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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
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再会(?)

4 再会(?)

『パチパチパチパチパチ・・・』ふと後方から拍手が沸き起こった、なんだなんだ・・・、有名人でも来たのか?

 慌てて振り返ると、俺の後ろには黒山の人だかりができていて、皆こっちを見て何か叫びながら嬉しそうに笑顔で拍手をしている・・・一体どうしたんだ?


「スゲーな、あんた・・・、このゲームセンターの記録をもう少しで抜くところだぜ。」


「本場アメリカの、プロのゲーマーたちが、得点カウンターの写真を送って見せても信じないと言ったくらいの記録で、これを破る人間はもう出てこないとまで言われていたんだ。

 それをたった1球で・・・、あんた何モンだ?」


 ゲーム機を取り囲むようにしているギャラリーたちから声がかかる。

 ちょっと不良っぽい若い男達からのようだ。


「ああ・・・いや・・・。」


 俺は、後ろが騒がしかった理由をようやく呑み込めた気がした、余りに突然の事で言葉に詰まる。

 そうか・・・、ピンボールなんか、子供のとき以外では、コンピューターゲームのシミュレーションソフトでしかやったことはなく、当然実機の一般的な点数などは判らない。


 一人で黙々とゲームにはまって繰り返しリプレイしていたのだが・・・、当たり前だが、実機の場合は1ゲーム当たり金がかかっているのだ、ここでは玉5発で50円。

 いくら練習したくても金がかかるので、給料とか物価相場にもよるが、限界はあるのだ。


 対する俺は、さほど興味を持ったわけではなかったが、なにせ一旦インストールさえしてしまえばゲーム自体は無料のコンピューターシミュレーション・・・、何も考えずに夢中で継続していた訳だ。

 その成果が実機でも出たと言える・・・、実機に近いシミュレーションソフトを作ってくれたプログラマーに感謝だ。


「すごいよなあ・・・・あれ?あんたの顔・・・どこかで見たことがあるな・・・。」

 ついでに変な事を言い始めた。


 まさか不審者リストに入れられて、手配状が回っていないだろうな・・・、昨晩からこの近所を徘徊する浮浪者なんて扱いで・・・。


「じゅ・・・ジュン・・・・、ジュンゾーでしょ?・・・ジュンゾーなのよね?」


 すると突然人ごみの後ろの方から人をかき分けて、一人の女性が前へ飛び出してきた。

 可憐で美しく、とてもこんなむさくるしいゲーセンには似つかわしくない存在・・・、榛名朋美だ・・・・。

 彼女はそのまま俺の目の前まで詰め寄ると、目には涙を浮かべながら、俺の頬に手を当てる・・・。


「どうしていたの?この半年間・・・。」

 彼女はジュンゾーと呼ぶ相手と、俺の事を間違っている様子だ・・・、さてどうしようか・・・。


「敵に捕まって、拷問でもされていたの?こんなに変わり果てた姿になってしまって・・・。

 逃げてきたのでしょ?こちらの世界から反撃を開始したから・・・・、向こうの世界はどうなったの?

 少しは破壊された?それとも、こちらの最新型爆弾でも、ダメージを与えることは出来なかった?」


 彼女は、随分と恐ろしい事を話しかけてくる・・・・その最新爆弾とやらで、恐らく地上は消失してしまっただろう。

 そうなのか・・・、やはり彼女たちメンバーが俺たちの世界へ核攻撃を掛けたのだ。

 そうなると・・・、彼女が言っているジュンゾーって???


「どうしたの?何も言わずに・・・、ゲームセンターの店長も何も話さないし、似ているとは感じたけど何かおかしいって言っていたわ。

 厳しい拷問で記憶障害にでもなってしまったの?


 それでも、ゲームの事だけは忘れずに、こっちへ戻ってからここへやって来たと言う訳なのね。

 でももう大丈夫よ、あたしが付いているわ・・・、とりあえず、部屋まで帰りましょ、ジュンゾー・・・。」

 そう言って彼女は俺を抱きしめると、俺の手を引っ張って行こうとする。


 ジュンゾーと言っているのだから、それは恐らく俺だ・・・・、いや、こっちの世界での俺の事なんだが・・・。

 やはり、こちらの世界でも俺はゲーム好きということなのだろう。

 そうして、ゲームを通じてなのか、榛名朋美と親しい間柄となっているのだろうか・・・。


 どこまでの間柄かは分らないが、彼女の口ぶりから察するに、恋人同士と言えそうな関係とも取れるが・・・、余りの事に驚いて何も話せずにいたら、記憶喪失と間違えられているようなので、これは都合がいい。


 だがなぜ、あんな精悍ではつらつとした、この世界の俺と、既に中年太りで腹が出始めた、平和な世界でぬくぬくと暮らしていた俺・・・、いくら本人だとしても見間違えるだろうか?

 いや・・・、でもそうか・・・、世界中に数百はある基地の把握の為に、約半年かけて各基地の応援を一切断らずに行ってきたのだ。


 そう・・・、奴が撃ち殺されて半年が経過している訳だ・・・、その間拉致されていて、不自由な牢獄生活を課せられていたとしたら、自由に運動もできず体型など変わっていると想定していても当然か・・・。

 特に、ここ1週間ほどはまともに食べていなかったから、脂肪太りの腹も少しは引っ込んでいることだろう。


 俺から積極的にこの世界の俺に成り代わろうとしている訳ではない、勝手に勘違いしてくれているだけなのだ。

 まあ、卑怯な気もしないではないが、そこはそれ・・・、こちら側の世界に俺の味方は1人もいないのだから、少しでも俺に対して好意的な態度を見せてくれている人に対して、人違いです・・・、俺は異次元世界の方の俺ですなんて馬鹿正直に話す必要性はないだろう。


 いずれは正直に話すにしても、少しの間、こちらの世界の状況が分るまでは、記憶喪失のふりをしていることにしよう。

 そう考えて俺は、そのまま彼女に手を引かれて、一緒にゲームセンターを出た。



 彼女に連れて行かれた先は、木造2階建てアパートの、2階の角部屋だった。

 玄関を開けて入ったすぐには居間と兼用のキッチンがあり、その奥にもう一部屋と言った、1DKのアパートのようだ。


 と言っても、居間は台所と食卓スペースもあり、10畳くらいで結構広い。

 傍らにはソファーが置かれ、その前には何とブラウン管のテレビが置いてあり、20インチくらいの画面の左右にスピーカーなのか、オーディオスペースが設けてあるようだ。


 音にこだわるタイプの人間なのだろうか・・・。

 居間の右奥にはドアがあり、恐らく洗面やふろなどがあるのだろうと推察される。


「どうしてしまったと言うの?この部屋での生活の事も忘れてしまった?」

 俺が部屋の中を興味深そうにきょろきょろと見回していると、彼女は悲しそうに目に涙をためる。


「仕方がないわね・・・、長期間、敵に捕まっていたのですものね・・・、でもすぐに回復して、何もかも思い出すわよ、安心して・・・。

 まずは、ちょっとシャワーを浴びてね・・・。」


 彼女はそう言うと、俺をキッチン右手のドアの向こうへと誘導する。

 その扉の向こう側の左手にもう一つドアがあり、恐らくここはトイレだろう。

 右手には洗面台があり、更に正面のガラス戸を開けると、そこは浴室だった。


「さっ、ここよ。」

 やはりちょっと臭うのか、彼女に浴室へと案内される・・・申し訳ない、なにせ地下室には洗面所はあったがシャワー室などなかったのだ。


 俺が世界各地の基地の応援を開始して、夜勤というか、泊まりこみを何度も繰り返していたので、せめてシャワー室も・・・と言う話は出たのだが、やはり地下深くに増室することは難しいようで、汗拭き用のウエットティッシュの大きなボックスを備え付けてくれたにとどまった。


 それも、籠城生活を始めて2週間持たずに使い果たしていた。

 つまり、3週間は風呂もシャワーもなしで、丸々1週間は体を拭いてもいなかったのだ、そんな俺によく抱き付いたものだと、今なら思える。


「どうしたの?こうやって服を脱ぐのよ・・・。」


 考え事をしていたので、ぼーっとしていたら、俺が何もかも忘れてしまったと勘違いしたのか、彼女が俺の服を脱がす為、シャツのボタンを外し始めた。

 まるで幼い子供を風呂に入れる母親のように・・・。


「ああっ・・・、だっ・・・。」

 あまりの突然の行為に、俺はうろたえ、言葉にならない声を発しながら、彼女の手をそっと掴んでその行為を止める。


 あこがれの彼女に服を脱がせてもらったら、俺の恥ずかしい部分はますます恥ずかしい状態になってしまって、そこを彼女の目の前にさらす事になってしまう。

 そうなると、俺は自分の衝動を抑えられる自信はさらさらない。


「どうしたの?自分で脱げるって言うの?」

 彼女はやさしく微笑みながら、俺と目を合わせてくる。

 何とも魅力的な笑顔だ・・・、俺はほぼ硬直状態で、何とか頷くのが精一杯だった。


「分ったわ・・・、じゃあ、お行儀よくシャワーを浴びてね。

 着替えを持っていくから、シャワーが終わったら教えてね。」


 そう言って彼女は、後ろのドアからキッチンへと戻って行った。

 ふぅっ・・・・、今でも心臓がバクバクと激しく鼓動しているのが、胸に手を当てるまでもなく全身で感じられる。


 恐らく耳たぶまでも真っ赤になっていることだろう。

 それくらい彼女は、俺のあこがれの存在であり、話すどころか抱きしめることもできる距離にいると想定できる、今の立場が夢の中の出来事のように感じられる。


 どうすればいいだろうか・・・、うーんわからん・・・、とりあえず、臭い体は失礼にあたるから、シャワーを浴びるとしよう。

 俺は、汚れきった服を丸めると、ズボンのポケットに折りたたんで入れておいた、スーパーのレジ袋に詰め込んだ。


 3週間も着続けた汚れた服を、そのまま脱衣かごに入れるわけにはいくまい・・・、着替えを持ってきてくれるということだったから、一旦はそれを借りて、これは後で自分で洗う事にしよう。


『ザーッ』ほぼ3週間ぶりのシャワーは、何とも気持ちよかった・・・、シャンプーも石鹸も、余りの汚さからか、最初は泡も立たない始末で、何度か洗い直してようやく泡立ち体を洗い終えた。

 安全剃刀も用意されていたので、無精ひげを鏡を見ながら剃って行く。


 ひどい顔だ・・・、気づいていなかったが、この世界へやってきて、地下鉄を辿って地上へ上がる際に転んだのだが、その時に額や鼻に擦り傷をいくつも作っていたようだ。

 血はとっくに止まっていて、かさぶたとなっているが、見た感じ的に拷問を受けていたと感じても不思議ではない。


 何も話さずに、榛名朋美が色々と推察してくれた理由が分らなかったが、顔面傷だらけで無精ひげボウボウの変わり果てた姿を見て、察してくれたということなのだろう。

 手早くタオルで体を拭いて脱衣所へ出ると、先ほど俺が脱いだ服を入れたレジ袋はどこかへと消えて、そうして代わりに着替えの服が置かれていた。


 そうして洗濯機が回っている・・・うん?何か違うような・・・、そうだ、この洗濯機、洗濯槽の隣にもう一つ小さな槽が付いている・・・、小物を洗うためのものだろうか?


 着替えの服は恐らく、この世界の俺の物だろう・・・、彼女の態度から察すると、俺と彼女は相当に近しい関係・・・、この部屋で一緒に住んでいたか、そうでなくても何度もここで泊まったことがあるのだろう。

 シンデレラのガラスの靴ではないが、腰回りの贅肉でサイズが合わないことを多少心配したのだが、問題なく着ることができた。


 恐らくこの世界の俺はかなりのマッチョマンなのだろう・・・、中年太りの俺の脂肪や贅肉の代わりに筋肉がついているような・・・、今の俺は1週間の断食で腹回りは引っ込んでいるようだから、ズボンも何とかはくことができた。


『ガチャッ』「あっ、あの・・。」

 俺は、声にならないような小さな声を発しながら、脱衣所を出て行く。

 榛名朋美の姿を想像すると緊張してしまい、のどがつまるのだ。


「ああ・・・、すっきりしたわね・・・、先ほどの姿もワイルドでいいかも知れないけど、やっぱりこの方が清潔感があっていいわよ。」


 榛名朋美は、俺が自分の好みであの姿でいたかもしれないということも否定せずに、笑顔を見せる。

 本当にかわいい・・・。


「お腹もすいたでしょ?突然だったから、何も準備できなかったので、有り合わせでごめんなさい。」

 そう言いながら彼女は俺を食卓につかせる。


 そこには、野菜などの炒めものと、切り身の焼き魚とみそ汁とご飯が用意されていた。

 そんな・・・、有り合わせで、これだけの物が作れるなんて・・・、当たり前の話だが、彼女の謙遜ではあるのだろうが、急な来客の対応もそつなくこなすところが素晴らしい。


 そう言えば、コロッケとパンを食べてから結構時間が経っているので、もう腹の虫が鳴いている。


「あっ・・・ありが・・・。」

 礼を言いたいのだが、言葉がつまる。

 顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかるほど耳たぶまで熱い。


「いっ・・・、いいのよ、たくさん食べてね・・・、大丈夫よ焦らなくても、そのうちに良くなるから。」

 何故か驚いた表情を見せ、言葉を詰まらせた彼女だったが、すぐに笑顔を見せ、俺の症状を気づかってくれる。


 なにせ、まともに話せないほど重症の、記憶喪失とでも想定しているのだろう。

 まともに話せないのは、あがり症の俺の性格と、彼女のあまりの美しさの相乗効果によるものなのだが・・・。


 とても普通とは思えない態度の俺・・・、彼女の言うとおり、俺たちの世界側に捕まって拷問され、精神障害となってしまったとしたら、恐らく回復は見込めないほどの重症が予想されるだろう。


 そんな俺でも親身になって力になろうとしてくれる、治そうとしてくれる・・・、本当に素晴らしい女性だ・・・、彼女とこの世界の俺は・・・。

 ううむ・・・、しかも彼女はまだこの世界の俺が殺されたことに気が付いていない・・・。


(うまいっ)中華風の炒め物の味付けも、魚の焼き加減も最高だ・・・、米もふっくらと立っているし、何より味噌汁の味が素晴らしい。

 考え事よりもまずは飯だ・・・、俺は一心不乱に食べて、ご飯を3杯もおかわりした。


「ふふっ・・・、ようやく元気が出てきたようね。」

 夢中でぱくつく俺の様子を見て、彼女も嬉しそうだ。



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