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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
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またまた地下へ

7 またまた地下へ

「あっああ・・・そういえば、小さな移送器も新倉山君と一緒に地下に潜った際に回収して来て、今は博士の研究室に預けてあるはずです。」

 阿蘇が霧島博士の方を見ながら答える。


「ほうそうか・・・、研究員が分解してなければいいが・・・。

 おおい誰か、小型の移送器を調べている奴はいるか?」

 すぐに霧島博士は大声で周囲にいる若者たちに呼びかける。


「はい、私が担当しています。」

 若い女の子が、すぐに霧島博士の所へ駆け寄って行った。


「おお、まだ分解していなくて無事なんだな?

 よし向こうの様子を確認するための通信装置と、ビデオカメラと集音マイクを至急準備するよう命じてくれ。」


 霧島博士の言葉に頷いた若い研究員は、すぐに廊下へ出るとそのまま駆けて行った。

 受付で電話でも借りるのだろうか。


「よし、じゃあ、その無停電電源とやらを悪いが回収して来てくれ。

 向こうの様子を、ようやく知りうる方法が見つかったという訳だな・・・?」

 霧島博士は至極うれしそうに手もみを始める。


「そうですね、それから・・・。」

 俺は阿蘇から手渡された自分のショルダーバッグから、おもむろにコントロール装置を取り出した。


「こっこれは・・・。」

 霧島博士が絶句する。


 コントロール装置にディスクを挿入して、向こうの世界の攻撃前の様子と、一瞬の閃光と共に通信が遮断された時の映像を再生する。

 俺が異次元からの強奪行為であることを証明する為に、こつこつと蓄積して行った映像と反撃時のこちら側の世界の映像などまとめてダビングして来たディスクだ。


 阿蘇が地下に潜る途中で見つけてくれたものだが、以降コントロール装置を使ってマシンコントロールすることにしか頭が回っていなく、ほったらかしだったものだ。


 更に東京基地が破壊されてしまい、俺が出来ることはすべて失われてしまったとあきらめてしまい、内に籠っていた為、報告の機会を完全に逸していた。

 この世界を救えるかもしれない霧島博士の協力を得られたので、ついでに披露しておこうと思いついたのだ。


「さっきの・・・丸い円盤だが・・・、あれは磁気記録装置なのかね?

 ずいぶんと薄く小さいようだが、これだけの映像データをどうやって記録しているのかね?」

 どうやら、霧島博士は映像よりもディスクの方に興味があるようだ。


 それはそうだろう、こちら側の世界の住所を向こう側の世界で検索した結果や、破損した段ボール箱の状況が一致するなどの異次元世界への侵略行為の証拠と思しき記録など、もう分っていることなので不要な訳だ。


 唯一、核爆弾を送りつけた当時の映像を何度かスロー再生させられたが、それだって一瞬で地上のカメラが消失したのだろう、なにか判断できうる映像とは言えないものだ。


「ああ、このディスクはデジタル記録と言って、アナログの信号とは違う0か1のデータを記録しているだけの様です。

 磁気記録ではなく、レーザーで穴をあけていると聞いた記憶があります。


 それを光ピックアップという、読み取り装置で読み取るわけですね。

 2進数の数字で表し、8ビットが1バイトで、記録の単位が32ビットとか64ビットとかだったはず・・・。」

 俺のデジタル記録に関して、なけなしの知識を披露する。


「ほう・・・デジタルというと・・・、数字と画像や音声を関連付けしているという訳だな。


 そう言えばマシンに強奪されている時に、妙な信号を受信しているという報告がある。

 再生してもまったく意味をなさない信号なので、暗号化されているのかと推定していたのだが、あれはそのデジタル通信ということなのかもしれんな。


 この、コントロール装置というものを一晩貸してはもらえないかね?

 ちょっと調べてみたいのだが・・・。」

 霧島博士が、俺の持つデスクトップのコントロール装置をしげしげと眺めていたかと思ったら、とんでもないお願いを始めた。


「ええっ・・・でも、コントロール装置は2台持ってきましたが、1台は破壊されてしまって、これ1台しか使えるものはありません。

 これが壊れてしまったら、折角見つけたハンドアームマシンの操作ができなくなってしまいます。」

 唯一俺が戦いに参加できるための武器とも言える物を、簡単に人に貸すようなまねはできない。


「いや・・・大丈夫だ、決して壊したりはしないから、約束する・・・。


 いま、こちらの世界でも真空管を使った巨大な計算機が、トランジスタを用いてより消費電力が少なく、より小型なものに変わってきている。

 これはそれらよりはるかに進化した形のものだろうが、扱い方の注意点は熟知しているつもりだ。


 だから、お願いだ・・・。」

 そう言いながら、霧島博士は両手を合わせて拝むような格好をし始めた。


「ううむ・・・、申し訳ないが今日1日だけでもいいから貸しては頂けないだろうか?

 心配であれば俺がその間付き添って、無茶をしないかどうか監視していてもいい。」

 赤城も一緒になり、2人で手を合わせて拝まれてしまった。


「わかりました。お二人にこうまでお願いされてしまっては、断れませんね。

 どうせ今日はこれから、地下基地に潜る予定なのでいいでしょう。


 お貸しいたしますが、ちょっとだけ待ってください。」

 俺はすぐにログオフして、入社当初使用していた一般ユーザー権限のIDで立ち上げなおした。


「ユーザーを切り替えたので、アクセスできないファイルや操作があるかもしれませんが、このコントロール装置自体の設定変更以外のファイル閲覧やプログラム起動程度であれば、問題なく使用可能なはずです。」


 俺はそういうと、コントロール装置の使い方に加えパソコンとしての使い方の概略と、操作ガイドなどが入っているフォルダを説明しておいた。

 霧島博士は、パソコンなど見るのも触るのも初めてのはずだが飲み込みは速く、すぐにファイル閲覧ソフトなども使いこなし始めた。


『おお、これはすごい。』『こっ、こんなものまで・・・。』


「では、我々はこれで・・・。」

 中年男性2人が、怪しげなファイルでも閲覧しているのではないかと勘繰られかねないようなつぶやきをしながら、パソコン画面にくぎ付けなのを尻目に、俺と阿蘇は早々に退散することに決めた。


「じゃあ、直接地下鉄の操車場へ向かうよ。」

 阿蘇の運転で、地下基地へ通じている操車場へ向かう。

 昨日説明しておいたので、地下に潜る準備は万端だ。



「これが、蓄電池なのかい?

 僕は、コントロール装置を置いていた台だとばかり思っていたよ。」


 阿蘇が地下基地の地面に置きっぱなしで放置されていた、無停電電源装置を眺めながらつぶやく。

 前回来た時に、阿蘇が地下ホームへの道順を記録していてくれたため、まったく迷うことなくストレートに廃線ホームへとたどり着き、そのまま地下に降りて地下鉄線路経由で地下基地へ到着できた。


「ああ・・・昔は鉛板を使ったものが主流だったらしいが、向こうの世界では様々な蓄電池が開発されていて、ずいぶん高性能化して、さらにコンパクトになったと聞いていた。

 それでも数キロワットを蓄電するには、結構な大きさと重量になるようだよ。」


 無停電電源装置を介した方が雷などのサージにも強くなるという、パソコン通の奴からの受け売りで、俺も自宅のパソコンの電源には使っていたが、俺の使っていたのは延長コードのタップが少し大きくなった程度のものでしかなかった。


 俺は、無停電電源の一つに2mほどの長さのロープを括り付け、さらに別の端にもう一つ無停電電源を括り付けると、ロープの真ん中を肩に当てて担いでみた。

 同じ重さのもので前後にバランスをとる目的だ。


 1つ10キロはあるだろう・・・2つで20キロの重さは、かなり堪えるが仕方がない。

 阿蘇は、同じく結んだロープの真ん中に1mのロープを結び付け、その端を無停電電源装置に結び付けた。

 すなわち、3台の無停電電源装置を担いでいくつもりのようだ。

 俺が持ち込んだのは5台の無停電電源装置だから、この割り当ては仕方がないことだろう。


「これは・・・どうするかな・・・。」

 もうここに来ることはないだろうから、すべて持って行った方がいいだろうが、阿蘇に持ってもらうわけにもいかないので、AEDのバッグを左肩に担いだ。


 垂らされたロープを頼りに、何とか斜めの穴を登っていく。

 地下鉄ホームへの穴まで何とかたどり着いたが、問題なのはこれからだ。

 いきなり出ていくのは危険なので、まずは穴の出口前で少し待つ。


『ゴー・・・・!』瞬間的に襲い掛かってくるものすごい風と光の点が遠ざかっていくことを確認してから、すぐさま穴を出てトンネル中央の避難帯へ駆け寄る。

 垂らしたロープなどを回収してから阿蘇が続いてきているのを確認すると、鉄パイプでできた梯子を上っていく。


 肩にタオルを挟んではいるのだが、それでも無停電電源の重みでロープが深く食い込み、さらに重みで手がうまく上げられない。


「頑張ってくれ・・・、もう少しだから。」

 阿蘇が梯子の下から激励の声をかけてくる。


 向こうは俺よりさらにひとつ分重いはずなのに、さすが現役の自警団員は体の鍛え方が違う・・・、感心しながらも心を奮い立たせて、何とか1段1段梯子を上っていく。


「ふえー・・・。」

「よく頑張ったね・・・。じゃあ、これに乗せてくれ。」

 阿蘇が廃線のホームで仰向けになってへばっている俺のところに、準備していた台車を転がしながらやってきた。


「ああ・・・。」

 よろよろと起き上がり、無停電電源装置を台車に積み上げる。


「じゃあ、これから大学にもっていかなくてはならないから、ここで休んでいるわけにはいかないよ。」

 無情にも阿蘇は、その場にへたり込みそうな俺を尻目に、台車を押して歩きだした。

(うーん・・・、タフだな・・・。)仕方がないので、俺も後をついていくことにした。



「直接、研究室へもっていけばいいわけだね。」

 30分ほど車を走らせ、阿蘇の運転する車は大きなゲートをくぐり抜けると、若い男女が行きかう銀杏並木を進んでいく。


 途中、駐車場への矢印看板が出ていたが、そのまま無視して車はコンクリート製のビルに横付けされた。

 おそらく大学の研究棟か何かなのだろう。

 阿蘇は車から降ろした台車を組み立て、無停電電源装置を積んでいく。


 俺も少し休憩できたので荷物降ろしを手伝うと、阿蘇は荷物搬送口と書かれた大きな鉄製のドアを開け、そのまま中へと入っていく。


(おいおいいいのか?さっき見たけど受付と書かれた入り口は、向こうにあったぞ。)とは思うのだが、阿蘇はどんどん歩いていくので、仕方なく早足で追いかける。


「受付を通らなくてもいいのかい?」

 平然と研究棟の廊下を歩いていく阿蘇に何とか追いつき確認する。


「ああ、言っただろ?移送器の動作を確認するために海上で実験を行ったって・・・、自警団本部がここの研究室と共同で行ったんだ。

 そのころからの付き合いだから、かまわないさ。」

 阿蘇は平然と答える。(おおそういうことか・・・。)


「おお、ここだ・・・。」『ガチャ』


「こんにちはー・・・、霧島博士に言われて移送器の電源を持ってきました。」

 阿蘇は、霧島研究室と書かれた札がかかった扉の前で立ち止まると、扉を開けて中に声をかける。


「はい、待っていました。」

 するとすぐに、若い研究員が出てきた。

 顔に見覚えがある・・・刑務所の面会所にいた女の子のようだ。


「これが蓄電池らしい。」

 阿蘇が、研究員が持ってきた台車に無停電電源装置を乗せ換える。


「100Vで充電可能なはずだが、この世界でも交流の周波数は50Hzか60Hzだったかな?」

 一応念のために基礎的なことを聞いておく。


「ええ・・・ぷぷぷ・・・、関東の交流周波数は50Hzですよ。・・・。」

 何がおかしいのか、若い研究員は俺の目を見て、くすくすと笑いだしてしまう。

 こちらの世界の事情を知らないから、念のための確認だというのに・・まあいいか。


「じゃあ充電終了すると、このランプが緑に変わるから、そこまでフル充電しておいてくれ。」


「はい、分かりました。」

 籠城していた時に、暇を持て余して読み漁った取扱説明書の知識をもとに操作手順を説明し、電源を預けて研究室を後にする。



「じゃあ、アパートまで送っていくよ。」

 阿蘇とともに車に乗り込むと、本日の業務終了を告げられる。

 確かに、辺りはもう暗い。


「それはそうと・・・、君もいつまでもぶらぶらとしているのも、つまらないだろ?

 自警団に入らないか?」

 突然阿蘇が、思いもかけないことを言ってきた。



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