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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
41/117

交信

13 交信

 うーむ・・・インカムか・・・・、備品の中にあったのかもしれないが持ってきていない・・・。


「この差し込み口は・・、普通のテレビやラジカセのマイクやイヤホン用のジャックと同じ大きさのようだね。

 だったら、この無線用のマイクも使えるかもしれない、ちょっとつけて見ようか。」


 するとラッキョウとの会話を一緒に聞いていた赤城がイヤホンジャックを確かめると、先ほどまで使っていた船との交信用のスタンド付きのマイクを持ってきた。

 えっ・・・、でもそのマイクのコネクターはずいぶんと太いようだが???


「コネクターの変換アダプターを付ければ、イヤホンジャックにも使えるのだよ・・。」

 そう言いながら赤城は、先端が細い金属の針のようなものが付いたソケットを、マイクのコネクター部分にかぶせ、それをコントロール装置のイヤホンジャックに差し込んだ。


「よしっ・・・入ることは入ったぞ・・・、使えるかどうかやってみてくれ。」


 マイクを差し込んだ途端、コントロール装置が新たなデバイスを見つけてドライバーの更新を始める・・・、しかし、なかなか、その更新画面が終わらない・・・、そりゃそうだろう恐らくこのマイクはアナログ仕様のマイクだ・・・、デジタル仕様のコンピューターには合わないのではないか?


 そう考えていたら・・・、<アナログデバイスを検出いたしました・・・、アナログデバイスを使用しますと、装置の速度低下につながる恐れもありますが、続行いたしますか?Yes、No>というメッセージが表示された。

 おお、使えるのか・・・、まあ多少アクセスが遅くなっても止むを得まい、急いてYesを選択する。


<ドライバーのインストールが終了いたしました。

 お使いの環境用のデバイスではないため・・・>

 インストール後もメッセージが長々と続くが、まあいいだろう・・・無視だ・・・。


「ラッキョウ?俺だ、新倉山だ・・・、生きていたんだな?よかった。」

 知り合いの声が聞けることが、なんだか本当にうれしく感じる。


「おお、インカムをセットしましたね?・・・新倉山さん、お久しぶりです・・・すごいですね、次元の壁を乗り越えて生き延びるなんて・・・、こちらの実験では動物実験でも一度も成功しなかったようですよ。


 唯一成功したのは・・・虫・・・ですかね?クマムシとかいう・・・、これだけが次元移動に耐えられて、転送先での生存が確認されたと聞いています。」

 マイクに向かって話しかけると、ようやく返事が返ってきた、ほっと一安心。


「その事なんだが・・・、どうして俺がこちらの世界に辿りつけたことを知っている?

 もしかすると、東京基地の様子をモニターできていたとでもいうのかい?

 いや、だとしても・・・、俺が生きて辿り着いたことは分らないはず・・・。」


 まず、どうしてラッキョウはこちらの世界に俺がいることを知っても驚かないばかりか、最初から知っていたような口ぶりなのか、聞いてみる。


「それは・・・、簡単な事ですよ。

 こちらの世界用のネットワークが、そちらの世界中に張り巡らされていると聞かされました。

 まあ、そのうちの大半はあなたの愚かな行為によって、使えなくなってしまいまったようですがね。


 それでも、そちらの状況を探る程度の事は簡単にできます。

 日々のニュースなど、そちらの状況把握は、作戦行動のための下準備として必須ですからね。」

 すると今度はラッキョウの声とは違う、こちらも懐かしい声が聞こえてきた。


「しょ・・・所長・・?所長も生きていたのですか?」


「そうですよ・・・私もラッキョウさんと一緒に避難施設に入りました・・・・、なにせ、そちら側の世界からの反撃が予想されると言う情報が入りましたのでね。

 他のメンバーも全員居ますよ。


 私たちも、本当に強奪行為が異次元世界に対して行われていたということを、この避難施設に来て初めて知った次第です。

 あなたの主張していたことも分かりましたが、果たしてあれが正しい行動であったと言えるのか・・・。」


 そうか・・・こちらの側の世界状況をずっとモニターしていたから、もしかすると世界一斉の核攻撃の情報は筒抜けだったのかもしれない。

 それを知り、各国要人や強奪に関わった人間たちを核シェルターに収容したのだろう。


 しかしそれなら世界中に攻撃される危険性があるから、人里離れた場所に避難するよう誘導することも・・・、

俺はずっと東京基地に籠って周りの様子をモニター越しに見ていたが、街中は平穏そのもので慌てた様子は全く見られなかった・・・核攻撃を受けるその瞬間まで・・・、だったらどうして???


 いや、もしそんなことをしたらパニックだ、それこそ避難場所を求める人々で大混乱になっただろう。

 下手をすれば自分たちが避難した核シェルターの場所も特定されて、住民たちが押し寄せかねない。

 その為あくまでも少数の人間たちを収容させるだけで、一般住民には何も知らせずにそのまま生活させていたのだろう。


 世界中のトップなどが突然いなくなったわけだが、それを知り暴動などが起こる前に、こちら側の世界から核攻撃にさらされたと言う訳だ。


「じゃあ、俺が無事に生き延びてこちら側の世界へ来たことは、周知の事実という訳だ。

 それなのに、どうして皆はそちら側に居残っているんだい?

 俺が考えるに、核シェルターの外の世界は、まさしく死の世界だろう。


 そんな世界に留まったとしても、恐らく生きている間に地上へ出られる可能性は無きに等しいだろう。

 下手をすれば核シェルターの入口が、核の高熱で溶かされて開くことも出来ないかも知れない。

 こちら側の世界へ避難して来て、保護してもらう方がいいんじゃないのかい?」


 恐らく、俺がこちら側の世界で裁かれようとしていた連日の報道を、モニターしていたということなのだろうが、そうであればどうして彼らは、こちら側の世界へ逃げ延びて来ようと考えないのだろう。

 俺が成功したように、生きて次元移動できる可能性は充分にあると考えるのに。


「そんな事は出来ませんよ・・・、先ほどラッキョウさんが言ったように、動物実験ではすべて次元移動は失敗しています。

 それも少数だけのトライで判断した訳ではありません、小動物から大型の動物までふくめて、日本だけでも実に2千例以上の実験を行って全て失敗したようです。


 更に人体実験とは申しませんが、そちらの世界で基地を襲撃してきた人たちの遺体を回収していたのですが、全てこちらの世界へ次元移動させた後で、墓地に弔っていたようです。

 中には移送前にまだ息のある人も居たということでしたが、全て亡くなった状態で移送され、蘇生措置は効かなかったと聞いております。


 我々は、生体の次元移動は不可能と結論付けております。

 そんな中で、どうして新倉山さんが生きたまま移動できたのかという謎に関して、次元間の相互補完という到底科学的とは思えないような、新説が発表されました。


 どう言う理論かと申しますと、我々も後から知ったのですが、そちら側の世界にも新倉山さんが存在していて、しかもその方は東京基地襲撃の際に犠牲になったとか・・・、その際にその遺体はこちらの世界へ次元移送して弔われたはずです。


 つまりそちら側の世界に置いて、新倉山さんという存在が欠けたということです。

 丁度そこへ我々の世界の新倉山さん、つまりあなたが次元移動を試みた・・・、本来ならば死んでしまうはずであったあなたを、そちら側の世界が欠けた新倉山さんの代わりとして存在を認めたと言う理論です。


 つまり次元は違えど、同じ人間がそれぞれの世界に存在するスペースが確保されているという理論の様です。

 勿論、そちらの世界とこちらの世界では、歴史の流れも異なり人口も異なることから、我々の世界にいた人々全てがそちら側の世界に存在している訳ではありませんが、少し時期はずれてでも同じ人間が存在しうる、という推定がベースになっています。


 この理論の信憑性を高める事実として、そちら側の世界の新倉山さんの遺体を回収してしまったがために、我々世界の新倉山さんが暴走して次元間移動せざるを得ない状況に陥ってしまった・・・、つまり、あなたのクーデターとも言えた行動の全ては、次元間がそれぞれ釣り合いをとるために起こしたことではないかというようにも論じられております。


 この理論を信じることにしますと、我々がそちら側の世界に無事移動するためには、そちら側の世界に存在する筈の自分を探し出して、その人の存在を抹殺する必要性があります。

 簡単に言ってしまえば、殺してこちら側の世界へ死体を移動させるということですがね・・・、そんなことをして初めて移動が可能となる訳です。


 そこまでして移動できたとしても強奪行為の犯罪者として裁かれて、下手をしたら死刑に処されてしまうのでしょう?

 そんなこと誰も試みようとはしませんよ。


 しかも自分と同じ存在が、今のそちら側の時代にいない場合は、そんな望みすらないわけですからね。

 まあ、そもそも、自分が生き残るために別次元の自分を殺してまで・・・、という倫理上の問題も勿論生じますしね。


 それもこれも、あくまでも新倉山さんの事例を説明する為だけの、ちょっといびつな理論でしかありませんがね。」

 所長が理屈深い学者肌そのままに、色々と説明してくれた。


 ううむ・・・俺がこちら側に無事移動できたのは、こちらの世界の俺が犠牲になっていたせいだということなのか・・・、そうすると俺は朋美が言っていた通り、本当にこちら側の世界の俺の代わりに神様が遣わしてくれた存在、ということになる。


「そうですか・・・俺がこの世界にやってこられたのは、それなりの理由があったからということなのですね。

 それはそうと・・・そちらの世界の生存者は、どれくらいいるのですか?

 一つの核シェルターに、どれだけの人々が収容されていますか?


 俺はそう言った施設がある事すら知らなかったのですが、世界中の主要都市には核シェルターが配備されていたと考えていい訳でしょうか?

 だったら、世界各国で数百万人程度の生き残りはいるということでしょうか?


 核シェルターの大半が、大都市部に集中していると見ていいのでしょうか?」

 俺は、まずもっとも確認しておかなければならないことを聞いてみる。


 いくらなんでも日本の、しかも東京だけがこちら側の反撃に気づいて対処していたと言う訳ではないだろう。

 世界各地、どの都市でも生き残りがいると考えた方が自然だろう。


「そうですね、勿論生き残った人々が暮らす避難所は、世界中あらゆるところにあるようです。


 異次元世界への侵略行為を始めた時から、思わぬ反撃に備えて核シェルターを各国の主要都市に配備し、関係者に対してシェルターに避難することが叶わない場合は、地方の山奥か離島へ避難するよう指示されていたと聞いています。


 関係者というのは、各国の首脳や王族などごく一部の人間と、勿論我々のような強奪行為を行っていた側の人間たちに限られるようですがね。


 その他にも各国の大金持ちと言われる人々は、それぞれ個人の避難所をお持ちの様で、そちらに避難している場合もあるようです。


 インターネット環境の通信回線の多くは地下に埋設してありましたから、今でもここにいながら世界各地との通信は可能なようで、おおよその生存者も分かっております。

 ですが、その問いかけに対する答えは、お教えするわけには参りません。


 強奪する食料など概算で計算されて、襲撃パターンなど先読みされても困りますのでね。」

 ところが、おしゃべり好きと思われた所長は、俺の問いかけに、はっきりとは答えようとしない。


「いや、そんな詮索をしたい訳ではありません。

 俺がこの世界へ来て分ったことですが、こちらの物価は非常に安い。

 特に肉や野菜などの食料品の価格は、恐らくそちらの世界が無事でいた時の1/10くらいでしょう。


 それもそのはず、詳しくは俺も言わないでおきますが、こちらの世界人口はずいぶんと少ないのです。

 その為か耕作面積が十分にあり、食糧危機とは無縁と言える環境にあります。


 だから、そちらの世界の生き残りの数によっては、こちらから食料供給をしても、さほど影響が出ない可能性が高いのです。

 数百万人程度の生存者に対する食糧支援であるのであれば、うまく説得できれば支給可能ではないかと思いつきました。


 そうすれば、わざわざ強奪行為をしなくても済みますし、こちらの世界も余計な恐怖を味合わなくても済むはずです。

 いかがでしょうか?」


 元の世界人口を養うだけの食糧支援は到底不可能だろうが、数が極端に少なくなれば、こちらの世界の負担はほとんどないはずなのだ。


「施しを受けろと言うのですか?

 絶滅の危機に瀕して地下の避難所に籠って食料の供給も絶たれた状態なので、支援を受けるよう勧めているのでしょうかね?


 そんなことしなくても、我々はそちらからどんな手段を講じてでも食料を調達いたしますよ。

 平行世界はいくつも探査したようですが、同時代の中では、そちらの世界が一番人口も少なく資源も豊かだったので、強奪先として決められたと聞きました。


 しかも文明の進み方が極端に遅れていることも、武力行使を決定した理由の一つだそうです。

 その為、以前と変わらずに力づくでも食料調達させていただきます。

 支援という名で支配下に置かれたり、あるいは食料の中に毒でも仕込まれてはかないませんからね。」


 名案と感じた俺の提案は、あっさり否定されてしまった。

 まあそうだろうな・・・そんな考えが通じるのであれば、最初から強奪行為に走らずに平和的な話し合いが行なわれていたはずだし、恐らく心配しているのは食料の供給を盾に従属を求められることだろう。


「さて、ごあいさつが終わったところで・・・、早速ですが新倉山さん・・・あなたは我々の世界の人間ですから我々の世界の事は熟知しているはずです。

 そうして、そちらの世界に住み始めて、そちらの世界の事も分り始めてきたと考えます。


 そこで提案ですが、両方の世界を知る唯一の存在であるあなたに、我々の世界の特使を任命いたします。

 我々の代表として、そちらの世界の代表者と直接交渉して、我々が必要とするものを調達する仲介役となっていただきたい。


 そちらの技術力では、我々のマシンに対抗できる戦闘兵器などないはずです。

 唯一、コントロール装置を持っている新倉山さんだけが対抗する術を持っている訳ですが、それも今回限りで終わりとなります。


 いかがでしょう・・・、素直に我々の提案を引き受けて頂けないでしょうか?」

 所長の話が終わってからマシンを回転させて周囲を確認してみると、4方を4台のマシンで囲まれてしまっていることに気が付いた。


 しまった・・・俺のマシンを取り囲むための時間稼ぎだったか・・・、しかも俺のマシンには武器が装着されていない・・・、その為取り囲まれてしまって逃げ場を失っては万事休すだ。



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