さらなる報復攻撃
6 更なる報復攻撃
「夜遅くに呼び出して悪かったな・・・、君が知っているかどうかわからないが、実はこちら側の世界の都市が再び核攻撃にさらされている。
ヨーロッパやアフリカ、東南アジアなどの各都市が目標となっているようで、これまでに5都市が破壊された。
全て人口が百万以上の大都市ばかりだ。」
迎えの車に乗り、着いた先は3日前と同じ警察署であった。
2階の会議室へ案内され、そこにはいつものように赤城が待ち構えていた。
「はい、丁度テレビが付いていたので、ニュース速報で俺も知りました。」
赤城の向かいの席に座りながら答える。
「おおそうか、知っているのであれば話が早い。
我々が離島の追加攻撃を行ったのが2週間ほど前なんだが、そのすぐ後に報復攻撃として10都市が爆撃を受けた。
以降、攻撃は止まっていたのだが、今日になって再び開始されたもようだ。
この攻撃は長く続きそうかね?
それともまた少し休んでからでないと次の攻撃ができないと言う、休止期間など存在するものなのかね?」
よほど待ちかねていたのか、俺が席に着いた早々質問してくる。
「俺は前にも言った通り兵器の専門家でも何でもないので詳細は知りませんが、恐らく休止期間などと言ったものは、存在しないと考えます。
発射装置の充電時間などお考えなのかもしれませんが、数発発射した後に何日間かかけて充電して、ようやく次が発射できるなどというような悠長なことをしていたとしたら、地上からの攻撃で攻撃衛星は次の攻撃前に破壊されてしまうでしょう。
それくらい、俺の居た世界での迎撃システムというのは、発達していたはずです。
恐らく攻撃衛星では次弾の装填時間などはある程度必要でしょうが、全弾撃ちこむのにさほどの時間はかからないと想定されます。
爆弾を残した状態で攻撃を中止していた理由については分りませんが、例えば・・・報復攻撃により離島攻撃が継続されるかどうか様子を見ていたとか・・・、あるいは何らかの交渉をしようとしていたのかもしれませんよね。
その交渉が決別したために再び攻撃を仕掛けてきたとか・・・、そう言ったことは考えられませんか?」
俺は迎えに来るまでと迎えの車に乗っている間中考え抜いて、思いついた可能性を述べてみる。
ゲームの事以外は素人の俺に聞かれても分らないと答えたいのはやまやまなのだが、死刑を免除してくれたばかりか自由放免のような扱いにしておいてくれているのだ、何としてでも協力すると言う姿勢は見せておいた方がいいだろう。
「ふうむ・・・交渉ねえ・・・、その様な連絡は俺の所には入って来てはいないのだが・・・、離島攻撃がどうなったのかも含めて、もう一度確認してみるか・・・。
なにせ離島攻撃に関しては日本の離島・・・沖縄とか八丈島とかだな・・・、これらの大きな島、いわゆる本島に関しては1次の報復攻撃の時の対象に挙げられていて、次元移送装置の数が足りなかったために、世界一斉攻撃の翌日に攻撃を仕掛けていた。
他の国でも同じようなものだったはずだが、更にそこから離れた離島という事だろ?日本でも思い当たる島が何島も上げられてターゲットの絞り込み段階で止まっていた。
なにせ島国の日本では大小様々な島が数千存在するからな、瀬戸内だけでも相当な数だ。
攻撃する順番も決まらないものだから、日本では離島攻撃は実施されていなかったわけだ。
その攻撃予定がどうなったのかと今後どうするつもりなのかも含めて、ちょっと確認してみるとするか。
ここで待っていてくれ。」
赤城はそう言い残すと席を立ち、そそくさと部屋を出て行った。
後には、俺を迎えに来た体の大きな男と2人だけとなった。
そういやこいつ・・・、どこかで見たことが・・・。
「久しぶりだね、随分と元気になったようだ。
筑波の取り調べから解放した時は、まともに歩くことも出来ない状態だったものな。」
熊のような大柄の男は、俺がしげしげと眺めていることに気が付いたのか、親しげに話しかけてきた。
そうだった・・・、拷問の様な取り調べから解放されて病院へ収容された時に、俺をすぐに裁判へ連れて行くとか言っていた奴だ。
恐らく赤城の部下か何かなのだろうが、朋美とも親しげに話をしていたな。
「ああ、その節は・・・というか、俺は君の素性も何も知らないのだが・・・、あの赤城という人の部下なのかい?それとも警察の人なのかい?」
まずは、こいつが何者なのか確かめることが先決だ。赤城もそうなのだが、俺のいた世界では恐らく会ったこともない人物なのだ。
「ああ僕は・・・阿蘇 昇と言って、新倉山や筑波とは徴兵された軍隊で同じ部隊だった関係で知り合った。
赤城先生はその時の教育係の教官だった人だ。
兵役が終わった後も自警団活動を僕も続けているから、新倉山たちとも付き合いが継続していて、朋美ちゃんとも知り合いになった。
自警団での活動は新倉山たちとは地域が違うから別働隊だったがね・・・、筑波と新倉山は同じ部隊でいつもコンビを組んで行動していたと聞いている。
筑波にひどい仕打ちを受けたようだが、奴にとって新倉山は、かけがえのない戦友であり親友であり、そんな新倉山を奪った君たちを許せなかったのだと思う。
更に新倉山がいなくなって・・・」
『カチャッ』「おうおう・・・、大変なことが分って来たぞ。」
阿蘇の話が終わらないうちにドアが開き、赤城が戻ってきた。
「どうしたんです、先生?」
阿蘇が、赤城の方へ振り向いて問いかける。
「先生は止めてくれって言っているだろ?俺はもう、お前たちの教官じゃない。
お前たちは既に1人前の自警団兵士なんだからな。
それはそうと、攻撃を受けた都市は離島への攻撃を行使した国ということが分った。
しかも今回攻撃を受けた5ヶ国は、日本と同じように攻撃する離島の数が多すぎてリストアップできず、今週になって攻撃を仕掛けた国ということが分った。
報復攻撃を顧みずに攻撃を仕掛けたということのようだな・・・、どうやらやられたらやり返すと言う方針のようで、日本など離島攻撃を仕掛けていない国に対しては報復措置をとる気配は見られていないようだ。
さらに、向こうからコンタクトしてきていることも分かった。
各国政府に対して呼びかけているようで、日本に対しても行われている。」
「コンタクト・・・ですか?」
「ああそうだ。いくつかの周波数を使って、無線で交信を求めてきている。
当初はいたずらだろうと日本政府は相手にしていなかった様子だが、報復攻撃を受けて向こうの世界の生き残りが存在する可能性が示唆されたことにより、調査し始めたということらしい。
なにせ世界同時攻撃を行ったすぐ後から、無線や電話などを使い異次元世界の住民を名乗る者達から、報復攻撃を中止する代わりに金品を要求する連絡が世界中で各国政府に対して行われていたらしい。
その中に紛れ込んでしまい、特に繰り返ししつこく行われていたものだから、逆に無視されていたのだろう。
どうやら1ヶ月以上前から無線交信は試みられていた様子で、異次元世界からの交信であることを告げ、向こうの世界は地球規模でほぼ全滅であるということ、わずかな生き残りであり報復攻撃は避けたいから、これ以上の攻撃は止めるよう呼びかけていたらしい。
それなのに、こちらから離島攻撃を仕掛けたがために報復措置に出たようだな。
まあ尤もな行為だ・・・、どうやら俺たちの世界の方が非道な行いをやってきたような気がしてきた。」
赤城はそう言いながら頭を掻く。
『カチャッ』赤木は持ってきた大きな真っ黒い箱の上についている、四角い突起の一つを押し込んだ。
<我々は君たちから見ると違う世界・・・、異次元世界の存在だ。
我々の住む地球は過剰な人口増加により食糧危機が訪れて来ていて、人口増加抑制の方策は行っていたのだが歯止めは効かず、やむを得ず比較的人口増加のペースが緩やかな世界を探し出し、そこから食料を調達する行為に出た。
いわば、緊急避難的な行動であったわけだが、君たちの世界を鑑みず自分たちの世界の事情を押し付けた強奪行為、今では深く反省している。
君たちが行なった核による世界同時攻撃の破壊力は凄まじく、恐らく我々の世界の人口の90%以上の人々が犠牲になったことだろう。
直接の被害を受けていない地域も、地上では今後核の放射能による死の灰が世界中に降り注ぎ、やがて99%以上の人々が死に絶えるだろうと予想されている。
我々が行なっていた強奪行為の事を知っている、我々の世界の関係者はごく少数に限られる。
君たちの攻撃により、強奪行為を知らない多くの一般の人々が犠牲となっていて、更に今回の離島攻撃により生き残ったごく少数の人々までが、死への恐怖にさいなまれている。
君たちは地上を破壊されてしまった我々には、最早報復手段はないものと安心していたのかもしれないが、我々は君たちの世界に様々な攻撃兵器を送り込んでいる。
なぜなら当初は、武力により君たちの世界を征服して、その上で食料や物資を拠出しようと計画していたからだ。
しかし人による人の支配というものは避けなければならないということで、半ば強引な強奪行為に走った訳だが、我々の考えが間違っていたと言うのであれば、再度武力による君たちの世界の支配へと切り替えるつもりでいる。
依ってここに、宣戦を布告する。
我々は今後、強奪行為を再開する予定だが、それに対して抵抗をしていただいても構わない、戦争なのだから防衛行為は当然の事だ。
それにより君たちの世界の都市部への核攻撃を実施することはないが、君たちがこちら側の世界への核攻撃を取り止めない限りは、こちらからも報復の核攻撃は十分にありうると考えていてほしい。
我々は、一般市民を巻き込む戦闘行為は好まない。
あくまでも、軍隊と軍隊との戦闘行為による勝敗で決着をつけるつもりでいる。
繰り返す・・・>『カチャッ』
赤城が持ってきた黒く四角い箱から、少しこもったような声で演説とも取れるような内容の通信が流れた。
どうやら音声の録音装置のようだ、携帯の録音機能やマイクロレコーダーとは異なる、何か大きな装置で録音するのだろう。
『カチッ』赤城が装置の別の突起を押すと今度は上部が開き、そこから灰色の四角く薄い板のようなものを取り出した。
「阿蘇は、すぐにこのテープをダビングして、全国の自警団へ郵送してくれ。
相手は宣戦布告してきている。
以前も多くの犠牲者は出たが、よほどのことがない限りマシンは人に銃を向けることはなく、多くは威嚇行為だけだった。
ここにいる新倉山君が加わってからその傾向はより顕著になった訳だが、今後は違う。
こちらからの反撃により向こうの世界は壊滅的被害を受けていることもあり、恐らく躊躇わずに武力を行使してくることが予想される。
今までのように自警団が搬送マシンたちの食料調達を阻止しようとしたり、敵基地の位置を探り出して攻撃するなどと言った行為を続けて行くことが得策とは思えない。
なにせ向こうはただのマシンでしかないわけだが、こちらは生身の人間だ。
自警団員が命を懸けてまでやるのは避けたいし、組織だって活動するため、今後は軍部としての活動にゆだねることにした方がいいだろうな。
追って指示をするから無茶な自警行為は止めておくよう、書き添えておいてくれ。」
「はい、分りました。」
阿蘇は赤城から四角い板を受け取ると、そのまま部屋を出て行った。
またもや強奪行為が始まる・・・、その言葉は俺にとっては衝撃でしかなかった。
俺が向こうの世界でしたことが、全て無になってしまったような感に捉われる。
「さて、我々はどうしたらいいと思う?」
阿蘇がいなくなって2人だけになり、赤城が俺の顔をまじまじと見つめながら問いかけてくる。
いや・・・、どうしたらいいって聞かれても・・・。
「はあまあ・・・向こうの世界から強奪行為を再開するということですけど・・・、こちらの世界の侵攻基地はほとんどが破壊されてしまった訳ですよね。
ですから、どのようにして強奪行為を行うマシンを送り込んでくるのか・・・・、あるいは俺の知らない秘密基地が、未だにこちら側の世界中に存在しているのか・・・、どちらかは分りませんが赤城さんがおっしゃる通り、自警団による妨害行為は得策ではないでしょう。
俺たちがゲームとして強奪行為のガードを行っていた時でも、相手の兵士をターゲットにする場合は1人10ポイントで一般市民は1ポイントでした。
区分けされていた為と、常識的判断で一般人には危害を加えないように気を付けていました。
しかし、今後はその様な配慮はされなくなるでしょう。
少しでも抵抗すれば、一般市民でも容赦なく射殺ということは十分に考えられます。
当面はマシンが来たらすぐに避難するよう指示をして、相手のなすがままにしておくのが被害を大きくしない最良の方策と考えます。
それで東京基地ですが・・・、俺が向こうからモニターしていた段階では全くの無傷で居られたようですが、今でも破壊されずに残っていますか?」
俺は少し思いついたことがあり、確認してみる。
「おっおお・・・君がいた基地だな・・・、あそこは君のマシンが外に出たままでシャッターも半開きの状態だったから、攻撃せずに我々が内部を安全に確認できたはずだぞ。
マシンも装置も破壊せずにそのまま残してあるようだな・・・、なにせ下手に動かして壊してしまってはこまるので、後日、大学の研究機関に調査を依頼しようとしていたところだ。」
赤城が、自分の手帳のメモを見ながら答える。
「そうですか、それでは・・・。」