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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
33/117

攻撃衛星を探せ

5 攻撃衛星を探せ

「よう・・・、地球を周回している衛星の位置情報を掴んだから、知らせに来た。」

 2日後、朋美の部屋に赤城がやって来た。


 朋美が自宅へ連れ帰るということを、彼らに連絡していたのだろう。

 もはや俺と朋美の仲は、周知の事実と言える。


「これを見てくれ・・・。」

 赤城が丸い円の中に、何本ものサインカーブのような波形を書いた図を見せてくれる。


「これらが地球の周りを周回している、恐らくは攻撃衛星と目される衛星群だ。

 観測は望遠鏡による目視観測が主体なので、高倍率の天体望遠鏡を駆使して世界中の天体観測所に観察させたが、余りにも人工物と思われるものが多いため、1m角以上の大きさの物しかリストアップしていないが、全容はまだわかっていない。」


 赤城が示す丸(地球の半球を表しているらしい)は2枚あり、それぞれに航跡が記載されていて、よく見るとサインカーブのように円を飛び出しているものと、8の字を描くように円の中をぐるぐると回っているものもあるようだ。


「これらが攻撃衛星で間違いはないかな?」

 赤城がそれらの衛星の拡大写真を見せてくれながら、俺の顔を覗きこむ。

 どの写真も光の点でしかなく、人工物かどうかも怪しいところだ。


「いくつありましたか?」


「おお、今の所見つかっているだけで1000基以上あるようだ。

 ずいぶんな数だな・・・、但し、先ほども言ったように1m角の大きさの物の数だ。


 中には数十mの大きさのものがあるようだが、大半は数mから1mの大きさという報告だ。

 板状のものが破片のように折れ曲がっているような形状と、予想される物も含まれているようだ。」

 赤城が、特に明るく光を放つ数個の点を示しながら説明してくれる。


「そうですか・・・核弾頭を搭載しているミサイルの大きさですが・・・・、恐らく大気圏外から発射されるわけですから、それほど大きなものではないとは考えています。


 それでも1m角の衛星に詰め込めるというようなことはないと思いますが、念のために全部攻撃対象にしたほうがいいでしょうね。

 残したところで、こちらの社会には何の貢献もしないでしょうから。


 同時攻撃は可能ですか?」

 俺は、前回俺の居た世界を攻撃した時のように、世界中の国々が協力し合えば、全ての人工衛星を一時に攻撃することは、さほど困難ではないだろうと安気に考えている。


「いやあ・・・それがだなあ・・・、大気圏を越えるようなロケットとなると・・・、それを製作できる技術力のある国も限られるし、第一1基当たりの予算が膨大で・・・、さすがにこれだけの数となると・・・。」

 ところが赤城の表情は極めて渋い・・・。


「何機ぐらいなら攻撃可能なのですか?

 少なくとも十メートル以上の衛星であれば兵器を積んでいる可能性が高いですし・・・、なぜならこちら側の世界へわざわざ送り込んできていた訳ですからね。」


 さすがに、1m角の衛星まで危険視するつもりは毛頭ない。

 可能でさえあれば根こそぎ破壊してしまえばと、考えていただけだ。

 攻撃衛星さえ破壊してしまえば観測衛星など残したところで、攻撃を仕掛けてくることは、まずないだろう。


「いや・・・それが全く・・・、大国は国家を上げて宇宙開発をしていて、有人ロケットなども開発しているはずなのだが・・・、そのロケットをミサイル代わりに衛星への攻撃に使用するということには、消極的な様子だ。

 なにせ、ロケット開発には莫大な予算がかかっている訳だ。


 それを本当かどうかわからない、人工衛星と言われている何かわからない目標を破壊することに使うのは、躊躇いがあるようだな。

 莫大な予算を投じて作ったロケットをミサイル代わりに使ってしまうと、打ち上げデータ以外は何の情報も得られないわけだからな。


 しかも、十メートルを超える衛星だけでも数十基見つかっているようだ、これだけの数のロケットを供出するには、製作日数を考慮しても何年もかかるだろう。」

 赤城はそう言いながら、自分の顎を何度も擦る。


「そうですか・・・、まあ、攻撃できなければどうしようもないですね。

 それに・・・本当に俺たちの世界の攻撃衛星がこちら側の世界に来ているのかどうか、確実な所は言えません。

 そう言った可能性もあるということだけで、それを確認する術もないのであれば仕方がないですよね。」


 残念だが、攻撃衛星の破壊はあきらめるしかないだろう。

 技術的な問題もそうだが、自分達の身は自分たちで守ると考えなければ、俺がわいわい騒いでもどうしようもない事だ。


 第一、俺だって元の世界の攻撃衛星がこちら側の世界の軌道上に大量に存在し、今も地上を狙っているなどという確信は持てていないのだ。


 ただ単に大都市が次々と破壊されていると言うことから、そう言った攻撃衛星の事を思い出しただけであり、俺は軍事評論家でも何でもない、ただのゲーマーでしかないわけなのだから、そんな奴の言う事を真に受けて莫大な国家予算を投じたロケットを、ミサイル代わりにするはずもないということだ。


「まあ、そう言ったことだな・・・、せめて、その攻撃衛星とやらの仕様とか特徴が記載された資料でもあればいいのだろうが、なにせ、こちらの世界の最先端の技術力でも、大気圏をようやく越えるロケットを作ることが精一杯の状態だ。


 理論的には軌道上に人工衛星をのせることは可能と言われているが、あくまでも実験段階で成功した訳ではない。

 今後何度も実験して、試行錯誤を繰り返して技術を確立して行こうと言う段階だ。


 そんな中、一足飛びに地球の軌道上にある衛星がどうのと言われても、各国も余り本気で対処しようとはしてくれないようだ。

 特に・・・お隣の国では、君の行為で直接の被害をこうむったことが分っているので、君の処刑が中止されたことを、あまりよくは思っていないようだな。


 日本人である君の処刑を取り止めるために、君への協力要請を盾にしていると思われているのだろう。」

 赤城がますます渋い顔をする。


 お隣の国というのは勿論・・・、中国だろう。

 俺が当初、ただのゲームと思って多くの人たちをシュートしてしまった・・・、その生々しい記憶は俺の脳裏から離れたことはただの一度もない。


 そう言ったことがあったからこそ、俺は元の世界でクーデターとも言える基地の封鎖と、こちらの世界への干渉を妨害する行為に出たのだ。


 本当に申し訳ないと思ってはいるのだが、現実世界ではゲームのようにリセットしてやり直すと言う訳にはいかない。

 自分が行なってしまったことを背負いながら、今後はそれを償っていかなければならないと考えて行動に移したわけだ。


「うーん・・・そうですね・・・、俺は天体好きでも軍事好きでもなかったですから、攻撃衛星がどうのという知識は全くありません。


 ただ単に、子供の頃にそう言った事が何十年も前に行われていたということが、戦争の悲惨さや恐怖を伝える番組で放送していたのを父と一緒に見ていて辛うじて覚えていただけで、その時にはほかにもさまざまな近代兵器なども一緒に紹介されていましたが、どれもうる覚えで・・・。」


 俺はそう言いながら頭を掻く・・・、なにせ攻撃衛星の可能性を示唆したはずなのに、俺はそれに対して何の見識もないのだ。

 どんな攻撃システムを搭載しているとか、どれだけの破壊力があるのかとかどころか、どのような大きさや形かと言ったことすら、全く知らない・・・と言うか覚えていない。(その時に、そのような詳細説明があったかどうかすら覚えていないし・・・。)


「異次元世界からの攻撃に対して、俺たちの世界では向こう側の世界の情報は皆無と言っていい。

 相手の装置を利用して攻撃を仕掛けることにはどうやら成功したようだが、向こうの世界の様子を探る術は一切なく、向こうの世界からやって来た君に頼るしかないわけだ。


 何とかその・・・攻撃衛星とやらの特徴とか見極め方とか、どんな情報でもいいから思い出してくれないか?

 確実に攻撃衛星だと識別ができて、更に攻撃対象が少なくなれば各国の負担も軽減され、試してみようと言う気になるかもしれん。


 なんでもいいから、関係したことを思い出したら連絡してくれ。」

 そう言い残して赤城は帰って行った。



「ただいま・・・、今日、赤城教官が来たでしょ?

 どんな話だった?」


 夕方になり、朋美が病院から帰って来た。

 赤城が今日来ることは、朋美には知らせておいたのだろう。


「ああ・・・、攻撃衛星らしきものをいくつか見つけたと言っていた、しかし・・・。」

 この世界の技術では最新鋭のロケットを、あやふやな俺の記憶でしかない情報だけを頼りに消費するわけにはいかないとして、攻撃を渋っているようだと状況を伝えた。


 もう少し情報が欲しいと言われたが、攻撃衛星に関しての知識はもう何年も前にテレビで見ただけのほんの少しの記憶だから、難しい事も一緒に話しておいた。

 こうしておけば、朋美の口からも困難な状況が伝わるだろう。


 考えてみれば俺が何の気なしに話すことですら、国家というかこの世界全体の防衛と安全につながる情報として、真剣に吟味されるのだ。

 いい加減な記憶だけの情報は、今後は伝えない方が下手な混乱を避ける意味でもいいのだろうな・・・。


「ふうん・・・攻撃衛星だけではなくて、他にも向こうの世界からの攻撃に関することで、何か重要な事を思い出したら赤城教官に報告してね。

 この世界の安全は、ジュンゾーにかかっていると言っても過言ではないわけだから・・・。


 さっ、出来たわよ。」

 すぐに着替えて台所に向かった朋美が、大皿をキッチンに並べ始める。

 今日はオムライスのようだ、付け合せのサラダも緑が多く色鮮やかだ。


「うまいっ・・・、へえ・・・、お店で食べるオムライスみたいだ・・・。」


「そうっ・・・、ジュンゾーの好みにあってよかったわ。」

 一口口にしただけで、ケチャップの程よい酸味が口の中に広がる。

 朋美の作るオムライスは、鶏肉と玉ねぎたっぷりのチキンライスに薄焼き卵をのせたシンプルなものだが、味つけは抜群だ。


 俺はぶつ切りにしたウインナーを沢山いれたケチャップライスで大抵は作るが、チキンライスで十分においしい。

 何より肉が柔らかい・・・、今度ふわふわ半熟卵を作るコツを伝授して更なる進化を目指そう・・・なあんて、ちょっと上から目線か・・・?


<緊急ニュース速報です。

 本日、日本時間18時ころ、世界各地の主要都市が又も未知なる文明から攻撃を受けた模様です。

 攻撃された国と都市は、フィリピンのダバオ、イタリアのベネチア・・・>


 赤城が帰った後、テレビを消し忘れていたようだが、突然のニュース速報に驚く。

 世界10都市の攻撃では収まらず、更なる攻撃が始まったということか?


「うわっ・・・こっ怖いわね・・・、東京も、いつ攻撃されるか・・・逃げたほうがいいかしらね。」

 朋美が急いでソファーへ移動し、ニュースに耳を傾ける。


 食卓の俺の席からは斜めにはなるがテレビ画面が丁度みられるので、俺はオムライスを頬張りながらテレビ画面を見つめる。


<世界政府は、今回の攻撃も前回同様、我々の世界から強奪行為を・・・>

 アナウンサーが世界政府とやらの、今回の攻撃に対する見解を読み上げる。


 やはり俺の居た世界からの報復とみているようだが、何か具体的な証拠でもあるのだろうか。


 朋美に聞いた話では世界政府と言っても、地球上の国全てが1つの国としてまとまったと言う訳ではなく、俺がいた世界の国連のようなものがもう少し強力になり、地球という星を守るための環境保護や動植物保護及び人権問題など、重要項目に於いて世界共通の法整備を行っている機関ということのようだ。


 勿論、各国代表者が世界政府の役員となり議論を戦わせて、なるべく各国の負担に対して平等・公平になるよう検討しているということのようだ。

 どんな小国からも必ず議決権のある役員が派遣されて、議決が不公平にならないよう配慮されているらしい。


 もちろん人口比率により派遣する役員人数など検討されているのだろうが、こんな組織があるのであれば、攻撃衛星の破壊に関しても、ツルの一声みたいに各国に指示してもらえたらありがたいのだが・・・。


『ジリリリリリ・・・ジリリリリリ』突然、部屋の中に非常ベルが鳴り響いた。


「なっ・・・なんだ、どうした?」

 俺が慌てて立ち上がろうとすると・・・


「プっ・・・どうしたの慌てて・・・、電話のベルよ・・・。」

 朋美が、俺があまりに慌てふためいているのを見て、思わず吹き出しながら部屋の入り口付近へ向かい、そこにあった黒い鉄アレイのようなものを持ち上げる。


「はい・・・はい・・・、ええっ・・・・随分急ですね・・、はい・・・分りました、着替えて待っていてもらいます。」

『チンッ』朋美はそう言うと、手にしていた黒いアレイを元あった場所に戻した。


「赤城教官からの電話で・・・、ジュンゾーに急いできてほしいんだって・・・。

 これから迎えにくるそうだから、着替えて待っていて欲しいって、大丈夫?」

 朋美が俺の方に振り返って話しかけてくる。


 ふうむ・・・あれは電話機なのか・・・?そういや、あの辺で朋美が何か話し込んでいるのを見た記憶がある・・・、こちらの世界では、まだまだ小型化や携帯化もされてはいないと見える。

 恐らく先ほどまた世界の都市が攻撃され始めたので、俺の意見を聞こうと言うのだろう。


「分った、準備する。」

 俺はすぐに朋美から渡された服に着替えはじめた。



サブタイトルに第〇話と連番を記載していたのですが、不要と分かり削除いたしました。

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