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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
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強奪行為再開

12 強奪行為再開

「じゃあ今日はどのくらいの距離まで操作可能か、限界点を確認するとしよう。

 限界まで行くので、街中は危険だから海上で頼む。

 勿論、水没してしまっては回収するのが大変だから、マシンにはフロートを大量につけて飛んでもらう。


 なあにスピードを争う訳ではないから、ゆっくり飛んでくれて構わない。

 沿岸警備艇を伴走させるから、まっすぐ飛ばしてくれ。」


 赤城が真っ白いプラスチック製のブイが結びつけられたロープを、マシンの銃座にぐるぐるまきにする。

 勿論マシンガンやレーザー砲は外されているので銃座しかなく、ロープを巻かれてもいいのではあるが、丸い幾つもの球は、間違いなく飛行時の空気抵抗となるだろう。


『バタバタバタバタ』いつもは弱いモーターの振動音以外は無音で飛び上がるマシンのはずだが、この日ばかりはぐるぐる巻きにまきつけられたお荷物のおかげで、甲高い打撃音を響かせながら宙に浮かび上がる。

 マシンの周りに括り付けられたフロート代わりのブイが、風にあおられてマシンにぶつかる音だ。


 考えてみれば、このマシンがどのようにして宙に浮いているのか、操作している俺自身全く分からない。

 プロペラがある訳ではない(勿論、見える範囲・・・つまり外観にだが)し、ジェット機のように猛烈なジェット排気を出して浮かんでいる訳でもない。


 ただ何となく・・・・と言った表現が一番適当で、ほんの少しの動作音がするだけで宙に浮いているのだ。

 まるで、反重力装置とでもいった雰囲気だ。


 その為、マシン自体から風が巻き起こることはないのだが、自然の風にあおられて軽いブイがポンポンとマシンに当たっては飛び跳ねるのだ。

 マシンは勿論何ともないはずだが、プラスチックブイが破損してしまわないか少々心配だ。


 破損して水が入ってしまえば、マシンもろとも海の藻屑となってしまう恐れがあるからだ。

 仕方がないので、高速飛行は避けよう。

 いつもとは反対方向の、海側を目指して東京基地から出発させる。


 港に出ると、高速艇が2艇準備されていた。

 どうせ伴走の船を置いて行く訳にもいかないので、船の速度に合わせながら海上を飛行して行く。

 今日は街中の飛行ではないので時間制限は無い、どこまでも飛んでいく。


「ほう・・・すごいね・・・、2時間ほどで100キロを超えてしまった。

 そのコントロール装置で、どこまで電波が届くのか心配だったが、かなりの遠隔地でもコントロールさせることができそうだね。


 まあ、もう少し飛ばして見て限界に達しなければ、中断するとしよう。」

 赤城が、大きな四角い箱についたマイクに向かって何やら話していた後に、マシンを操作している俺の所にやって来た。


 伴走している船と連絡をしていたのだろう。

 勿論、俺のモニターには海面の様子と警備艇の姿が映っているが、いかんせん距離計も速度計も付いていない・・・、いや、表示していないだけかもしれないが・・・、少なくとも俺が読んだ取説にはそのような機能は記載がなかった・・・為にどれだけ飛んでいるのか全く分からない。


 所詮近場のスーパーや市場を襲撃するためのマシンだから、その様な計器は不要と考えていたのだろうか。


「ようし・・・、150キロに達したから引き返すとしようか。

 往復で300キロの飛行に耐えられれば、航続距離としては中部地方にまでもエリアを広げられるということになる。


 なにせ向こうにも基地はあるのだからね・・・・、まあ破壊されてしまっているが充電位は出来るだろう・・・。」

 赤城が無線で連絡を取り合いながら、Uターンを指示する。


 延々と続く海面の映像にも飽きてきた頃なので助かった。

 すぐに方向転換して、果てしなく遠い陸地を目指す。


 そう言えば、ちょっと気になることを言っていた・・・・、充電って・・・・なるほど、マシンの動力に関しても考えたことはなかった。


 飛行の原理も考えたことがないのだから当たり前と言ってしまえばそうなのだが、動力が何でどうやって飛行しているのか・・・、少なくとも電気を使って何かの動力を動かしているのであれば、充電なり蓄電なりのシステムが必要という事だろう。


 しかしマシンを操作していた時も、基地へ戻って来た時にそれなりの充電装置にマシンを繋いだ記憶はない。

 ただ単に基地へ戻ってきて、奥の隅にマシンを適当に置いていただけだったはずだ。


 そうなると無接点受電とかいう方式で、あるエリアに置いておきさえすればマシンは勝手に充電されていたということなのだろうか・・・、基地内に置いていただけで、これだけの航続距離を見せることからも、どうやらその推測は正しいと言えるだろう。


 改めて俺が元居た世界の技術力の高さに感心させられる・・・、まあ、何も知らない俺が自慢できることではないのだが。



「じゃあ、今日の確認はこれまでにしよう。

 明日は本当に中部地区まで行ってみて、向こうの基地での充電やコントロールの中継が可能かどうか確認してみるとするかね、どうかな?」


 赤城は、今日の確認結果が書かれた用紙を満足そうに見つめながら、俺の方に振り返る。

 言葉はあくまでも対話形で、俺の意思も尊重するような形ではあるが、勿論俺に断わることができるはずもない。


 だからと言って俺は今の関係に不満を持っている訳ではない・・・、異世界からやってきた、しかもこの世界とは敵対関係をしている異世界からの来訪者を、曲がりなりにもほぼ同等に扱ってくれているのだ、これは大変ありがたい事だと感謝こそすれ、不満に思う事など微塵もない。


『ウゥー・・・ウゥー・・・ウゥー』突然、サイレンが鳴り響く・・・、と言っても基地の中でなっている訳ではない、もっと遠くの方から緊急を告げる弱いサイレン音が聞こえてくるのだ。


「なにっ・・・そうか、もうやって来たということか・・・分った・・・。」

 無線連絡をしていた赤城が、厳しい表情で振り返る。


「新倉山君・・・大変申し訳ないが、ついに異世界からの襲撃が始まった。

 というか、強奪行為が再開されたと言った方がいいか・・・。

 悪いがこれから襲撃場所まで行って、出来るだけ向こう側の強奪行為を阻害して欲しい。


 なにせ君の言うとおり、今後は下手に抵抗すると一般市民でさえも容赦なく報復攻撃の的にさらされかねない。

 その為、襲撃先の住民は全て避難させる方針だ。

 街中とはいえ、周りの被害に気にせず戦えるということは君にとっても好材料と考える。


 但し、どうやら世界政府は君の事を未だに完全に信用してはいない様子だ。

 その為、武装解除したマシンに再度マシンガンや光線銃を装着することは、許可できないと言う指示が来ている。


 申し訳ないが、丸腰のマシンを操作して現場へ行って対処してもらうことになる。

 まあ丸腰とはいえ、飛行能力やスピードなど、こちらの世界の戦車や装甲車をはるかにしのぐ様な性能のマシンであるから、決して戦闘力的に落ちるとは言えないと言うのが、世界政府としての君への配慮ということのようだ。


 ここ日本での戦闘いかんによっては、他の国での戦闘要請も来る可能性はあるようで、各国共に破壊されていないか若しくは破壊の度合いが軽微なマシンを選別して、待機する方針のようだ。


 悪いが頑張ってくれたまえ・・・というのが日本政府を代表しての俺のコメントだが・・・、まあ俺個人に言わせればくそくらえだ・・・。

 武器ももたされずに戦地に赴いて何ができるかっていうんだ・・・、無理をせずにどこかで隠れていたってかまわないと俺は思っている。


 関係者には、まあ俺からうまい事説明しておいてやるつもりだが・・・、どうするね?」

 赤城は無線連絡を受けている最中書き続けていたメモを読み上げながら、俺に説明してくれる。


「いえ・・・まあ行ってみますよ・・・、どうせマシンを飛ばすだけですから、攻撃を受けてもこちらに危害が加わる訳でもないし、大丈夫ですよ。」


 俺は、まずは様子見の意味も込めて、行ってみるのは悪くないと考えている。

 危なくなったら逃げればいい、程度のつもりでいる訳だ。


「分った・・・、襲撃ポイントはここから20キロほど先のスーパーマーケットだ。

 念のために、スーパーの店員や客は避難誘導している所だ。

 だから存分に戦って・・・、いや逃げ回ってかな?まあやってみてくれ。」

 赤城が、A2版の白地図に現在地と襲撃場所の2点を書きこんで手渡してくれる。


「分りました、行ってみましょう。」

 俺はすぐに目的地の方向へ、マシンを飛行させる・・・、勿論、フロート代わりのブイは飛行の抵抗となるため、すぐに取り外した。


『キュイーン』わずかな回転音と共に、ゆっくりとマシンが浮かび上がる。

 急ぐためビルなどに邪魔されない高さくらいまで浮上し、そのまま地図に記されたスーパーのある方向へと水平飛行を開始する。


 街中なのでそれほどスピードを上げたつもりもないが、それでも数分で目標と思われるスーパーマーケットが見えてきた。

 大きな駐車場が店の手前にある、平屋のスーパーのようだ。


 周辺道路には赤い回転灯を点けたパトカーが道路を封鎖しているようで、住民たちの避難は終了していると言う事だろう。

 高度を下げて行きスーパーに近づいて行く・・・、するとスーパーの入口から黒い球体が、いくつもの段ボール箱を抱えながら、飛び出してくるところだった。


『ゴンッ』『ドザッ・・・ドンッ』『ゴンッ』『ドザザザッ・・・ドーンッ』すかさず上空から近寄り、先頭のハンドアームマシンに体当たりをかまし、続く2台目にも強烈な体当たりを食らわせる。


 2台とも、持っていた段ボール箱の中身を地面にぶちまけ、さらにスーパーの壁に激突した。

 まあ、このくらいの衝撃でマシンが壊れることはないだろうが、強奪を阻止するくらいの事は出来そうだ。


『ガガガガッ』さて次のマシンへ・・と思っていると、銃声が鳴り響いた。

 急いでマシンを回転させて周囲の様子をうかがわせると、そこにはマシンガンとレーザー銃を供えたガードマシンが浮いていた。

 まあそうだろうな・・・・、強奪行為をするのにハンドアームマシンだけで行うはずはないものな。


「新倉じゅ・・・・いえ、新倉山順三さんでしたか・・・?

 お久しぶりです、ラッキョウです。」

 突然コントロール装置から、懐かしい声が聞こえてきた。


 ラ・・・・ラッキョウ・・・?って・・・・、そうか生きていたのか・・・。

 それよりも何よりも、コントロース装置から音が出てきたことに驚いた・・・、そう言えば先ほどマシンガンの銃声も聞こえたが、戦場の音声は無音のはずではなかったのか?


 マシンには集音マイクは付いていなかったはずだ・・・。

 いやそうか・・・、この音は操作者側の音を拾っているだけだ、同じコントロール装置を使っているから奴が攻撃した時の銃声も聞こえてくるのだ。


 確かに、仲間が攻撃した時に銃声は聞こえていたから、そう言う仕組みなのだろう。


 しかし会話ができるなんて、そんな機能は全く知らなかったし、しっかり読んだはずの取説にも記載はなかったと思う・・・、まあ取説を熟読したとは言っても、とりあえずの操作部分は分っていたつもりなので読み飛ばして、もっと詳細な設定部分ばかりを読みふけっていた訳ではあるのだが・・・。


「ラッキョウ・・・・ラッキョウなのか?生きていたんだ・・・、よかった。」

 俺は少しうれしくなって、親しげに返事を返す。

 声が高揚しているのが自分でもわかる・・・、なにせ久しぶりの友人に再会したような気分なのだ。


「・・・・・・・」

 しかし何の返事もない・・・、呼びかけておいて、なんだ・・・?


「ラッキョウ?おい、どうしたんだ?

 俺と話す気はないということか?そんな冷たい奴だったのか?

 だったらどうして、俺に呼び掛けたりしたんだ?」


 俺はしつこくコントロール装置に向かって呼びかける・・・、赤城や阿蘇が怪訝そうな顔をしながら、一人でモニターに向かって叫んでいる俺の所に、寄って来た。


「・・・・・・・・・・・・」

 それでも返事がない。


「どうしたんだい?」

 赤城が、俺の背中越しにモニター画面を覗き込む。


「はい・・・、向こうの世界の元の仲間であった奴から通信を受けたのですが、呼びかけても返事がありません。

 まあ向こうの世界を裏切った俺に対しては、問答無用で攻撃を仕掛けてくるつもりかもしれません。


 ですが、なぜやつが俺の事を知っているのか・・・、少し不思議な感じがします。

 俺がこちらの世界へ移動したことは、向こうの世界の人間は知らないはずなのに・・・。」


「ふむ・・・そうだね・・、まあ、もう少し呼びかけて見たらどうかな?

 とりわけ攻撃を仕掛けてくるような気配もない事だし・・・・、まだ逃げなくてもいいだろう。」

 赤城もそう言って、小さく頷く。


「ラッキョウ・・・・おいラッキョウ・・・。」

 そう言われて、俺は更に呼び続けることにする。


「・・・・・・もしかすると、インカムを付け忘れていませんか?コントロール装置にはマイク機能はありませんから、インカムを装着してヘッドホンジャックにコネクターを差し込む必要がありますよ。」


 暫くすると・・・、さすがに向こうでも様子が分って来たのか、思いがけない事を告げられる。

 インカム?ヘッドホンジャック・・・?そう言われてコントロール装置・・・いわゆるパソコンだが・・・、その周辺機器の接続部を見ると、確かにヘッドホンジャックが存在する。


 ここにインカムを繋げなければいけないのだ・・・、しかしインカムって・・・?

 俺は、急いてコントロール装置やモニターにそれらしきものが付いていないか確認してみるが、勿論そんなものは付いていない。


 なにせ半年以上も操作していて、一度もそんなもの付けたこともないのだ。

 それもそのはず、チームメンバーは同じ部屋の中にいたから肉声で常に会話は出来たし、他の国の応援に際しては言葉の壁もあるため、他メンバーとは会話を交わす事はなかった。


 ただ他のマシンについて行くだけで目的地までの道順を知る必要性もなかったし、実際の所、市場やマーケットを襲撃するハンドアームロボットのガードをするだけの、単純作業と言えば単純作業の繰り返しだったので、何も不自由は感じていなかった。

 まいったな・・・。



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