衝撃の判決
13 衝撃の判決
(うん?)朝になって目が覚めると、俺はベッドで1人で眠っていた。
昨夜の事は、俺の妄想だったのか・・・?そりゃそうだろう・・・・、いくらなんでも朋美のような清楚で美しい女性があんな大胆な事をするはずが・・・。
そう思いながら俺はふらつく足で何とか立ちあがると、よろめきながら居間の扉へと向かい、扉を開ける。
「あら?起こしちゃった?すぐに用意できるから、ちょっと待っていてね。
ああこれ・・・?つい寝すぎてしまって・・・、あまり時間がないから急いで作ろうと思って・・・えへへ。」
そう言いながら舌を出す彼女の姿は、下着姿にエプロンをつけていた。
勿論、胸までカバーされるタイプのエプロンではあるのだが・・・、何とも悩殺されそうな格好だ。
俺がパンツも履いていない素っ裸で、彼女もほぼ裸同然の格好で・・・ということは、昨晩の事は俺の妄想ではなかったということになる。
しかも今度は、彼女は俺の正体をはっきりと認識しての事だ・・・、ううむ・・・、その事は大変にうれしいのではあるが、いいのだろうか・・・。
「じゃあ寒いし、こんな格好で居られないからすぐに着替えて来るわね。」
彼女は俺が朝食を作る傍ら、スーパーマンのように素早く動き回り、寝間着を着た俺を洗面所へと運び入れ、顔を洗ったタイミングで今度は食卓へと付き添ってくれ、ほぼ同時に焼き魚メインの朝食を並べた後で、洗面所へ引っ込んで行った。
相変わらず彼女の作る味噌汁は最高だ・・・、彼女が戻って来るまで、ゆっくりとかみしめるように味わい、時間のない彼女が焦ってご飯を掻き込む姿に微笑みながら一緒に朝食を終える。
「じゃあ、行きましょう。」
丁度迎えのワゴン車が来たので、朋美に手を引いてもらい階段を降りて車へ向かう。
1日経過したせいか、介助してもらえれば何とか階段も降りることができた。
『キィッ・・・ガチャッ』ワゴン車が昨日同様裁判所前に停車し、ドアを開けて朋美がまず降りる。
「じゃあ、ゆっくり気を付けてね。」
朋美の介助を受けながら、車いすへ乗り換える。
少しは立つこともできるようになっては来たが、それでも壁伝いでなければ歩けそうもない。
当面は車いすのお世話になりそうだ。
裁判所の中を車いすを押してもらい、エレベーターを使って2階へ上がると、昨日と同じ講堂のような大きな法廷へと入る。
今日も報道陣だろうか、多くの傍聴人がいるようだ。
「昨日は、ここにいる自称新倉山順三の証言により、こちら側の世界を侵略せしめんとしていた、異次元世界へ向けた我々の反撃の効果確認と、危険視すべき敵の生き残りが存在する場所の情報を得ることができました。
この証言により世界政府は次なる爆撃の目標を、世界各地に点在する離島に定めました。
その後再度、各大陸の主要拠点の周辺へ位置を変えて爆撃を行うことにより、我々の世界の安全は確実なものとなるでしょう。
では引き続き異次元世界からの訪問者・・・、自称新倉山順三の戦争行為に関する裁判に移りたいと思います。」
昨日同様十名ほどの裁判官の代表である裁判長が、裁判の開始を告げる。
だがしかし・・・???
「いっ・・・今、何とおっしゃいました?
そっその・・・、次なる爆撃の目標って・・・?」
車いすのまま証言台に向かわせられている俺が、裁判長の言葉の真意を問いかける。
「ええ・・・、そうですよ・・、離島などには生き残った人々がいる可能性が高いっておっしゃっていましたから、次なる爆撃の目標は世界中に点在する離島となります。
その後、世界中の人口密集地目がけて再度爆撃を行います。
前回とは少し位置をずらしてね。
あなたの助言により我々の世界は、安全が確保されると言う訳です。
では本日はあなたご自身の裁判ですから、私ではなく検察官から尋問を行います。
では検察側、どうぞ・・・。」
裁判長は、俺の問いかけに平然と恐ろしい計画を答えてくれる。
馬鹿な・・・、少なからずも難を免れた離島に在住する人々をも、一人残らず抹殺するということなのか?
そんな野蛮な・・・と言うか、正常な人間としての思考とは言えないような攻撃を仕掛けるなんて・・・、余りにもひどい。
いくら圧倒的な科学力の差を利用して、こちら側の世界から有無を言わさず強奪行為を働いていたからと言って、何も核爆弾を送り込んでまでして大量虐殺を仕掛けなくてもいいだろうに・・・と俺は思っていた。
しかし、何も言わないマシンによる恐怖の強奪行為に対する返礼として、ある意味仕方がない事だとして一度はあきらめた・・・、しかし今度は違う。
恐らく、俺の居た世界からこちら側の世界に対して報復攻撃を仕掛けるような余力は既にないだろう。
にもかかわらず、離島を含め世界中の人口密集地に再度爆撃を行うなんてことは、これは明らかな暴力行為だ。
加害者と被害者が逆転してしまう・・・、しかももう相手は報復も出来ずに間違いなく全滅だ。
それがしかも俺の証言を検討した結果による行為だなんて・・・、何でも思いつくがままに答えたことが失敗だったということか?
まさか、こんなことまで想定できやしなかった・・・。
「・・・・・・・・・、これらの行為に関して、関与を認めますか?
どうしました?返事をしてください!」
あまりの事に動揺し、俺の思考は離島に向けて水爆が投下される場面を想像するのみで止まってしまっていた。
ふと気が付くと、検察側の席で立ちあがった男が、俺に対して大声で呼びかけている。
「自称新倉山順三・・・、検察官の質問に答えなさい。」
裁判長が、マイクに向かって呼びかける。
「あっ、ああ・・・、申し訳ない、ちょっとぼうっとしていました。
質問をもう一度お願いいたします。」
何よりもまずは、自分への裁判を終わらさなければならない。
向こうの世界への攻撃の実施に関しては、裁判後にでも朋美を通じて抗議してもらい、中止するよう手続きをとってもらおう。
「自称新倉山順三・・・、本名も同じ・・・、別次元の世界の住民であることに間違いありませんね。
あなたは、我々の世界から食料物資を強奪するマシンのガードを請け負い、その殺戮マシンによって我々の世界の住民を殺戮、もしくは銃撃により負傷させた。
特に、今年4月の中国上海による基地奪還作戦と、その後の強奪行為を阻止せんとする中国の自警団への攻撃、これによる犠牲者の数は実に400を超える。
以降、活動拠点を日本へ移し、東京基地を攻略せしめんとしていた自警団を追い払い、基地攻略を阻止。
その後、自分自身は強奪行為を阻止しようと攻撃してくる自警団に対しても、極力傷つけずに追い払うだけを徹底していた・・・、しかし、中には銃撃により負傷に至った人も100は数えるということで間違いはありませんか?」
検察官が、俺がこちら側の世界の人々に対してした事を、ゆっくりと説明する。
この内容は、拷問の様な取り調べを受けた時に、全て洗いざらい正直に話してしまおうと、包み隠さず述べたことだ。
しかし全てを話し終えても、拷問が収まることはなかったのだが・・・。
「はい・・・、その通りで間違いはありません。
しかし、取り調べの時や昨日も申し上げた通り、俺自身にはあの行為が現実世界への強奪行為とは、知らされておりませんでした。
ただのシミュレーションでしかないと・・・、そう思わされていたのです。」
俺は中国での殺戮行為は、あくまでもシミュレーションゲームと考えていた為であることを、何とか強調しようと考えていた。
実際に本当の事なのだから・・・。
「あなたは、ゲームの腕をかわれて、その会社に就職できたということでしたね?
そうして、シミュ・・・何とかいうゲームのつもりで、殺戮を楽しんでいたと・・・・。
それは、その会社の人に言われたのでしょうか?
これはただのゲームだから、思う存分に殺戮を楽しみなさいと・・・。」
検察官は、嫌な質問を浴びせてくる。
「いや・・・、決して楽しんでいた訳ではありません。
シミュレーションゲームというふれこみでしたが、余りにもリアルな映像で、銃撃により飛び散る血しぶきや肉片など、最初のうちはそれを見ただけで食事ものどを通らず、何度もトイレへ行って吐いたものでした。
確かに、明確にこれがただのコンピューターゲームと紹介された訳ではありませんでしたが、我々の世界は平和な世界であったので、まさか別の次元を攻撃しているなどということは想像もできず、俺と一緒に就職をした仲間たちも全員が、俺の直属の上司でさえも、コンピューターシミュレーションソフトの開発の仕事だと、思い込んで行っておりました。」
俺は勉めて平静を装いながら、その時の気持ちを正直に話す。
「そうでしたか・・・、ところが段々と余りに現実に近い事に気が付き、確認しようとして、地面に文字を刻んだりしたのですよね。
そうして、その返事に気が付き、中国の上海からはるばる日本まで渡って来たということでしたね。」
検察官は、今一度東京基地へ俺がやってきたいきさつへと戻って、確認してくる。
「はいそうです・・・、上海で俺の問いかけに答えるメッセージが残されていて、それにより現実世界を攻撃しているのではないかと恐ろしくなりました。
そうして、俺が住む町である東京へ戻れば、はっきりするだろうと・・・、俺がしていた行為が、現実世界の強奪行為であるかどうかを確認しようと、東京を目指しました。
しかし辿りついた東京は、俺の住んでいた東京と似てはいましたが、異なる街でした。
そうして一旦は、やはりこれは現実世界ではない、ただのシミュレーションの世界なのだと、納得したのです。
当時は異世界への侵攻ということなど、到底思いつきもしなかったのです。」
俺は当時のいきさつを包み隠さず答える。
「ところが・・・、東京でも同じ行為・・・、地面に文字を掻きこんだのでしたか・・・?それにより、我々の世界の榛名朋美さんが反応したのですよね?
そこから、異次元世界への侵略行為ではないかと思うに至ったということでしたね?
先ほども確認しましたが、東京基地へ来てからは人を傷つける行為は取りやめたと・・・、では、彼に関してはどうでしたかね?
確かに、ここ半年間の東京基地での犠牲者は、激減しておりました。
それでも犠牲者はゼロではなく・・・行方不明者もいます、新倉山順三・・・、勿論あなたの事ではありません。
こちらの世界の方の新倉山順三さんですが、彼は東京基地を訪ねて行くという言葉を残して向かった後、行方不明となっております。
彼の身柄は一体どうなったのでしょうか?」
検察官は最後の詰めとばかりに、ゆっくりと問いかけてくる。
「確かに、こちらの世界の新倉山順三・・・、彼が東京基地にいた俺のマシンに対して、何かを確認に来たのは事実です。
恐らく俺のマシンが新倉山順三を名乗ったからですが・・・・、俺としては穏便に済ませて彼を帰すつもりでしたが、俺の同僚が彼の姿を見つけて・・・、彼を射殺しました。
勿論俺の同僚も、それが現実世界の事だとは知らされずにです・・・。
そうして彼の遺体は、基地の中へと収納して弔われました。」
俺は事実をありのままに正直に答える・・・、しかし被告席に座る榛名朋美はショックだったろう。
とても彼女の顔を見る勇気はない・・・。
「そう言ったことがあった後、あなたは、それが異次元世界への侵略行為であることの確証を掴み、約半年かけて世界中の基地のコントロールとやらを奪うための工作をしていた。
そうして1ヶ月ほど前に計画を実行したのでしたね・・・、それにより5年間にわたって続いていた、球体ロボットによる、こちらの世界での強奪行為が止んだのです。
そうです、あなたの行為により、こちらの世界への強奪が収まり、更に侵攻基地を攻略することができたのです。
間違いありませんね。」
検察官が、更に念を押すように問いかけてくる。
「はい、強奪した物資の箱へ施した打痕の形状から異世界での強奪行為と断定し、その行為を止めさせるための準備に取り掛かりました。
東京基地だけの強奪を止めるだけであれば、その時すぐに行動に移ることができましたが、全世界で千を越える基地全てで実施しなければ意味をなさないため、その準備期間に約半年を費やしました。
その間、怪しまれないために強奪行為に加担していましたが、極力人を傷つけない様気を付けておりました。
そうして、もう1ヶ月になるのですか・・・?俺たちの世界の暴挙とも言える行為を止めるため、俺は地下施設に籠ったのでした。
その行為により、こちら側の世界は安全となり、更に反撃に転じることが可能となった訳です。」
何の事はない・・・、こちらの世界に対する俺の功績を確認するための裁判のようなものだ。
これなら俺の刑は、すごく軽いものになるのではないか?
「分りました・・、これにて被告への尋問を終了いたします。
尋問するまでもなく、被告人の罪状はほぼ確定しておりましたが、想定通り・・・、死刑を求刑いたします。」
そう言った後、検察官はそのまま席に座った・・・、なんだって・・・?死刑求刑・・・?
「そうですね・・・、こちらの世界に対するたび重なる強奪行為・・・、及び大量殺人。
これらに関しては、現実世界に対するものとの認識がなかったということで、情状酌量の余地はあります。
しかし現実世界への侵攻と気づいた後も、強奪行為へ加担し続けたこと・・、この点に関しては世界中で行われている行為そのものを中断させるための準備期間であったことが伺えますが、その分を差し引いて考慮することで、彼の刑を確定することができると言えます。
大量殺人と強奪行為への加担・・・これらの罪に好意的解釈を加え、被告新倉山順三本人のみを死刑に処す。
執行は2ヶ月後の、来年1月20日とする、以上・・・閉廷とします。」
裁判官の判決を聞いた後・・・、俺の意識はどこかへ飛んで行ってしまった・・。