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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
23/117

自白強要

9 自白強要

「さあ、吐け。」

『バッシャーン』意識を失い、そのまま床に突っ伏した上から、思い切りバケツの水を浴びせられる。


「ぷわっ・・・、ごほごほごほっ・・・」


「おら・・・、おまえが知っている、向こうの世界の事を洗いざらい吐くんだ・・・・。

 ついでに、こちらの世界の人間たちをどれだけ殺したのかも一緒にな・・・。


 お前はどうせ死刑だ・・・、なにせ、こちらの世界の人々を苦しめた、あのマシンの手先なのだからな。

 最後ぐらいは潔く、全てを打ち明けて死んで行け。」

 ここへ連れてこられてから、眠ることも許されずに、もう何十時間なのか何日間なのか分らない状態で、攻め続けられている。


 思考はもうとっくに飛んでしまい、自分が何者かも時々わからなくなってしまいそうな状況だ。

 何かを吐けと言っているが、何を告白すればいいのか・・・、何を話せばこの地獄のような状況から解放されるのか・・・、記憶のとんだ真っ白な頭で必死に思考を重ねるが、その解を得られることはない。


「おいっ・・・、いい度胸だな・・・、じっと黙っていれば、最後には誰かが助けてくれると考えているんじゃないだろうな・・・、そりゃ甘い考えだぞ、最重要戦犯とも言えるお前を捕まえたことは世間には知らされていない。

 全く非公開でこの尋問が執り行われていると言う訳だ・・、つまりお前がここでどうなろうとも、誰も何も気に留めないと言う訳だ。


 たとえ死んでしまったとしても・・・、異次元世界からこちら側の世界で強奪を繰り返していた一派の先兵が、再び襲ってきたけど捕える事が出来、尋問をしようとしたら自害したとでも言っておけばそれで十分ということだ。


 誰もお前の生き死になど案じることはない・・・だったら早いところ楽になった方が身のためだぞ・・・、どれだけ頑張ったところで、おまえの処遇が変わる可能性は皆無だ。

 何度も言うが、どうせ死刑なのだから、最後ぐらいは全てを打ち明けて、すっきりして死んで行け。」


 交代制で俺を連続で攻め立てている中で、こいつの声だけは耳に残って来た。

 何人かいる対応者の中で、容赦なく俺を責めたてる奴だ。


 中には、傷の手当てをしてくれたり、少しだが水や食べ物を与えてくれる優しいものもいる中で、こいつだけは違う・・・、他の奴らに比べてこいつだけは俺に対する恨みが特に激しいと思える。

 声から察するに、俺を捕える時に俺に手錠をかけた奴ではなかったかと考えているが、なぜ俺に恨みを持っているのかは分らない。


 何度も殴られて瞼は腫れあがり、視界はほぼゼロの状態なので、顔の確認は出来やしない。

 あくまでも声だけからの推定でしかない・・・、しかしこいつの聞きたがっていることはなんだ?

 俺は正直に向こうの世界の状況と、恐らくは向こうの世界は大量の核攻撃により、ほぼ死に絶えたであろうことを伝えている。


 俺は向こうの世界にいたとはいえ、核攻撃の際は地下深くに籠っていたから、そこがシェルターの役割をして実質被害を受けてはいない。

 すなわち、地上世界がどれほどの被害を受けたのか、全く分かっていないのだ。


 そんな俺が、モニターの状況や、供給されていた電力が絶たれたこと、ネットワークも壊滅状態な事から推察した、あくまでも推定でしかない向こうの世界の状況では足りないとぬかしやがる。

 じゃあ、どのような事を言えばいいのか・・・、こいつの求めている解が俺にはさっぱり思いつかないでいた。


『ガチャッ』「おい・・・、もうこれくらいにしておけ。

 これ以上行なうと、戦争捕虜虐待としてジュネーブ協定違反となってしまう恐れがあるそうだ。

 こいつへの取り調べはもうこれまでだ・・・、後は裁判で決着をつける。」


 扉を開けて、誰かが入ってきて俺を責めたてていた男に大声で告げる。

 なんだかよくわからないが・・・、ようやく解放されるのか・・・?

 ほっとしたと同時に、そのまま俺の意識はどこかへ飛んで行ってしまった・・・。



「大丈夫・・・?いや、大丈夫な訳ないよね、こんなに顔を晴らして、更に体中あざだらけで・・・。

 ごめんなさい・・・、ジュンゾーが向こうの世界の事を打ち明けてくれれば、もうそれでいいって、こちらの世界の安全が明確になったら、それだけで解放してくれるっていう約束だったの。


 だから、私が何とか向こうの世界の話を聞きだそうとしたんだけど・・・、きちんと打ち明けてくれたっていうのに、本当にごめんなさい。」

 暖かな手のぬくもりをおでこと頬に感じて目覚めると、病室のベッドの横には榛名朋美の姿があった。


 彼女の確認だけは、いくらまぶたが腫れあがっていて半分も目が開かない状況でも可能だ。

 まあ、そんな口約束に踊らされて、彼女はスパイ行為を行ったと言う訳だ。

 彼女は悪くない・・・・、悪いのは約束を簡単に反故にして、俺をただ攻め続けたあいつだ・・・。


「でももう大丈夫よ・・・人権保護委員会っていうのに訴えたから・・・。

 その委員会のトップっていうのが、ジュンゾーの良く知っている・・・と言ってもこちらの世界のジュンゾーが知っているんだけど・・・、徴兵された時の教育係の先生だった人なのね。


 俺に何かあったら頼って行けってジュンゾーがいつも言っていたのよ・・・、私には身内は1人もいないから。

 でもよかったわ・・・、ジュンゾーが解放されて・・・。」


 彼女が裏で色々と動いてくれたということだったのか・・・、そうだよな、俺の取り調べは世間に知らせずに行っているなんて言っていたものな・・・、あのままにされていたら、俺は間違いなく責め殺されていたことだろう。


「じゃあ、又明日面会に来るわね・・・。」

 そう言って彼女は、ベッドで身じろぎ一つ出来ずにいる俺の体を気づかいながら、病室を後にして行った。

『カチャッ』彼女が出て行って扉が閉まる音を聞いた位のタイミングで、俺は少し気が緩んだのか、そのまままた気を失った。


「おうおう・・、本当に新倉山だな・・・、これで実は別人というのか?

 ううむ・・・、並行宇宙論・・・、自分と全く同じ存在が、別次元にも存在すると言うのは本当か・・・、恐ろしいよな・・・、現実にそいつに会ってしまうと、信じるしかないわけだが・・・。」


 寝ている俺の頭の上から大きな声で怒鳴っているような声が聞こえる。

 どこかで聞いたような声ではあるが、勿論向こうの世界でではない・・・、もっと最近のこちらの世界での事だ。


「うん・・?どうやら気が付いた様子だな・・・、大丈夫か?俺の声が聞こえるか?」

 元々地声が大きいのか、大声で叫んでいるとしか思えないような大音響で、俺の耳元に語りかけてくる。


「は・・・はい・・・はっきり聞こえ・・・ます・・・。」

 俺は、すかさず返事をしようとしたが、喉も潰されているのか、薄目を開けて、かすれた小さな声しか発することが出来なかった。


「おう・・・そうか・・・、だいぶ痛めつけられたな・・・、気の毒な事だ・・・。

 恐らく筑波のやつだろ?ひどいことをするよな・・・、あいつは堅物だから、この世界を恐怖に陥れていたマシンを操っていた奴を、決して許しはしないと言う事だろうな。


 あいつらのひどい取調べは、国際法に照らして明らかに違法だから君を解放するよう要求して、取り調べは中止にさせた。

 しかし、君自身の容疑が晴れたわけではない・・・、なにせ我々の世界から強奪を繰り返していた、その手先であることに間違いはないのだろうからな。


 いずれ裁判で裁かれることになるが、あんな非合法な攻め立てではなく、あくまでも合法的な取り調べの後、裁判で裁かれるから安心してくれ。

 朋美ちゃんに聞いたんだが、君が操作するマシンは暴力的ではなく、君のマシンがやって来てからは、ここ東京における解放戦争での犠牲者が激減したということじゃないか。


 そうして君が向こうの基地を占拠したお蔭で、我々が世界中の侵略基地を攻略して反撃に移ることができたんだということも聞かされた。

 そうすると、君は向こうの世界の手先というよりも、こちらの世界を救ってくれた英雄と言えないこともない。


 裁判の判決に関して、俺は如何こう言える立場ではないが、恐らくそう悪い判決にはならないのではないかと考えている。」

 薄目を開けて見えるその男は、肩幅も広くがっしりした体格の・・・、白髪交じりの中年の男の様だった。


 合法的とはいえ、裁判で裁かれる事は余りありがたくはないが、裁判で刑が確定してしまえば、あのようなひどい責め苦からは解放されるのだろうから、よかったのだと考えよう。


 それに、俺のした事もきちんとわかってくれている様子だ・・・、これなら逆に英雄として迎えられる可能性もないとは言えない。

 安心したと同時に・・、周り中が真っ暗になって行った・・・。


「どうだ?回復したのか?あれから1週間も経つぞ・・・。」

「いえ、まだ昏睡状態で、目覚めていないわ。


 拷問とも言える取り調べで、随分と弱っている状態だったので、点滴で眠らせて回復を促したということよ。

 昨日から、睡眠導入剤の投与は取りやめたので、もうしばらくすれば目が覚めると先生が言っていたわ。」

 ふと気が付くと、俺の頭の上で野太い声と、聞き覚えのあるやさしい声の会話が聞こえてきた。


「うん?」


「あっ・・・気が付いた?

 ひどい取調べだったから、骨折などはしていなかったけど、打撲や内出血などがひどくて・・・、ひどい目にあったわね。


 でももう大丈夫よ、先生も普通に起きて動けるようには回復したと言っていたから。

 でも、無理は出来ないから、ゆっくりとリハビリしましょうね。」


 目を開けると、真っ白な壁と天井と、美しい女性が目に入る。榛名朋美だ・・・。

 どうやらここは、病院のようだ。

 気を失った俺を医療施設に入院させて、治療してくれていたのだろう。


「いや・・・、ゆっくりとリハビリなんてことを言っては居られない。

 新倉山順三さんだね?もっともこちらの世界にも同名の人物がいるのだが、向こうの世界の存在ということのようだ。


 起き上がれるかね?」

 野太い声のする方を見てみると、あごひげを蓄えた、熊みたいに体の大きな男が俺の顔を覗きこんできた。


「うん?ああ・・・・、なん・・とか・・・。」

 俺は右手と左手に力を込めて、上半身を起き上がらせると、腰を浮かせて少し上方へからだを移動させる。


「ふうっ・・・、これだけでも息が乱れるな・・・。」

 何時のまにか着替えさせられていた浴衣の袖から見える俺の腕は、骨の形が透けて見える程細くなっていた。

 たったの一週間で、ここまで細くなってしまうのか・・・?


 いや、拷問の様な取り調べは、何日も続いたのだから、向こうの世界で1週間はまともに食べていなかったし、こっちの世界へ来てまともな食事にありついたのは、榛名朋美の部屋で世話になった2日ほどだから、3週間近くはまともに食べていなかっただろうし、まともに動いてもいなかった・・・、筋力も落ちるわな・・・。


「おお・・・、これなら何とか裁判にも出廷できそうだな・・・。」

 熊のような外観の男は、俺の様子を見て安堵の吐息を吐く。


「ええっ・・・、裁判ってどういう事よ。

 ジュンゾーはこれから正規の取り調べを受けて、それから正規の裁判へ向かうんじゃなかったの?

 赤木さんだって、もう大丈夫だからって言っていたわよ・・・。」

 そんな男に対して、榛名朋美がくってかかる。


「いやあ・・、俺も先生からはこいつの事は穏便に済まそうと言うことを聞いていたんだが・・・、どうやら、そう簡単にはいかないようだ。

 なにせ、ここ東京だけではなく、世界中で強奪行為にあっていたからな。


 日本だけでも札幌や大阪・京都など主要都市での被害は大きく、犠牲者も大量だ。

 ようやく我々が一矢報いる反撃に転じたわけだが、その効果は全く掴めておらず、我々の世界が解放されたのか、はたまた再度侵略の憂き目にさらされるのか、世界中の人々が戦々恐々としている。


 なにせ、それまでは反抗さえしなければ、銃撃の的にさらされることはほとんどなかったが、きつい反撃をしてしまったがために、恐らく向こうの世界からの報復は激しいものになることが予想されるからだ。

 下手をすると、人類の大半を大量虐殺なんて事にもなりかねない。


 だからこそ、向こうの世界の様子を少しでも早くつかんでおきたいし、その情報の公開を待ち望まれている。

 こいつの裁判で、向こうの世界の状況を把握して、警戒が必要であるのであれば、警戒を強めようと言う訳だ。

 我々の反撃が成功していて、向こうからの侵略が当面起こりえないと言う情報が得られれば、尚いいのだがね。


 だから、少しでも早く、こいつの裁判を開く必要性があるということのようだ。

 取り調べができないならそれでも仕方がないから、裁判だけでも早急に行うと言う意向だ。

 裁判は明日の午後から行われる。」

 熊のような体格の男は、野太い声で捲し立てるように話した。


「まともな取り調べも出来ないようにしたのは、そっちのせいでしょ?

 こんなにひどい事をして・・・、それなのに、全快する前に裁判へ出頭しろというの?

 そんなんで、本当に合法的な裁判と言えるのかしらね。」

 榛名朋美は、尚も自分の倍はあるであろう大きな体の男に食ってかかる・・。


「あっああ・・・・、朋美ちゃんが言いたいことはよくわかる・・・、だがこれは世界政府からのお達しなんだ。

 我々レベルで如何こう出来る話じゃない。

 それに、世界政府が聞きたいことは、我々の反撃の効果がどうかということだから、こいつの処遇に関してはあまり興味がないだろう。


 だから、下手をすれば一番軽い刑罰で済む場合もありうるわけだ、だから、まあ悪いが車いすでもいいから何とか明日は出頭してくれ。」

 そう言い残して、男は病室を後にして行った。


「ああっ・・・あーんもう・・・、でも仕方がないわね・・・。

 まあ、正式な取り調べがないのは不満だけど、取り調べがあったからと言って、判決が変わるとも思えないし。


 裁判になれば、判決までの期間は自由に行動できる様にもなれるし、裁判へ行く事にしましょうね。

 こんな、変な病院とはお別れした方がいいわ。」

 榛名朋美の目線の先の病室の窓には、頑丈そうな鉄格子がはめ込まれていた。



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