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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
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ありがたいお誘い

8 ありがたいお誘い

「どっ・・・どういうことだい?

 俺は向こうの世界からきた人間であって、この世界の人間ではない。


 そんな俺が、この世界を守るための組織、自警団に入れるのかい?」

 阿蘇の提案は、まさに俺の耳を疑うような内容だった。


「いやあ、君は確かにこちら側の世界の人間ではないけど、今だってこちら側の世界のためにいろいろとしてくれているじゃないか。

 それに移送機が完全な一方通行であることを教えてくれたり、今運んできた無停電電源装置だってそうだけど、君の知識はこちら側の世界を守るために、ずいぶんと役に立つはずだ。


 君がいる地域の自警団に入ると、そこには筑波が所属しているから色々と面倒だろうし、地域を変えて自警団本部に勤めるのはどうだろう。

 赤城先生は人権保護委員会のトップを務めていたけど、向こうの世界から核攻撃されてからは、自警団の参謀を兼任することになった。


 その赤城先生のブレインとして働いてみないか?

 君なら適任だと思って、死刑執行を免れてから僕が赤城先生に推挙していて先生の承諾も得ているんだ。」

 阿蘇が笑顔で説明してくれる。


 確かに俺は、どう考えなおしても向こうの世界のやり方が正しいとは思えないため、こちら側の世界の立場に立って戦っている。

 しかし、こちら側の世界から見れば俺なんかは、向こう側の世界にいられなくなって逃げてきただけの存在とみなされていると思っていた。


 だからこそ再開した強奪行為を防ぐためにマシンを起動させても、マシンガンやレーザー砲などの武器は使用させてはもらえなかった。

 俺が裏切って向こう側の世界のマシンと共に、こちら側の世界を襲うようになっては困るという発想からだろう。


 つまり俺は、だれからも全く信用されてはいないと思っていた。

 そんな俺でもただ一つの利用価値は向こうの世界での経験であり、なけなしの知識を利用して防衛に役立てようとしているのだと思っていた。


 そんな俺を、参謀のブレインとして迎えてくれるとは・・・いったいどうして?

 もしかして、阿蘇も朋美のことを・・・。


「大変ありがたいお誘いだが・・・。」


「こっ・・、断るのかい?そっそれは・・・赤城先生も、がっかりすると思うよ。」


 俺が話し出すとすぐに、阿蘇が反応した。

 まさか、断るとは思っていなかったのだろう。


「いや、断るも何も・・・そんないい条件・・・、俺にはもったいなくて恐縮している。

 だがしかし、俺はこちらの世界で朋美の世話になりっぱなしだから、俺一人だけで身の振り方を決めることもできない。


 悪いが、朋美に相談させてもらえないだろうか?」

 即断で了承したい気持ちはやまやまだが、やはり朋美には断っておく必要性があるあろう。

 なにせ、こちらの世界の俺の件があるから、自警団入りには拒絶反応を示すかもしれない。


「ああそうだよね・・・、返事はすぐじゃなくってもかまわないよ。」

 阿蘇は少しほっとした様子で笑顔を見せる。

 本当に俺の自警団入りを期待している、ということだろうか・・・。


「それと・・・どうして君は俺なんかのことを、そんなに気にかけてくれるんだい?」

 もう一つ、どうしても気になることを確かめておく。


「ああ・・・、僕は君のことを尊敬しているのさ。」


「尊敬?」


「そうさ・・・だって君は、この世界を救った立役者だろ?

 霧島博士が英雄視されているけど、僕は君の功績の方がはるかに高いと感じている。


 僕はこの世界の法律を知っている身であるけど、君のことは無罪放免であるべきと心密かに期待していたんだ。

 それなのに君はこの世界の法廷で裁かれて、死刑判決を下された。


 この世界の理屈でいうと、確かに君のした行為は犯罪であり、罰せられるものかもしれないが、君が行動を起こさなかったら、おそらく今でも向こうの世界からの強奪行為は日々休まず続けられていただろう。

 こちらから反撃する暇も見せずにね。


 君は途中でおかしなことに気が付いて、それを改めようとしてくれたわけだ。

 君が起こした行動のおかげでこちらの世界が助かったといえるはずなのに、君は判決に対し不服を言うでもなく、甘んじて刑に服そうとした。


 知らなかったとはいえ、殺めてしまった多くの人たちのことを反省したのだろうと、僕は考えている。

 そんな君の考え方は、こちら側の日本の昔に存在した武士の潔さに通じるのではないかと考えて、尊敬しているのさ。


 僕は、何とか君の刑を減刑できないものかと考えて、実はあれこれ走り回っていたんだよ。

 まあでも幸か不幸か向こうの世界から報復攻撃が始まって、君の刑の執行が中止された。

 被害を受けた人たちには申し訳ないが、君にとってよかったと思ったよ・・・。」


 阿蘇がかいつまんで、こちら側の世界の歴史に関して説明してくれようとする。(武士道に関してなら俺だって少しは知っているのだが・・・)


 ううむ・・・、俺は別に潔く散ろうとしたわけではない。

 確かに、多くの人たちを殺めてしまったことは常に反省していたし、そのために裁かれるのであれば仕方がないことだと納得していた。


 しかしそれでも英雄視とまではいかないが、こちら側の世界でもっといい評価をされるのではないかという期待は持っていたし、俺だって減刑してほしいと感じていた。

 しかし俺にはこの世界で頼れる人は誰もいないし、唯一親しくしてくれる朋美の前では決して恥ずかしい態度はとらないようにと、ただそれだけを考えていただけだ。


「それと・・・、君もいつまでも朋美ちゃんの世話になって暮らしているわけにもいかないだろ?

 いや別に、朋美ちゃんのところを出て行けと言っているわけではない、彼女だけ働かせているわけにはいかないだろ?ということだが・・・。


 自警団というのは警察と日本国軍との中間のような立場の組織で、実をいうと公務員として給料が支払われる。

 君にそれなりの収入があれば、朋美ちゃんの負担も減るだろうと考えたのさ。

 僕は朋美ちゃんのことも好きだから・・・、ただしあくまでも友人としてだけどね。


 だから、まじめに考えてくれ、いい返事を期待している。」

 そういって阿蘇は笑顔を見せる。


 本当に細やかな気遣いをしてくれるやつなんだなあ・・・、涙が出てきそうになる・・・。


「それから・・・自警団員に正式採用されると、通勤用の車も支給される。

 君のいた世界はどうだったか知らないけど、こちらの世界では車は高価だからね。

 それでも緊急時はすぐに招集がかかって現場へ直行なんてことにもなるから、自警団員には車は必須というわけだ。


 君が車で自由に移動できるようになれば、僕が迎えに行かなくてもいいようになるし・・、ああ、決して君の送り迎えが面倒だという意味ではないけど、君もいちいち迎えが来るのを待たなくてもいいようになるから、予定も立てやすいだろ?


 向こうの世界ででも車を運転できる免許は持っていたのかい?」

 ついでに、うれしいことを教えてくれる。


「ああ、オートマ免許であれば・・・。」


 就職に有利ということを聞いて、大学2年の時に車の免許は取得しておいた。

 夏休みに合宿という形で10日間ほど泊まり込みで取得した免許だったが、実際には就職の役には立たなかった・・・というか、そこまでの選考対象にも達しなかったということなのだろうが・・・。


 以降、車などもてる身分ではなく、当たり前だが8年以上もペーパードライバーであり、父親の車を借りて数回遠出をした程度ではある。


「オートマ・・・?それはどういった車かな?

 こちらの車というのは・・・ミッションがあってギアチェンジを繰り返しながら加速していくのだが・・・、もしかすると自動で運転してくれるとか・・・、なのかな?」

 阿蘇が不思議そうに首をかしげる。


「ああ・・・、自動運転技術というものも随分と発達はしていた。

 しかし事故を起こしたときに車の責任となるのか、運転席に座っている人のせいになるのか、責任の所在が明確にできなかったため、自動運転は高速道路の一部走行レーンのみで行われていただけだ。


 いずれは完全自動運転になるとは言われていたが、長距離運転の中間サポートとか、自宅の駐車場へ駐車するときとか限定的な使われ方で、まだ補助的な役割だったね。


 オートマというのは、ミッション車のギアチェンジを自動でやってくれる機構の車だ。

 残念ながら俺は、ミッション車は運転できない。


 オートマチック車限定の免許しか持ってはいない・・、まあ、向こうの世界の免許証がこちら側の世界でも有効であればの話ではあるが。」

 とりあえず、俺の免許の限定について説明をしておく。


「ふうん・・・トルクコンバーターと言って、車の駆動を油圧で補助する車も販売されていて、その車はギアチェンジが不要という話だ。

 だけど発売されたばかりの新技術車で、自警団で支給される車は実績のあるミッション車だけになるね。


 まあだけど大丈夫だよ・・・、ふつうは徴兵されて国軍に入ると、強制的に車の運転免許を取得させられるんだ。

 君は国軍には入れないけど、運転免許を持っていないわけだから、免許を取得できないか交渉してみるよ。」

 阿蘇は明るく答える。


 ふうむ・・・朋美といい、こちら側の世界の人間は、ずいぶん世話焼きというか、暖かな心の持ち主が多いのだろうか、ありがたいことだ。


「さあ、着いたよ。じゃあ、明日また迎えに来るよ。

 いい返事を期待しているよ。」

 そう言い残して俺を朋美のアパート前で降ろし、阿蘇は車で帰っていった。



「へえ・・・、自警団に誘われたのね?よかったじゃない。

 これでジュンゾーも正式に、この世界の一員として認められたってことよね。

 頑張ってね。」


 こちらの世界の俺のことがあるので、自警団入りに反対されるかとも考えていたのだが、朋美に話すと以外というか大変喜ばれた。


「この世界の一員として仲間扱いしてくれるかどうかはまだわからないが、少なくとも赤城とかいう人のブレインというか補佐の役割ということのようだ。

 そのような役割でさえあれば、軍隊経験がなく何の訓練も受けていない俺でも、何とかなるのではないかと考えている。


 じゃあ、いいんだね?」

 朋美が無理していないことを、確認しておく必要性がある。


「いいも何も・・・、これはジュンゾーがこれからこの世界のために働いていくかどうかの問題だから、ジュンゾーが決めるべき問題よ。

 私はジュンゾーの選択であれば、どちらを選んだとしてもそれに従っていくわ。」


 台所に立って食事の支度をしていた朋美は、この時は食卓に腰かけている俺の横の椅子に座り、俺の目を見て答えた。

 ううむ・・・、なんともうれしい限りだ。



「おお来たか・・・すごいぞ、このコントロール装置というのは、まさに宝の宝庫だ。」

 翌朝、阿蘇と一緒に刑務所の面会所につくと、先日より一層白衣を着た研究員が増えているような感じがした。


「どうしたんですか?」


「おお、コントロール装置なのだから当たり前なのかもしれんが、マシンの取り扱い説明はもとより、マシンの構造図も記録されていた。

 これにより、破壊されてしまったマシンも、壊れていない部品をより集めて修復できるかもしれない。」


 そういいながら霧島博士は、大きな用紙を広げて見せる。

 A0くらいのCAD図のように、詳細な図面が印刷されているようだ。


「こ・・これって・・、プリントアウトできたのですか?

 プリンターは・・・?」


 こちらの世界にパソコン用のプリンターがあったとは到底思えないし、俺が運び込んだわけではない。

 なにせ地下の操作ルームは情報漏洩を防ぐためか、プリンターやHDなどの外部出力装置はおいてなく、USBメモリなども持ち込み禁止とされていたからだ。


「プリンター?印刷機のことか?

 輪転機を回すための版下などないのだろう?

 これは、こうしてトレースしたものだ。」


 霧島博士が、コントロール装置のモニターをテーブルの上に上向きに置き、画面上に向こう側が透けて見えるくらいの薄い大きな用紙を置いた。

 モニター画面の出力が用紙を透かして、なんとか見える。


「絵のうまいやつにトレースさせると、1画面大体30分ほどで仕上がる。」

 霧島博士は、詳細図面を持ち上げながら自慢げに胸を張る。


 恐らく等倍に出力させて、分割画面ごとにつぎはぎでトレースしていったのだろう。

 記載されている文字といい、プリントアウトしたのと見分けが付かないほど詳細に描かれているようだ。

 純然たるアナログ操作だが、それにしてもクオリティが高すぎる。


「それからさらに・・・。」

 霧島博士はモニターを戻すと、今度はキーボードとマウスを操作し始めた。



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