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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
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ゲームセンターにて

11 ゲームセンターにて

「君たちはやらないのかい?」

 普通はゲーセンに入ったら、すぐにお気入りのゲーム機に駆け寄りゲームを始めるんじゃないのか?


「まあ、最初はジュンゾーさんの腕前を見せてください。

 僕たちは、どうすれば高得点が稼げるのか見たいんですよ。」

 大雪君が笑顔でそう答える。


 ふむそうか・・・お手前拝見という訳だな・・・、いいだろう。

『チャリーン』『ゴットン』すぐに俺はピンボールマシンと向き合い、50円玉を投入して玉をセットする。


「じゃあ、やってみるよ。」

『ビヨーンッ』『ゴンッ・・・チンチンッ』すぐにボールがゲートを越えてターゲットに当たり、カウンターの数字が上がって行く。


『ゴロゴロゴロッ・・・・ドンッ、ビュッ・・・チンチンッ』落下してきた玉を爪で受けると、すぐに弾き返して見せる。

『おおっ・・・流石だ。』『うまーい・・・』すぐに歓声が沸き起った。


 だが、こんな程度は誰にでもできるものだ、もっと高度なテクニックを・・・、

『シュルシュルシュル・・・カタンッカタンッドンッビュッ・・・チンッチンッ』ほぼ中央部分を落下してくるボールを、左右の爪を動かすタイミングを少し変えて動かし、右の爪の先端で弾いて方向を変えると少し遅れて動かした左の爪で受け止め上方へ送り返してみせる。


『おおっ・・・すごーい』『最高ー』いっそう大きな歓声が沸き上がる・・・。

『チンッチンッチンッ』ふと後方の様子を伺うと、皆食い入るような目つきで俺の玉さばきを見つめているようだ。


『ビヨーンッ、ガゴンッ』俺は右の爪の狙いすませた一撃で上方のターゲットを狙い、エクストラホールにボールを入れた。

『ガゴンッ』すぐにエクストラボールが発射装置にセットされる。


「やってみるかい?」

 確か1時間で戻るように言われていたはずだから、俺のを見ているだけで時間を使っては申し訳ない。

 俺の後ろで背伸びしながら覗いていた大ちゃんを促す。


「ええっ・・・、僕はピンボールゲームあまり得意じゃないから・・・。」

 ところが大ちゃんは折角の誘いを断る。


「いいじゃない・・・、教えてもらえよ。」

 それでも健ちゃんが、大ちゃんの背中を押してくれる。


 先ほど大人げない真似をしてしまったお詫びのつもりだ、彼らに手ほどきとまでは行かないが少しコツを教えてあげよう。

 ゲーム機の脇に立てかけてあった踏み台を置いて、その上に大ちゃんを持ち上げてのせてやる。


「じゃあまずは思い切りこのレバーを引っ張って・・・発射する、いいね。」

 大ちゃんに、レバーを目いっぱい引っ張るよう指示をする。


 ある程度狙いを決めて発射する人も居るようだが、ゲーム機のばねの力の加減は難しく、思い切りやるのが一番上方で留まって点数を稼ぐ場合が多いと言うのが、あくまでもコンピューターのシミュレートの結果だが、俺はそう考えている。


『ビヨーンッ・・チンッチンッチンッ・・・チンッチンッ・・ゴロゴロゴロゴロッ』勢いよく放たれた玉は、ゲーム盤の上方のターゲットを何往復もして、どんどん点数を挙げて行く。

 しかし予想通りというか、ほぼ中央のラインを通って玉が落ちてきた。


「ええっ、どうしたらいいの?」

 大ちゃんが途方に暮れたように、すぐ後ろの俺を見上げる。


「合図をするから、左ボタン右ボタンと順に押すんだ、いいね。

 よしっ・・・、はい左・・右っ・・・・ボタンを離して、もう一度右!」


『ブンッコンッドンッ・・・シュッ・・・チンッチンッチンッ・・・』タイミングよく大ちゃんの手が動き、左の爪で弾かれた玉が右の爪に乗っかり、そうしてそれを上に放り上げる・・・、またまた上方でターゲット間を何往復もして点数が加算され始めた。


「すげぇ・・・、やったね大ちゃん・・・。」

 その様子をみて健ちゃんも身を乗り出してきた。


「うんっ・・、こんなことできたの初めてだよ・・・。」

 大ちゃんの顔が高揚してきた。

『チンッチンッ・・ゴロゴロゴロゴロッ』だがしかし、またもや中央目がけて玉が落ちてくる。


「ようし・・・・、今度は僕だけでやってみるね・・・、えいっ」

『ブンッコンッドンッブンッ』ああっ惜しい・・・、左の爪で弾いた玉が一瞬右の詰めに乗っかったのだが、右の爪を動かすタイミングが遅く、玉はそのまま弧を描くようにして一瞬浮き上がり、そのまま盤面中央を抜けて落ちて行った。


「ああっ・・・やっちゃったあー・・・。」

 大ちゃんが残念そうに、落ちて行く玉の軌跡を目で追い続ける。


「いやあ、でも惜しかったよ、もう少しタイミングが早ければなあ・・。」

 失敗したとはいえ惜しかったのだ、健闘をたたえてやる。


「うんっ、僕も1個の玉であんなに続いたの初めてだから・・・、なんかやり方が分ったような感じもするし・・・。」

 大ちゃんは嬉しそうに笑みを返してきた。


「じゃあ次は・・・、」

「僕僕・・お願いします。」

 次は健ちゃんが自分で踏み台の上に上がって来た。


「ようし、じゃあ、しっかり引っ張って、すっと離す・・・。」

『ビヨーンッ・・・チンッチンッチンッ・・・』健ちゃんの放った球も、ピンボール台の上方で勢いよくターゲット間を往復し始める。


「へえ・・・、なんだか、コツがわかってきました。

 僕もちょっとやってみたい気が・・・。」

 大雪君も身を乗り出して、盤面を見つめ始めた。


「おおそうか・・、こっちにも空いているマシンがあるから、やってみるといい。

 最初は目いっぱい引いて、発射するのがいいと思うよ。

 それから、もし出来たらだが、爪で弾いて打ち返す場合は盤の右側に集中した方がいい。


 左側の方が点数が高いターゲットが多いのだが、このターゲットに当たると、こっちに跳ねて、そのはねっ返りが一直線で盤面中央をおちてくる。

 こうなると絶対に救出できないから、これは避けなければならない。」

 俺は相手が高校生なので、健ちゃん達よりは高度な攻略法を伝授してやると同時に、隣のマシンにも50円を投入する。


「へえ・・・やっぱり攻略法を考えながらやっているんですね・・・、ただやみくもに打ち返している訳じゃないんだ・・・、さすがですね。」

 感心されてしまった・・・。



「よしっ・・・、次は右の爪を出したら素早く離して・・・、玉が爪の先端まで落ちて来たら狙いを定めて・・・、発射ー・・・。」

『シュッ・・・・チンッチンッチンッ・・・・』大雪君の狙いすませた一撃が、盤上右のターゲットに的確に当たり、そこから横方向へ向きを変えて他のターゲット間を往復して点数を挙げて行く。


 かなり筋は良いようだ、中央ギリギリに戻ってくる玉も爪のタイミングを左右変えて動かして対応できている。

 先ほど大ちゃんに手ほどきをした1回だけを見て出来るようになったのであれば、すごい才能だ。

 おや?ふと見ると隣の台では健ちゃん達が、つまらなそうにこっちを見ている。


「おおそうか、悪かったな、玉は全部落ちてしまってゲームオーバーだな。

 じゃあ、もう50円やってみるかい?」

 俺は、先ほど大雪君から受け取ったコインをつまんで健ちゃん達に見せる。


『うん!』

 彼らは元気よく答えるので、追加の50円玉を投入する。


『ガゴンッ・・・ビヨーンッ・・チンッチンッチンッ』健ちゃんがすぐに勢いよく弾を発射させる。

 こっちの方を重点的に見ていてやらないと、すぐに終わってしまうな・・・。



「おおっと危ない、変わってくれ・・・。」

『ブンッコンッシュッ・・・チンッチンッチンッ』ほぼ中央を落下してきた玉を何とか爪に引っ掛けて、上方へ送り返す。


「はいっ・・・、またやってみてくれ。」

 すぐに大ちゃんにバトンタッチをする。


 難しい場面は俺が直々に操作して、ある程度大丈夫そうなときはボタンを押すタイミングを指示しながら、進めて行く。おかげで、大分点数は稼げた様子だ。


「あっ、朋美姉ちゃん・・。」

 不意に誰かが叫ぶ。


 えっ朋美が・・・、やはりゲームをやりたくなって、こっちに来たのか?

 と思って振り向くと厳しい目つきで睨まれてしまった・・・、一体どうして?


 朋美の仕草を見ると何やら左手首を触っている・・・、なんだあ?・・・時計・・・?

 ふと自分の左腕を見てみても勿論腕時計など持ってはいない・・・、その為ゲーム上の壁掛け時計を見てみると・・・、おや、もう8時半だ・・・、来たのが7時前だから既に1時間半以上経っているな・・・。

 あれ?そういや・・・、1時間だけって言っていたか?


「もっ・・・申し訳ない・・・。」

 時間を忘れてゲームに興じていたことを、とりあえず詫びておく・・・、両手を合わせてただ拝むのみだ。


「もう・・・、この子たちは明日も学校があるから予習復習しなくちゃいけないのに・・・、いまからじゃあ、お風呂に入れている時間も無くなってしまうわよ。

 遥人が一緒だから大丈夫と思っていたんだけど、まさか先頭に立ってやっているんじゃあね・・・。」

 大雪君が朋美が来たことにも気づかずにピンボールマシンに夢中なのを見て、完全にあきれ顔だ。


「悪い悪い・・・でも彼はすごい才能あるよ・・・、少しコツを教えただけでも格段に腕をあげた。」

「遥人・・・帰るわよ!」

 朋美が大雪君のすぐ横まで行って、大声で耳元で叫ぶ。


「ああっ・・・朋美・・・ねえさん・・・、迎えに来たの?」

『チンッチンッチンッ・・・ゴロゴロゴロ・・・』大雪君が盤面から目を離した瞬間、無情にも中央付近を玉が通過して、OUTに落ちる。


「ああっ・・・惜しい・・・」


「惜しいじゃあないでしょ?

 お父さんもお母さんも何も言っていないけど内心怒り心頭だと思うわよ・・・、早く帰って明日の勉強しちゃいなさい。」

 俺が悔しがるのを見て、朋美は更に呆れた表情を見せるながら子供たちの顔を順に見つめる。


「分りました・・・、おーい・・・、みんな帰るぞ。」

『はーい・・・・』『ちぇー・・・、もう少しやりたかったな・・・、』『あーあ・・・残念・・・』子供たちは、未練たらたらのようだが、それでも大雪君の指示に従いゲームセンターを後にして帰って行く。


「保護者としてついて行きながら、自分が一番夢中になって時間も忘れておりました。

 大変申し訳ありません。」

 園へ着いて、園長先生たちにお詫びに行く。


「ああ、まあ・・・、子供たちは明日も学校ですので余り遅くまで遊ばせるのはね・・、ちょっと困るのですよ。

 でもまあ・・・、どうだった?楽しかったかい?」

『はいっ!』園長先生が問いかけると、俺の後ろから元気な声がいくつも上がる。


「ジュンゾーさんは本当にすごいです・・・、こんな人がプロでも何でもないなんて・・・、本当に信じられない。

 少し教わっただけで、ピンボールマシンの攻略法がつかめた気がしました。」

 更に、大雪君が真面目な顔をして答える。


「ほうそうか・・・、それはよかった。


 この子の将来の夢は、プロのゲーマーになるということの様でしてね。

 本来ならばプロで活躍している人に弟子入りして日々鍛錬をするようですが、学業もおろそかにしないようにと、せめて高校位は卒業してからにしなさいと言っているのです。


 プロゲーマーの道は厳しくて、それだけで飯を食えるのは本当に頂点の一握りの人間だけの様ですからね。

 でもまあ、この子も、世の中には本当に達人とも呼べる人物がうようよいると分かって、簡単には頂点に立てないことを身にしみて感じたことでしょう。


 それが分っただけでも収穫と言えます。」

 そう言って園長先生は、笑みを浮かべながら頭を下げる。


「そっ・・・そんな、もったいない・・・頭を挙げてください。

 俺の場合はただ単に比較的暇だったから・・・、というか就職も出来ずに何もすることがなくて、ただゲームをやっているだけだったということで・・・、しかもコンピューターシミュレーションであれば金もかからずに自分のパソコンで出来ただけで・・・、だから何もすごい事はありませんよ。」


 普通は白い目で見られることが多い、いい年してゲームから離れられない俺を、何を思っているのか随分と持ち上げてくれる・・・、本当にこちらの世界ではゲーマーがある程度の地位を確保しているということなのだろう。


 だからと言って俺がその恩恵にあずかれるとは到底考えられないが、大雪君や他にもプロゲーマーを目指す子がいるかもしれない・・・、そんな彼らのサポートでもできたら、それは大変うれしい事だと感じる。



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