協力
2 協力
「わ・・・わかった・・・、何とか・・・出来るとは限らないが・・・、出来る限りの努力をしてみよう。
すまないが、さっきの・・・、赤城とかいう人をもう一度呼んでくれるかい?」
自分の命が助かるため・・・というよりも、朋美の・・そうして生まれてくる俺達二人の子供の為にあがいてみるとするか・・・、うまくいく確証はないが何もしないよりはいいだろう。
「分ったわ・・・。」
『ガチャッ』彼女はそう言うと、すぐに部屋を出て行った。
「おうおう・・・やはり女の力は絶大だねえ・・・、あんなに頑なに拒んでいた奴から協力を得られるようになったわけだからな・・・。」
白髪交じりの中年男性は、大声で笑顔を浮かべながら部屋の中に入って来た。
「最初に言っておきますが、何も俺はもったいぶって協力を拒んでいた訳ではありませんよ。
何度も説明した通り、向こうの世界で行っていた強奪行為に関して俺に知らされていたことは皆無であり、俺が検証して掴んだ事実もほんの一部でしかないわけです。
さらに今この世界が核攻撃されているという事実に対して、その様な兵器がどこにどのように存在していたのかだって、全く分かりません。
それなので協力したくても出来ない・・・とお答えしたわけです。
だが彼女と話して少しだけ気持ちが変わりました・・・、分らないなら調べて・・・そうして出来る限りの知識を使って分析しようと考えたわけです。
そこまで、この世界がせっぱつまっているとは、予想していなかっただけです。」
俺は厭味ったらしく笑みを浮かべる赤城という人物に、段々と腹が立ってきた。
「そうか・・・すまなかったな・・・、気持ちの行き違いというやつだな・・・。
こちらの人間は当たり前の話だが向こうの世界・・・、つまり君がいた世界の事だが・・・、そこについて何一つ知らない。
だから、どんな些細な情報でも欲しがっている訳だ・・・、例えば科学力はどれくらい進んでいるのとか・・・、なにせ次元を超えてこちらの世界へ干渉してくるくらいだものな・・・、想像もできないくらいの科学力だ。
こちらの世界では次元どころか大気圏を越えるのも精一杯で・・・、ようやく人工衛星っていうの?地球の周りの周回軌道に、ものを打ち上げようと計画がされたところだ。
それにより、常時地上の天候などを観測できるようになるらしい。
今の所、日本で言えば富士山頂の観測所が、関東から中部地帯一円の天気予報観測の拠点だからな。
これでは大きな台風など、どうしても上陸間際にならないと観測できないから、被害が甚大になってしまう。
1日でも2日でも早く予報するためには、遥か上空からの観測が重要らしい。
君のいた世界ではどうだった?」
赤城は俺の不機嫌な気持ちに気づいたのか、至極真剣な表情になり、こちらの世界の科学の発展状況を説明してくれる。
「そうですか・・・、俺たちの世界では人工衛星はもとより、人類は月どころか火星へも進出はしています。
と言っても、ただ行って帰って来るだけで精いっぱいで、月や火星に基地を築くとか、あるいは鉱物資源を調達するとか、そこまでのレベルではありませんでしたけれどね。
膨大な距離があるために、その往復だけでも莫大なエネルギーが必要となるからですが、なんども往復することにより、1回当たりのコストも下がって行き、民間規模の宇宙旅行というのも実現されていました。
宇宙ステーションも作って、常時宇宙空間に人が滞在もしていたはずです。
俺が考えるに・・、恐らく宇宙へ飛び出して火星へ行くよりも、次元を超えて別の世界へ干渉するコストの方が、安いのだと思います。
だからこそ、別次元の世界から強奪をしようと計画したのではないのかと考える訳です。
ですが、それとは別に・・・そうか・・・、人工衛星か・・・、確かにそこには気が付きませんでした・・・、やはり会話というのは重要ですね・・。」
赤城の説明から、俺は昔に見たあるニュースの事を思い出していた。
「ふうん・・・宇宙へ行くよりも次元を超える方がコスト的に安いねえ・・・、どちらもこちらの世界では、まだ現実の物となっていない技術だから・・・・、何とも想像もつかないな。
それはそうと、人工衛星がどうかしたのかい・・・?」
赤城が俺の発言に対し、興味深そうに尋ねてくる。
「はい、先ほども言った通り、俺の居た世界では無数の人口衛星がありました。
それはもう・・・、手の平サイズの物から、数メートル、数十メートルの大きさの物まで様々です。
その中で、攻撃衛星と称されるものも確かあったはずです。
その名の通り、敵国を遥か上空から攻撃すると言う、爆弾を搭載した人工衛星です。
地上から無線で遠隔操作可能だし、ミサイルを打ち上げる必要がないので敵に気づかれにくく、確実に爆撃できると言う触れ込みだったようですが、迎撃システムの発達した近年では、大気圏突入時までに探知され、確実に撃ち落とす事ができると言う事で、もはや無用の長物と化していたようです。
因みに迎撃システムですが、こちらの世界からの反撃の時には、あのような低空から爆発寸前で出現したので、機能しなかったのだと考えています。
つまり、次元移送装置の機能を逆手に取ったやり方ですよね・・・。
話しが戻りますが・・・、そんな攻撃衛星が地球上に何十基も存在していて、その処置に困っていた・・・、大気圏に突入させて処理すると核爆弾を積んでいるので放射能をまき散らす恐れがあるなんて事が、囁かれていたように記憶しています。
まあ、実際に核兵器を積んだ人工衛星が地球の軌道上にあるなんてことを認める国もなかったので、あくまでも噂話というか、SFまがいの話として語られていただけのようですが、そう言えばいつの間にか攻撃衛星の存在についての話が出なくなったと、父が呟いていたのを覚えています。
父は天文マニアだったので、よく夜空の星を眺めながら幻想的な景色を台無しにするといって、攻撃衛星というものの存在を敵対視していたので、俺も興味を持っていたわけです。
もしかするとそう言った衛星を、こちら側の世界へ次元移送させていたのかもしれません。
なにせ宇宙空間で次元移送装置を使って移送すれば、簡単にこちらの世界の衛星軌道に送ることができるわけですからね。
移送させたのは、ただの処分だけのつもりだったのかもしれませんが、反撃にあい報復措置として攻撃を開始したと考えれば、つじつまは合いそうです。
しかし、どうして核攻撃を受けたすぐ後に報復に出なかったのか・・・、俺が考えるに、俺たちの世界側も少しは反省したのではないかと考えます。
つまり、ものも言わずにただひたすら強奪行為を重ねて行っていた訳で・・・、いくら科学力に大きな差があったとしても、同じ人間社会に対して、あのような非道な行為を継続していたということに対する相応の返礼であったと、気持ちを切り替えたのではないですかね。
ところがこちら側の世界は報復を恐れるあまり俺たちの世界の全滅を望み、わずかばかりの生き残りでさえも全て根絶しようと、離島にまで爆撃を仕掛けた。
これに対して、そこまでやるなら徹底抗戦と、向こうも覚悟を決めたのでしょう。
なにせ恐らく地上には、生き物が住める環境はもうないでしょうからね。」
俺は今ここで分りうるすべての事を、推定も交えて説明した。
「ふうむ・・・そうすると・・・、追加の爆撃によって向こうを怒らせてしまったということか?
俺たちは自分で自分の首を絞めてしまったようなものだ・・・、何ともやるせないな・・・。」
赤城はそう言ってため息をついた。
「まあ、これにより、俺の居た世界には間違いなく生き残りがいることが、はっきりした訳です。
今思えば、その宇宙ステーションの滞在者は生き残っているはずですし、海に漁に出ていた人たち・・遠洋漁業の人たちですが・・・、その様な人たちや軍艦に乗って洋上を警戒していた軍人、これらの人々は恐らく核攻撃を受けていない離島へ避難していたはずです。
そのような拠点を奪われてしまったのであれば・・・、更には原子力潜水艦など世界中の海に潜んでいたようですから、彼らも生き残っているでしょう。
そのうちのどれだけの割合の人たちが、こちら側の世界への干渉の事を知っているのか知りませんが、少なくとも地下シェルターで生き残った人たちは、その事を知っている割合が高いでしょうし、それこそ地上の生き残りの人たちとも連絡を取り合って、地上の情報収集に当たっていることでしょう。
彼らは自分たちが長い期間生存できないことを認識しているでしょうから・・・、なにせ生活する土地がない訳ですから・・・どう考えるでしょうね・・・、こちらの世界の人々をも道連れにしようと考えるのか、はたまた・・・。」
一体どうなるのだろうか・・・・、俺にも全く予想ができない。
俺が余計な事を言わなければよかったのだが・・・、本当に後悔してもしきれない・・・・。
「で?どうすればいい?
向こうの世界からの攻撃を止めさせるために、俺たちで出来ることはあるか?」
赤城が尋ねてくる・・・、どうすればって言われても・・・、
「どうすればいいのか俺にも分りませんが・・・、先ほど人工衛星を打ち上げようと計画しているって言って見えましたよね。
それなら打ち上げた衛星の軌道観測のための倍率の高い望遠鏡とか、微弱電波の受信装置とかあるのではないですか?
それらを使って、こちらの世界の地球の周回軌道上にある、人工衛星を見つけて行く訳です。
見つけたら衛星を打ち上げる予定でいたロケットで攻撃して衛星を落とす事になる訳ですが、一度にすべてを落とさないと、残った衛星の全弾を撃ち込まれるでしょうから注意が必要です。
幸いにもこちらの世界では人工衛星の打ち上げがなされていないということであれば、大気圏外にある人工物は全て俺たちの世界から送り込まれたものでしょうから、全て落としてしまえばいい訳です。
道理でこちらの世界のマシンを遠隔操作でコントロールしていた時、正確な位置情報を把握できていた理由が分りました、あれはGPS用の衛星もこちらに送り込んでいたのでしょう。
中国から日本へやって来た時はナビが使えませんでしたが、都市部にいた時は正確な市街地の位置情報が把握できていました。
強奪を行っている都市部の正確な地図情報を把握していたと言う訳です、衛星を使ってね。
まあ、撃ち落とすのは大きな攻撃衛星だけでもいいでしょう・・・、GPS衛星には爆弾など積んではいないでしょうから。」
俺は思考の限りを尽くして、今この世界で出来うることを想定してみた。
「おおそうか・・・よくわかった・・・、というか、言っていることの半分も理解は出来ていないがな。
とりあえずは天体観測だな・・・、早速全世界の天文観測所に連絡して実行させよう。
結果が分り次第連絡する・・・、どの程度まで見つかれば攻撃開始してもいいのか君に相談させてくれ。
じゃあな・・・。」
『ガチャッ』そう言い残して赤城は部屋を出て行った・・・、1人俺だけを残して。
このくらいのアドバイスで良ければ今の俺でもなんとかなりそうだが、攻撃開始のタイミングまで頼られても、困ってしまうな・・・。
『カチャッ』暫くするとドアが開き、朋美が現れた。
「もう帰っていいっていうから、帰りましょ。」
「へっ・・・?」
俺には彼女の言葉の真意がわからなかった。
取調室を出るとそこは、コンクリートで出来た薄暗い通路だった。
そのまま歩いて行くと、やはりコンクリートむき出しの階段があり、降りて行くとそこは事務所の様だった。
いくつものスチール製の机が整然と並べられていて、その所々に濃紺の制服を着て座っている人がいる。
恐らく警察署の事務棟なのだろう・・・、そう言えばあまり犯罪は発生しないと言っていたな・・。
俺と朋美が一緒に降りて行くと、そのうちの数人が顔を上げてこちらを見るが、すぐにまた机上に視線を移す。
「すいませーん、私たちもう帰りますから送ってもらえませんか?」
すると朋美がそれらの人に向かって、大声で呼びかける。
まっ・・・まずくはないか・・・?ここは静かに気づかれない様、警察署を出て行った方がいいんじゃないのか?
「はっはい・・・、私がお送りいたします。」
ところがすぐに若い男が立ち上がって敬礼すると、そのまま駆け足で立ち去って行った。
「じゃあ行きましょ・・・。」
朋美に連れられて分厚い木でできたドアを開けて外へ出ると、そこには既にパトカーが待ち構えていた。
そうか、これから刑務所まで護送されると言う訳か・・・、やはりそんな甘いもんじゃないよな。
朋美と共にパトカーの後部座席に乗り込む・・・が、手錠も掛けられなければ腰縄もない。
こんなんじゃ犯罪者に簡単に逃げられてしまうぞ・・・とか思っていたら、そのままパトカーは発車した。
「あっ、次の角を曲がってください・・・・、そうして、ここで良いです・・・。」
まるでタクシーにでも乗っているかのように朋美が道案内をして、その通りにパトカーが走って行き停車した。
なんとそこは刑務所ではなく、朋美のアパートの前だった。
「懐かしいでしょ・・・?と言っても、たったの2ヶ月ぶりかな?
さっ、上がって・・。」
彼女は俺が帰る場所はここしかないとばかりに、俺を自分のアパートに連れて来てくれる。
それは俺にとってうれしいことではあるが・・・、いいのだろうか・・・・、こんなに迄彼女に甘えてしまっても・・・なんだか申し訳ない。
「いっ・・・いいのかい・・・?
俺は何度も言うけど、君の恋人のジュンゾーではないんだよ。
それなのに君は俺にやさしくしてくれる・・、大変ありがたいんだが・・・俺としては申し訳ない気持ちでいっぱいで・・・。」
俺はそんな朋美に対して、念を押して確認したい気持ちでいっぱいだ。
「なによ・・そんな事とっくにわかっているわよ・・・、あなたは別次元のジュンゾーってことくらい。
私が部屋に連れてくることは迷惑?だったらどうして・・・?
他に行くところがなかったから・・・?一人ぼっちの私がかわいそうだったから・・・?」
そう言いながら彼女は、少し頬を膨らませながら自分のお腹をさする。
まっまずい・・・そんなつもりで言ったわけではないのだ・・・、俺は朋美の事が本当に・・・。
「いっいや・・・決してそんな事ではない。
俺にとって君は・・・向こうの世界の君ではあったが、本当にあこがれの存在で・・・、だからマシンを通してこちらの世界の君と接した時にも本当にドキドキした。
今だって君とその・・・君のお腹の中の赤ちゃんの為に、何とかこの世界を守れないか必死に考えている。
こういう言い方はなんだが・・・、こちらの世界の俺と同じく君の事を想っているつもりだ。」
何とかして誤解を解かなければ・・・。
「そう・・・良かったわ・・・、さっ部屋へ行きましょ。」
機嫌を直したのか彼女はそう言ってほほ笑むと、俺の手を引いてアパートの階段を上がって行く。