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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
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こちら側の世界の様子

4 こちら側の世界の様子

「あれ?もうこんな時間?話し込んでいると、時間が経つのが早いわね・・・・、すぐに晩御飯の支度をするわね。」

 朋美がふと部屋の奥の方に目を向けた後、あわてて台所へ向かっていった。


 奥の部屋へ向かう扉の上に丸い壁掛け時計が掛けられていて、針は6時を指している。

 そうか・・・ふと窓へ目をやると、もう真っ暗だ・・・。


「悪いね・・・俺も手伝うよ・・・、こう見えても自炊歴が長いから野菜を切ったりするくらいなら・・・。」

 俺も気づいて一緒にキッチンへと向かう。


「いっ・・・いいわよ・・・、男の人が台所に立たれると、かえって恐縮してしまうわ。

 ジュンゾーは料理ができるまでソファーに座って、テレビでも見ながら待っていて。」

 そう言いながら朋美は俺をソファーへと追いやり、テレビをつけてくれた。


 少し間を置いて映りはじめたテレビ画面では、何やらお笑い番組のような放送をしているようだ。


 画面に合わせて大きな笑い声が聞こえてくる・・・、が、どうにもこの時代と俺の感性が異なるのか、言っていることを聞いても笑いがこみあげてくることはない・・・、時代ごとに笑いのツボが異なるのか、あるいは次元の違いの依るものか・・、自然とテレビ画面から目をそらしふと見ると、朋美がキッチンでてきぱきと動きながら料理をしている・・・、その光景を見ているだけで、なんだかうれしくなってくる・・・、そう、あの憧れの朋美と、今はひとつ屋根の下で暮らして行こうとしているのだ。


 本当に俺なんかでいいのだろうか・・・、朋美はあくまでもこちらの世界の俺の彼女だ・・・、俺はこちらの世界の俺と恐らく遺伝子的には変わらない存在なのだろうが、しかし育った環境も微妙に異なるだろうし、何よりもこちらの世界の俺はスーパーマンのような存在だったようだ。


 それが・・・、俺の居た世界の俺は逆に人より劣る生活をしていた訳で・・・、そんな俺が、ただ単にジュンゾーというだけで朋美と一緒にいてもいいのだろうか・・・、ただ単に生まれ持った資質が同じというだけの理由で、彼女を幸せにできるはずはないと何度も何度も自分を諌めているのだが、かといって彼女の元を離れる気には到底ならない。


 何より彼女が悲しむ・・・、本当に悲しいのかどうかわからないが、とりあえず彼女は俺が遠慮がちに振る舞うことを嫌うようだから・・・、という自分に都合の良い解釈をして、すがり付こうとしている。

 所詮俺はこちら側の世界のジュンゾーの代用品でしかないとわかっているのだが、それでも構わないから彼女と一緒にいる道を選ぼうとしている自分がいる。


「はーい出来たわよ・・・、今日はジュンゾーの大好物のハンバーグよ。」

 食卓には大皿に盛られた、大きめのハンバーグがおいしそうに湯気を立てている。


「へえ・・・、うまそうだ・・・。」


「実際にもおいしいから、たくさん食べてね。」

 朋美は嬉しそうな笑顔で、これまた山盛りのご飯を少し大きめの茶碗によそってくれる。


「うん・・・、本当にうまい・・・。」

「そう・・・、よかったわ・・・。」


 朋美の料理は本当に俺好みというか・・・、まあ大抵の人はうまいと褒めるだろうと言えるくらいうまい。

 味付けも濃くもなく薄くもなく丁度いい塩梅で、更に焼き具合もいいのか、ハンバーグに箸を入れると肉汁があふれ出してくる。


「ジュンゾーはやっぱりジュンゾーだよね・・・。」

 突然朋美がくすくすと笑いながら、おかしなことを言い始める。


「だって・・、ハンバーグって洋風料理でしょ?

 だから普通はナイフとフォークを使って食べるけど、ジュンゾーは箸を使って・・、しかもごはんは茶碗でっていっつも・・・そうだから。」

 朋美はなぜかわからないが、俺の仕草を見てうれしそうだ。


 こちらの世界はどうか知らないが、俺の居た世界では最早ハンバーグは日本国民定番の料理であり、準和食と言ってもいいと俺は思っている。

 和風ハンバーグなるしょうゆベースのソースや出汁ベース、更には大根おろしソースを使ったものがあるくらいだからすでに和食なのだ。


 だからハンバーグは箸を使ってごはん茶碗で食べるのが普通と、違和感を全く感じていなかったのだが、こちらではハンバーグは洋風料理の認識か・・・。


 そう言えば朋美は、俺に箸とごはん茶碗を渡したくせに、自分ではナイフとフォークを使っていて、ご飯も皿に盛っているようだ・・・、ハンバーグのサイズも俺の半分くらいしかなく、付け合せの温野菜の方が多いくらい。

 恐らく俺が違和感を覚えて指摘をすれば一緒にしてくれたのだろうが、俺自身何も感じずに食べ始めていた。


 まあいいか・・・、こんなことで朋美が喜んでくれるのであれば・・・彼女の言葉に心を痛めながらも、それでも彼女の笑顔を見られるのであれば、それをうれしいと思うことにする。


「ふうっ・・・一杯食べたわねえ・・・、やっぱり一人で食べるより2人で食べる方がおいしいわ。

 それにジュンゾーが手伝ってくれたから、洗い物が早くに済んでよかった。」

 一緒にソファーに腰かけてくつろぐ朋美が、至極うれしそうだ。


 俺の性分としてじっとしていられず、無理やり手伝うと言って洗い物を引き受けたのだ。

 最初は断っていた(恐らく乱暴に扱われて食器が割れることも心配していたのだろう)が、俺があまりにしつこいものだから根負けしたようで、洗い物の水滴をふき取る役を仰せつかったのだ。


 別に遠慮して手伝うと言った訳ではない・・・、その気持ちは勿論あるが、俺はこの世界の俺とは違う俺ということを少しでもアピールできればと、手伝いを押し売りしたのだ。

 いずれ折を見て、俺が作る肉団子やロールキャベツなども振る舞いたいと、心ひそかに思い描いているくらいだ。

(うまいかどうかの保証はできないが・・・)


「こちらの世界では、天皇家は国の王ではなく象徴でしかないのよ。

 昭和の天皇様がご自身でお決めになり、国民は全て平等で国民主権だっていって政権を明け渡されたのね。


 そうしてご自分は退位なされると言っていたらしいんだけど、国民みんなの願いで天皇家は日本という国の象徴として残ることになったのよ。

 向こうの世界はどうなの?」

 こちらの世界の状況を聞いていると、朋美が突然話を向けてきた。


「あっああ・・・、お、俺の居た世界でも天皇は日本の象徴として、主権在民っていって選挙で総理大臣や国会議員及び地方議員を選ぶ形だね。

 但し日本が戦争に負けて、連合国の指導により行われたようだけど・・・。


 ふうん・・・理由はどうあれ、同じような事がどちらの世界でも起きているということだよね。

 だからかな・・・時代の違いは感じさせられるけど、どこか懐かしい感じがして・・・、全く違う世界という感じがしないのは。


 俺の居た世界ではジェット機がバンバンと世界中を飛び交っていて、格安航空会社なんてのも出来て手軽に海外旅行なんて出来ていたけど、こちらの世界もそうなのかい?

 それとも異次元からの侵略行為の防衛の為、それどころじゃなかったかな。」


「そうね・・・強奪される分の食料は年々増加して行って・・・、私たちの世界の食料供給量の実に2割近くになっていたのね。


 どの地方でもその分は大目に収穫するようになって、被害分は政府が肩代わりすることで補っていたので、農家の人も損をするわけではなかったけど、でもやっぱりその分は食料品の価格の高騰へつながっていたわね。

 国によっては食糧不足から出産制限をするようなところまで、出始めていたわ。


 このまま続けば強奪量は、いずれこの世界の食料供給量の半分近くにまで増加するだろうって予測されていて、何とか阻止しなければならないっていうことで、自警団の活動がますます重要視されていたのね。


 でもまあ・・・、そう言ったことはマシンに対して戦闘行為を仕掛ける自警団だけの事で、私の同僚の看護婦仲間なんか、長期休暇の際は北海道や九州などへ旅行に行ったりしているようよ。

 でも・・・ジェット機・・って、マッハで飛ぶとかっていう乗り物の事?


 そう言った飛行機は今開発中で、近々就航予定ってたまに航空会社のテレビコマーシャルで言っているけど、普通飛行機っていうと、大きなプロペラが付いた飛行機よ。


 でも、そっちの方が安心でしょ?あんなジェット機っていうの?羽だけで空を飛ぶなんてちょっと怖いわよね、プロペラを回して風を起こして飛ぶのがふつうでしょ?」

 朋美が不思議そうな顔をする。


 ああ・・・ジェット機っていうのは羽の下についているジェットエンジン・・・、プロペラ機の羽よりももっと強力に風を吸いこんで勢いよく送り出す機構が・・・、ってまあいいか・・・。


「ふうん・・そうかあ・・、やっぱり何十年かは文明の発展に違いがあるようだね。

 やはり戦争の影響が大きいのだろうかな・・・、でも、この世界にもかなり昔から地下鉄は走っていたよね。

 俺が次元移送された地下から出てくる時に、地下鉄の廃線を通って出てきたから知っているよ。」


「ええ・・・地下鉄は東京だけではなくて、日本の主要都市には皆あるわよ。

 昔東京でオリンピックが開催された時に、高速道路や山手線などの電車と地下鉄網も整備されたって、お父さんやお母さんが言っていたわ。


 その後、全国へ展開されたのね。

 新幹線っていう、時速200キロで走る高速鉄道もあるのよ。」

 朋美が自慢げに胸を張る。


 どうやら、部分的には俺の居た世界とさほど変わらない点もあるようだ。

 まあ何かの本で読んだことがあるが、地下鉄なんていうのは随分歴史が古くて、蒸気機関車の頃から地下を走っていたらしいからな・・・、こちらは戦争関係なしに進歩し得たのだろう。

 オリンピック開催に伴い、国内の移動手段が整備されると言うのも、俺の居た世界と同じだったような気がする。


「まあ、俺たちの世界ではバーチャルリアリティって言って、スキーのゴーグルのようなものを掛けると、そこに映像が映し出されていて、リアルなシューティングゲームとかも体験できたけど、何よりその地方の景色を記録してみることができるサービスがあった。


 別に列車や飛行機に乗って現地まで行かなくても、その地の景色や歴史的遺産の中へ入ってみて回ったりも出来た。

 何より便利なのは、季節によって異なる景色なども短時間で味わうことができたことだ。

 しかも、居ながらにしてね。


 だから、実際に旅行で現地へ行く目的の大部分は、観光地を巡って景色や文化遺産を見るより、もっぱらグルメ・・・食べる方が主体となっていたようだなあ。


 それだって、東京なんかじゃ世界中の国の料理店があったし、冷凍技術が進んで世界中の食材が簡単に手に入るようになっていたから、外国や地方に行かなくても食べ回ることも可能だったけど、ツウに聞くと、おいしい食べ物に巡り合うと、やっぱり本場の味を食べて見たい気になるって言っていた。


 だから、そう言ったVRの技術や食の技術がどれだけ進んでも、やっぱり旅行に行く人はたくさんいたね。」

 俺はどちらかというとインドア派の方だったし、グルメとかにもあまり興味はなかったので海外旅行には行かなかったが、知り合いの中には世界中の大陸を巡ったとか言うやつも多数いたからな。


「ふうん・・・、バーチャル・・・?なんとかってよくわからないけど、こっちの世界でも冷蔵庫は普及しているから、お肉や魚なんかまとめて買って冷凍して置いて、解凍して使うわよ。

 でも・・・、東京の町に世界中の料理のレストラン・・・っていうことまでは、進んでいないわね。

 何より、主に食料を強奪されていたから、どこの国も食材の輸出なんか、ほとんど出来ていなかったでしょうね。」


「そっそうか・・・俺たちの世界の強奪行為が、こっちの世界を苦しめていたことは本当に申し訳なかったと思う。

 そうして今また世界の都市を攻撃し始めたと言うし・・・、俺にできることは何でも協力するつもりだ。」

 俺はソファーから立ち上がり、頭を下げる。


 ううむ・・・、俺たちの世界が飽食気味でいられたのも、全てはこちらの世界の犠牲の上に成り立っていたのだ。

 地球上に百億もの人がひしめいていたのに、充分な食料が供給されていたということを、もっと不思議に感じなければならなかったのだ。


「なあに?突然・・・、強奪行為だってジュンゾーが悪い訳ではないのでしょ?

 向こうの世界の偉い人たちが、国民に内緒でやっていたことなんでしょ?


 だったら仕方がないわよ・・・、でも、新たな攻撃は何とかしなければ、ここ東京だっていつ爆撃されるか分らないから不安だわ。」

 朋美が俺を慰めてくれ、そうして新たな命題をくれる。


 そう、何としてでも向こうの世界からの爆撃を止めねばならないのだ・・・。

 だが、今の俺に何ができるというのか・・・、じっくり考えていかなければならないだろう。


「じゃあもう遅いから、そろそろ寝るとしようか・・・。」

 風呂を使った後も、こちらの世界と向こうの世界の事を説明しあっていたら、随分と遅くなってしまった。

 朋美の胎教の事もあるから、早々に寝ることにしよう。


「ああそうね・・・、あっあの・・・、ジュンゾーとは一緒のベッドで寝るけどその・・・、おなかの赤ちゃんが驚いたら困るので・・・、その・・・。」


 突然朋美がもじもじと、恥ずかしそうにうつむきながら何か話そうとしている。

 俺が寝ようと催促したもので、もしかすると辛抱できなくなって、朋美を求めていると勘違いしているのかもしれない。


「あっああそうか・・・、勿論、大丈夫だよ。

 当分の間、俺はこっちのソファーで寝させてもらうよ。」


「えっえっ・・・、そんなつもりで言ったんじゃないのよ。

 一緒のベッドで寝ることは全然かまわなくって、私もジュンゾーが隣にいると安心して眠れるし、だから・・・。」

 朋美は焦って、俺と一緒にベッドで寝ることが嫌という訳ではないと、言い繕おうとする。


「いやあ俺は寝相が悪いから、朋美のお腹を蹴ったりしても困るからね。

 少なくとも安定期になるまでは、ソファーで寝させていただくよ。」

 俺は、朋美の誘いをなるべく明るく断る。


「そっそう・・・?」

 朋美が上目づかいで、寂しそうに俺の顔を眺める。


 遠慮しているつもりはないが、朋美との関係がはっきりとするまでは、ジュンゾーという立場を利用することは避けるつもりでいる。


 しかし、朋美の事をあきらめたつもりは毛頭ない・・・、なにせいきさつはともかく、彼女と俺はひとつ屋根の下で暮らすのだ。

 これを利用しない手はない・・・、今の種馬のような存在から朋美の恋人へとなり上がろうと決意した。


 なにより一緒のベッドに寝て、おとなしく我慢できるかどうかも自信がないところだし・・・。



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