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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
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いきさつ

3 いきさつ

「お腹すいたでしょ・・・、すぐに作るから待っていてね。」

 彼女はいつものように俺をソファーに座らせると、すぐに台所へ向かう。


 そう言えば、朝から取調室に籠っていて何も食べていなかった。

 もう昼か・・・、腹も減るはずだ・・・。


「お待たせ・・・、急いでいる時は、これが一番よね・・・。

 おいしそうでしょ・・・。」


 彼女が運んできたのは、ラーメンどんぶりに入ったインスタントラーメンであった。

 肉と野菜を炒めたものが、上にのっている・・・。


「うまい・・・。」

 思わず口をついて言葉が出る・・・、何と俺が好きなメーカーの味噌ラーメンの味だ。


「そう?よかったわ・・・、病院の同僚看護婦に教えてもらって、買って来て見たのよ。

 すごくおいしいラーメンが出たって言っていたから。」

 彼女も笑顔で答える・・。


「これって・・・サッ○ロ○番の味噌ラーメンじゃないのか?」

「ええっ・・・・。」

『ダダッ・・・』彼女はすぐに箸をおいて、台所へと駆け込む。


「すごいわね・・・大当たりよ・・・、どうして知っているの・・・?

 新製品で、まだ出たばっかりだって友達は言っていたわよ。

 警察病院じゃ、食事にインスタントラーメンは出なかったでしょ?」

 彼女は、インスタントラーメンの袋を持ったまま、茫然としている。


「ああ・・・・、俺は独り者の生活が長いからね・・・、インスタントラーメンは作り慣れている。

 それにこのラーメンは俺が一番好きなメーカーの、しかも一番好きなみそ味だ。

 もちろん向こう側の・・・、俺がいた世界での話だ。


 久しぶりに食べることができて、大感激だよ・・。」

 俺は汁まで残さず完食したあと、笑顔で答える。


「へえ・・・、向こうの世界のラーメンと同じって事でしょ?

 次元が違っても、同じメーカーが同じラーメンを作っているということなの?・・・なんか不思議・・・。」

 朋美が食卓に戻ってきて自分も食べ終えると、食器を片づけながら、それとなしに呟く。


「確かにそうだね・・・、こっちの世界では世界大戦もなかったし、時代背景もかなり違っているようだ。

 テレビなどの電化製品や外を走る車の様子を見る限り、俺が歴史の授業で習った、俺たちの世界では昭和という時代の、それも相当前の方の時代の様子に似ていると感じている。


 こちらの次元の方が、時間の流れがゆっくりと流れているような感じがしていた。

 だが、この世界にも俺がいたし、そうして朋美・・・、君もいる。


 科学文明の流れに差はあるようだけど、時間は同じように流れているということだろう、そうして同じ境遇の人間はどちらの世界にも存在するのかもしれない。


 だから遅かれ早かれ、似たようなものが発明され普及して行く・・・、インスタントラーメンなどがそうなのだろう・・・・、他にレトルトカレーとかインスタントコーヒーとか無いかな?」


「ああ、あるわよ・・・、忙しい時にはレトルトカレーは本当に便利よね・・・。

 コーヒーは、インスタントしか飲まないし・・・。」


 朋美が、嬉しそうに相槌を打つ。

 何と今度は、つまみと酒を持ってきた・・・、いいのか真昼間から・・・?


「やはりそうか・・・、但し、俺がいた世界は世界大戦とやらで東京は大空襲にあい、焼け野原と化したらしい。

 その後、大半の建物を立て直したし、地方から東京へとたくさんの人たちが移り住みに来た。

 だから、そう言った人の移動により、出会える人と出会えなかった人がいるだろうから、俺の居た世界とこちらの世界で、全員同じ人がいるということにはならないだろう。


 まず第一に、人口が何倍か違ったしね・・・。

 俺の父親の実家は代々江戸時代からこの辺を地元とする地方の名士だったらしいし、母親もこの近くが地元だ。

 だから俺は、どちらの世界にもいたのではないかと考えているが、朋美もそうなのかい?」

 そう言えば、朋美の家族などに関しての話を聞いたことがなかった・・・。


「私は・・・私の両親は誰なのか・・・私は知らないのよ・・・、生まれたばかりの頃に、この近くに捨てられていたから・・・、ジュンゾーと出会ったゲームセンターの前に捨てられていて、近くの孤児院で育てられたの。

 朋美って言う、名前の書かれた紙切れが1枚付いていたらしいわ。


 だからよくゲームセンターに顔を出したわ・・・、いつか私の両親が現れないだろうかって考えて・・・、例え現れたとしても、お互いに顔を知らないから分るはずもないのにね・・・。


 だからかな・・・、私は園の名前の榛名と朋美で、榛名朋美って名前にしてもらったの。

 その名前だったら、もしかしたら私の両親も気づいてくれないかなって思っているのよ。」

 朋美が少し恥ずかしそうにうつむく。


「そっ・・・そうだったのか・・、知らなかったと言え・・・大変失礼な質問をした・・、申し訳ない。」

 しまった・・・、またまた彼女を傷つけてしまった・・・、だから俺は女性にモテないのだろうなあ・・・、相手の事情も知らずに何でも口に出してしまうから・・・、こういった微妙な話は、それとなく探り探り行かなければならない話題なのだ・・。


「いいのよ・・・私は私の過去に対して、コンプレックスを持っている訳ではないから・・・、でも・・・・一人はいや・・・、一人ぼっちは嫌なの・・・。


 折角できた家族と思っていたジュンゾーは、居なくなってしまって・・・、もし生きているのなら、どんなことをしても絶対に私の所へ戻ってくるって、そう信じて毎日彼の帰りを祈っていたの。


 でも半年も音信不通で・・・、多分ジュンゾーは異次元世界の敵に殺されてしまったんだって・・・あきらめかけていたの・・・、そうしたら突然ジュンゾーが戻ってきて・・・、敵の拷問にあって記憶を失ってしまったけど、ジュンゾーに間違いはなかった。


 でもジュンゾーはジュンゾーでも私のジュンゾーではなくて、異次元世界のジュンゾーだってわかったのね・・・、それを知って私のジュンゾーは本当に死んだんだって改めて理解したわ。


 そうして思ったの・・・、ここにいるジュンゾーは私が一人ぼっちにならないように、ジュンゾーが送り届けてくれた、もう一人のジュンゾーなんだって・・・、向こうの世界の事を全て話せば解放してくれるっていう言葉を信じて、話を聞きだそうとしたのよ。


 でも、そのジュンゾーは、こちらの世界から強奪を続けていた首謀者の一派で、当然の事のように死刑を宣告されてしまったわ・・・、それがこの世界の法律なんだから仕方がないんだと思っていたの。


 ところが、もうあきらめていたら死刑が執行される前に中止になって・・・、楽しかった生活が一瞬で奈落の底に突き落とされた、と思っていたら又光が差し込めてきて・・、でもそれは本当に束の間でしか無くて・・・、すぐにまた不幸な時がやって来たと思ったら・・・また復活して・・・って、このところの毎日が目まぐるしく変わるものだから、私ももうどうしていいものか全く分からないのよ・・・。」

 なんだか彼女が愚痴り始めた様子だ・・・、ふと見ると手には徳利が・・・まずい。


「お腹の中に子供がいるのに・・・、お酒はまずいんじゃないかな・・・?」

 なるべくやさしく諭しながら、彼女の手から徳利を受け取ろうとする。


「お酒・・・?お酒なんか飲んじゃいないわよ、これは・・・ジュンゾーに注ぐために持っているだけです!

 ほら・・・飲んで・・・、今日はお祝いでしょ?

 たくさん飲んでいいから・・・、ここへ来たくないなんて言わないで・・・。」


 なんと彼女は涙ぐんでいるではないか・・・、やはり、ここへ来た時に俺が言ったことを気にしているのだろうか・・・。

 それにしても・・・どう見ても酔ったように見えるのは・・・、お酒の臭いだけでも酔ってしまうほど彼女は酒に弱いのだろうか・・・。


「おっ・・・・俺は朋美の事が本当に好きで・・・、いや・・・これは愛だ・・・愛している・・・、だが朋美はこちらの世界の俺の恋人だったわけで・・・、朋美が俺を見ているようでいて、実はこちらの世界の俺の事を想っているだけだったとしたら、それは俺にとって非常につらい事であって・・・・、だからこそ、それを確かめたいと考えてしまって・・本当にすまない・・。」

 俺は少し恥ずかしかったが、自分の気持ちを素直に話し深く頭を下げる。


「確かに私はこちらの世界のジュンゾーと恋人同士だったわ・・・、それは紛れもない事実だし、今でも彼の事を愛していると思うわ。

 でも彼は死んでしまったんでしょ?もう戻ってこないんでしょ?


 その覚悟は、彼が自警団のリーダーとして活動している時から常にしていたのよ。

 そうして今この場にいるジュンゾーの事も私は大好きよ・・・、好きじゃなきゃ入院していた時の看護だってしなかったし、第一部屋に連れてきたりなんかしないわよ。」


 朋美がきっぱりと告げる・・・それはそうだ・・・言われてみれば・・・、だが、こっちには、そう簡単には割り切れない事情というものがあったのだ。


 それでも彼女の言うことは尤もだ、死んでしまったこちらの世界の俺の事を、いつまでも引き合いに出すのはどうかしているということだ。

 俺は俺として、彼女と接して行くのがいいのだろうが・・・。


「分った・・・、こちらの世界の状況は似ているようで向こうの世界と法律からして違うから、俺が今後どのような処遇に立たされるか、全く予想がつかない。


 だが無事生きていられる限り、刑務所に収監されずにこうやって普通に生活していける限り、俺はずっと朋美と共にいるつもりだ・・・、というか、こちらの世界では朋美以外の知り合いもいないし・・・、ああっと朋美とだって、つい最近知り合ったばかりではあるんだが・・、迷惑ばかりかけることになるとは思うが、よろしくお願いいたします。」

 そう言って俺は、立ち上がって深く頭を下げる。


「う・・・うん・・・、うれしい・・・ずっと一緒にいてね・・・。」

 朋美は涙ぐみながら俺を椅子に座らせると、おちょこに酒を注いでくれた。


 その後、朋美の孤児院での生活の事を色々と聞いた。

 孤児院はまだ近くにあり、朋美もちょくちょく顔を出すそうだが、心優しい老夫婦が運営していて、朋美はそこから看護学校まで行かせてもらって、今は看護婦として病院勤めをしているらしい。


 負担を減らすためにアルバイトをしたり、奨学金を貰ったりと楽な生活ではなかったはずだが、そんなこと一言も話さずに、自分は本当にやさしい父さんと母さん(孤児院では運営していた老夫婦をそう呼ばせていたらしい)のおかげで、しっかりと勉強ができたと話してくれた。


 俺も今度、朋美が育った孤児院へ連れて行ってもらう約束をした。

 俺も自分の両親の話を概略話して見たが、朋美はただ頷いて見せるだけで、あまり意外そうな顔をしなかったところを見ると、こちらの世界の俺とほぼ境遇は同じだったのだろう。


 それでも俺はだらだらと、だらしなく定職にもつかずに、ろくでもない生活を長く続けていた(就職できなかったのは、決して俺が望んでいた訳ではなく、成り行きで仕方がなくではあるのだが・・・)、にもかかわらず、こちらの世界の俺はスポーツ万能で、徴兵された後も除隊せずに軍に残り、そうして異次元からの侵略を受け始めた時から故郷の自警団のリーダーとして、敵と戦っていたのである。


 生まれ持った資質に違いはないはずなのだが生活環境の違いなのか・・・、あるいは俺もやればできる子だったのか・・・?、似ている点と言えば、風貌の外はどちらもゲーム好きで、ゲームに関しては人並み以上の力を発揮するということくらいで、それ以外の俺はこちらの世界の俺の足元にも及ばない小さな存在だ。


「異次元からの・・・というか・・・、俺がいた世界からの侵略・・・、毎日食料品などをロボットを使って市場やスーパーマーケットから奪っていく行為は、全世界規模で突然始まったのかい?」

 俺は、こちらの世界での強奪行為の状況を、今一度詳しく聞いてみることにした。


 よく考えてみれば俺は、強奪行為の当事者と目されている割に、実際の行為の成り立ちとか背景とかはまったく知らされていない。

 半年間ほどの強奪行為の・・・、しかもごく一部に何も知らされないまま(これは俺として強調したい部分だが・・)加担させられただけである。


 被害者であるこちらの世界の住民に聞いてみると言うのも変な話ではあるが、他に聞く当てもないのである。

 こんなことなら裁判の時にこちらからも質問してみればよかったと、今では反省している。


「うーん・・・・どうだったかなあ・・・、あんまり覚えてはいないけど・・・、たしか・・・未確認飛行物体?UFOとかいう・・・、それが世界中で頻繁に目撃されるようになってから・・・という風に説明されていたはずよ。


 私が子供のころからだから・・・20年以上前からよね・・・、突然空に大きな飛行物体が現れて上空を飛び回った後に、突然消えるっていう目撃情報が頻繁に起きて、たまにカメラを持った人がいる時は写真に納められたりして・・・、でも、強奪マシンのようなまあるい形ではなかったわよね。


 もっと大きな、円盤型とか葉巻型なんて言われている形のUFOだったわ。

 突然牧場の牛や羊・・・、あるいは養豚場の豚や養鶏場の鶏など知らないうちに大量に消えて見たり、その頃からそう言った怪現象が起こるようになったの。


 そんな怪現象が段々と都市部近郊でも起こるようになってきてUFOの目撃情報自体は、もっとずっと前からあったようだけど、世界規模で、しかも大都市上空で頻繁に目撃されるようになったのは、その頃からだったわね。


 日本でも東京や大阪など大都市で多くの人たちの目撃情報があったから・・・、宇宙人が遠く銀河の果てから地球侵略にやって来ただの、あるいは友好的な宇宙人で交流したいだなんて色々言われていたけど、誰も宇宙人と出会えたわけではなかったわね。


 そのうちに宇宙と交信をしてUFOを呼び寄せるなんて人も現れたり、円盤に連れ攫われたなんて人も出たようだけど、事実かどうか分らなかったわ。

 そうこうしているうちに・・・5年ほど前からかしらね・・・突然始まったのよ、世界各地での強奪行為が・・・。


 いつの間にか、それ用の基地までできていて・・・、いつどうやってその基地ができたのか、誰も知らないうちに周りの建物と同化するように、侵攻基地が世界中至る所にできていたんだって、ジュンゾーが言っていたわ。

 最初は銃も何も持ってはいない、ただ力だけは強い丸い球体が、スーパーなどから無理やり食料品を奪っては、遥か上空彼方へ消えて行って、どこへ行ったのかも判らなかったわね。


 そのうちに侵攻基地の場所も何とか目撃情報を繋ぎ合わせたり、発信器を送り込んだりして何とか発見して、自警団が基地を攻撃し始めたの。


 私たちの食料を何も言わずに奪っていくのだから、相手が何者か分らなかったけど敵よね・・・、宣戦布告もされてはいないからやりにくいだの、異星人の場合は下手に逆らうと全滅させられるだの色々憶測が飛んで、各国の軍隊は手を出せなかったから、政府直結の軍隊ではない自警団がその対処に当たることになったのね。


 自警団であれば見かけ上は市民活動だから、自分たちの生活を守るための市民の自主的活動として、例え圧倒的武力で打ち負かされた時でも、和平交渉時に言い訳できるって思われているようだって、これもジュンゾーが・・・。

 それでも実際の軍隊から武器や兵器、車両など供給されて戦っていたから、戦争と何ら変わりはしなかったわね。


 侵攻基地の周辺は自動防衛装置が張り巡らされていて、その状況を探るだけでも多くの人たちが犠牲になったわ。

 それでも何とか弱点を見出して、それぞれの基地を攻略しかかったところまでは行ったのよね・・、8ヶ月前くらいかしらね・・。」


 朋美が、思い出しながらこれまでのいきさつを話してくれる。

 元々は巨大な円盤を使って郊外で直接家畜などをさらったり、農作物を直接田んぼや畑などから盗んでいたのが段々と追いつかなくなり、都市部でしかも効率よく調達しようとし始めたのだろうな。


 その後、世界各地で基地が陥落しかけたから危機を感じて、自動機での防衛から俺達のようなゲーマーを雇って、人によるガードロボットの操作に切り替え始めたということなのだろう・・・。



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