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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第3章
29/117

新たなる侵攻

1 新たなる侵攻

「新倉山順三・・・、悪運の強い奴だな・・・。それとも、おまえが向こうの世界と示し合わせて・・・。」

 車から降ろされるとすぐにどこかの部屋の中へと連れ込まれ、目隠しを外されたそこは・・・、コンクリート打ち抜きの味気ない部屋の中だった。


 しかも周りには窓もない・・・代わりに、大きな鏡が壁一面に貼りつけてある。

 ここがよく刑事ドラマなんかに出てくる面通し部屋・・・、証人に犯人の顔をマジックミラー越しに確認させるような・・・、そんな部屋なのだろうか。


 だとしたらいったいなぜ・・・?

 俺の取り調べはとっくに終わって、判決まで出されて死刑執行寸前だったというのに。


「しらばっくれても無駄だぞ・・・、一体どう言う事なんだ?」

『ダンッ』目の前の男が、スチール机をこぶしの腹で思い切り叩く。


 こいつには見覚えがある・・・と言うか、忘れようとしても忘れることができない顔だ・・・、確か筑波とか言う名前のはずだ・・・、俺を拷問から救ってくれた人が言っていた。


「俺にはあんたが何を言っているのか全く分からないし、それにまた拷問を続けると言うのなら、俺は何も話さない・・・、なにせ俺は、ずっと病院でリハビリしていたし、先ほどは絞首台の上に立っていた。

 そんな俺がどうしてこの場所にいるのかすら分からないのだから、あんたの質問の意味が分かるはずもない。」

 俺は半分やけ気味に、そいつの顔を睨みつけながら答える。


「なっ・・・なんだと・・・?

 それならお望み通り痛めつけて、答えたくないことを絞り出してやろうか?」


 そいつは恐ろしい事を、恐ろしい形相でぶちまけてくる。

 この世界の法律に照らし合わせて、こいつのしていることは罪にならないのだろうか・・・?

 取り調べのための暴力は、正義なのだろうか?


「おいおい・・・物騒なことを言うな・・・、おまえの暴挙は警察内部でも、ずいぶんと問題になっているようだぞ。

 どっちが犯罪者か分らないっていうようにな・・・、おまえが聞きだした証言全て証拠能力がないということになり、裁判で時間をかけて再確認したくらいだからな。


 そりゃ刑罰が重いこの世界では、多少の暴力的な取り調べも認められてはいるが・・・、なにせ罪を認めたらすぐに死刑だからな・・・、簡単に自白などするわけはない。


 それでもやり過ぎはいかん・・・、ここは法治国家であり、あくまでも法に照らし合わせたうえで刑罰を決定しなければならないんだ・・・、分るな。」


 すると俺の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向くと、俺を拷問の様な取り調べから救ってくれた白髪交じりの男性だ・・・、確か先生と呼ばれていたような・・・。


「しかし赤城教官・・・、こいつのおかげで、この世界はまたもや危機に瀕しているのですよ。

 なにせ、向こうの世界の生き残りの事を隠していた訳ですからね・・・・。

 こいつは向こうの世界からの報復攻撃準備が整うまで、時間稼ぎをするために送り込まれたに決まっていますよ。


 俺たちはまんまとこいつの口車に乗り、平和が訪れたと信じ込んで警戒を解こうとした矢先に・・・。」

 筑波は、悔しそうに唇をかむ。


 ふうむ・・・、こちらの世界の俺が軍隊へ徴兵された時の教官だったと朋美が言っていたが、こいつに対しても教官だったということか・・・?


「新倉山順三さん・・・、こいつが今話したことで、ある程度察しがついたと思いますが、我々の世界は又も侵略攻撃を受けております。

 しかも今回は、食料物資の強奪行為ではなく明らかな攻撃・・・、しかも核攻撃を仕掛けられました。


 あなたの話では、向こうの世界の地上には人々が生き残れる様な場所はもうないだろうということでした。

 唯一、大陸から離れた離島であれば、核爆弾の影響はあまりないだろうから、そこには生き残った人々がいるかもしれないとおっしゃったから、我々は将来の危険な芽を摘むために、世界各地に点在する離島にまで核攻撃を仕掛けました。


 そうして更に、主要都市部へ再度爆撃を開始し始めたのです。

 すると突然・・・、世界の主要都市目がけて核攻撃が仕掛けられました・・・、東京はまだですが、いずれ攻撃される可能性が高く、戦々恐々としている状況です。


 一体どうして・・・、お考えをお聞かせ願えませんか?」

 赤城と呼ばれた中年男性は俺の前に回り込み、筑波の隣の席に着くと物腰柔らかに話しはじめた。


「この世界へ再び侵攻が始まったと・・・、しかも今回は強奪行為ではなく、明らかな攻撃であると・・・。

 その真相を確かめるために俺の死刑執行が中止されたと、こういう事ですか?」

 ようやく状況が飲み込めてきた。


「へんっ・・、死刑は延期されただけだがな・・・、異次元世界からの侵攻を止めることができれば、いずれまたお前は死刑となるはずさ。」

 筑波は中腰になると、口角を吊り上げながら冷たい目つきで俺を見下ろす。


「ふうん・・・延期ねえ・・・。」

 なんだ、ただの延期か・・・、それじゃあしょうがない。


「本当はお前の死刑延期はとっくに決まっていたんだが、進んで協力させるために執行予定日まで待って、絞首台へ送ってから救ってやるように指示しておいたんだよ。


 一度でも死への恐怖を味わっておけば、少しでも生きながらえるために何でも協力するようになるからな。」

 筑波はそう言いながら、今度は椅子に胸を張りふんぞり返って座る・・・忙しい奴だ。


「そいつは逆効果だったな・・・、俺は死刑判決を受け入れる覚悟だった・・、あのまま死刑で良かった。

 1時的に刑の執行を伸ばされたところで、何もうれしくはない。

 かえって、もう一度あの絞首台を昇る恐怖を味わうのかと考えると、至極迷惑な話だ。

 今ならまだ気持ちは切れていないから、すぐにまたあの場所へ連れて行って刑を執行してくれ。」


 俺はそれだけ告げると、目をつぶった。

 沈黙が、部屋を包み込む・・・。


「お前の愚かな考えが裏目に出たようだな・・・、筑波・・・お前は昔から功を焦って人の気も考えずに、ひたすら突っ走るきらいがあった。


 今回もそうだ・・・、おまえの行為は人の心を傷つけるだけで、協力を得ることには繋がらなかったようだ。

 お前は席をはずせ・・・。」

 赤城は厳しい口調で、筑波に命じる。


「ええっ・・・で・・でも・・・。」


「でももくそもない・・・、おまえの上司に命じて、お前の処分を決めさせるから自宅で謹慎していろ!」

 赤城は尚も厳しい口調で告げる。


 人権保護委員会のトップとかいう話だったが、かなり大きな力を持っている人なのだろう。

『ガチャッ』赤城の余りにも激しい口調に押され、筑波は渋々部屋を出て行った。


「申し訳なかった・・・、報復攻撃を受けた時にすぐに君の招集をかけたのだが、病院に入院中で動かせないということで回復待ちとの返事が来ていた。


 それが、こんな顛末とは・・・、本当に申し訳なかった・・・。」

 口調を変えた赤城は席から立ち上がると、机に頭が付くくらい低く頭を下げた。


「いっ・・・いや・・・、別にあなたが悪い訳ではないのですから・・・、あなたが謝る必要はありませんよ。」

 えらい人に深く深く頭を下げられると、こっちが恐縮してしまう。


「いや・・・、こちらの人間の不手際は、こちらの責任だ・・・、だから俺からも謝らせていただく。

 その上で・・・、申し訳ないが、もう一度協力していただけないだろうか?」

 赤城は席に着くと、身を乗り出して問いかけてきた。


 やはりこちらの世界は連座制・・・、関係している奴のしでかしたことは、皆の連帯責任という考え方が強いのだろう。


「俺は裁判でも言った通り、何も知らされずに異次元世界の・・・、つまりこちらの世界からの強奪行為に加担させられていただけです。

 ですので、向こうの世界でどのような配備がされていたのか、全く分かりません。


 俺が知っているのは唯一東京基地・・・、というかこちらの世界の東京基地をコントロールしていた・・・、いや元々は上海基地をコントロールしていたのか・・・、要するに全世界にある侵攻基地をコントロールできた、東京にあった操作施設と言えばいいのでしょうか・・・、その施設と、後はこちらの世界の東京基地と同じ住所にある、俺たちの世界側ではただの倉庫でしたね・・・、その2つの施設だけです。


 しかも東京にあった倉庫は、俺が随分前に1週間ほどアルバイトをしただけで、後から気づいたのですが、こちらの世界から強奪した食糧なんかを運び出して、トラックに積み込む仕事をした経験があったというだけです。

 つまり俺は俺の居た組織・・・、こちらの世界から食料を強奪していた世界規模の組織に関して、本当にその末端しか知りません。


 構成員が何人いるのか・・・・、いや、こちら側の世界から強奪行為をしていると、はっきり認識していた関係者が何人いたのかとか、恐らく各国政府にも通じていたのだろうと推定していますが、その様な関係に関しても全く知りません。


 ですから核シェルターで生き延びた人たちが何人いるのかも分からないと、裁判でも答えました。

 恐らく俺は・・・、攻撃されているということに関して何も力にはなれないと考えます。」

 そう言って今度は俺が頭を下げる。


 こんな程度の事は、もっと前に俺が入院していた病院で確認すればいい事ではなかったのか?

 それとも死への恐怖を味あわせてから聞けば、どんなことをしてでも協力する気になるだろうと、本気で考えていたのだろうか・・・。


 俺の知識にこれ以上の利用価値がないとわかれば死刑執行となるのだろうが、それは仕方がない事だ。

 少しでも生きながらえるために、あることない事並べ立てて、こちらの世界を混乱させても仕方があるまい。


「ふうむ・・・、筑波はあんなことを言っていたが、こちらの世界では一度絞首台から降りた人間は、2度目の刑の執行はないと言うのが、暗黙の了解事項なんだ。

 そりゃ当然だよな・・・、もう一度死への恐怖を味あわせるなんて、とても平和国家のすべきことではない。


 だからもう・・・、君は死刑囚ではない。

 恐らく刑務所に収監されることになるだろうが・・・、一般刑務所だ。


 その前に・・・・、君にとても会いたがっている人がいるから会わせてやろう・・・、彼女を見て君の考えが変わってくれればいいのだがな・・・。」

『カチャッ』しばしの沈黙の後、あきらめたように肩を落として告げると、赤城は部屋を出て行った。


 会いたがっている人というのは大体の想像がつく・・・、というか、俺にはこの世界に知り合いは1人しかいない・・・、彼女なんてほのめかされたから100%の自信がある・・・、胸の鼓動が早鐘のように響く。

『カチャッ』少し経って入って来たのは、花柄の入った白いワンピースを着た榛名朋美だった。


「大丈夫?気分は悪くない?」

 朋美は部屋へ入るなり、俺の頭を自分の胸へと両手で抱き寄せた。

 柔らかく暖かい彼女の胸の感触は、この上ない安らぎを与えてくれる・・・、香水ではない石鹸の、いい匂いだ・・・。


「きょうはねえ・・、病院も休んで、ずっと部屋に籠って泣いていたのよ・・・。

 だって・・・、ジュンゾーの刑が執行される日だから・・・。


 そうしたら先ほど迎えの車が来て・・・ジュンゾーと会わせてやるって・・・、一体どうしたの?

 何が起きたと言うの?」

 彼女の俺を抱きしめる腕の力がより強くなる。


 喜んでくれているのか?俺の死刑執行が果たされなかったことを、喜んでくれているのか?

 俺は、この世界の俺・・・彼女のジュンゾーではないのだぞ?それでも喜んでくれるのか?


『はすぅー・・・』ふくよかな胸に圧迫されて息が自由にできないので、横向いた顔を彼女の胸の谷間に向きを変えて、大きく息を吸い込んだ。


「ああっ・・・、ごめんなさい・・・、息ができなかったわね・・?」

 そう言いながら俺の頭を放すと、彼女はおもむろに俺の前の席に着いて、俺の方を見つめる。


「どうやら、こちら側の世界が、またもや攻撃されているらしい。

 向こう側の世界の人は全滅した訳ではなかったようだ・・・、それで協力を要請された。

 その為、死刑は中止ということらしい。


 だが・・、協力しようにも俺は何も知らないし、何も出来そうもない。

 死刑の中止はありがたい事ではあるのだが、だからと言って俺に何ができると言うんだ?」

 俺はそう言いながら、首を大きく横に振る。


 頼られたところで何もできやしないのだ・・・、大体、核攻撃って・・・、こちら側の世界からの攻撃を無効化して、生き延びた国や地域があったという事だろうか?

 そんな想定すらできそうもないし、確認する術もないのだ。


「そうね・・・ジュンゾーを心配させないように、言わないでいたんだけど、海外の主要都市近郊では核攻撃により大きな被害が出ているって、ニュースで報道していたわ。

 人口百万人以上の都市が、10都市消滅したようね・・・。


 これからも被害は拡大しそうだから・・・、都市部の人たちは皆郊外へ避難し始めているって・・・、世界規模で疎開が行なわれ始めているのよ。」

 朋美が悲しそうに眉を顰めながら説明する。


「ふうん・・・そうか・・・・、警察病院には待合所にもテレビなど置いていなかったからな。

 こちらの世界も被害は甚大な様子だね・・・、しかしその爆弾は一体どこから来たと言うのだ?

 俺には全く見当もつかない・・・、協力したくても何もできないよ・・。」

 俺は再度そう言って頭を下げる・・・、俺だって何かできることがあれば協力は惜しまないつもりなのだ。


「このままでは、この世界の存続が危ぶまれそうなのよ・・・、いずれは東京も破壊されてしまうでしょうし・・・・。

 何とかできない・・・?生まれてくるこの子のためにも・・・。」

 そう言って朋美は自分の腹を触る。


「こっ・・・こども・・・って・・・、俺の子か?」


「ええそうよ・・・当たり前じゃない、あの時の・・・ジュンゾーの子よ、2ヶ月だって。

 予感していたから、すぐに病院へ行ったのよ。」

 そう微笑んだ朋美の顔は、まさに母親の優しさと自信に満ち溢れていた。



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