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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
56/117

勝利

14 勝利

「でも・・・、重機関銃でも携えてくるのであればともかく、そんな買い物袋みたいなものを下げて・・・、以前のガードマシンの時も、レーザー砲もマシンガンも外された丸腰の状態でやってきましたね。


 そちらの技術力では高度な攻撃兵器のメンテナンスができないのかもと考えておりましたが、どうやらあなたはそちら側の世界で、あまり信用されてはいない様子ですね。


 前回は、マシン操作がそれほど得意ではない阿寒さんや手稲さんたちがいましたが、今回はラッキョウさんと恐さんだけにガードをお願いしました。

 抵抗しに来るものは、新倉山さん以外には考えられませんでしたからね。


 あきらめて降参してはいかがでしょうか?こちら側の世界では新倉山さんは大歓迎ですよ。

 強力な火器を装備することはもちろん、そちらの世界に対して大使的な役割をしていただけますよ。」

 すぐに聞きなれた、別の声も聞こえてきた・・・所長だ。


 恐というのはシューティングゲームで全国15位だった奴だ。

 ラッキョウと2人で完全武装しているというのであれば、破片を投げるだけのアームマシンでは全く歯が立たないだろう。


「もう十分ほど時間を引き延ばしてほしいと、向こうから無線で呼びかけてきている。」

 すぐ後ろから、阿蘇が小声でささやいてきた。


 向こうに聞き取られてしまうので、無線機の交信はヘッドフォンをして行っているようだ。

(わかった。)阿蘇の目を見ながら、声を出さずにただ頷く。


「お誘いはありがたいのですが、俺の心情的にそちら側の世界の味方をする気には到底なれません。

 確かにこちら側の世界の攻撃方法は荒っぽかったといえますが、未知なる高度文明に反抗の意思を示すのだから、ある程度はやむを得ないでしょう。


 そちら側があくまでも圧倒的な科学力の差で優位に立って、こちら側の世界から搾取するというつもりであるならば、どのような攻撃をされても平然と無効にするくらいの対応準備ができていなければだめだったと思います。

 それができなかったのは、そちらサイドの落ち度と言えます。


 そんな落ち度のために、何も知らない多くの無実の人々の命が失われたのですよ。

 そのような決断をした責任者たちは反省して、無条件降伏だってあり得ると俺は思っています。

 そうしないからには全面戦争です・・・、こちら側の世界の考え方はすごいですよ、戦争となったら負けた方は全員死刑です。

 だから、最後の一兵卒までもが全力で戦うそうです。」


 時間稼ぎのついでに、俺としての宣戦布告をこの機にしておく。

 元仲間だからと言って、あいまいにはしておけないからだ。


 そうしてもう一つ、こちら側の世界の考え方を伝えておいて、奴らの動揺を誘うつもりでもいる。

 向こうの世界はこちら側の世界を降伏させ、従属させて食料物資を拠出させるつもりでいるはずだ。

 なにせ、限られた空間であるシェルター内で、食料などは外部調達せざるを得ないわけだ。


 ところが相手は絶対に降伏しないと伝えておけば、まともに戦うことが得策かどうか悩み始めるはずだ。

 なぜならこちら側の世界が滅びてしまえば、奴らの食糧供給の道も途絶えるからだ。


「それは恐ろしいですね・・・、でもこちらとしてみれば、広い耕作地さえあれば人間はいなくても、作物を育てたり収穫することは可能なのですよ。

 ハンドアームマシンに農機具を持たせて操作用グローブで操作すれば、人間とほぼ変わらない作業ができます。」


 すると所長が、とんでもないことを言ってきた・・・、全面戦争も辞さないという覚悟の上でのコメントだろう。

 かえって逆効果だったか?従わせることを考えずに、大量虐殺に走られると困るな・・・。


「分かりました・・・、交渉決裂というわけですね。」

『ブンッ・・・ガッシャーン』俺は麻袋の中から破片を取り出すと、すぐにマシンを回転させてガードマシンに向けて破片を発射させた。


 破片は浮いているマシンのど真ん中に見事命中したが、恐らく表面に少し傷をつけたくらいだろう、ピクリとも動かない。

『ガガガガガガッ』同時にマシンガンの銃撃音が鳴り響く。


 俺は素早くマシンを上昇させて、相手の標的となることを避ける。

 強奪作業用のハンドアームマシンがいてくれたら、向こうの攻撃できる範囲が限られるのだが、ここにいるのはラッキョウのマシンと恐のマシンと俺のマシンの3台だけだ。


 強奪に来たという連絡を受けて飛んできたのだが、どうやら罠だった可能性が高い。

 こちら側に動きがあることを察知して、その作戦をつぶしにかかってきたと考えられる。


 すぐに俺の動きに追従して、2台のガードマシンが上昇してきたので、左方向に進路変更する。

『ガガガガガガッ』銃撃音がして、俺のマシンからの映像が傾く。


 すわ、銃撃を受けたのかと思ったが、どうやら下げていた左側の麻袋を撃ち抜かれたようで、左右の重さのバランスが変わり、ふらつく。

 仕方がないので左のハンドアームで右の袋から4個の破片を取り出すと、右側の袋を捨てた。


 そうして左右のアームで2個ずつの破片を握ると、今度は下降気味に右旋回を始める。

『ガガガガッ』すぐ左側面をかすめるように銃弾が通り過ぎ、眼下のアスファルトをえぐり破片が飛び散る。


 どうやら俺のマシンを破壊する意思はなさそうだ、ハンドアームを破壊してしまえば手も足も出ずに、降参するだろうということか・・・、向こうでもマシンの在庫状況を心配しているのかもしれない。

 あわよくば、俺のマシンを捕獲したいと考えているのだろう。


 なにせ前回の攻防の時に、こちら側も2台のガードマシンを失ったが、向こうは3台のガードマシンが破壊され、1台のガードマシンもそれなりの損傷を負ったはずだ。


 いくらマシンの図面を手に入れたところで、こちら側の世界では技術力がないためマシンの補充などできるはずもないのだが、それは工場のない向こうの世界だって同じことだろう。

 それならのらりくらりとかわして、時間稼ぎも可能かもしれない。


『ブンッ・・・ガッシャーンッ』方向転換しながらマシンを素早く回転させて、その反動で破片を離す。

 するとうまいこと2つのうちの一つが、ガードマシンにヒットした。

 急旋回しているときに衝突したためか、マシンの動きがふらつく。


 衝撃でふらついたというよりも、突然物が衝突してきたので驚いて操作を誤ったのだろう。

『ゴンッ』あまりやりたくはなかったのだが、ハンドアームマシンを突っ込ませて、ふらついたマシンのレーザー砲側に衝突させる。


 レーザー砲の先端の細くなった部分が少し内側に変形したようだ・・・、これで正確な狙いをつけることは難しくなるだろう。

 そのまま上昇すると、反転してもう一台の方のマシンに体当たりを仕掛ける・・・、が、衝突の瞬間にうまくかわされてしまう。


『ガガガガガッ』すぐに銃撃音がして、今度は俺のマシンの右側から黒い破片が飛び散る。

 右アームを操作してみると、ハンド部分が吹き飛ばされて消失していた。

 ううむ・・どうやらこっちのマシンを操作しているのが、ラッキョウのようだな・・・。


 すぐに上昇して宙返り気味に後方へ方向転換すると、案の定その先で構えていたマシンに向けて加速する。

『ガガガガガッ』恐のマシンが俺の背後から攻撃を仕掛けるつもりで追走をし始めたのだろう、驚いた様子でマシンガンを発射してきたが、左右にマシンを振って銃撃をかわしながら尚も加速していく。


『ゴツンッ』ものすごい衝撃音とともに、相手のマシンが上方に吹き飛ばされる。

 思い切り加速してぶつかったから、衝撃は相当なものだったろう、俺のマシンも少し動作が不安定になっているようで、ふらつくどころか姿勢制御がうまくできなくなっているようだ。


「時間稼ぎはもう大丈夫だから、マシンを着陸させてくれと指示が入った。」

 コントロール不能気味で弱っていたら、後ろから阿蘇が作戦行動の終了を告げてきた。


 すぐに、着陸させる・・・、が、何がどうなったのだ?回転しながら降下し始めたが、周りには戦車もなければ装甲車もないぞ。

 マシンに集中攻撃をかけるのではないのか?攻撃車両が到着するまでの、時間稼ぎではなかったのか?


 これでは着陸させた俺のマシンが格好の的になってしまうではないか。

 かといって、ふらついて動作不安定な状態の今では、飛行させたところで逃げ切れないかもしれないが・・・。

 すぐに1台のマシンが俺のマシンの上空に浮いて、マシンガンの先がこちら側に向けられる。


「降参しますか?

 マシンへの接続を切って、操作を明け渡せば破壊しないでおいてあげますよ。

 本日予定していた強奪行為も中止すると約束しましょう。」


 所長が降伏を勧めてきた・・・と言って、俺自身が降伏するわけではなく、あくまでも今俺が操作しているマシンを明け渡すだけではあるのだが・・・。

(どうする?)俺はすぐ後ろにいる阿蘇に、小声で確認する。


「うーん・・・、もう大丈夫だっていう指示が入っているんだけどねえ・・・。」

 阿蘇も状況を読めずにうなる・・・。


『ガッ・・・ドーンッ』『ドーンッ』次の瞬間、大きな衝突音がして上方のマシンが視界から消えた。

 というか、墜落したようだ・・・、2台のマシンは俺のマシンが着陸した場所から十メートルも離れていない場所に墜落して動かなくなった。

 別に煙を出しているわけでもないし、墜落した以外の破壊痕もぱっと見は見当たらない。


「おいっ・・・・どうした?そっちが降伏するのか?」

「・・・・・・・・・・・」

 返事がない。


「どうしたんだい?そちら側の世界で何かが起こったのかい?」

「・・・・・・・・・」

 もう一度呼び掛けてみてもだめだ・・・、いったいどうしたというのだろう。


『妨害電波実験成功だ・・・、これで向こうのマシン操作を妨害できることが分かった。

 今回の襲撃場所に発信器を運ばなければならなかったので、時間稼ぎしてもらったわけだ。

 いや、ご苦労だった。』


 阿蘇が無線機からヘッドフォンのプラグを抜いたのだろう。

 霧島博士の喜ぶ声が聞こえてきた。


「妨害電波・・・ですか?」

 すぐに無線機のところに行き、マイクに向かって問いかける。


『ああそうだ・・・、この前東京基地に出向いて記録した信号でマシン操作ができるかどうか確認してみただろう?

 十分操作可能ということが分かったので、マシン操作を妨害するための信号を作ってみた。

 コントロール装置からは20種類の波長の信号が発信されることが分かったので、君のコントロ−ル用の波長以外の19の波長で強力に増幅した電波を飛ばしたというわけだ。


 混信を避けるために、コントロールとマシンの組み合わせごとに送受信する電波の周波数を変えるのだろうが、すべてのチャンネルをふさがれてしまい、コントロール不能に陥ったというわけだ。

 君のコントロール装置からの停止命令を発信しているので、混信して君のマシンも動かせないかもしれないね。』


 そうか・・あの実験は、何もコントロール装置以外の装置で、マシンを操作しようとしているのではなかったというわけか。

 妨害電波を作るための実験というわけだ・・・、向こうのマシンを動けなくしてしまえば、こちら側であえてマシン操作する必要性もないというわけだ。


『マシンはこれから回収に行って東京基地まで運び入れるから、それまで待っていてくれ。

 妨害電波を全世界に電信して、各地でも強奪行為に対応する。

 日本でも、2週間以内に全国のスーパーマーケットに発信装置を配備する予定だ。』


 赤城の高揚した声も聞こえてきた。

 それはそうだろう・・・、完全な勝利といえないこともない。


 それにしても、妨害電波とは気が付かなかった。

 俺の操作するマシン1台だけでは、世界中どころか日本の他地域ですらもカバーしきれないので、なんとか代替えのマシンとコントローラーを準備しているものとばかり考えていた。


 だから俺は必死にコントローラーの操作にも慣れようと練習していたというのに・・・、まったく意味がないことを一生懸命やっていたということになる。

 だったら教えてくれればよかったのに・・・、阿蘇だってコントロール装置でマシンを動かす練習をする必要性はなかったわけだ。


 なにせ、妨害電波ですべてのマシンを動かなくしてしまうわけだから。


 だがまあそうか・・・妨害電波が確実に成功するかどうか、とりわけ向こう側の世界から操作してくる電波に対抗することができるものかどうか、やってみなければわからなかったのだろうし、だからこそ今回時間稼ぎをして発信器を運んできて実験を行ったのだろう。


 まんまと成功したというわけだ・・・、向こう側の世界から見れば、突然電波状態が悪くなって操作不能に陥ったとしか、理解できていないだろう。


 なにせ、俺のコントロール装置の波長の電波は妨害電波に含めていないといっていたから、だからこそマシンとの交信はできたし映像も届いていたわけだ。

 ところが強烈な妨害電波を出されていたラッキョウや恐のマシンの映像は、ノイズだけで何も映ることはなかっただろうな。


 もしかすると妨害電波ということに、今後何度か試して初めて気づくことになるかもしれない。

 それまでに、世界中のスーパーマーケットや市場に発信器を配置すればこちら側の世界の完全勝利だ。

 向こう側の世界は、降伏するしか方法はなくなるだろう。


「本日は祝勝会だな・・・、いや、まだちょっと早いか?」


「そうだね・・・、発信器というのを全世界に配布し終われば、パーティでも開くのかもしれないね。」

 無線を聞いていた阿蘇も笑顔で答える。

 やれやれ・・これで平和な毎日を迎えられそうだ・・・と、恐らくこの時誰もがそう感じたはずだ・・・。


 続く



ついに完全勝利ともいえる、妨害電波により敵マシンを操作不能にさせることに成功。これで平和が戻ってくるのでしょうか・・・・。

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