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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
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ハンドアームマシン

10 ハンドアームマシン

「やあ、教習は終わったのかい?」

 事務所の机で忙しそうに事務処理をしていた阿蘇が、俺の姿を認めて手を止める。


「ああ、今日の分の教習車実習は終わりで、学科の講習はキャンセルしておいた。

 テキストを見る限り、一部標識など異なる表現のものも使われているようだが、大まかに見る限り俺のいた世界と法律的な違いはなさそうだ。


 だから、テキストを使って独学でもなんとかなるだろう。

 それよりも、ハンドアームマシンの操作に慣れることが先決だ。

 霧島博士の要望通り、次の強奪あたりから妨害できるようになれればいいと考えている。」

 とりあえずは免許の取得よりも、ハンドアームマシンの操作に慣れることが先決と考えている。


「わかった、じゃあ東京基地まで送っていくよ。」

 阿蘇は急いで机の上のやりかけの書類の束をまとめて未処理と書かれた箱に入れると、おもむろに席を立った。


「いや大丈夫だ。ここへ来る途中に見たが、すぐ近くに駅があるようだから俺は電車で基地へ向かうよ。

 子供じゃないんだから路線図も見られるし、最寄りの駅まで行けるだろう。

 東京基地からなら歩いても帰れるから問題ないし、忙しそうだから仕事は続けていてくれ。」


 恐らく、俺の送り迎えなどで自分の仕事がこなせていないのだろう、未処理の箱の中は書類がうなっているようだ。


「いや、君の送り迎えや業務の支援も僕の仕事だから大丈夫だ、送らせてくれ。」

 そういって阿蘇は車のカギを持つと歩き始めた。


「悪いなあ・・・。」


「遠慮するなって・・・、どうせ君が免許を取得するまでの間なんだし、それに仕事がたまっているのはいつものことさ。」


 阿蘇は笑顔で答えると、悠然と歩いていく。

 ううん・・・、大物だ・・・。



「じゃあ、明日また迎えに行くよ。」

 東京基地まで送ってくれた阿蘇が、基地入り口に俺を降ろして自警団本部まで戻っていこうとする。


「ああ、悪かったね。

 ついでなんだが・・・、マシンの操作方法も見ていくかい?

 君も簡単なマシン操作ぐらい、できるようになっていた方がいいだろう?」


 車で1時間近くもかかる自警団本部からの送迎を、ただ行って帰ってもらうだけでは申し訳ない。

 東京基地まで来たからには、ここでしかできないことを体験してもらうのがいいだろう。


「ええっ・・・僕でいいのかい?

 たしか、君の予備としてマシン操作をするのは、別に適任者がいるようだと聞いていたんだが。」

 すると突然、阿蘇の顔がほころぶ。


「ああ・・・ゲームが得意な奴に当てがあって、そいつに操作方法を覚えてもらおうと考えていた。

 なにせ貴重なマシンだし、操作するからには向こうの世界のマシンとの戦闘に、勝たなければならないわけだからね。


 反射神経と動体視力・・・といっていいものかどうか不明ではあるが、ともかく指先のコントロールであらゆる事象に対処する能力を求められる。


 操作方法としてコンピューターゲームと同様なので、ゲームが得意というか、それしか能力がない俺のようなものが選抜されたわけだが、こちらの世界でいえばピンボールマシンなどのアーケードゲームが得意な奴が適していると俺は考えていたわけだ。


 だが、そいつは本格的なプロゲーマーへの道を目指していて、大会へエントリーもしている。

 その練習の邪魔になる恐れがあるから、マシン操作をしてもらうのはあきらめた。

 それに当時はコントロール装置が2台あったから、もう1台分の操作者として選択していたわけだが、今はコントロール装置は1台だけだ。


 あくまでも俺がどうかなった時のための予備として、操作方法を覚えてもらうことになるけど、それでいいかい?」

 以前赤城に、阿蘇に操作方法を指導するよう依頼されて断った経緯とは、事情が変わったことを説明しておく。


「ああそんな事情が・・・でもうれしいよ、僕に信用がないから、大事なコントロール装置には触らせてくれないもんだと思っていたから。

 今日から教えてもらえるのかい?」


 阿蘇は目を大きく見開いて、嬉しそうに口元を緩ませる。

 別に信用していなかったわけではないのだが・・・、やはりそう取られていたか・・・。


「ああ、せっかく送ってくれたついでと言っては何だが、俺もハンドアームマシンの操作に慣れるよう練習するつもりだから、君も一緒に覚えてくれると手間が省ける。

 霧島博士が見つけたマシンの取説も見られるから、一緒に勉強しよう。」


 向こう側の世界に悟られないよう慎重に辺りを見回して、不審物がないかどうか確認したのちにシャッターを開けて、中に入ったらすぐにシャッターを閉じる。

 基地内でコントロール装置を組み立て、起動させる。


 デスクトップ型のパソコンではあるが、緊急時にはそのまま持ち運んで操作できるように、小さな補助電源が付いていて、それはモニターも同様で2時間ほどならそのまま操作できるが、基地内では長い延長ケーブルのコンセントに電源プラグを差し込んで使用する。


 言ってしまえばノートパソコンと同様で、ノートにすればよかったのではないかと考えるわけだが、拡張しやすいデスクトップを選択したのか、若しくは持ち出されにくいという面で選択した可能性もあるのではないかと俺なりに考えている。


 もちろんキーボードとマウスを接続する必要性があるが、パソコン本体の上部にキーボードとモニターを固定するための冶具が取り付けられていて、機動性はあることが持ち出してみて分かった。


「まずは各部の動かし方からだな・・・。」

 ハンドアームマシンの取説を開いて、阿蘇と一緒に熟読していく。


 基本的にはガードマシンの操作方法と変わりはなさそうだが、ガードマシンを操作するときはジョイスティックが使えたが、ハンドアームマシンにはこのジョイスティックは対応していない様子だ。

 それはそうだろう、こちらの方が関節も多く動きは複雑だ・・・、仕方がないのでジョイスティックを外してキーボードに割り振られた特殊キーで操作する。


 前後左右に動かすときは、CTRLキーと矢印キーで操作する。

 上昇と下降はCTRLキーに加えて+キーと−キーだ。この場合、SHIFTキーも同時に押すことにより、急加速ができるようだ。


 左右のアームに関しては、左のアームが矢印キーで操作して、右のアームはテンキーの2、4、6、8キーで操作する。

 ハンドリングでつかむときは、左ハンドはスペースで放すときは無変換キー、右ハンドルはテンキーの0と5が対応している。

 ハンドでつかむという動作なので、放すという動作も加わるだけだ。


 この程度は、取説を見なくても大体予測できた操作なので、シャッターの付け替え程度なら何とか試行錯誤しながら実施できたわけだ。


 取説を見て初めて分かったことは、ハンドアームマシンのハンド部分には、人間同様5本の指がつけられているのだが、このそれぞれを個別にコントロールできるようだ。

 SHIFTキーに加えて矢印キーそれぞれが左ハンドの人差し指から小指で、スペースキーが親指で、右ハンドはそれぞれテンキーの・・・、と記載があったが、このような操作をスムーズにできるとは到底考えられない。


「この、ハンドアーム操作用グローブというのはどれだい?」

 阿蘇が、取説に記載されている装置を読み上げる。


「ああ・・・どうやら特殊なグローブ・・・、手袋状の装置なのだろうな、それを付けて操作することにより、指一本ずつの関節の動きまで、細かくコントロールできるということのようだね。


 残念ながら俺はガードマシンの担当者だったから、操作用のグローブは支給されていなかったし、そのような装置があることすら今まで知らなかった。」

 ため息交じりにこたえる・・・ガードマシンのジョイスティックに変わる操作装置のようだ。


 恐らく女性陣がハンドアームマシンをコントロールしていた時は、操作用のグローブを付けた状態で操作していたのだろう。

 この際は上昇下降を含めたマシンの動きはフットペダルでコントロールするよう、セット化された装置のことが、取説に記載されている。


 ハンドアームは操作用グローブで、両手の動作をそのままトレースしてくれる仕様だったようだ。

 どうりで、野菜や魚などが満タンに詰められた段ボール箱を、何段にも重ねて運ぶことができたわけだ。


 キーボードでの単純なつかむと放す動作だけでは、あのような細かな動きは難しいだろうな。(実際には各指もキーに割り当てられてはいるようだが、これを操作するのは至難の業だろう。)

 彼女たちの席は俺たちの席の真向かい側で、間にはパソコンのモニターのほかに目線の高さの仕切りがあったから、彼女たちの実際の操作は見ることができていなかった。


 こちら側の世界へ来るときに、ラッキョウのコントロール装置を一緒に持ってきたのだが、どうせなら女性陣の装置を持ってくればよかった。

 あの時は、ただ単に異次元世界から干渉していたという証拠の品として持ち込んだだけで、まさかマシンを操作するとは考えていなかったし、ましてやハンドアームマシンの操作を試みるとは、夢にも考えていなかった。


 だがしかし、そうすれば操作装置が付いた状態で持ち込めたのだろうな・・・、今から戻って・・・というようなわけにはいかないだろうな、もう一度挑戦して蘇生するかどうか怪しいものだし・・・。


「まあ、まずは慣れるためにやってみよう。」

 奥のシャッターを半分ほど開けて、俺のコントロール装置に割り当てたハンドアームマシンを起動させる。


『キュィーン』小さな回転音とともに、マシンが浮かび上がる。

 マシンにシャッターをくぐらせて、基地内の空間へ移動させる。

 幅20メートル、奥行きが10メートルで高さが5メートルほどのスペースが、当面の訓練所となりそうだ。


「じゃあ、ゆっくりと動かしてみてくれ。

 CTRLと矢印キーを同時押しで動き出すが、矢印キーを離すだけで止まるから、最初は慎重にゆっくりとね。

 最初からモニター画面での操作は難しいだろうから、直にマシンを見ながら動かしてみるといい。」

 基地内の壁際に移動して、そこにコントロール装置を置いて、阿蘇に操作するよう促す。


「わ・・わかった・・・。」

 阿蘇は緊張した面持ちで、CTRLキーを左手の人差し指で、上向きの矢印を右手の人差し指でゆっくりと操作し始めた。



「まあ、初日としてはこんなものだろう。

 なかなか筋はいいようだから、1週間もあればハンドリングの練習も始められるようになるんじゃないかね。」

 教習所の教官さながらに、本日の教習終了を告げる。


 阿蘇はなかなか飲み込みは速く、最初のうちはマシンを基地内の壁やシャッターにぶつけまくりだったが、やがて落ち着いて、基地内スペースをゆっくりであれば動かすことができるようにまで上達した。


 あとは加速減速までできるように練習していけばいいだろう。

 基地もマシンも丈夫に作られているようで、マシン表面にいくつか擦り傷が付いたが、まあ問題はないだろう。


「そっそうかい?じゃあ、アパートまで送っていくよ。」

 阿蘇が嬉しそうに笑顔を見せる。


「いや、俺はこれから自分の練習をするから、もう少し残っていくよ。

 なにせ言った通り、ハンドアームマシンの操作には、それほど慣れてはいないからね。


 君はまだ仕事が残っているのだろうから、もう戻って構わないよ。

 俺の練習はハードで危険だから、一人だけの方がいいしね。」

 仕事がたまっているようだから、こういって阿蘇には先に帰ってもらうことにする。


「わかった、じゃあ僕は帰って通常業務に戻るよ。

 明日また迎えに来るね。」

 少しだけ開けたシャッターの隙間をくぐって、阿蘇は帰っていった。


(さてどうするか・・・)阿蘇にはああいったものの、これといってハンドアームマシンの操作を上達させる訓練メニューがあるわけではないし、この基地内スペースでマシンを動かす程度なら俺には自由にできる。


 幸い(?)にも、基地内には爆発したガードマシンの残骸がそのまま残されていて、危なくないように破片は隅に寄せてある。

 破片に近づいていき、破片をつまみ上げる。


 といっても簡単なキー操作だけではつかむと放すことしかできないため、アームを伸ばして当たった先のものをなんでも摘み上げるというだけだ。

 つかんだ破片をすぐわきに置き、また別な破片をつまみ上げる・・・これを何度も繰り返し、モニター画面で見て、どの位置の破片がどのように摘み上げられるのかを体感する。


 どうやらモニター中央より右側1/4の破片が右側アームで、左側1/4の破片が左側アームで持ち上げられるようだ。

 意外と視野角が広く、マシン幅よりも大きくモニターされていることが実感できる。


 注文を付けるとすれば、マシンガンやレーザーの時は画面上にターゲットマークが表示されたが、ハンドアームの場合はそれがないようだ。

 大まかな位置に合わせてから、アームの先のハンド部分も視野に入れ、微調整しながら操作するせいなのであろう。


 右と左のアームを交互にあるいは同時に動かしながら、破片を動かす練習を繰り返す。

 単純な操作でも、持っていくときのアームの角度(肘関節の曲げ具合)や、ハンド部分の角度(手首部分の曲げ具合)により、破片の持ち方を変えることができることがわかってきた。


 各関節の曲げ角度は、その位置にもっていくときのアームの操作によって微調整可能なようで、動かした後の形をイメージしながら、大回りや小回りさせながらアームを操作していく。



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