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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
55/117

実験・・・また実験

13 実験・・・また実験

「向こうの世界の学者が唱えている理論だね。

 突飛な理論だが、君だけが生きたまま次元移動できたという事実を説明はしている。


 しかし、その理屈から行くと、こちら側の世界の君の遺体は向こう側に送られたのだから、君は向こう側へは戻れないということになってしまう。

 だから、だめだね・・・。」


 霧島博士は残念そうに首を振る。

 そうか・・・・、俺は行き来できるものと考えていたのだが・・・。


「両方の世界に同じ人間が時代は違えど存在していて、どちらか一方が死んでいればもう片方は次元を行き来できるというのであれば、おそらくこちら側の世界の我々ならば、大半の人間が向こう側の世界と行き来できるはずだ。


 なぜなら、向こう側の世界は圧倒的に人口が多かったと聞いているから、こちら側の世界の人間はすでに向こう側の世界に存在していた確率が高いだろう。

 さらに向こう側の世界の90%以上の人々が死滅してしまっている。


 単純に考えれば、向こう側の世界の私はおそらく死んでいるだろう。

 つまり、片割れが死んでいさえすればいいのであれば、我々も君も条件は同じというわけだ。

 それはおそらくこの小動物に対しても同じことがいえる。」


 霧島博士は先ほど次元移送器の台に使っていた黒いコンテナボックスのふたを開けて、中から小さな檻を取り出した。

 檻の中にはこまめにうごめく小動物が・・・。


「実験用のマウスだ、兄弟ではなく様々な親から生まれたのを選んできて、世代もそれぞれ違うのが10匹いる。

 それぞれ君が持ってきたAEDを模した電気ショックのプローブが心臓部分に貼り付けてある。

 こいつらを送ってみるとするか。」


 霧島博士が手渡した檻を、女性研究員が次元移送装置の枠内でコンテナを移動させた上に置く。

 そうして、再度次元移送装置につながれた電源のスイッチを入れると、すぐに檻ごと消失する。


「じゃあ・・・、電気ショックのスイッチを入れる・・・と・・・、だめだな、もう一回試して・・・。」

 霧島博士はそう呟きながら、テレビ画面を眺めたまま手元のスイッチを何度か入れなおした。


「まあ、マウスたちはかわいそうだったが、やはり蘇生はしなかった。

 つまり、生物は生きたまま次元移送はできないということなのだろう。


 若しくは君の場合と同じように、片側の存在が次元移動することにより、その代償として1度だけ次元移動が可能になるということなのかもしれない。

 どちらにしても、もう移動する術はないということになる。」


 霧島博士の理論は俺にも納得できるものであり、同時にショックも受けた。


 マウス実験だから、同じマウスがそれぞれの世界にいたかどうか確認のしようもないが、それでもほとんど同じような世界であるのだから、存在していても不思議ではなかったはずだし、存在していればおそらく核攻撃で死んでしまっているだろう。


「よし、まずは向こうのカメラのスイッチを切って・・・、送信機のスイッチと移送器のスイッチも切る・・・と。

 また何か実験を思いついたら、ここにやってくるとしよう。」


 そういって、霧島博士は女性研究員に指示をして、30センチの次元移送装置を片付けさせ始める。

 次元移送装置をセットした部分には、そのまま台として用いたポールは残しておくようだ。


「じゃあ次は、東京基地だ・・・。」

 霧島博士を先頭にロープを伝って斜め傾斜の穴を登っていき、廃線のホームを経由して操車場までたどり着いた。


「では、地下鉄は運航を開始いたします。」

 案内していてくれたヘルメット姿の中年男性は、そう言い残して操車場の奥へと駆け出して行った。


 なるほど、霧島博士のような偉い先生が一緒だと、地下鉄を止めてでも安全に作業させてくれるということだな。

 俺と阿蘇だけの時とは大違いだ。


 そこからは数人の研究員とともに俺のマイクロバスに乗り変え、東京基地へと向かう。

 大型バスなどで目立つようなことはしたくないのだといわれた。

 基地の外に車を止めて、基地のシャッターを素早く開けて中に入ると素早くシャッターを閉める。


「これなんだが・・・。」

 霧島博士がノートパソコンほどの大きさの四角い箱に、2本の棒が突き刺さったようなものを俺に見せてくれる。


「なんですかこれは?」


「コントロール装置を借りたときに、マシン操作するときに出る電波を解析しようとして録音したわけだ。

 かなり高いレンジの高周波の電波ということはわかったが、デジタル信号というもの自体の解析はなかなか進んではいない。


 なにせ信号に命令を割り当てているだけだから、コマンドの対応表でもなければ、解析は困難なわけだ。

 解析は並行して進めることにして、命令信号を取り出して操作盤に割り当ててみた。


 この棒が左右のアームに対応している。

 上下左右に向きを変えられ・・・、この真ん中にある十字キーがマシンの前後左右と上下はこのボタンだ。

 物をつかんで離すときは、側面についているボタンで操作する。」

 霧島博士は、各操作方法を説明してくれる。


 十字にスリットが入った隙間に刺さっている棒は、言ってみればジョイスティックのようなものだろう。

 これで左右のアームをコントロールして、マシン自体を動かすときは十字キーと上下のボタン操作か。

 コントロール装置のキーボード操作よりも簡単かもしれないな。


「ちょっと動かしてみてくれないかね。」

 霧島博士に促され、奥のシャッターを開けてハンドアームマシンのところへ向かう。


 俺のコントロール装置に割り当てたマシンの前に立ち、上昇ボタンを押すと・・・動かない・・・何か欠陥が?

 ふと思い立ちコントロール装置をもってきて、そのマシンとの接続を切ると、俺の昔のIDでログインしてから接続しなおしてみる。


 その上で、再度手作りコントローラーでアクセスする・・・、おおっ浮かび上がった。

 霧島博士に貸したときは、コントロール装置は俺の旧IDでログインしていたのを思い出したのだ。


 十字キーを操作して、内部シャッターをくぐらせてハンドアームマシンを基地内空間へ移動させる。

 そうして隅の方へ移動させると、左右のハンドアームでマシンの破片をつかむ練習をしてみる。

『スッ・・・ゴトン』左アームでつかんだ破片は、ボタン操作で放すこともできた。


「少しタイムラグというか動作開始が遅いようですが、操作通りには動くようですね。」

 俺が操作上の感想を述べる。


「ああ・・・なにせ信号を録音しておいて、操作しようとすると都度再生してその電波を送っているわけだから、再生するまでの時間はかかってしまうわけだ。

 テープではなくヘッド側を動かすように工夫はしているが、限界はある。

 まあいいさ・・・、あくまでも実験だからね。」


 霧島博士は実験結果に満足そうに何度も頷き、ノートに書き込みを加えているようだ。


 そういえばパソコンも昔は細長いテープのようなものにデータやプログラムを記録していて、それがフロッピーディスクに変わりHDや光ディスクを経て、半導体メモリに直接記録されるようになったと、昔パソコンの歴史で習った覚えがある。


 だとするとフロッピーディスクくらいなら、こちら側の世界でも作れそうだな・・・、まあ俺も原理はよく知らないが、最初はテープを円盤型に変えただけのようなもんだと聞いたような記憶があるから、今度霧島博士に話してみよう。


「では、本日の実験はここまでだ。

 来週からは関東地区の強奪予報が出ているから、刑務所へ来なくていいので基地で待機してくれ。」

 霧島博士が荷物をまとめて帰り支度を始めたのを見て、赤城が実験終了を告げる。


 そうなのだ、前回の関東地方の強奪からおよそ4週間経過して、来週初めから10日間ほどが強奪予報でレッドゾーンとなっているようだ。


「分かりました。」

 霧島博士にお手製のコントローラーを返そうとすると、あげるよと言われてしまった。


 どうやら今回の実験だけで、とりわけこのコントローラーを利用して何かをする目的はなさそうだ。

 それとも俺がこのコントローラーの操作に慣れれば、コントロール装置が開いて別の奴が操作可能となるということなのだろうか。


『ガラガラガラガラ』外のシャッターを開けて、赤城たちと一緒に出ていこうとする。

 彼らを操車場までは送っていく必要があるだろう。


「ああ・・・、ここから操車場までなら歩いて行けるから、君たちは引き続きマシン操作の練習をしていたまえ。」

 赤城たちは荷物を抱えたまま足早に立ち去って行った。


「じゃあ、俺はこのコントローラーを使うから、君はコントロール装置でこっちのマシンを操作してくれ。」

 すぐにコントロール装置をログオフしてラッキョウのマシンを起動していたIDでログインすると、1台のハンドアームマシンの接続を解除する。


 そうしておいて今度は管理者IDで再度ログインしてマシンに接続しなおし、コントロール装置を阿蘇に手渡す。

 その後2人で1時間ほど操作練習をして、阿蘇とは基地前で別れた。



『緊急連絡、緊急連絡。阿蘇、聞こえているか?』

 東京基地の壁際に設置してある無線機から、赤城の声が聞こえてくる。

 基地内には電波が入ってこないので、アンテナ線をシャッターの隙間から外へ伸ばしているのだ。


「はい、先生。感度良好です。」

 基地内でハンドアームマシンの操作練習をしていた阿蘇が、すぐに無線機のところへ駆け寄り応対する。


『だから・・・、先生はやめろといつも言っているだろ?

 まあいい・・・、マシンが現れた。


 そこから北東に30キロほどのスーパーマーケットだ。

 すぐにマシンを向かわすよう、新倉山君に伝えてくれ。』

 ついにマシンがやってきたことを、赤城が告げる。


「はい、分かりました・・・行けるよね?」

 阿蘇がすぐ後ろにいる俺に振り返る。


 俺は阿蘇からコントロール装置を受け取ると、さっきまで阿蘇が操作していたハンドアームマシンを操作して、外のシャッターへと向かわせる。

『ガラガラガラガラ』シャッターを開けると、そのまま外に出て基地外でマシンを待機させる。


『マシンを外に出したらすぐに基地内に入って、シャッターを閉めるようにと霧島博士が言っている。』

 シャッター音を聞いていたのか、ずいぶんとタイミングのいい指示が無線機から入ってくる。


「えっ、そんなことしたら電波が通らなくなって、マシンがコントロール不能になってしまうのではないですか?」

 俺が焦って聞き返す。


 基地内には電波が入ってこないのだから、シャッターを閉めたらコントロール不能になってしまうはずだ。

 今まで基地内から操作していた時だって、シャッターは半開き以上は開けていたはずだ。


『いや、霧島博士の見立てだと、その基地内のコントロール装置の電波は、その基地のアンテナから増幅されて軌道上の衛星を通じて世界中のマシンを操作できるはずということだ。

 そのため基地のすぐ外からであれば、はるか150キロ離れた距離でもマシンをコントロールできたということのようだ。


 コントロール装置の通信機能が傑出して高いということではなさそうだ。

 だから構わないから、そのまま中に入ってシャッターを閉めてくれ。

 この前のように、またマシンに襲われてハンドアームマシンを全滅させられると困る。』


 ほう、そうなのか・・・さすが見る人が見ると違うというか・・・、すぐに基地内に入ってシャッターを閉めてみる。

 確かにモニター画面にはマシンからの映像が映し出されているようだ。


 マシンを高く上昇させると、指示された方向へ全速力で飛ばせる。

 衛星通信というのであれば、高速移動でも通信が途切れることはないだろう、安心してスピードが出せる。

 ついでにナビ機能も働かせて、指定のスーパーまで最短距離で飛ばせてみる。

 数分で目的地まで達したようだ、すぐに降下を始める。


「指定のスーパーに近づきました、降下中です。」

 無線機に向かって連絡する。


『そうか、さすが早いな。

 無理して戦わなくてもいいから、なんとか時間を稼いでくれと霧島博士から指示が出ている。』

 すぐに赤城から指示が入ってくる。


 ううむ・・・時間稼ぎか・・・、何とかやってみるか・・・ハンドアームには麻でできた大きな袋をつりさげていて、その中には破壊されたマシンの破片を入れてあるのだ。

 攻撃力は低くても、向こうが嫌がることはできるだろう。


「おや、お買い物ですか?」

 両方のアームにつりさげられた麻袋が、ちょうど買い物籠でも下げた格好に見えるのか、聞きなれた声がコントロール装置から聞こえてきた。


「ラッキョウか?」

 コントロール装置に取り付けた、無線機用のマイクに向かって問いかける。


「そうですよ・・・、東京基地は破壊できたと思っていましたが、さすが内部シャッターは頑丈だったということのようですね。」


「ああ・・・あの時はショックだったよ・・・、おかげであれから2ケ月間何もすることもなくただだらだらと時を過ごしていた。


 それでもマシンの強奪行為に立ち向かって、犠牲になった人たちのニュースを見て奮い立ったわけだ。

 そうして基地内をもう一度見直して、マシンの生き残りを見つけた。」


 俺がマシンを操作していることに、あまり驚いているそぶりを見せないのはさすがだ。

 ある程度予想済みということか・・・、この百戦錬磨のラッキョウたちを相手にして、時間稼ぎをしなければならないのだ・・・。



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