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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
26/117

帰宅

12 帰宅

「ふうむ・・・そうですか・・・、ごくごく一部の人間は、核シェルターなる施設にて生き延びた可能性を否定できないけれども、地上の環境回復は短期間では望めないため、その人たちが再び地上へ戻ることができる可能性は、非常に低いと、こうおっしゃるわけですね。

 分りました。」


「・・・・・・・・・・・・。」

 裁判長は大きく頷くと、今度は自ら先ほどからアドバイスをして来る中年の男性を呼び寄せ、何事か相談し始めた。


「では・・・、繰り返しになりますが・・・我々の発した新型爆弾は、向こうの世界に甚大なる被害を与え、向こうの世界の生存者はほぼ皆無。

 一部核シェルターに逃げ込んだ人々はいるでしょうが、その人たちも地上世界への復帰は望めないほどの劣悪な環境が、今後何年間も続くであろうことが予想される。


 つまり、向こうの世界の地上は、最早生き物が生存出来うる環境ではなくなってしまったであろうと、そう考えるとおっしゃるわけですね。」

 裁判長は念を押すように、俺に確認してくる。


「はい・・・、俺が直接確認できた地域は、日本の関東地区というごく一部に限られますが、同時攻撃を受けたのであれば、どの地域でも対応は出来なかったでしょう。

 大陸など地続きの場所には恐らく核爆弾の影響が及んでいるでしょうし、生物が生存することは困難な環境となっていることでしょう。


 あえて考えるのであれば、離島・・・つまり大陸や人口密集した島国から離れた離島は、影響を受けていない可能性はありますが、恐らくこれらの地域の人々は、最初からこちら側の世界への強奪行為に加担してはいないでしょうし・・・、なにせ、こういった離島はほとんどが自給自足の生活を行っているので・・・、この地域の人々なら危険性はないと考えています。」


 俺は考えうる限りの可能性を述べ、なるべく安心してもらえることを、矛盾なく説明しようと考えていた。

 この発言が、のちに恐ろしい事態に繋がることを、考えもせずに・・・。


「分りました・・・、長い時間でしたが、ご協力ありがとうございました。

 こちら側の世界の安全を、充分に確信するための施策が分ってまいりました。

 これにて本日の裁判は閉廷いたします。


 明日もまた引き続き裁判を行う予定ですが、まあ、新倉山さんの処遇を決めるための裁判だけですから、簡単に結審する事でしょう。

 本日はゆっくりとお休みください。」


 裁判長はそう言って笑みを浮かべた。

 やったー・・・、ようやく解放されそうだ。

 分る限りのことを、想像も交えながら何でも話したのが功を奏したと言えそうだ。


 明日の判決を待てば・・・、いやいや・・・、軽い刑とはいえ、何年かの懲役刑などが想定されるから、予断は許されない。

 だがまあ、何とかなりそうだ・・・、よかったよかった。


「良かったわねえ・・・、明日は簡単な審議をするだけだから、判決はもう決まったようなものよ。

 今日はもう病院には戻らなくてもいいそうだから、私のアパートへ行きましょう。」

 榛名朋美がすぐにやってきて、満面の笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「ええっ・・良いのかい?

 まだ、罪状も決まっていない被疑者は、拘置所などに拘留されるんじゃあないのかい?」

 まだ俺自身の裁判が始まったとは言えない状況なのに、どうして俺の身柄が解放されるのだ?


「いいのよ・・、もう刑もほぼ確定しているようだし、ジュンゾーは逃亡の恐れはないって、みんな理解しているから。」

 朋美が俺の車いすを押しながら、説明してくれる。


「ああそうか・・・、こんな体では逃げようなんて、到底考えないからな。」

 そりゃまあ・・・、拷問のような尋問で俺の両足は、骨折こそしてはいないが、かなり痛めつけられている。

 補助なしで立ち上がることは、困難な状態だ。


 だから走って逃げ出す事は不可能だし、何より、この世界に逃げる先が俺にはない。

 なにせ俺は異次元からの来訪者であり、頼れる人はこの世界には一人もいないのだ。


 あえて言うなら、この榛名朋美たった一人だけが、俺の理解者であり、俺の味方であろうと想定できるが、そうだとしても、こちら側の世界のジュンゾーの処遇が分った場合は、恐らく手の平を返すように態度が豹変することだろう。


 そのまま制服姿の男が運転するワゴン車に乗せられ、本当に朋美のアパートに戻ってきた。

 まともに歩けない俺の体を、ほぼ抱きかかえながら、2階の部屋にまで、その男は運んでくれたのだ。


「ようやく落ち着いたわね・・・、あんな病院じゃあ、息をするのも苦しいくらいだったものね。

 やっぱり自宅が一番よね。」

 久しぶりに帰省で実家に帰って来た若者のように、彼女は少し懐かしげに自分の部屋の中を見回す。


 そう言えば、俺が逮捕監禁されて取り調べを受けていた時には、彼女は色々と駆けずりまわって、俺への非合法的な取り調べを取り止めさせようと、運動してくれていたんだ。

 更に病院へ入院してからは、ずっと看病していてくれていた。


 本当に彼女には感謝している・・・、彼女の恋人である、こちらの世界の俺と同一人物であるということだけで、彼女が俺の事を親身に扱ってくれているのが、なんだか申し訳ない気分でいっぱいだ。


 なにせ、彼女は未だにこちら側の世界の俺が、向こうの世界に囚われていると考え・・・、いや違うか・・・、今日の裁判での話を聞けば、仮にこちら側の世界の俺が向こうの世界に囚われていたとしたら・・・、壊滅的打撃を受けた向こうの世界で、既に犠牲になっていると考えるのが自然だ。


 それに俺は先程の裁判で、生物は次元移動できないと説明したばかりなのだから、こちら側の世界の俺が向こうの世界に囚われていたと言う想定自体も難しくなってしまう。


 そうなると俺を懐柔して、何とかして向こうの世界に囚われていると想定している、こちら側の世界の俺を救出しようと考えている訳ではないことになる。

 一体どうして彼女は、仇とも言える異次元世界の俺に対してこうも親切なのだ?・・・理解に苦しむ。


「うん・・・?どうしたの?さっきから、深刻そうな顔をして・・・。

 何か心配事でもあるの?」


 朋美が、やさしい微笑みを浮かべながら、ソファに座って俯き加減の俺の顔を覗きこんでくる。

 俺の心配事は、君の優しさに関してなんだが・・・、なあんて言えるはずもなく・・。


「いや、明日の裁判の事を考えていた。

 俺は、一応は戦犯つまり戦争犯罪人な訳だから・・・、どのような判決が下されるものか・・・。」

 俺は極力心の底を探られない様、気を付けて明日の裁判の事をきにしている風を装う。


「大丈夫よ・・、そんなに重い刑にはならないと思うわ・・・、第一、ジュンゾーにはこちらの世界に家族はいないでしょ?


 こちら側の世界のジュンゾーのご両親と兄弟は、この近くに住んでいて健在だけど、次元が異なるから全くの他人と言っていい訳でしょ?

 だから、大丈夫よ・・・。」


 そう言って、朋美は笑顔を見せる。

 ううむ・・・、罪が軽いということと家族の存在など、あまり関係がないと考えるのだが・・・、開放された後の帰宅先として、こちら側の世界の俺の実家に戻らなければ、本来はまずいということなのだろうか。


 俺は異次元世界側の俺なので、こちら側の世界の家族とは無関係だから、朋美の部屋で過ごしても、逃亡には当たらないと、そう言った意味合いなのだろうか・・・?

 まあ仮出所とも言える立場なのだから、いける場所は限定されるのかもしれない。


「お腹もすいたでしょ?

 晩御飯を作るわね・・・、ずっと点滴で、最低限の栄養は補給されているって言っていたけど、やっぱり食事の方がいいわよね。


 もう、食べても問題はないってお医者様も行って見えたから、大丈夫よ。

 それでも、いきなり固いものとか食べると胃がびっくりしてしまうって言っていたから、おかゆを作るわね。」

 そう言って、朋美は台所へと向かった。


 もうそんな時間か・・・、法廷では途中休憩も挟んだが、俺は点滴をしたままでずっと証言台に車いすのまま座っていた。

 トイレに2度ほど向かった以外では、その場所を動くことはなかったし、何も口にすることもなかった。


 点滴のおかげで腹が鳴ることはなかったが、今はもう外してある。

『ぐるぐるぎゅー・・・』暫くすると、台所からいい匂いがしてきて、俺の腹がそれに応じて鳴りだした。


「はーい・・、お待たせ・・・。」

 そう言いながら彼女は、ソファーに腰掛けている俺の背に右腕を回し、俺の右脇腹に手首まで押し込むと、そのまま持ち上げて俺の体を立たせた。


 そうして、ゆっくりと食卓へと運んでくれる。

 裁判所へ出廷するときに、ワゴン車から車いすへ移る時もそうだったが、随分と手際よく介護してくれる。


「君は、看護師か介護士なのかい?」

 思わず問いかけてみる。


「ええっ・・・?私は病院の看護婦だけど・・・?

 看護師っていうのは、男の人の看護婦ってこと?


 向こうの世界では多いのかしらね・・・、こちらの世界には、ほとんどいないわね・・・、看護婦は名前の通り女性ばかりね・・。」

 そう言いながら彼女は、俺を食卓の椅子に座らせる。


「そうなのか・・・、俺の居た世界では男でも女でも看護師さんって言って、勿論女性が多かったけど、男性もそこそこいて同じように働いていた。

 男女雇用均等法っていうのがあって、男性も女性も平等に就業できるっていうのが基本なんだ。


 だから職業に男女区別することはなかったね・・・、ごく一部の例外を除いて・・、つまりファッションモデルとか・・・、女性用の服を着るモデルが男性ではおかしいから、そんな事情がない限りはね。


 まあそれも変化してきて、ついにはふつうの男性が女性服のモデルをしてみたり、女性が男性のスーツのモデルをしてみたり、入り混じってきてはいたけどね・・・。

 それくらい、職業に関して男女の隔たりは無くなっていたね。」

 俺がいた世界の概要を説明する。


「ふうん・・・、向こうの世界の事はよくわからないけど、こちらの世界ではそう言った均等法?っていうのはないみたいね・・・、少なくとも、ここ日本ではね。


 でも・・・どう頑張っても性別によって、出来ないものもあるでしょ?

 例えばお相撲さんなんか・・・、さすがに女の人には無理よね?」

 朋美がいたずらな笑みを浮かべながら、尋ねてくる。


「いや・・、実はそうではない。

 かつて男性のスポーツだった、柔道や空手、レスリングなども女性が進出していたが、相撲だって女性版が俺たちの世界にはあった。


 勿論、上半身裸ではなくて、シャツを着ていたし、短パンの上から回しを付けるような感じだったと思う。

 ついでに言うと、女性のためのスポーツの様だった新体操やシンクロナイズドスイミングだって、男性選手が一杯いたからね。」


「し・・シンクロ?しん・・体操?ふうんよくわからないけど・・、男性は男性、女性は女性なりの良さがそれぞれあるのだから、それぞれが得意としていることで社会に貢献して行けば、それでもいいと考えるけど、まあ考え方は色々あるから・・・・。


 さあ、食べましょ。」

 朋美が小さな土鍋の蓋を外すと、味噌のいい香りが立ち上って来た。


(ふーふー・・・うまい)熱いので吹いて冷ましながら口にすると、味噌仕立ての粥に卵とネギが入っている。

 俺は久しぶりに口にする食事を、ゆっくりと味わいながら堪能した。



「じゃあ体を洗ってから、歯を磨いたら寝ましょうね。」

 朋美はかいがいしく俺を介護して、洗面台に連れて行くと服を脱がせ裸にして、浴室へと運んでくれる。


 何か非常に恥ずかしいのだが、彼女自身はそんな意識はないのか、看護婦としての職業意識からなのか、平然と振る舞っている。


「ああ・・・、こ、ここまででいいよ・・・。」

 俺はシャンプーをしようとしてくれる彼女を断って自分で体を洗い、何とかして体を拭き終えると、壁伝いに浴室から洗面所へ行って、横になりながらパンツをはきシャツを着た。


「あらあら・・・、言ってくれれば手伝ったのに・・・、恥ずかしい?」

 音を聞き付け洗面所に来た彼女は、いたずらな笑みを浮かべながら俺を立たせると、歯磨きの間体を支えてくれていた。


 その後、俺の体を支えながら奥の部屋のベッドへ運んでくれる。

「この体じゃ流石にソファじゃ辛いでしょ・・、今日もベッドで寝てね。」

 そう言って彼女は部屋を出て行った。



 いつの間にか眠っていたようで、(うん?)ふと下半身がスースーして、股間に何かが触るのに気が付いて目が覚める。


「起きちゃった?ごめんなさい・・・、でも、いいでしょ?

 あの日ジュンゾーに抱かれたけど、こちらの世界のジュンゾーと全く同じだったわ。

 はしたない女と思われるかもしれないけど・・・、お情けをください・・・。」


 そう言いながら彼女は、その唇を・・・・、そうしてあおむけで寝ている俺の上に・・・。


 拷問とも言える取り調べで、俺の両足はまともに歩けない状況だが、他の部分は比較的軽い打撲で済んでいる。

 つまり元気な訳で・・・、俺は堪らず騎乗位で俺の上に乗る彼女の、それでも垂れずに綺麗な丸いふくらみを保っている、そのふくよかな胸に両手を伸ばす・・・。



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