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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
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再び東京基地へ

5 再び東京基地へ

「移送器の解析で困難を極めた理由は他にもあったようで、下手に移送器を使って物を送り込んでいると向こう側にこちら側の考えが分ってしまうから、移送器の解析を進めていることは秘密裏に行わなければならなかった訳だ。


 その為、遠洋の海上で移送実験は行われた・・・、そこでなら物を送ったとしても向こうの世界に察知されることはないだろうと信じて・・・。

 なにせ世界中いたるところに侵攻基地があり移送器が設置されていたことから、移送器が物を送り込める場所というのは、恐らく移送器の接地場所に左右されるのだろうということは、すぐに推察できた。


 防水処置を施した発信器などを何度も送り届けてみたのだが、いずれも向こうからの発信電波を受信することは出来なかった。


 移送器を稼働させた状態であっても通信は出来ないのだと分かって、最早手探り状態ではあったが、それでも霧島博士は異次元世界へ物質を送り込んでいることに間違いはないと結論づけ、そうして世界同時攻撃が決まったという訳だ。」


 阿蘇が運転しながら説明してくれる。


 ううむそうか・・・、こちら側では次元移送装置を向こう側の世界に送り込むようなことはしなかったということだな。

 さすがに装置の開発側ではないから、その機構も詳細までは把握できなかったという事だろう。


 実際、電波の送受信の中継を担っていたのは、各基地の近くにあるはずの地下空間の暫定基地な訳だからな。

 双方の世界に送信用の次元移送装置が必要だなんて、実際の設置状況を見ない限り、そこまで考えが及ぶものではないということだろう。


「移送器・・・俺は勝手に次元移送装置と名付けたのだが、完全な一方通行で送る事しか出来ないようだ。

 その為、地下基地にも移送器があったように、こちら側の世界にも移送器を置いて通信していた訳だ。

 相互通信するには、お互いの通信機近くのエリアに次元移送装置を稼働してやる必要性がある。


 まあ俺もあの地下空間の次元移送装置とAtermなどの通信ネットワーク機器の配置を見て、仕組みを理解した訳だがね。」

 俺が、通信も一方通行であることを説明してやる。


「ええっ・・・じゃあ向こうの様子を知るには、こちら側から移送器を向こうの世界へ送って、その移送器を通して向こうからの電波を受信する必要性があるということかい?

 でもそれじゃあ、電源はどうするんだい?


 移送器は100V電源が必要だったはずだ。

 発電機でも送り込むというのかい?」

 阿蘇が首をかしげる。


「ああ・・・発電機でもいい事はいいのだが・・・、向こうの世界では蓄電池を使って100V電源の装置でも動かす事が出来た。


 また、無接触充電なんていうことも行われていて、コンセントに刺さなくても電源に繋いだケースに置けば自動的に充電できるなんて事が可能だったから、発電機など回さなくても電力の確保は可能だっただろうがね。

 だが、東京基地はつい最近まで稼働できていたところを見ると、どうやらこちら側の世界の電力を、盗んでいたのではないかと俺は想定している。


 蓄電池などは緊急時のみ使用することにして、通常は近場の電線から電力を貰って来ていた方が効率がいい。

 ハンドアームマシンがあれば、かなり細かい作業が可能だったからね。


 だが向こうの世界へ送り込むハンドアームマシンもない訳で・・・、いや待てよ・・・帰りに東京基地へ寄ってもらえるかい?

 ああっと、その前にアパートに寄る必要性があるか・・。」


 ふと突然思いついたことがある・・・、ハンドアームマシンはシャッターの奥に保管されていたはずだ。

 あの難攻不落の頑丈なシャッターに守られていれば、ガードマシンの自爆にだって巻き込まれてはいないのではないのか?


 ラッキョウのマシンが自爆して基地のシャッターが大きく膨らんでしまったことで、内部はもう粉々だろうと勝手に推測して確認しようともしていなかった。


「じゃあ、先にアパートだね・・・。」


 帰りは渋滞に巻き込まれることもなく、意外と早く高速を降りアパートへと向かう。

 朋美から渡されている合いかぎを使ってドアを開け、急いで中に入りパソコン・・・マシンのコントロール装置をカバンに詰め込み、忘れずにドアに鍵を掛けて阿蘇の待つ車に乗り込む。



「あれから、誰もここへは来ていないよ・・・。」

 阿蘇が東京基地前の空き地に車を停める。


 俺がクーデターを起こした時に、自分のマシンを浮かせておいた場所だ。

 あの時と違い白く無機質なコンクリート製の建物の大きな鉄製のシャッターは、無残にも内部から大きく膨らんでいる。


 唯一、破壊から免れたはずの東京基地だったが、ラッキョウのマシンの爆発により壊滅的打撃を受けてしまった。

『ガガガガガッ・・・プシュン』電装は破壊されていなかった様で、コントロール装置を起動してシャッターを開けようとしたら起動し始めたが、すぐに止まってしまった。


 それはそうだろう、大きく変形したシャッターを巻きこもうとして、シャッターのレールに挟まって動かなくなり、過負荷で止まってしまったようだ。


「うーん・・・何とかこの変形を直さないと、シャッターを動かせそうもないね。」

『バンバンッ』阿蘇が膨らんだシャッターをこぶしの腹で数回叩いてみるが、その程度では直りそうもない。


「何とか屈んで入れるくらい開けばいいんだが・・・、ちょっと持ち上げて見ないかい?」


 モーターで機械的に巻き上げようとする場合、モーターが焼き付かないように少しでも負荷がかかったら止めてしまうリミッターが働くはずだ。

 だから、人力であればもう少しは動く可能性はある。

 更に阿蘇の熊のような体格から察すると、かなりな怪力と想定できるのだが・・・。


「ようし・・・、やってみよう。おりゃあ!」

 阿蘇が腰を落として屈みこむので、俺も一緒に両手をシャッターの隙間に入れて思い切り持ち上げる。

『ガシャガシャ』シャッターは多少前後に触れながら、少しだけ動いた。


「もう一度・・・・、おりゃあ!」

『ガシャ・・・・』再度の挑戦で、また少し動いたかに見えたが、そこからはしっかりとシャッターのガイドレールに噛みこんでしまったのか、びくともしなくなってしまった。


「ふう・・、これ以上は機械でも持ってこなければ無理なようだね。

 明日になったら、フォークリフトを調達して来ようか?

 爪に引っ掛けて持ち上げれば、もう少しは上がるかもしれない。」


 額に汗をびっしょり浮かべながら、阿蘇が尻餅をついて話す。

 全力で持ち上げようとして、精根尽き果てたといった表情だ。


「いや・・・、これだけ開けば、横になって入れるかもしれない。」

 そう言って俺はシャッターの前に仰向けになり、そのまま平行移動で横にずり進む。


 ぎりぎりではあったが、何とか中へ入ることができた。

 ううん・・・、煙っていて中は火薬のにおいが充満していた。

 それはそうだろう、爆発が2ヶ月近く前とはいえ閉め切っていて空気の入れ替えがされていないわけだ。


 それでも立ち上がると、上の方は空気が澄んでいて呼吸も楽だった。

 火薬を含んだ空気は重いのだろうか・・・、酸欠で倒れると怖いので、すぐに阿蘇からシャッターの隙間越しにコントロール装置を受け取り奥へ進む。


 思った通り奥側のシャッターも損傷はあるが、大きく湾曲しているだけで破られている様子はない。

 これだったら中のハンドアームマシンは無事な可能性だってある。

 急いでコントロール装置で中のシャッターを開けようとする。


 当たり前の話だが、基地内にはシャッター開閉のボタンなどはない。

 基地を襲撃されたことを想定してスイッチを設けなかったというよりも、人が送り込めないわけだから、この基地の操作は全て遠隔操作で行われていたのである。

 その為、照明の入り切りのボタンすらない。


『ガガッ・・・ガガッ・・・ガガガガガガッ』内部シャッターの変形は、外部シャッターほどではないようで、何とか自動で半分ほど開けることができた。

 シャッターをくぐり抜けて中へと入って行く。


 気分的なものなのだろうが・・・・、こちら側の方が空気がいい。

(おお、あった・・・。)予想通り、ハンドアームマシンは5台とも無事であった。

 だが、果たして動くものだろうか・・・。


 コントロール装置で起動をかけて見る・・・、が動かない。

 それはそうだ・・・、ハンドアームマシンは全てラッキョウのマシンに紐付したはずだから、ラッキョウのマシンで解除しない限り2重のコントロール登録は拒否されてしまう訳だ。


 ううむ・・・参った・・・、折角マシンが無事であることを喜んだというのに・・・、これでは無用の長物だ。

 いや待てよ・・・混乱を避けるために、ラッキョウのマシンを起動するときの管理者IDと俺のマシンを起動するときの管理者IDは変えていたんだっけ。


 そうであればラッキョウのマシン起動用の管理者IDと、パスワード・・・ううん・・・思い出せない。

 それはそうだ、あの時1時的に作って登録した管理者名とパスワードだったからな。

 到底覚えられないパスワードのつもりだったが、分らなくなると困るので確かメモしておいたはず・・・。

 俺は急いで日誌のノートを取り出した。


(おお、あったあった・・・)コントロール装置をログオフして、ラッキョウのマシン用(実は俺のコントロール装置以外の9台のコントロール装置起動用は全て同じにした)管理者IDとパスワードを入力する。

 そうして1台のハンドアームマシンを起動して、その設定を解除してみると・・・成功・・・・。


 他の4台も設定を解除してからコントロール装置をログオフして、俺のIDとパスワードで立ち上げ直す。

 それから、1台のハンドアームマシンを俺のコントロール装置と接続する。


 なんでこんな面倒な事をしているかというと、ラッキョウのマシンには、まだ他にもさまざまな国のマシンが接続された設定になっているので、どのような障害が生じるか分らず、重複接続の無い俺のIDでのコントロールが安全と判断したからだ。


『キュイーン』わずかな回転音を発しながら、ハンドアームマシンが宙に浮かび上がる。

 やった成功だ・・・そのまま内部シャッターをくぐり抜け外部シャッターの所まで行くと、シャッター脇へ回って、そのままシャッターレールをつまんで外す。


 慣れない操作だが何とかハンドを操作し、多少ぎこちなく時間はかかるが作業を続ける。

 ハンドアーム操作は手順書もなく大体の予想でやっているので時折動作がぎくしゃくするが、それでもようやく両側共にレールを外すと、変形したシャッターは宙ぶらりんの状態になった。

 更にシャッター上部の巻取り部分のカバーも取り外し、変形したシャッターを取り外した。


「ようやく入れるようになったよ・・・うわっぷ・・・。」

 シャッターが外されて入口が解放されたと同時に阿蘇が中に入ろうとしたため、阿蘇の顔面に丸めたシャッターの縁が当たりそうになってしまった。


「まだ入ってくるのは危険だから、もう少し外にいてくれ。

 さすがにハンドアームマシンの操作には、慣れていないのでね。」


 阿蘇を待たせて変形したシャッターを奥へと運び入れ、奥の倉庫の端に行き丸いロール状の物をマシンで掴み上げる。

 以前、東京基地を陥落から救った時に、内部から出てきたハンドアームマシンがシャッターを修復しているのを見ていたので手順は覚えている。


 そのロールをシャッター上部の巻取り機にはめ込みカバーをつけ、一旦下方まで垂れ下がらせる。

 それからシャッターレールの押さえ部分を、右、左と順にはめ込んで行くだけという簡単設計だ。(と言っても、怪力のハンドアームマシンだからできるだけで、これを人力でやるのは到底不可能だ)


『ガガガガガガー・・・ガッシャン』ようやく電動シャッターがゆっくりと開き、上部で止まる。


「もう入って来てもいいよ。」

 阿蘇を中に導きいれる。


「ふうん・・・、まだマシンはあったんだね。」

 ハンドアームマシンを眺めながら阿蘇が呟く。


「ああ・・・、俺も無事でいるとは想像もしていなかった。

 外側のシャッターの変形度合いから、あきらめていたんだが、さっきハンドアームマシンの事を思いだした時に、同時にこの基地の丈夫な内部シャッターの事も思い出したのさ。


 外側から開けようとすると、かなりの苦労をさせられるシャッターだから、もしかすると・・・と思って確認に来て見た。

 何事も、きちんと確認しなければいけないということだよね。」


 何もできなくなってしまったと思い込み、2ヶ月間近くも向こうの世界からの強奪行為を止めようともしていなかった。


 たしかに油断していた・・・まさか東京基地が襲われるだなんて、考えもしていなかった。

 だからショックだった・・・・、なにせ、こちら側の世界で唯一無傷の基地であったのだから。

 しかし、これは戦争なのだった。向こう側の世界とこちら側の世界、ともに知力を尽くして戦っているのだ。


 特に、向こう側の世界の住民たちは、地下深い核シェルターの中でしか生きながらえることも出来ないのだ。

 その為、こちら側の世界から食料品や物資など補給して行かなければ、生存して行けない立場なのだ。

 つまり生きるための強奪行為であり、その行為に対して倫理観など検討はしていられないわけだ。


 他人を踏み台にしてでも自分たちが生き残るのだという決意のもとに、こちら側の世界からの対抗手段を奪い取ろうと画策した訳だ。

 まんまとその作戦に引っかかり大事なマシンを奪われてしまい、そのショックから戦線を離脱してしまっていた。


 まことにふがいない・・・、俺は反省しきりだった。

 何が何でもこちら側の世界を・・・、いや朋美とこれから生まれてくる子供の将来を守るのだという強い意志さえ持っていたならば、恐らくもっと早くこのことに気づいて行動を起こしていただろう。


 その間の犠牲者の方々に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 せめてこれからは意志を強く持ち、多少のゆさぶりにもくじけずに戦っていこうと決意を新たにした。



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