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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
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出廷

10 出廷

「それはそうと・・・、君・・・いや・・・・、榛名朋美さんは、俺の事を知っていた・・・、いや・・、俺がこちらの世界の新倉山順三ではないことを・・・だが・・・、それはどうしてだい?

 最初のうちは、俺の事を敵方に捕まって痛めつけられ、記憶を失ったと勘違いしていたようだったが・・。


 俺の芝居が下手だったということかな?

 いや、決して勘違いしていることを利用して、騙しとおそうと考えていた訳ではない。

 こちらの世界の事情が分かり次第、正直に打ち明けるつもりでいた。」


 俺は、俺の正体を知ったうえで自分の部屋に上げて、共に暮らしていた彼女の気持ちを聞きたかった。

 いくら、彼女の恋人に瓜二つだからと言って、異次元世界の俺が彼女に対して安全だと言う保障はないのだから。


「うーん・・・、最初のうちは本当にジュンゾーが戻って来てくれたって思っていたのよ。

 少しやつれていたけど、まぎれもなくジュンゾー本人だったから。

 話せないのは、敵に捕まって拷問を受けたからだって理解しようとしていたし、何より異次元世界に全く同じ人がいるなんて事、考えられなかったから・・・。


 でも・・・、あたしの部屋の中を見ても何の反応もなかったし・・・、ジュンゾーがいなくなる半年くらい前から一緒に暮らしていたんだよ・・・、あの部屋で。


 だから、あの部屋に連れて行けば何か思い出すんじゃないかと思って、連れて行ったのね。

 でも、すぐに違和感があったわ・・・、ジュンゾーは右利きだったから・・・。」

 そう言って彼女は俺の左手をじっと見つめる。


 そうか・・・、俺は左利きで、こちらの世界の俺は右利きという訳か・・・、彼が俺の操作するマシンに詰め寄って来た時、銃を抜いて見せたが、確かに奴は右手で抜いていた・・・。


 なにせ、見た目がまさに俺であり(・・・俺は中年太りで、こちらの世界の俺のような精悍さはないが、それでも俺が見る奴は俺であった・・・)、鏡を見ているようなつもりでいたから、奴が右手を使って銃を抜いていても、全く違和感がなかったのだ。


「それでも私は知っていたから・・・、ジュンゾーは元々左利きだったけど、しつけの厳しいご両親に小さい頃右利きに直されたって、言っていたから・・・。

 だから、記憶を失ったジュンゾーは、左利きに戻ってしまったんじゃないかって、考えることにしていたの。


 でも・・・、やっぱり態度とか、話し方とか・・・、全然違うのよね・・・、私の知っているジュンゾーは、もっとこう・・・、堂々としていて、いつも自信を持ってはっきりとした話し方をしていたわ。

 でも・・・・、あなたの場合は・・・、何かおどおどとしていて・・・、それでいながら目つきだけは鋭くて・・・、やっぱりちょっと違うかなって感じ始めていたの。


 そんな観察結果をアタルに話したら、あっ中っていうのは筑波中って言ってジュンゾーの親友だった人で、私とも幼馴染なのよね。

 そうしたら、大学の偉い先生の研究では、異次元世界に自分たちと全く同じ人物がいる可能性が高いって言われたって言い出したの。


 異次元にここと同じような世界があって、私たちと同じような人たちが暮らしているっていう学説が発表されて、

その異次元世界の人たちが私たちの世界で強奪行為をしているのだろうって言うことが、少し前に発表されていたから、そうなのかってある意味納得したわ。


 その異次元世界のジュンゾーなんじゃないかって・・・、いい機会だから私に向こうの世界の様子を聞きだせって、命令が出たのよね・・、どんなことをしてでも聞きだせって言われたわ。

 恐らく、向こうの世界へ反撃を行なったものだから、こちらの世界への干渉を強めようとして送り込まれたんじゃないかって、みんな心配していたのよね。


 後・・・私の事は、朋美って呼んでいいのよ・・・、だから、私もジュンゾーって呼んでいいでしょ?」

 そう言って朋美が、笑顔を見せる・・・ううむ、かわいい・・・。


 そうか・・・、やはり俺の下手な芝居じゃ隠し通せなかったということだな。

 まあ、だますつもりはなかったし、早めにばれてしまったとしても全然かまわないのだが・・・。

 そうして、俺の口から向こうの世界の状況を聞きだそうとしているということか・・、もう充分に説明したつもりなんだが、まだ足りないということなのだろうか・・・?


 いや、俺自身が向こうの世界からの先兵と捉えられていたとしたら、もっと向こうの情報を握っていると思われても仕方がないか・・。

 まあ、明日は真摯に質問に答えて、俺の知っている限りの事は洗いざらいぶちまけよう。

 そうすれば、少しは俺の事も信じてくれるかもしれない。



「さっ、降りて・・・、ゆっくりと気を付けてね。」

 翌朝、朋美に付き添われて出廷する。


 裁判所に来るのは向こうの世界でも一度もなかったので、生まれて初めての事だが、遠目から見る限り外観はコンクリート製の普通のビルのようだ。

 しかし近づいてよく観察すると、1階の窓は非常に小さく装飾もなく、コンクリートの肌がそのままの味気のない造りであり、2階以上の窓には鉄格子がはめ込まれているようだ。


「はい・・・、そっと腰かけて・・・ゆっくりね。」

 朋美に体を支えられながら車の後部座席から降りると、何とか用意された車椅子へと体を移動させる。


 彼女は昨晩から病室へ泊り込みで俺の看護をしてくれていたし、今もそうだが、かいがいしく俺の介護をしてくれている。

 彼女から求められたとはいえ、俺は身分を偽ったまま彼女と関係を持ってしまった訳なのだが、あの時点で彼女は俺がこの世界の俺ではない事に気が付いていたのだろうか・・・。


 気が付いていて尚も・・・、というか、何も話そうとしない俺に対して、どんなことをしてでも話を聞きだせと命じられ、仕方なく体を差し出したということなのだろうか・・・。

 もしそうだとしたら、俺は彼女に対して大変申し訳ない事をしてしまったことになる。


 何時まで待っても、異世界の存在であるということを正直に打ち明けようとしない俺に対して、体を差し出す事により、より近しい関係となり、そうしてすべてを打ち明けさせようと考えたのかもしれない。

 だからこそ、あの日は無理して飲めない酒まで飲んで・・・、


「さっ、行くわよ・・・。」

 朋美が車椅子の背をゆっくりと押してくれる。


 その姿を仰ぎ見て、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいとなり、もう裁判の判決がどうなろうとも、何を聞かれても正直に答え、出来る限り協力するのだと決めた。



「では、これより異世界からの侵略とも言える、強奪行為に対する報復措置の効果確認と、強奪行為に加担した異次元世界からの訪問者・・・自称新倉山順三の戦争行為に関する裁判を行う。


 自称と紹介させていただいたのは、こちらの世界にも同姓同名でさらに外見も同一の人物が存在するからであり、どちらの存在を本物と認識することは出来ないと言う、学識者の見解より、当該裁判に置いては、こちらの世界の新倉山順三とは異なると言う見識から、自称と言う表現を付加させていただくことにする。」


 裁判は、ビルの2階にある大きな講堂のような法廷で行われた。

 裁判官らしき黒いマントのようなものをまとった人が十人近くも、部屋の奥の一段高く設けられた席に着いていて、その真ん中に座る人が、裁判開始の言葉を述べている。


 俺は裁判官らしき人たちがいる方から見て左手に車いすを置かれて座らせられていて、その隣には朋美ともう一人線の細い中年の男性がいる。

 俺たちの正面側、すなわち裁判官らしき人たちから見て右側の席には、いかつい顔つきの男たちが5名ほど腰かけている。


 そうして、木で設けられた柵のような境界を挟んで、俺の居る席の左手側は映画館の視聴席のように1段ずつ座席の位置が奥へ行くにしたがって高くなっていく。

 そのような段が20段はあるだろうか・・・・、1段にざっと見て30席はあるようだから恐らく600人は入る大法廷ということになる。


 その傍聴席にはぎっしりと人々が詰めかけている様子だが、恐らくは大半が報道陣なのだろう。

 其々プレスの腕章をして、メモを取る準備をしている。


 そうして傍聴席の両側には、大きなテレビカメラが設置されていた。

 裁判の様子を全国放送でもするのだろうが・・・?いや、もしかすると全世界中継ということもありうるか・・・、なにせ世界規模の強奪行為だったわけだからな、日本だけの問題ではないのだ。


「ではまず、私から質問をいたします。

 裁判官代表・・・当裁判の裁判長を務めます、八甲田と申します。


 この裁判の焦点は、我々の世界が受けた侵略行為の意味と、我々の施した反撃の効果及び、その反撃に対する報復措置への懸念です。

 それらすべてに対して、我々は確認する術を持っておりません。


 ところがそんな折、異世界から、それも我々の世界を侵略せしめんとしていた異世界からの来訪者がいると言う情報を掴みました。

 それがあなたということですが、それに関して間違いはございませんか?」


 八甲田と名乗る裁判長がおもむろに質問をしはじめる。

 やはりあの一団は、裁判官たちの集団の様子だ・・・、十人の裁判官とは、随分と大規模な裁判だな。


 濃紺の制服に身を包んだ若い男が、俺の車いすを押して裁判官たちの正面へと運んでくれる。

 よく映画などの裁判の情景で見かけるような、演壇の手前・・・、証言台のような場所だ。


「はい・・・、俺は新倉山順三・・・・、勿論向こうの世界での事ですが・・・、これは俺の本名です。

 この世界とは平行世界の別次元から、次元移送装置を使ってやってきました。」

 俺は車いすに座ったままで、証言台に据え付けられたマイクに向かって、神妙に答える


「そうですか・・・、では質問を続けさせていただきます。

 あなた自身に関する質問も、中にはあるでしょう。

 その質問を答えることによって、あなたの立場が不利になってしまうような質問もあるかもしれません。


 勿論、そう言った質問に対して、全てをあなたが答える義務はございません、あなたご自身が答えられる範囲で構いませんから、正直に嘘偽りのない証言をお願いいたします。

 よろしいですか?」


 裁判長は念を押すように俺の目のあたりを遠目からじっと眺めながら、問いかけてくる。

 ううむ・・裁判って、よく見るドラマや映画なんかでは、検察官が被告を問い詰めて、証拠を見せて最後は罪を認めさせるという形式の物だと思っていたが、この世界では裁判長自ら被告人を問い詰めて行くということか・・・。


「分りました・・・、俺が知っていることは包み隠さず、正直に答えます。」

 そう言って俺は少し頭を下げる・・・、何事も最初の印象が肝心だ。

 正直に何でも答えると言う姿勢を見せておけば、俺の罪に関して情状酌量の余地が出てくるかもしれない。


「では・・・、あなたたちの世界が、我々の世界・・つまりこの世界ですね、こちら側の世界に対して、度重なる強奪行為を、繰り返し世界各地で行っていた理由はなんでしょうか?

 同じ人間同士、武力による強奪行為というのはつまり強盗・・・、こちら側の世界では殺人や誘拐に次ぐ重い罪の犯罪です。


 規模から考えて、到底1個人や1グループが行なったことではなく、世界規模で恐らくは世界中の国家が認めた中で行われた、たぐい稀な暴力行為と認識されます。

 どうしてこのような暴挙に走らざるを得なくなったのか、その理由をお聞かせ願えますか?」

 裁判長は、まずはあのマシンによる強奪行為が始まった経緯から、話すように促してきた。


「ああ・・・、それに関しては・・・、俺は向こうの世界から次元を超えてやって来た訳ではありますが、向こうの世界の代表者という訳ではありません。

 あくまでも、1市民であり、あのような強奪行為が行われていることなど露知らず、日々生活していただけの存在です。


 俺のテレビゲームの腕・・・、技術の事ですが・・・、それを評価されて強奪行為の一翼を担わされてはいましたが、俺自身はあくまでもコンピューターゲーム上のシミュレーション・・・つまりバーチャルなものとしか理解しておりませんでした。


 ですから、どのような経緯があって、異次元世界への強奪行為を計画して開始されたのか、その事情は知らされておりません。


 しかし、俺達の次元では世界人口は既に百億人に達しており、世界規模の食糧危機となっておりました。

 そのような背景が原因で、こちらの世界が食糧事情で少しは余裕があると判断したのかもしれません。」

 俺は自分の立場を明確に説明し、更に推察も交えて、分りうることを正直に答える。


「ほう・・・こん・・・コンピューター・・・?バーチャ・・・何とおっしゃいましたかな?」

「・・・・・・・・・・」

 すると、裁判長の元に1人の中年男性が寄って行き、何か耳打ちをしているようだ。


「ふうむ・・・、そんなことが・・・、こちらの世界でも実現可能なのですか?

 ほう・・・、まさにSFの世界ですね・・・。」

 その言葉を聞いた裁判長は、至極興味深げに頷いた。


「ああっと・・・大変失礼いたしました・・・、自称新倉山さんのおっしゃっていることが、おおよそですが理解できました。


 つまり、あなたご自身は、将棋の駒を動かしていただけのつもりが、こちらの世界に甚大なる被害を与えていたと、そう言ったことをおっしゃりたいようですね。

 何をしているのか知らされてはいなかったし、その経緯も知らされていないと・・・、その上で、向こうの世界の人口増加による食糧危機が原因ではないかと、推定されるということのようですね。


 いいでしょう、その答えを採用させていただきましょう。」

 裁判長は意外と簡単に俺の答えを信じてくれた様子だ。

 ううむ・・、心証はすこぶるいいように感じる。



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