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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
22/117

告白・・・のつもりが

8 告白・・・のつもりが

「ええっ・・・一体、どうしたの?」

 俺が突然普通に話しはじめたことに驚いた表情で、彼女は立ち止まる。


「ふうん・・・、なにか、思い出したということなのよね?

 いいわ、ちょっと待っていてね。」

 そう言うと彼女は奥の部屋へと入って行った。

 どうしたのだろうか・・・、俺の記憶が戻ったとでも勘違いしているのだろうか?


「じゃあ・・・、聞かせて・・・、向こうの世界の様子はどうだったの?

 どうして、こちらの世界から強奪をしていたの?」

 部屋から出てきた彼女の胸は、大きく膨らんでいた。


 間違いなく何かそこに隠しているし、それが何なのか大体の想像はつく・・・、なにせ、彼女の後ろへと続くコードが丸見えだ・・・、恐らく録音機か無線機のマイクだろう。

 こちらの技術力では、マイクロマイクやイヤホンマイクなど発明されていないのだろうな。


「いや・・・まずは昨晩のことを謝っておきたい・・・、俺は君に対してひどい事をしてしまった。

 君が勘違いしていることに付け込んで、あんなことを・・・。」

 まずは彼女に昨晩のことを謝ろう・・・、こうして置けば俺の正体も明かしやすい。


「うん?昨日の事?何の事か分らないけど?

 そんな事よりも、向こうでの生活はどうだったの?思い出したんでしょ?」

 彼女は、俺の言っている言葉の意味が分からないのか、それよりも向こうの世界の様子を聞きたがっているようだ。


「いや・・・、非常に重要な事なんだ・・・、俺は実をいうと、君が考えている人物ではない・・・というか、俺は新倉山順三本人に間違いはないのだけど、この世界の俺ではなく、別次元の・・・、別の世界の新倉山順三なんだ。


 今では外観上さほどの違いがないため、君の勘違いを利用して、その・・・・、昨晩君と・・・。」

 俺はそう言いながら深々と頭を下げる。


「いいから・・・、そんな事よりも、向こうの世界はどうなっているの?

 こちらからの攻撃で少しはダメージを受けたから、強奪行為は収まっているの?

 また復活する可能性はあるの?」

 彼女は俺の話を一切聞こうとはせず、俺たちの世界の情報を聞きだそうとする。


 まあ、その為にマイクを忍ばせてきて、俺の証言を録音するのか、あるいは無線機で流しているのか知らないが、俺としては正直に自分の正体を明かして、更に犯してしまった過ちを謝罪してから、全ての情報を与えるつもりでいる。

 物事には順序というものがあるのだ。


「いや、だから、・・・・繰り返し言うが、こちらの世界の俺に扮した俺が君と昨晩・・・。」

「もういいから、向こうの世界の事を話して。

 お願い・・・」


 最後の言葉は聞き取れるかどうかというくらい小さな声で、彼女は小さく手を合わせる。

 そうかそうなんだ、俺と彼女が関係を持ったことは、皆には知らせたくないのだろう。


 それを俺が先ほどからずけずけと・・・謝ろうとしながら彼女の恥をさらしていただけということか、これは失敗だった・・・、まずはきちんと謝罪をしておこうと考えるあまり、状況を理解できずにただひたすら、昨夜の事を繰り返し暴露してしまった。


「そ・・・そうか・・・、向こうの世界・・・俺の居た別次元だが、そこでの世界人口は、既に百億を超えていた。

 こんな狭い地球にそれだけの人口がいると、当然のことながら食糧危機に陥る。

 特に食料品の物価上昇は激しく、キャベツ一玉千円という時期もあったほどだ。


 その食糧危機を解消するために、俺の居た世界は、もう少し資源に余裕のある別次元から食料を調達することにしたようだ。

 しかも食料の対価に技術や工業製品を贈る、いわゆる輸出入のような関係ではなく、一方的な強奪行為を行っていたようだ。


 俺はその様な事情は知らずに、シューティングゲームの技術をかわれて、その食糧強奪チームのガードの仕事をしていた。

 シューティングゲームと言っても何の事か分らないだろうが、要するにピンボールマシンのようなゲームコントロールの技術を駆使して、マーケットから強奪行為を行っていたマシンの護衛をしていたということだ。


 俺を始め、その役割についていたメンバーは全員、異次元からの食糧強奪とはまったく知らされずに、ただのゲームとして操作していただけだが、俺はあるとき気づいてしまった。

 中国で一度向こうの人とコンタクトして、それから日本へ飛んできた後に、君と文字だけのやり取りだったが、それを通してこの世界は空想上のものではなく、実在するのだと言う確証を得た。


 それからは半年使って、世界中の同様の強奪行為をしている部署との関係を深め、全てのコントロールを把握できるよう権限を無理やり偽造して、そうして、一人だけのクーデターというか、この世界での強奪行為を中止させるべく行動に出た。


 簡単に行ってしまえば、こちらの世界で強奪行為を行っていたマシンの操作を全て凍結(動かなく)してしまったということだ。

 それにより、強奪行為が中止されたばかりか、各地の基地の警備も手薄になり、君たちが世界中の基地を攻略して、次元移送装置を手に入れ、それを使って今度は君たちが俺たちの世界へ強力な爆弾を送り込んだと言う訳だ。


 そのクーデターを開始したのが、おおよそ3週間と少し前だ。


 それから2週間というもの、俺の所属していた組織の上司やお偉いさんたちが何度も俺を説得しようとしたり、あるいは強行突破して俺を拘束しようとしたのだが、何とかそれらを防いで、この世界への強奪行為を向こうの世界に知らしめて、如何に異次元世界とはいえ、人々を苦しめる行為を止めさせようと計画していた。


 ところが1週間ほど前だが、突然空が眩く光ったかと思うと、俺の居た地域は閃光につつまれて恐らくは消失してしまっただろう。

 俺は地下深くに籠っていたので難を免れたが、何百万か何千万か確認できなかったから不明だが、多くの人々が犠牲になったはずだ。


 この数字は俺がいた地域だけで、世界規模では何十億もの犠牲者が出たのではないかと俺は解釈している。

 但し、俺が確認できたのはあくまでも俺がいた東京地区だけだ。

 それ以外は通信が遮断されてしまったがために、無事でいるかもしれず、全滅したかどうかの確認は出来ていない。」


 俺は今まで、口をつぐんでいたことを取り戻すかのように一気に話し終えた。

 なにせ、この辺りの説明は今日の昼間に何度も繰り返して、手際よく説明しようと考察しておいたのだ。


 とりあえずネットワークの消滅と、俺の居たビルの監視カメラ映像から推察して、あの地域が核の攻撃を受けたことは間違いがない。

 だが、その攻撃により俺の居たビルのインターネット回線も不通になったがために、他の地域の確認は出来なかったのだ。


 しかも表へ出て確認する事など到底できない状況であったので、仕方がない。

 ここは正直に判っていることだけを強調して話す事にした。


「最後に・・・、今でも考えるが、あのまま爆弾を落とさずにいてくれたなら・・・、うまく行けば、異次元への強奪行為が知れ渡り中断された可能性が高いと今でも思っている。


 少なくとも、もう、1.2週間はこちらの世界への干渉を止められただろうし、例え俺の身が拘束されようとも、再び同じ状況には戻らなかったのではないかと、考えている。」

 そうして最後に、あの悲惨な核攻撃が無くても、こちらの世界は十分に守られていたであろうことを強調しておく。


「それは無理よ・・・、だって物言わぬ機械相手だもの・・・。

 あの強奪行為が、どれほど不気味で恐ろしかったか・・・、なにせ、同じ血が通っている生き物・・・、というか人間が行なえる行為とは、到底思えてなかったから・・・。


 搬送機械で無理やり食料をかき集めて、逆らえば殺されちゃうのよ・・・、ちょっとでも抵抗しようものならすぐに銃口が向けられていたんだから・・・。


 そりゃ・・・、半年くらい前から状況は・・・、少しは変わったわよ。

 死ぬ人が出ることが珍しくなった・・・、でもそんなことになったとしても、あの忌まわしい4年間があったから、いつまた殺戮が始まってしまうのか、みんな気が気じゃなかったの。


 そんな時よ・・・世界各地で時が止まったように、強奪がされなくなったのは・・・、ついでに基地の警備も薄くなって、襲撃がスムーズに行えたわ。

 そうして、私たちの世界からでも向こうの世界へ干渉できるってわかった時・・・、私たちは迷わず一番強い武力を行使することを決定したわ。


 私も最初のうちは過激な攻撃は不幸の連鎖を生むだけだから、考え直した方がいいって主張していたんだけど、それでもジュンゾーが捕えられたまま戻ってこないことも加わって最終的には合意したわ。

 報復を考えると、あのような攻撃は全員の賛成がなければ到底行えない事柄だったから・・・。


 つまり、この世界の住民は、全員が賛成してあの巨大な新型兵器を送り込むことに賛成したのよ。

 それにより、2度とあのような強奪行為が起きなくなれば、それは大きな成果であると受け止めることにしたのね。」


 榛名朋美は、俺が話した何十億もの被害者が出たということに関して、一体どう受け止めているのだろうか。

 恐らく俺の言葉の意味が分かっていないのであろう。

 まあ、確かに俺だって確かめた訳ではないし、あくまでもごく一部の状況からの推察でしかないわけであるが、あの一瞬の状況判断から、直撃を食らって無事でいられた地域はなかったのではないかと正直考えている。


 人類が生存している可能性は、離島とか極地とか、そんな辺境以外では無理と考えているのだ。

 また、そんな生き残った人々だって、世界中に蔓延しているであろう核の灰がやがて上空へと舞い上がり、辺境の地へもやって来ることだろう。


 そうでなくても、海へ落ちた死の灰は着実に海洋を汚染し、海の生物でさえも死に絶えてしまうだろうと考えている。

 つまり残された人類も生き延びられる可能性は非常に低いだろうと、俺は推定している。


「聞いた感じでは、向こうの世界へかなりの打撃を与えられたようだけど、報復措置を実行される可能性はありそうかしら?

 もし報復されるとしたら、日本が一番可能性が高い?」


 榛名朋美は、尚も平然と聞いてくる。

 うーん、理解していないと言うより、多くの犠牲者ということに対してイメージがわかないのか・・・。


 なにせ、こちらの世界では百年以上も平和が続いて、戦争が起きていないから犠牲者がどれだけと聞いても、実際に人の生き死にの感覚が希薄なのかもしれない。

 死ぬということは理解していても、大量破壊兵器による虐殺の悲惨さは知らないのであろう。


 それはそうだろう・・・・、俺たちの世界では過去に、核兵器を実際に自分たちの世界の中で使用していても、尚も大量に作り続けたという歴史があるのだからな。

 核兵器で実際に攻撃を受けた日本が率先して核兵器の悲惨さを世界中に発信して行ったからこそ、その事実が認識されたと言えるのだろうからな・・・。


 まあ仕方がないとするか・・・、なにせ元々は俺たちの世界がこの世界に対して非合法な強奪行為を行ったのが始まりなのだ。

 それに対して、より非合法とも言える核攻撃を仕掛けられても文句は言えないということだ。


「世界中に強奪マシンのコントロールを行う基地が点在しているが、俺がいた東京基地が1時期全ての基地の操作をコントロールしていた。

 ネットワークに障害を受けている今では開放されているだろうが、仮に一部の基地が助かっていたところで、複雑なパスワードの解析は困難を極めるだろう。


 なにせ英数字と特殊文字を使って、24ケタのパスワードを設定しているから、破ることはまあできないだろう。

 なにせ、再度アクセスすることを考えずに、やたらと長いパスワードを設定したのだからな。


 だから、報復されるにしても、今までの基地からではなく、別の場所からだろう。

 向こうの世界の秘密基地が、他にもあればの話だがね。」


 俺は、向こうの世界でどれだけの人々が生き延びることができたのか知らないが、恐らく当面は報復など考える暇もないだろう。

 それくらい激しいダメージであることは確かだからだ、向こうの世界の復興が最優先であろうと考えている。


「ふうん・・・、言っていることの意味は全く分からないけど・・・、まあイメージとしては他の基地の人たちとも仲良くなって、皆に協力してもらってこちらの世界への侵略行為は止めていたと言う訳よね。

 恐らくそれは今でも続いているだろうということね。


 そうして、反撃をされるとしたら、それは今までの基地とは別の秘密基地である可能性が高いと・・・。

 分ったわ・・・、ねえ、もうこれくらいでいいでしょう?

 もう私たちを解放して。」


 彼女は突然その膨らんだ胸に向かって叫び始めた。

『ガチャッ』『ダダダダダッ』すると突然部屋のドアが開き、数人の男たちがなだれ込んできた。


 やはり彼女は自分の服の下に無線機のマイクを忍ばせていたようだ・・・、まあ、同じ話を2度しないで済むから助かるけど・・・。

 そんな事を考えていたら・・・


「ご苦労だった・・・、後は俺たちがこいつから重要事項を吐かせる。

 もう自分は異世界から来たことを認めたんだ、記憶喪失のふりなど認めない。

 どんなことをしてでも吐かせるから、任せてくれ。」


 そのうちの1人が俺の背後にまわり、俺の右手を逆手に取った。

『カチャリ』な・・・なんだあ?その冷たい感触は・・・手錠?


「ちょ・・・ちょっと・・・・、話が違うじゃない・・・。

 彼が向こうの事を素直に話して、こちらの世界の安全性が確認されれば解放してくれるって言ったじゃない。

 どうして連れて行こうとするの?」

 すると突然榛名朋美が驚いたように、その男に食って掛かって行く。


「馬鹿な事を言うな朋美・・・、こいつは新倉山じゃないんだ・・・・いや名前はそうかも知れないが、異世界の存在で、俺たちが知っているあの新倉山じゃない。


 こいつはこちらの世界にも自分と同じ存在がいることを知り、それを利用してこちらの世界に転生しようとたくらんだ、どうしようもない奴さ。

 こちらの世界を苦しめた代償を、ゆっくりと味あわせてやるさ・・、さあ歩け・・・。」

 そうして無理やり立ち上がらせられると、そのまま外へと連れ出されることになった。



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