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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
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再び地下へ

7 再び地下へ

「こんなところに、本当に基地があるのかい?」

 熊のような大男が、俺の後ろ側から大きなサーチライトのような光源で、足元を照らしながら問いかけてくる。


「いや・・・、基地ではない。

 言ってみれば出先機関のようなものだ。


 どうやったのか実際の方法は知らないが、俺が考えるには、次元移送装置を向こうの地下空間からこちらの世界へ送り届け起動させ、次元移送装置を使ってこちら側の世界の土砂を向こう側に送付し続け、こちらの世界でも地下空間を作り上げたのだろう。


 そうしてある程度の大きさの空間を確保したら、そこへ穴掘りマシンを送り届ける訳だ。

 穴掘りマシンを使って地上まで穴を掘り・・・、今回はあろうことか地下鉄へつながってしまったようだが・・・、それはそれで都合がよかったのだろう。


 その後、送受信の中継ターミナルなどの物資とハンドリングのマシンを送り込むと、気づかれないように夜間にでも地上の状況を調査する。

 適当な土地が見つかると、その土地目がけて建築した基地を次元移送装置を用いて送りとどける。

 恐らく世界中の各都市で同じような事が行なわれていたのだろうと思う。


 別に次元移送装置を用いて、直接上空などの空間に飛行できるマシンを送り届けてもいいように感じるのだが、通信も含めて一方通行だから、向こうの世界からこちらの世界のマシンをコントロールするにも、こちらの世界の状況が全く把握できないわけだ。


 だから、地下に仮の出先機関を作っておいて、そこを中継地点としてマシンをコントロールしていたんだと思う。

 アンテナ線のようなケーブルが、地上に向かって伸びていたから間違いないだろうと考えている。


 たしか・・・、地下鉄の車両集積場から廃線と思われるホームを目指す。

 どこをどうやって歩いたのか、あの時は空腹と絶望感からか、俺にはほとんど記憶がなかったのだが、何とか辿りつけたわけだ。


 多分これが・・・、俺が出てきたマンホールだ。」

 そこには大きく×印と日付が付けられていて、傷の状態から、まだ新しい最近の物であることが伺える。


 赤城から呼び出しを受けた翌日早々に、俺は元居た世界から持ち出してきたコントロール装置をとりに、地下へと潜ろうとしていた。

 赤城に事情を話すと、荷物を運び出すのに役立つやつを付けてやると言われ、同行してきたのは阿蘇とかいう熊みたいな大きな体をした奴だ。


 確かにこいつなら力は十分にあるのだろうが、地下鉄の行き来を避けながら素早く横断したり、あの長いスロープをほふく前進で登って行けるのか、多少不安を感じる。


「うん?これは?」

 阿蘇がマンホールのすぐ横に落ちている、光る小さなプラスチックケースを持ち上げる。


「ああ、それは・・・。」

 俺はすぐにそのケースを受け取ると、周りの埃をはらい取った。


「これは俺が向こうの世界から持ってきた記録媒体のディスクだ。

 向こうの世界がこちら側の世界からの攻撃で破壊された時の映像を記録している。


 その他にも向こうの世界の資料映像など、容量がある限り記録できるものは全てコピーしてきたはずだ。

 なにせ異次元世界の証拠だからな・・・、こんなところに落としていたのか・・・、持ってきたことすらも忘れていた。


 ありがとう、これも貴重な資料になるはずだ。」

 俺はディスクを持ってきたリュックに納め、再度それを背負った。


『ゴツッ』マンホールのふたを開けて、中の梯子を降りて行く。

『ゴォーッ』丁度、轟音と猛烈な風圧を起こしながら、光の列が通り過ぎて行く。


 俺たちが地下を調査すると言っても地下鉄は止めてもらえなかったので、充分注意するようにと赤城から言われていたことを思い出す。


「あっちだ。」

 俺は片側の線路の向こう側の壁を指さす。


 次の列車が来ると困るので、足早にレールを横切り壁際へ移動すると足元を照らす。

 そこには俺の記憶の通り、直径1mほどの横穴が開いていた。

 その穴の中へ入って行くと、やがて斜め下に向けて穴がさらに伸びて行く。


「ああそうか・・・・、ちょっと待っていてくれ。」

 そう言い残して、俺の後に続いていたはずの大男の気配が遠ざかって行く。


 腹でもつかえたのだろうか・・・、いや・・・直径1mはあるぞ、いくら奴の体が大きいとは言っても・・・、不思議に感じながらも、俺はそのまま腹ばいで進んで行き、更に急な勾配も下向きのままで両手両足を踏ん張りながらゆっくりと降りて行く。


 空腹で力がほとんど出ない時でも何とかよじ登れた勾配だ、元気な今の状態であれば踏ん張りながら降りて行くのはさほど厳しい事ではない。

『ズザザザザッ』そうして、やや広めの地下空間へと辿りついた。


 すぐさま持ってきた数本の懐中電灯を、天井や壁へと貼り付ける。

 思った通り周囲の壁や天井は、固めてはあるが土がむき出しで、いつ崩落してきても不思議ではない状態だ。

 恐らく、崩落の度に土砂を向こう側の世界へ送り込んでいたのだろう。



 天井までの高さは2mほどだが奥行きは結構広く、3mほどあることが分った。

 と言っても、次元移送装置以外で特筆すべきものと言えば、長いケーブルが付いた四角い箱が1つとバッテリーがあるだけで、恐らく通信の中継ボックスだろう。


 それ以外の装置は俺がこちら側の世界へ送り込んだ、コントロール装置2台分とAEDと無停電電源だけだ。

『ドドドドドッ・・ドーンッ』俺が装置をまとめていると、穴から勢いよく黒い物体が落ちてきた。


「あいたたた・・・参ったなあ、結構急な勾配だったな・・・。」

 熊のような大男は、思い切り打ちつけた尻をなぜながら顔をしかめる。

 ふうむ・・・、落下した時に俺を巻き込むと危険だからと、降りるタイミングをずらしたのだろうか・・・。


「はっ・・・籠は・・・?あっ、無事だった、よかった・・・。」

 阿蘇は、スーパーの買い物かごのようなものを手にしていた。


「結構急な勾配だったみたいだから、装置を運び出すのは容易じゃないだろうと思って、持ってきたロープを入り口付近の金具に結び付けておいた。

 中が狭かったら困るからと籠を組み立ててから来たんだが、ここで組み立てても良かったみたいだね。」


 阿蘇はそう言うと、ロープがくくりつけられた籠を恥ずかしそうに俺に手渡した。

 俺はすぐに籠の中に次元移送装置を入れる・・・と言ってもここにあるのは、俺が以前見かけた直径1mの球が取り付けてあるモニュメントではない。


 高さ30センチほどの三角錐と、1センチにも満たないこれまた小さな三角錐だ。

 それが4本ずつセットになっている・・・、恐らく地中へ送り込むのだから、大きなものは出現させられなかったのだろう。


 小さなものなら、地中のわずかな隙間に入り込んで物質化出来るのかもしれない。

 まず1センチほどの次元移送装置をセットで送り込んで、それでこちら側の土砂を送付して空間を作って行く。

 ある程度の大きさの空間を確保できたなら、次は30センチの次元移送装置を送り込んで、それを使って作業スペースを確立する。


 バッテリー駆動にしておけば充分なのだろうし、スペースが確保されていさえすれば、駆動電源は非接触充電とやらで送信し続けることは可能だったはずだ。


 俺はマシンの操作装置・・・言ってみればパソコンなのだが・・・と、モニターを俺のリュックに仕舞い込むと、もう一組を阿蘇のリュックに入れるよう指示をした。

 なにせ精密機械なのだから、籠へ入れて運ぶ途中手が滑って落としたなんてことは避けたいのだ。


 それから私物のショルダーバッグを肩にかける。


「そう言えば・・・あの時、何か言いかけていて、赤城とかいう教官が戻って来たからやめたよね。

 あれは、何を言おうとしていたんだい?」

 このような場面で聞くような事ではないのかもしれないが、昨日話が途中までとなって気になっていた続きを聞いてみる。


「ええっ・・・?昨日の話・・・かい?

 立ち入ったことだから・・・、まあ、ここならいいか。


 筑波と朋美ちゃんは同じ孤児院育ちらしい・・・、だから幼いころから二人は一緒に育てられた。

 勿論、兄妹同然にね・・・。


 新倉山と朋美ちゃんは幼馴染のように言われているが、実はゲームセンター通いで顔見知りであっただけで、とりわけ親しい間柄という訳ではなかったようだ。

 筑波が兵役で俺や新倉山と親しくなり、その関係で朋美ちゃんとも再会したと言う訳だ・・・、出会った時は二人とも驚いていたよ。


 それから2人の関係は親密になり恋人同士となって半同棲生活を始めたわけなんだが・・・、どうやら筑波は朋美ちゃんに好意を抱いていたようだ。

 しかし親友で、しかも自警団のエースの新倉山ということから、朋美ちゃんの事はあきらめて2人の幸せを応援する立場でいたわけだ。


 そんな新倉山が行方不明になって半年・・・、ようやく朋美ちゃんも奴の事を忘れかけてきたところに、君が現れたと言う訳さ。


 なにせ君はどこをどう見ても新倉山でしかない・・・、異次元世界の新倉山なんだから当然なのだろうが・・・、親友の新倉山だからこそ我慢できたのだろうが、何の関係もない君が、ただ新倉山と言うだけで朋美ちゃんと親しくなるのは本当に悔しいのだろう。


 なにせ朋美ちゃんは、なぜか君にぞっこんの様子だからね・・・、だから、あんな過激な取り調べを行って見たり、死刑の恐怖をギリギリまで味あわせたり、君に対して随分とひどい仕打ちをしてしまったのだろうと、俺は感じている。


 それを許してやってくれとは言わない・・・、だが、奴が君に向ける態度の理由は、恐らくそう言った事なのだろうと、一応説明しておきたかったのさ。」


 阿蘇が苦笑いを浮かべながら、俺に説明してくれる。

 おおきな図体に似合わず、随分と細かな気配りのできる奴なのかもしれない。


 まあ俺が朋美にとって、ジュンゾーの遺伝子を受け継ぐための種馬でしかないことは、皆知らないわけだからな。


 傍から見れば異世界からやってきて、その素材だけで、いうなれば彼らのアイドル的な存在を素早くゲットしてしまえば、そりゃ嫉妬や妬みの対象となるわな・・・。

 ようく分った・・・。


「筑波は、赤城先生からおしかりを受けて当分は自宅待機のはずだから、君にはもう迷惑をかけることはないと俺は思っている。

 だから安心してくれ・・・、じゃあ、そろそろ行こうか。」


 阿蘇に急かされ、俺が先頭になりロープを伝って斜面をよじ登って行く。

 確かにほふく前進よりは、掴む対象があるだけ楽だ。


 地下鉄の線路へ出ると、辺りに注意をして中央の避難梯子へ駆け寄り、そこを昇っていく。

 阿蘇はすぐにロープを巻き上げると、その体に似合わないくらい素早く動き、俺に続いて梯子を登って来た。


 すぐに廃線となっている地下鉄のホームへ出る。

 そこからは意外と簡単に、地上へ出ることができた。


 阿蘇が、廃線となった分も含めて路線図とホームの配置図を持ってきていた為、地図と照らし合わせながら地上への最短ルートを探ったのである。



「これが、マシンのコントロール装置なのかい?」

 赤城が、俺がセットしたコントロール装置の画面を不思議そうに眺めながら尋ねてくる。


 液晶モニターというもの自体を始めてみるのだろう、電源を入れて起動画面が出ただけで歓声が上がった。


 装置の構成は意外と単純だった・・・、液晶モニターとメインコントロールのパソコン+キーボード・マウスと通信装置・・・、赤いボタンが付いている装置なのだが・・・、これによって送受信の周波数を切り替え世界中のマシンをコントロールできたのだ。


 だがしかし、こちらの世界ではWANワールドエリアネットワークもなければLANローカルエリアネットワークもない・・・、インターネット環境すらないのだ。

 恐らく周波数を切り替えて発信してみたところで、他の地域のマシンのコントロールは出来ないだろう。


 まあ、他の地域のマシンが生き残っていたとしても・・・、ということになるが。

 せめて東京基地のマシンが動かせられれば・・・と考え、東京基地に連れてきてもらい直接マシンをコントロールしてみることにしたのである。


 電源を立ち上げログインのパスワードを入力する・・・・、当たり前だがログイン先のサーバーはないので、ローカルでしか立ち上げられないが、俺が書き換えた管理者のパスワードで、このコントロール装置を使ってアクセスしていたので、直にマシンにアクセスすることは可能ではないかと、簡単に考えている。


 起動画面からマシンのコントロールメニューに切り替える・・。


「危険ですから、皆さん一旦建物の外に出ていてください。」

 マシンが暴走でもしたら大変な惨事になるので、一旦外に出ていただく。

 マシンガンの弾は抜いてあり、レーザー銃も外しているそうだが、やはり危険なマシンであることは変わりない。


『ブオー・・・』すぐに背後から小さなモーター音が鳴り響き、モニター画面に見慣れた風景が映し出された。

 俺のマシンのカメラ映像が映し出されたのだ・・・、おお動いた・・・ちょっと感動・・・。


 モニターには今のこの基地内の風景が映し出されている・・・、操作している俺の上を通り越して半開きのシャッターをくぐり抜け、外へと出る。


 赤城と阿蘇の横を通り抜けて、更に敷地の向こうへ進んで行くと・・・通りを歩いてくる人影が・・・、ライトで照らしだされた美女は・・・朋美だ・・・、どうしたんだ?

 阿蘇から俺がここにいることを聞いていて、緊急な用事でもできて呼びに来たのだろうか・・。



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