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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
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解析開始

6 解析開始

「早速世界政府に報告するとしよう・・・、日本に5台のマシンが残っていることが分れば対抗措置を検討することができるかもしれない。

 すぐに戻って連絡だ。」

 阿蘇は内部シャッターの中にある、ほぼ無傷のハンドアームマシンを確認して嬉しそうだ。


「いや・・・赤城さんや霧島博士たちに報告するのは構わないが、世界政府に報告するのは少し待ったほうがいいだろう。」

 俺は、逸る気持ちの阿蘇を引き留める。


「ええっ・・・どうしてだい?

 世界政府にこれだけのマシンを引き渡せば、世界の各所で強奪に対しての対抗措置が可能になるじゃないか。


 まさか日本だけで独り占めって、そんな勝手な事を考えてやしないだろうね?」

 俺が言ったことに、阿蘇が強く反発する。


「まさか・・・ここにあるマシンは、こちら側の世界を救うために使う。

 決して日本だけのために使う訳ではない。


 だが・・・考えてみてくれ、マシンは5台あってもコントロール装置は1台だけだ。

 つまり、1度に動かせるマシンは1台しかないということになる。」

「おお、そうか・・・。」

 俺はあくまでも冷静に、厳しい現実を伝える。


「それと、おおっぴらに世界政府に伝えない理由はもう一つある。


 こちら側の世界からの核による反撃が、どうやら向こう側の世界では把握されていたということや、俺が生きてこちら側の世界に来ているということに関してもだが、向こう側の世界からこちら側の世界に対する監視は常に行われているようだし、情報収集力は極めて高いと評価せざるを得ない。


 ハンドアームマシンが無事であったことが向こう側の世界に伝わってしまうと、東京基地が再度攻撃対象となって、折角のマシンが再び破壊されてしまう恐れだってある。

 なにせ向こう側の世界にとってみれば、自分たちを脅かすただ一つの対抗手段な訳だからね。


 その為、この情報は公にはならない極秘ルートで伝えたほうがいいと考えている。」

 俺は、この情報を公にしたくない理由を説明する。


「ふうむそうか・・・、こちら側の世界のニュースとか通信とかは、向こう側の世界が監視している可能性が高いという訳だね。

 そうなると、極秘通信で世界政府と連絡を取る必要性があるね。


 まあ、言ってみれば戦時中なわけだから、通信管制位行われていても当然なんだよね。

 こちら側の世界では百年以上も平和な時代が続いていたということと、次元が違って生物の行き来ができない世界とのやり取りだから、情報の管理などは全く行われていない状態だからね。


 新型爆弾による反撃の際のパレードを模したカムフラージュだって、あれは霧島博士がどうしても必要だからって主張して、世界政府が渋々行事として認めた扱いだったから、徹底されていない部分もあったんだろうと思うよ。


 じゃあ明日も霧島博士の所へ行く予定だから、その時に相談するとしよう。

 赤城先生も来るはずだからね。」

『ガラガラガラガラガラ』シャッターを閉めて、阿蘇の待つ車へと向かう。


「悪いが、コントロール装置は持って行ってくれないか?

 少し走ってから帰りたい。」


「ああそうか・・・こちら側の世界の新倉山もそうだったけど、やっぱり君もスポーツ系なんだね。」

 阿蘇がうれしそうな笑顔を見せる。


「スポーツ系ではないし、どちらかと言えばインドア派なんだが、1時期痩せたのにこのところまた贅肉が付いてきたものだから・・・。」

 俺はタプタプとなりつつある、腹回りの贅肉をつまみ上げながら説明する。


「いやあ、充分しまっていると思うけどなあ・・・。」

 阿蘇は、そんな俺の腰回りの状態をちらりと見て、ダイエット女子への褒め言葉のような返事を返してくる。


 後部座席の上にコントロール装置を入れたカバンを置き、シートベルトを持ち手部分に通してから止める。

 これで落ちそうになっても、途中で引っかかるだろう。

 阿蘇の運転は決して乱暴なことはないのだが、用心のためだ。


「じゃあ、明日の朝迎えに行くよ。」


「ああそうだ・・・、明日の準備に関してなんだが・・・。」

 阿蘇には明日の準備に関してお願いをして置き、遠回りしてジョギングしながら朋美の待つアパートへ向かう。



「おかえり・・・一度戻って来たの?コントロール装置って言っていた箱が無くなっていたけど?」

 台所に立つ朋美が、少し心配そうに尋ねる。


「ああ・・・、一度戻ってコントロール装置を持って東京基地に行ってみた。

 帰りは走りたかったので、コントロール装置は阿蘇に預けて帰って来たよ。」


 昼間の時間があまりに暇だったものだからダイエット代わりにジョギングを始めてみたら、本格的にジムに通うよう朋美には勧められたが、俺はこちら側の世界の俺のようなマッチョマンになるつもりは毛頭ないし、仮にそれが朋美の好みだとしても、こちら側の俺の様にはなるまいと決めている。


 なぜなら俺同士で朋美を取り合うという表現もおかしいのだが、こちら側の世界の俺はすでに死んでいて、朋美の思い出の中にしかいることは出来ないわけで、そこで俺がマッチョマンになって朋美の思い出としての俺の役割まで果たしてしまっては申し訳ないからだ。

 こちら側の世界の俺は、この世界を守るために戦っていたスーパーマンなのだ、それは今でも変わりはない。


「破壊されてしまったと思っていた東京基地だったが、内部はそれほど損害がひどくはないということが分った。

 攻撃用のガードマシンは破壊されてしまったが、ハンドアームマシンはほとんど無傷で残っていた。

 更に俺の持つコントロール装置で動かす事ができることを確認した。


 ダメもとと思ってシャッターを開けて確認してみたんだが、もっと早くやっておけばよかった。

 ハンドアームマシンは、食料物資の調達に使っていたマシンだから長い手を持っているので、武器を装着できないガードマシンより、かえって攻撃力があるくらいと俺は思っている。


 だが、向こう側の世界では常にこちら側の世界の状況を監視しているから、このことは公にはできない。

 東京基地は破壊されてしまったということにしておく必要性があるんだ。」

 朋美に、少しだけ改善した状況を告げる。


「ふうん・・・機密事項という訳ね・・・分ったわ、私も誰にも言わないでおく。

 でもよかったわねえ・・・、ジュンゾーの活躍の場が出来たという事よね。

 応援するわ・・・。


 すぐにごはんにするから、まずはお風呂で汗を流してきてね。」

 朋美が味噌汁の味加減を見ながら、嬉しそうな笑みを浮かべる。


 そうして朋美に追い立てられるようにして、風呂場へと向かう。

 毎日毎日、何をするでもなく日がな一日アパートの部屋に籠ってその辺を走るか、たまに孤児院の子供たちにゲームの手ほどきをするだけの俺を気に掛けていたのだろう。


 なにせ俺は、こちら側の世界の人間ではないから就職もままならない。

 食い詰めのフリーターどころか、それこそ朋美のヒモのような生活を続けてきたわけだ。


 そんな俺を見てゲーセンのマスターが、ピンボールゲームの大会に出て見ないかと勧めてきたのだろうが、向こう側の世界育ちの俺にとって、ゲームの大会に出るというのはあくまでも趣味の領域でしかない。


 向こうの世界でも一部には確かにゲームのプロがいた・・・、流行りのゲームの名人のような人が祭り上げられてテレビなどに出演したりもしていたのだが、それだって一過性の騒ぎのように思えていたし、俺自身その様に祭り上げられるまでの技術を持ち合わせてはいなかった。


 ゲームの世界に関わるだけで食っていけるのは、ゲームの開発者側にならなければいけないと俺は思っていたくらいだ。


 ましてやこちら側の世界のように、ゲームのチャンピオンになれれば、それなりの安定収入を得られるという世間に認められている存在であるからこそ、その競争率は飛躍的に高いと想定され、俺なんかが参加したところで参加賞を貰うのが精一杯だろうと俺自身は考えている。


 その為、参加申し込みは行ったが、あまり真剣に考えてはおらず、どちらかというと大雪君のサポートに徹しようとしていたのだが、そんな俺の態度を朋美は鋭く感じ取っていたのかもしれない。


「うん、うまい・・・、中華も得意なのかい?」

 晩御飯は、焼き餃子とチャーハンに鶏がら出汁のスープに炒めた青野菜が添えられていた。


「うん・・・、子供たちが餃子とかチャーハンが好きだから、結構作るわよ。

 それに、ジュンゾーは何でもおいしいって食べてくれるから、作り甲斐があるわ。」


 朋美が残り少なくなった皿に、中華鍋からチャーハンの残りを足してくれる。

 ううむ・・・こんなに食べきれないと思いながらも、おいしいものでついつい食べ過ぎてしまう・・・、明日は10キロ走ろう・・・。



「おや・・・、大学のバスが止まっているね。」


 今日もまた刑務所に阿蘇の車で来たのだが、駐車場には東〇大学と書かれた大型のバスが停車していた。

 まさか、大学生が刑務所へ社会見学でもないだろうに・・・。

 守衛所で受付を済ませ通用門から中へと入り、昨日と同じ収容棟へ向かう。


「よしっ、E0120とα1850の軌道の同定終了。

 2つは同じ衛星だ。

 次は・・・。」


 中では霧島博士が大声で指示しながら、電卓をたたいている。

 その結果を受けて、白衣を着た若者たちが壁一面に張られた用紙を束ねたり分類したりしながら動き回っている。

 あれ?ここは昨日と同じ面会所だったはずだ・・・。


「よう遅かったな、入れよ・・・。」

 ドアを開けたものの、入り口前で立ち止まっていた我々を見つけ、赤城が中へ招き入れる。


「一体どうしたんですか?

 彼らは一体・・・?」

 阿蘇が、余りの光景に部屋中を見回しながら尋ねる。


 なにせ白衣を着た若い男女が30名ほど、面会室だった部屋中に散って、あちこちで議論を繰り広げているのだ。

 その中心には勿論、霧島博士がいる。


「ああ、昨日新倉山君が霧島博士に計算機を貸し与えただろ?

 それを使って高度な計算をすると、確認された地球外周の人工衛星だが、多くが重複する同じ衛星を捉えていたことが分ったらしい。


 今、軌道計算とやらをやり直している所だ。」

 その様子を眺めていた赤城が説明してくれる。


「おお・・・君たちか・・・、確かにすごいぞこの計算機の威力は・・・。

 なにせ計算尺だと、小数点以下2桁までしか正確な数値は得られないからな。


 いま各国の天文台で観測した、軌道上に浮かぶ向こう側の世界から送り付けられた人工衛星とやらの軌道計算をやり直している所だ。

 うまく行けば、当初の半分くらいの数まで絞り込めるだろう。」


 霧島博士は上機嫌の様子だ。

 俺にとっては、せいぜい2ケタか3ケタの四則演算ができる程度の利用価値しかなかったものだが、扱う人が変わると、こうもちがうものなのか。


 確か人工衛星と推定される、こちら側の世界の地球の周りを周回している物体が、余りにも数が多すぎてロケットの数が足りず、破壊することができないと言っていたはずだ。

 それもそのはず、いくつかは重複でカウントされていたということか。

 この見直しで、破壊可能な数にまで減少してくれるとありがたいが・・・。


「そうだ・・・向こうの世界とこちら側の世界の通信の際の制約のことを、霧島博士たちにも説明してくれるかい?」

 阿蘇が、昨日話した説明をもう一度この場でするよう催促してくる。


「ああ・・・実を言いますと、移送器は完全な一方通行で・・・。」

 双方向通信を行う際の制約を、あくまでも俺が設置状況から導き出した推定でしかないことを告げながら説明し始める。


 すると霧島博士は、電卓を学生風の男に手渡して計算を続けるように命じてから、俺の話に耳を傾け始めた。


「ほう・・・すると通信装置を送るだけではだめで、一緒に移送器も送る必要性があるということだね。

 更に、移送器の電源も確保しておかなければならないという訳だ。

 ふうむ・・・、大きなバッテリーを一緒に送りつける必要性がある訳だな。」

 霧島博士は何度も頷きながら、自分の目の前の白紙の用紙に何事か書き込み始めた。


「電源だったら、向こうの世界から送り込んだ無停電電源装置というものがあります。

 100Vで充電できますから、それを一緒に送り込めば簡単に通信できるはずですよ。

 結構な重さがあるので地下にそのまま置いて来ていますが、取りに行けばいいでしょう。」

 俺は昨日阿蘇に言われて、無停電電源を持ってきていたことを思い出していた。


「おおそうか・・・だが向こうの世界の様子を知りたいのはやまやまだが、移送器に関しては数に限りがある訳だからな。


 おいそれと向こう側の世界へ送り込むわけにはいかないだろう・・・、確実に成功すると分かっているのであれば別だがな。」

 霧島博士は、腕組みしながら考え込む。


「送り届けるための移送器だったら、向こう側の世界との交信の為に使われていたと思える、小さな移送器も回収して来ています。

 ですから、それに無停電電源を繋げて送り込めばいいでしょう。」


 小型の次元移送装置は、通信利用以外の役割は果たせないだろうから、送りつけたところで問題はないだろう。

 地下から運び出した次元移送装置の事を確認する為に、阿蘇の顔をチラリとのぞきこむ。



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