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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第4章
46/117

協力体制

4 協力体制

「東京基地のメンバーが核シェルターで生き延びたように、当時のオペレーターも生き残っている可能性は高いと考えられます。

 恐らく当時の担当チームの名簿など、向こう側の世界であれば保管しているはずです。


 マシンNo.が分れば、当時のオペレーターを調べさせることも可能でしょう。

 但しそれを要求するには、こちら側の世界が向こう側の世界の侵略に対抗して打ち負かす必要性があります。

 その上で向こうへ食糧支援するなり恩を売って、それから調査させればいいのではないでしょうか?」

 俺は真剣な表情で、霧島博士の目を見つめて話した。


「さっ・・・、昨年の4月2日だ・・・。」

 霧島博士は吐き捨てるように日付を告げる。


「4月2日ですか・・・、この日は依然として上海基地の奪還をしている時ですね。

 俺のマシンが破壊された日の様です。

 俺は毎日の戦闘状況を日誌に付けていたので、すぐに調べられますよ。」


 そう言いながら俺は、入社当初から付け始めた日誌を書いた手帳を霧島博士に見せる。

 着任して早々に、俺のマシンが吹き飛ばされた日だ。

 あれからチームを組んで、お互いに背後を守り合うような戦闘隊形を心掛けるようになったのだ。


 手帳一面に書かれた行動スケジュールを目で追っていた霧島博士は、やがて手帳を俺の手に戻してきた。


「どうやら、お前が言っていることに、ある程度の信憑性が感じられてきた。

 わかったよ、その相手がどのような考えで敦子を襲ったのか・・・、それから非道な行為を行わせていた首謀者・・・、それを調べるためには勝たねばならないということだったな・・・、いいだろう協力してやる。」


 霧島博士は、じっと俺の目を睨みつけたまま答えた。

 俺への感情は、あまり変わってはいないのだろうか・・・。


「そうですか、ありがとうございます・・・!

 では参りましょう、既に手続きは済ませてあります。」

 赤城は大喜びで霧島博士を席から立たせ、追い立てるように扉の方へ向かわせようとする。


「いや・・・、私は罪深い人間だ。

 なにせ放射能の被ばくの危険性を知りながら、それに対する適正な防護策を指示せず作業に従事させ、多くの研究員を被ばくさせてしまった。


 いかに新型爆弾の制作期間を短縮するためとはいえ、その行為は正当化出来ない。

 だから私は仮に死刑を免れたとしても、自由に大手を振って外の世界を歩けるなどとは思っておらん。

 このまま受刑しながら、毎日被ばくした方々にお詫びの祈りをささげるつもりだ。


 協力はする・・・だが、それはあくまでもこの刑務所の中から、助言させてもらうだけに留まるだろう。」

 霧島教授は、そう言って背中を押す赤城の手を遮った。


「ええっ・・・でも、この刑務所の中では、ろくな研究も出来ないではないですか。」

 赤城は、その返事に驚いたように反応する。


「研究自体は、大学の元私の研究室メンバーにやらせればいい。

 どの道、未知の科学技術に対抗する研究なのだから、成果が上がる時は上がるし無理な時は無理なのだ。


 刑務所の中から彼らのサポートを引き受けさせていただく、なにせ勝たなければならないようだからな。」

 霧島博士は、尚も俺の方を睨みつけるように向きを変えながら答える。


「はあ、そうですか・・・ですが・・・。」

 赤城は大きなため息をつく。

 これでは、余り大きな効果は期待できないという事だろうか。


「向こうの世界の文明は、こちら側に比べて1段も2段も進んでいます。

 例えば、この計算機・・・関数計算も簡単に計算できますよ。」

 俺は自分のカバンの中から、関数計算機を取り出して披露する。


 俺は文系の人間ではあるが、関数電卓位は常に持ち歩いていたのだが、こちらの世界に来て朋美が家計簿をつける時にそろばんを使っているのを見て、驚いたものだった。

 俺の居た世界では、そろばんは子供の時の教育の一環として塾へ通わせるということはあったが、日常的な計算はそろばんの有段者でもない限り電卓だ。


 複雑な関数計算は理系の学生くらいしか使うことはないだろうが、関数電卓だってとりわけ高額ということではなく、ちょっと大きめだから紛失しにくいということで、俺は関数電卓を愛用していた。(電卓の上についている様々なボタンは、使ったことは一度もないのだが・・・。)


「単3電池2本で動きますが・・・、電池はこちらの世界でもありますか?」

 俺は電卓のカバーのポケットに入っている、取扱説明書を霧島博士に示しながら問いかける。


「あっ・・・ああ・・・どれどれ・・・、電池はこちら側の世界の乾電池の単3と同じ大きさのようだな。

 電圧も1.5Vで同じ。

 それから使い方だが・・・三角関数にルート、統計計算から累乗計算まで・・・、こ、これはすごい、いつも計算尺で計算しているが、これがあれば・・・。」


 霧島博士は、新しいおもちゃを買ってもらったばかりの子供のように、目をキラキラ輝かせながら電卓と取説を交互で眺めている。


「もしよろしかったら、お貸ししますよ・・・・、俺にはあまり使い勝手がいいものでもないのでね。」


 ポケットタイプの四則演算と%計算ができる電卓は予備として持っているので、実をいうと関数電卓が無くても俺自身は困ることはない。

 あくまでも、カバンの中から見つけやすさで重宝しているだけなのだ。


「おお、ありがとう。これで衛星の軌道計算がはかどるだろう。」

 霧島博士は突然何を思ったか電卓を使って計算を始めると、ものすごい勢いでテーブルの上に鉛筆で数字を書きこみ始めた。


「おーい、看守!ノートかA4サイズの紙を大至急持ってきてくれ!」

 赤城が、廊下にいる看守に向かって大声で叫ぶ。


『バタバタバタバタ』すぐに看守が用紙の束を持って駆け戻ってきて、それを受け取った赤城が急いでテーブルにかきこんでいるその手の下に紙を挿入した。


「ああなると、周りから何を言っても何も答えない・・・。

 今日の所は引き上げよう。

 霧島博士は本来ならば無罪放免だし、このような重犯罪者用の刑務所にいてはいけないのだが、本人が頑として動こうとしない。


 だから仕方なくこの施設に収容されているのだが、まあ、出入り自体も自由な訳だから、面会もいつでも自由に行える。

 何か必要なものがあれば、連絡が来るだろうし明日もまた来ればいい。


 いやあでも、ありがとう・・・、霧島博士の協力を要請するよう毎日毎日世界政府から言われていたんだが、どうやってもいい返事は聞けなかった。


 今日、君を連れてきたのも、博士の娘さんを殺したのは新倉山君ではないのだと、本人を前にして説明しようと連れて来たのだが、効果がなくてお手上げ状態だったわけだ。


 それを随分とうまい事やる気にさせたもんだね・・・、更に刑務所でも研究が進められるような、あんな小型の計算機・・・かい?やはり向こうの世界の技術力はすごいね。」

 面会室を出て廊下を歩いている時、赤城はすごく上機嫌だった。


「いやあ・・・娘さんを凶悪な敵に殺害され、向こうの世界の人々を強く恨んでいる気持は俺にだって分ります。

 実を言いますと俺の居た職場の仲間の中にも、同様の事を中国基地で行ったやつらがいたのです。

 勿論彼らも現実世界の出来事とは考えずに、ただ単にゲームのキャラとして描かれた2次元世界の女の子相手に遊んでやれ位の、軽い気持ちだったと思います。


 俺はその当時からバーチャルにしては何かおかしいと感じていましたから、そいつらに食って掛かって行ったのですが、彼らはなぜ俺が怒っているのか、どうしても理解できていない様子でした。


 彼らだって相手が異次元世界とはいえ現実の女性だったとしたら、いくら自分たちが絶対に有利な立場で、相手に知られることもなくマシンを使って手出しできるとしても、あんな非道な行為を絶対にしなかったと俺は信じています。


 悪いのは俺達を雇って何の説明もせずに、ゲームのシミュレーションをしているつもりで、いつの間にか残虐な強奪行為に加担させるよう仕向けていた奴らです。

 俺としては、向こうの世界の一般の人たちには全く罪はないものと考えています。

 また、何も知らずにゲームと信じて加担していたオペレーターにも、同様に罪はなかったのだと考えています。


 ただ、今はもうみんな知ったうえで攻撃を仕掛けて来ていますから、オペレーターにも罪はあるのでしょうが、それですら自分たちが生き延びるための糧を得るため仕方なく行っているだけです。


 自分たちは知らなかったとはいえ、強奪していた食料品のおかげで生活できていた訳ですので、余り偉そうなことは言えませんが、それでも国民投票とかで異次元世界からの強奪行為を行うかどうか審議されたとしたならば、恐らく反対多数で否決されたと俺は信じています。


 そのような事をせずに自分たちだけの判断で異次元世界からの強奪を決め、その報復行動とも言える核爆弾での反撃を予測していながら一般市民には報告せず、自分たちだけが核シェルターに避難して助かろうとするなんて、俺にはどうしても首謀者たちを許す事は出来ません。


 向こうの世界にいる首謀者たちをどうやっていぶり出し、そうして正式に裁けるものか、ずっと考えていましたが、ようやく考えがまとまったのです。

 霧島博士に先ほど提案したように、こちら側の世界が、この戦争に勝って向こう側の世界を屈服させるのです。


 その上で食糧支援など人道的な援助をすることにして、この戦争の首謀者たちを戦争犯罪者として裁くしかないと考えたわけです。

 どこまでを関係者とするのかは、こちら側の世界と向こう側の世界では、罪に対する罰の考え方があまりにも違いすぎるため難しいとは考えますが、それでも一定の線引きをして罰して行くのです。


 ずっと考えていたのですが、何が正しいのか両方の世界を見ていてどうしてもわかりませんでした。

 なぜなら、どちらの世界に加担しても一方が不幸になると考えていたからです。

 ですがそんなことはないと、考え付きました。


 互いに相手の世界を敬って行動すべきなのです、共存の道を模索するのです。

 そのうえで、何も知らずにただ平和な生活を送っていただけなのに、核爆弾により一瞬で散ってしまった向こうの世界の多くの人々の分も含めて裁かれるべき責任をただす、という結論に至りました。


 核を送り込んだのはこちら側の世界ですが、その原因を作り出したのは向こうの世界のごく一部の奴らであり、そいつらのおかげで、多くの犠牲者が両方の世界で発生しているのです。

 ですから俺の考えを説明して、非道な行いを始めた奴らを明るみに出すために協力をお願いしただけです。」


 俺は、ここ2ヶ月間近くかけて、ようやくたどり着いた結論だということを説明した。

 何が正しいのか間違っているのか、俺には人に説くような高等な思考は持ち合わせてはいない。

 それでもこれは絶対にダメという、越えてはならない一線だけは踏まえているつもりだ。

 その線を越えた奴らには、相応な罰が与えられるべきではないだろうか。


「そうか・・・君は君なりに悩んでいたということだね・・・、そこで出た結論が霧島博士にも共通の目的となり得たというわけだ。

 いやよかった・・・。」


 赤城は、本当にうれしそうに満面の笑みをたたえながら、軽くスキップするような足取りで歩いて行く。

 それほど霧島博士の協力が得られたということがうれしいという訳だ。

 霧島博士というのは、それほどの重要人物なのか?


「じゃあ、俺はまだちょっと寄るところがあるから、君たちは直接帰ってくれ。」

 収容棟の受付でスタンプを押した入門票を返却してもらい、赤城は俺たちとは反対に刑務所の更に奥の施設へと歩いて行くようだ。


 阿蘇はというと、そのまま通用門の方へ歩いて行くので、俺も速足でついて行く。

 守衛所で入門票を返却して、通用門を通って駐車場へ歩いて行く。


「なあ、そんなに偉い先生なのかい?あの霧島博士っていうのは・・・。」

 赤城に聞きそびれたので、阿蘇に聞いてみる。


「向こうの世界からの侵略行為に、いち早く気付いたのが霧島博士さ。


 およそ20年前から未確認飛行物体・・・すなわちUFOだが、頻繁に目撃されるようになった。

 同時に放牧していた羊や牛などが、ある日忽然と消えたりすることが度々発生し始めた。

 時には何ヘクタールもの田んぼや畑の稲や麦などの作物も消えてしまうこともあり、それらの異常をUFOと結びつけたのが霧島博士だったということのようだ。


 UFOの目撃が多い地方に作物や家畜が消失する事件が多い事を統計的数値から導き出して、これはいずこからかの侵略行為だと訴えていた訳だ。

 そのうちに数年前からは物言わぬマシンによる強奪行為が始まり、直接家畜や農作物を農場から強奪するより、より簡単な方法に切り替えたのだろうと、この時も霧島博士が主張し始めた。


 そうして最近発明されたばかりのトランジスタというものを使って発信器なるものを発明し、それをランダムに市場やマーケットの野菜の箱に忍ばせたりして、強奪された品物がどこへ運ばれるか確認することを提案し実行した。


 それから侵攻基地の位置を発見し、そこを直接攻撃することが可能となった訳だ。


 なにせマシンの移動スピードは高速で、しかも空を自由に飛び回るものだから多くの場合ビル群などに隠れてしまい、昼間に堂々と襲撃していたにもかかわらず、なかなか敵の基地の位置の特定が難しかったのだが、博士のおかげで世界中の侵攻基地の場所が特定できたようなものだ。」


『バタン』阿蘇が、霧島博士の功績を簡単に説明してくれながら車に乗り込む。


 なるほど・・・、朋美がUFOなどを使って当初は家畜などを直接強奪していたなどと言っていたが、あれは霧島博士提唱の理論だったという訳か。

 そうして基地の位置特定にも貢献したという訳だな・・・。


「更に・・・移送器の仕組みに関しても、霧島博士がいなければ解析は未だにできていなかっただろう。

 なにせ移送器1台だけでは何の反応もしないわけだからね。

 あれは4台セットで、4角形を描いて配置しないと機能しない。


 そのような予想をしたのも、霧島博士が最初だった。

 正常にセットすれば異次元世界へ物質を送り込めるという推定は意外と早くされていたようだが、それを実証するのが難しい。


 なにせ送り込んだ後に、その結果を確認することができなかったからね。」

 阿蘇が、移送器の解析の困難性を説明してくれる。



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