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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
3/117

食糧強奪

第3話 食料強奪

 ところが、彼女たちはすぐにゲーム機の操作を開始することはなく、ただ席に座って時を待っているようであった。

 昼休みなどの時間のための交代要員なのかとも思ったが、それにしては朝一番から詰めていることはない。

 パート契約で、昼の時間だけの短時間契約を結べばいい事だ。


 それに、戦闘中に昼食なんてことは、したことが無い。

 そんな不自然な設定は一般的なゲームではポーズボタンがあるが、さすがにシミュレーションでは無理だろう。

 昼食は、攻撃の合間を見計らって、各人がそれぞれ自己判断でとっているのだ。

 そう考えていたところ、我々の指揮官である上司の男が、口を開いた。


「彼女たちは別な仕事がある。

 別とは言っても、君たちが行っていることと関連があることだ。

 まあ、すぐに判るだろうから、少し待っていてくれ。」


 何とも意味深な言葉だ。

 まあいいだろう、こっちは自分に与えられたルーチンをこなすだけだ。

 1日中ゲームをしていて、更に同僚として若い女性もセットでは、絶対に失いたくない職場になった。

 それは、俺の両隣で操作している面々も同じ気持であるだろう。



 繰り返しループのように際限なく続く執拗な攻撃に、ただひたすら射撃のボタンを押す動作が繰り返される。

 逃げ惑う一般群衆にはなるべく気を遣いながら、マシンガンを構えて反撃してくる軍隊に狙いを定めてシュートする。


 飛び散る血しぶきや、たまには肉片などがリアルに映し出されるが、段々と場面展開に慣れて来たのか、最初の頃に比べて、人殺しの罪悪感といったようなものは薄れてきた。

 それほどリアルな映像なのだ。


 コンピューターで計算されたプログラムに、恐らくは実写で取り込まれた画像の動きをCG化して、あたかも現実の事のように映し出しているのだと、気持ち的には納得しているつもりでも、血しぶきをあげ、断末魔の形相をしながら倒れ込んで行く相手の姿を見るのは、気分のいいものではない。


 最初の頃は何度もトイレへと駆け込んだものだ。

 1時期、シューター全員が吐く頻度が多すぎてトイレが足りなくなり、別の階のトイレまでへも通っていたほどだ。


 それもこれも、地上の部屋だったから可能な事だが、地下深い今の環境では、別の階にも施設があるとは思えない。

 それでも慣れるもので、始めてから3日もするとトイレで吐くこともなくなっていた。


 ちなみに俺は、その3日間というもの1食も口にすることは出来なかった。

 食べるとすぐに吐きそうになったからだ。

 4日目くらいから、ようやく軽く茶漬けなどが入るようになったのだ。



 更に、女性たちが入ってきて、誰もが色めきだった。

 俺たちの座る席の真上にはパネルが掲げられていて、そこには撃ち倒した敵の人数がカウントされているのだ。

 その日の分が左側に表示され、右側には過去からの累計数が表示されている。


 今の所、累計数ではラッキョウがトップで俺が2位。

 そこから少し差があって3位以下が続く。


 銃を持って襲撃してくる敵軍隊や警察官を倒すと10点。

 一般人は1点だ。

 軍事行動に参加しない一般人は、誤射してしまうとマイナス得点ではないかと思っているのだが、このゲームのルールではプラス得点だ。


 素早くシャッター施設へと入り込み、襲撃してくる敵を殲滅した俺やラッキョウに比べて、施設の外側を担当している3人では得点差が出来るのは仕方がない事だろう。

 施設の外では一般人が混じっているので、敵が押し寄せてきても引き金を引くことに躊躇いが出るからだ。


 決して、シューティングの腕の差ではない。

 今の所、これと言ってシューティング技術を駆使するような難しい場面には出会ってはいない。

 ところが、彼女たちが入ってきて、外側でも銃の乱れ撃ちが始まった。


 左側3人の得点パネルの数字が、どんどん上がって行く。

 10点単位での加算が多いことから、敵襲撃者を好んで銃撃していることは判るのだが、2点3点と端数の数字が加算されてもいるので、やはり一般人にも被害が及んでいるようだ。


 但し、このゲームの場合は、一般人への射撃がマイナスポイントではないので、躊躇う必要性があるとは言えないのだが・・・。

 施設の外側担当が張りきりだしたおかげで、施設内に襲撃者が入ってくることはなくなってきた。


 するとゲーム画面では、先日敵が破壊しようとしていたシャッターがゆっくりと開き、中から自分たちと同様の黒い球体が何体も出てきた。

 いや、同じではなさそうだ。

 そいつらのアームに銃は装着されていない。


 人間のようにひじ関節の先もアームのままで、その先には5本の指がある手を持っていて、器用に殺害された人々を片付けていく。

 ついでに敵側の銃や荷物も一緒にどこかへと運んでいくようだ。


 ずいぶんと細かい設定をしているものだと、感心してその光景を見ていると、どうやらその球体は、我々の前方の女性たちが操作しているのだと分った。

 彼女たちはその為に、ここへ呼ばれたのだ。


 シューターが敵を撃ち倒していき、その敵の屍をアームが付いたマシンで片付けていく。

 何やら児童教育には効果がありそうだが、一体何のために?

 こんな、血しぶきが舞い上がるスプラッターゲームを子供の教育に使えるはずもないし、大方、R15指定になるだろう。


 いや、一般人も標的としている時点で、通常セールスは困難だろうな。

 そう考えていると、上司から指示が出た。


「施設の外側をガードしている3人は、そのまま続けて敵の襲撃を撃退してください。

 中の2人は彼女たちのマシンに付いて行って、彼女たちのガードをしてください。」

 5台のアーム付きマシンは、そのまま半開きのシャッターをくぐり抜けて、表の通りへと進んで行った。


 俺とラッキョウは急いでその後を追う。

 5台のマシンは一旦上昇すると、水平飛行に入り、やがて大きな川の堤防沿いに降り立ち、そこから通りを進んで行く。


 ただ進むだけなら、浮いている高さを3mほどにして通って行けば、通行人も邪魔になることはないので、移動自体はスムーズだ。

 ただ、時折銃撃の的にされるので、銃を持った敵を見つけ次第撃ち殺していく。


 行き先は俺たちには判らないので、俺もラッキョウも彼女たちのマシンの後を追って行きながら、背後から護衛する形だ。

 すると、500mほど進んだ先の辻を曲がると、その先の柱だけで扉も壁もない屋根だけの建物の中へと入って行った。


 どうやら、彼女たちは目的とするものを認識している様子だ。

 それぞれのマシンが、建屋の中にうず高く積まれた箱を持ち上げようとしている。

 よく見ると、箱の中には魚や肉・野菜などがそれぞれ入っているようで、彼女たちのマシンはそれらの箱を、手当たり次第に持ち去ろうとしている。


 どうやらここは市場のようだ。

 市場に出されている魚介類や肉類及び野菜を持ち出そうとしているのだ。

 勿論、金を払うそぶりも見せない。


 当然ながら、近くにいる人々に止められようとするが、気にする様子もない。

 それでも、彼女たちのマシンのアーム部分に必死な形相でしがみつく、中年の女性たちを見ながら、危険を感じて俺はマシンガンを天井に向けて乱射した。


 2階部分には人が居ないことを願いながら・・・。

 こちら側には聞こえはしないのだが、悲鳴や叫び声を上げているのであろう、大きく口を開けながら、人々が一斉にその場から散って行く。


 俺のマシンは、スレートで覆われた建物の天井から崩れ落ちてくる破片に白くなりながら、油断なく辺りを見回し、敵の動向を探った。

 数十段にも重ねた箱を抱えた女性たちのマシンは、ようやく満足したのか、申し合わせたように市場から、外へと向かう。


 箱を積み重ねて前方の視界が・・・と心配したのだが、箱はマシンの背後に積み重ねて持っていて、つまりは抱えているのではなく、背負っている形なのだ。

 人間ではとても無理だが、機械ならではといったところだ。

 アームのひじ関節が、逆方向へも曲がる構造をしているように見える。


 市場の外には、推察通りに十数台のトラックやジープなどの軍用車が待機していて、銃で装備した部隊にすっかり取り囲まれていた。

 それはそうだろう・・・、ここへ来てから結構な時間が経過している。


 俺とラッキョウは、彼女たちのマシンを後方へと下がらせてから、銃を構えた。

 市場内には一般人も大勢いるので、向こうから重火器による攻撃は仕掛けにくいだろう。

 たった2台だけでも地の利はある。


 俺は、まず左手のレーザー砲を軍用トラックのエンジンに向けた。

 すぐにトラックのボンネットは真っ赤に変色して、やがてドーンと言う大きな音と共に火柱を上げ車体が跳ね上がる。


 トラックの影に隠れて銃を構えていた一団が、焦って左右方向へと散って行くと、ラッキョウがマシンガンを連射していく。

 続けて俺は、レーザー砲をジープへと向ける。


 赤熱したボンネットは火柱を上げ、車体もろとも大きく弾んで、上下逆さにひっくり返った。

 バリケード代わりの車列の向こう側で待ち構えていた一団は、この攻撃で散り散りになった。

 俺とラッキョウのマシンは市場の外へと出て、地上数メートル上方から一気に畳み掛ける様に銃を乱射していく。


 いったいどれだけ発射したであろうか、俺のモニター画面に表示されている、残弾数のゲージが残り2割を切って黄色くマークされ始めた。

 残り一割を切ると、赤くマークされるのだ。


 俺はようやくシュートボタンから指を外すと、ラッキョウも同時に銃撃を止めた。

 市場の前には、何台もの軍用車が蜂の巣状態に穴が開いたり、ひっくり返ったりしていて、黒煙や蒸気を上げている。


 その周りには屍が累々と重なっているようだ。

 中には、人としての原形をとどめてなく、一部分だけのものも多い。

 凄まじいばかりの銃撃の跡を物語っているようだ。


 と、他人事のように感じているが、まぎれもなく、俺と隣に浮いているラッキョウのマシンが行った惨劇である。

 いくらゲームの中での出来事とはいえ、今夜の夢見は悪いであろう。

 こんな毎日を続けて行けば、俺の人格は崩壊してしまうのではないかとも感じ、少し不安になってきた。


 俺の合図で、彼女たちのマシンは荷物を持ったまま、市場から出てきた。

 そのまま、俺たちの基地である大きなシャッターがある施設まで、上空高く舞いあがり一気に戻って行く。

 今の襲撃で敵戦力の大半はそぐことが出来たのか、帰りは襲撃もなく楽であった。


 これを襲撃先の市場を変えて、この日は5回繰り返した。

 其々の市場の中の食料の大半を運び出しているのではないかと言うくらいの勢いだ。

 勿論、襲撃を受ける回もあったが、最初の時ほどではなかった。



 他国からの食料強奪のシミュレーションであろうか、まさか一流企業がゲーム業界に名乗りを挙げて、その手始めとして日本支社が、こういった略奪ゲームを販売しようと考えているとは到底思えない。

 そりゃ確かに、少しは安定してきたとはいえ、未だに世界的な食糧難が続いていることは確かなのである。


 食料自給率の低い日本は、まさに食料大国に対して弱い立場に陥ってきているのである。

 かといって、他国から強奪していいという理屈が通るはずもない。

 どの国だって厳しいのだ。


 ましてや、隣の国をターゲットにしてシミュレーションしていいはずがない。

 人道上の問題もあり、世界中の国からパッシングを受けることは、火を見るよりも明らかだろう。


 大量の食糧を運んできたマシンは、仮置きしておいたシャッター口近くの荷物も一緒に、施設奥にあるシャッターの向こう側の広いスペースに整然と並べてから、隅へと向かった。

 奥の倉庫は満タン状態だ。


 そうしてから彼女たちは立ち上がって、にっこりと笑みを浮かべ挨拶を口にしながら、ドアの外へと消えて行った。

 時計の針は、5時になったばかりだというのに。


 アフターファイブを、俺達と一緒に楽しもうと言う考えは、全くなさそうだ・・・、そう言えば、俺達5人はこの職場では新人であるはずだが、歓迎会の誘いすらかかってこない。


 どうやら、結構前から彼女たちは同様の作業(コンピューターゲームの操作なのだが、やっている内容より、ここではあえて作業と言わせてもらう)をしていたらしいが、不具合が発生して基地が1時期敵側に陥落したらしい。

 そう言った場面から、俺たちが至急編成されて基地の奪還を行ったという事になっているようだ。

 何とも夢があるというか、細かい設定だ。



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