで抜けられない仕事があるって会社に行っていて、結局取材先で産気づいて救急車で病院へ運び込まれたって言っていたよ。

 まあ、無事出産できたからよかったんだが、旦那さんはひやひやだったらしいね。」

 阿蘇が笑顔で教えてくれる。


 ふうむ・・・俺にも向こうの世界では姉がいたし、一昨年出産したのだが、定職を持たない身だったから付き合いも疎遠で、姉の知り合いと偶然出会ったときに近況を聞いたという非常に情けない状況であったため、小学校の教員であった姉が、ぎりぎりまで学校勤めしていたのかは、聞いていない。


「一応、病院には定期検診で行っているんだがね・・・、医者・・・いや看護婦の不養生というか、確かに家事は毎日こなしているし、食事の支度なんか俺だってできるといっているんだが、休むことを知らないというか・・・。

 昨晩だって遅くまで孤児院の子がピンボールゲームの全国大会に出場するからって、大きな布に名前を書き込んだ垂れ幕のようなものを作っていたよ。」


 せめて家では安静にしていてほしいのだが、朋美が落ち着いてゆっくりとしているところを見たことがないというか、眠っている時間以外は常に何かしらして動いているといった印象しかない。


「ああ・・前に応援に行った、ゲームが得意だっていう高校生のことだよね。

 へえ・・・、順調に勝ち進んでいるんだ。」


 そうなのだ、高校生でありながら一般の部に出場している大雪君は、大人に交じっても大健闘し、関東大会を経ていよいよ全国大会への切符を手にしたのだ。

 まあ、ゲームであるせいか若い参加者が多いとはいえ、大したものだ。


「その大会で優勝すれば、プロゲーマーというわけだ。」


「いや、どうやらそんな簡単なことではないようだ。

 今回の大会は全国大会まで開催されるのだが、これはいわゆるプロへの登竜門というか、将来プロになりたいといった人たちが自分の実力を推し量るための、いわゆるアマチュア大会でしかない。


 当然のことながら優勝したところで賞金などでないし、ゲーム場の紹介さえあれば参加自由となっているが、当たり前だがプロゲーマーは参加していない。

 優勝賞金が設定されていてプロアマ誰もが参加できる、いわゆるオープン大会といった趣旨の大会ではないようだ。


 だから、そんな大会に優勝したからといって、必ずしもプロになれるわけではないが、少なくとも上位に入らなければプロとして食っていくこともかなわないだろうという、将来のめどをつけるための大会ではあるね。」

 俺が、最近分かってきた厳しい現実を説明する。


「へえ・・・そうなんだ・・・、大変そうだね。

 でも、結構いい線いっているんだろ?」


「ああ・・・、関東大会では2位だったようだ。

 予選会を10位で通過して、選別されたメンバー内で順位を上げているんだから大したものだ。


 恐らく予選会は緊張しすぎて、実力を出し切れていなかったんだろう。

 だから全国大会でもいい成績は期待しているし、そのための練習は続けているさ。」


 関東大会を通過してからは、毎晩ゲーセンの営業終了後に大雪君と特訓をしているのだ。

 とはいっても大雪君には学校があるので、12時までの2時間ほどではあるのだが、それでもずいぶんと腕を上げたと俺は評価している。


「大会はいつなんだい?」


「ああ、再来週の日曜日さ。

 朋美も今は日勤しかしていないからちょうどいいし、他の子も応援に行きやすい。」


「孤児院の子供たちかい?

 マイクロバスだけじゃ足りないだろ?だったら僕も車を出そうか?」

 阿蘇がずいぶんうれしいことを言ってくれる。


「ああ、孤児院には30名の子供たちもいるし、加えて大雪君の学校の友達もいるから、とても全員会場まで連れてはいけそうもなくて、実は霧島博士にお願いして当日大学のバスを借りることにしているんだ。

 もちろん運転手さん付きでね。


 運転手さんはゲーム好きのようで、大会にはいくつもりだったから都合がいいといってくれて助かった。

 それでも園長先生や他の先生たちまでは車の都合がつかなくて、電車で向かうからいいといわれていたんだが、来てくれるならちょうどいい、あと4人分の手配ができればそれで全員分だ。


 朋美も喜ぶと思うよ。」

 阿蘇も朋美に久しぶりに会う口実もできるし、これは非常に望ましい展開だ。


「あとは、それまでの期間に強奪行為が再発しないことをただひたすら祈るのみだね。

 奴らがなりを潜めて、もう4ケ月ちかくだが・・・。」

 阿蘇が腕を組んで考え込む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ