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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第2章
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ゲーセンへ

3話 ゲーセンへ

「お前・・・、いい年格好をして、なめてるのか?

 こんな、子供銀行の紙幣みたいなものを出しやがって・・・。」

 ゲームセンターの親父が、厳しい目つきで俺を睨みつける。


 ただ単にゲームをするために小銭を両替しようとしただけというのに・・・。

 そうか・・・、次元が違うのだから、もしかすると金も異なるのか?

 そう思い俺は、自分の財布から紙幣と小銭を全部出して店主の前に並べて見せた。


「なんだい・・・?

 おお、使える金も持っているじゃないか・・・、この1円と5円と10円・・・、それから50円と100円、どれも硬貨だけはまともな金だな。


 ありゃりゃ???、なんだこれは・・・、500?まさか500円とは言わないよな?

 他はすべて子供銀行券か?ここのゲームは全て1ゲーム50円だから、やるなら100円玉を両替してやるよ。」

 そう言いながら店主は、100円玉1枚と50円玉2枚を交換してくれた。


 そうか、紙幣はすべて全滅で、500円玉もこちらの世界では存在しないのか。

 まあいい・・・、金に関しては異次元世界の証拠の意味も込めて持ち込みはしたのだが、籠城後に何があるか分らなかったので、逃避行用に俺のなけなしの貯金は全て金に代えておいたのだ。


 だから今も金の延べ棒とは言わないが、小さな金の板を数枚懐に忍ばせてある。

 金であれば次元が異なっても、それなりに価値はあるだろう。


 ではシューティングゲームでも・・・、と思って見回してみると、ゲームセンターらしく華々しく電飾で囲まれたゲーム機が並んでいることはいるのだが・・・、ピンボールマシン?スマートボールにパチンコ?

 テレビゲームのような、モニター画面付きのコンピューターゲームが1台もないではないか。


 仕方がないので、遥か昔に両親に連れて行ってもらった温泉宿でやったことのある、ピンボールマシンにコインを入れる。

『ゴンッ・・・ビョーンっ』玉を発射口に送り、発射棒を引っ張り発射させる。


『チンッ・・・チンッ、ゴンッ・・・ボーンッ、チンッチンッ・・・』ボールがピンボールマシンのターゲットに当たって弾かれるたびに、カウンターの数字がどんどんと加算されていく。

『スーッ・・・、ピンッ・・・チンッチンッ・・・・』そうして落下してくる玉を、ゲーム機の左右についたボタンを押して爪を上下させて弾き返す。

 これをひたすら繰り返してポイントを競っていくのだ。


 反射神経と動体視力の勝負ではあるのだが、弾を弾き返す左右の爪の間隔は、ボール一つ分よりも大きいので、

爪のちょうど真ん中を通ってこられたら、ボールはそのまま落下してアウトとなってしまう。

 何とかして弾き返せる範囲内に玉が常にあるように、弾き返す爪の勢いも強くしてみたり、あるいは弱めて弾の勢いを殺して見たりしなければならない。


 俺は学生時代にピンボールマシンのコンピューターシミュレーションゲームに1時期はまったので、実際の玉で行うのは子供の時以来ではあるが、このゲームの攻略法はある程度熟知しているつもりではいる。


『チンッチンッ・・・』『カタカタカタッ』玉が弾かれるたびに、どんどんカウンターの数字が上がって行く。

『ぐぅー・・・』と・・・同時に腹の虫が泣いた・・・、そう言えば、昨晩も何も食べずにひたすら歩き続け、このゲーム場を見つけ、閉店していることを確認した後近くの公園で野宿したのであった。


 公園の水飲み場で水をがぶ飲みしただけで、近くにコンビニの明かりも見えなかったので、あきらめて非常持ち出し袋の中に入っていた、体温を下げないためのアルミシートとやらにくるまって眠りについたのだ。


 何か食べるものを買いに行こうと思いつき、ゲーム機をそのままにして店の出口へ向かう。

『ゴンッ』『チャラリラチャラリラ・・・』後ろで先程のマシンが、にぎやかなメロディを奏で始めた。


 通りを歩いて行くと、ほどなく商店街のアーケードが見えた。

 昨晩は、全く灯りが付いていなかったために、この辺りまでは歩いてきたつもりだったが、分らなかったところだ。


 商店街へ入ろうとしてふと思いついた・・・、先ほどのゲーセンの親父の話だと、俺の手持ちの金は硬貨以外は使えそうもない。

 しかも500円玉も使えず、100円玉以下の硬貨のみ使用可能ということだった。


 そうなると・・・、恐らく千円くらいしか小銭としてはないだろう・・・、うーん、この世界の物価は判らないが、元の世界であれば下手をすれば菓子パン1つ分くらいで終るかもしれない。


 なにせ、俺がこの世界からの強奪行為を止めたがために、一気に食料品価格が高騰し始めたのだ。

 その食料の強奪をされていた側の世界だ・・・、いくらここ3週間ほどは平和だとはいえ、そうそう物価は戻ってはいないだろう。


 まずいな・・・、そう思いながら、肉屋の店先を覗くと揚げたてのコロッケが並べられている・・・、うーん目の毒目の毒・・・うん?コロッケ―1個5円・・・なんじゃこりゃ?

 本日は特売日なのか?それとも客寄せのための赤字覚悟の出血サービスなのか・・・、どちらにしても買わねばなるまい・・・、俺はすぐさま、10円玉1枚と5円玉1枚と1円玉2枚ほどを財布から取り出した。


「悪いね・・・コロッケだけだけど、いいかな?・・・3つ欲しいんだが・・・。」

 さすがに特売品のみを買うのは気が引けるが、この先どうなるか分らないのだ、しかも使えそうな金は今の所千円あるかないかなのだ、ここは厳しく節約せねば・・・。


「あいよ・・・、コロッケ3つで15円だ・・・。」

 肉屋のおやっさんは、文句も言わずに揚げたてのコロッケ3つを紙袋に入れてくれた・・・、しかも消費税も取らずに・・・、内税か?


 ありがたいと本当に感謝して、15円を申し訳なさそうに手渡すと、そのまま商店街を更に進んで行く。

 すると今度はベーカリーだ・・・・、ご飯ものもいいのだが、コロッケだからコッペパンなんかもいいかも知れない・・・、そう思いながら店先を除くと、トースト1斤20円焼き立て・・・と書かれているではないか。


 これは買いだ・・・、『カラーン』すぐさまパン屋の扉を開けて、袋に入ったまだ温かいトーストを購入する。

 うーん・・・、またもや特売品だけで申し訳ないとか思いながらふと見ると、メロンパン1個7円、アンパン5円と書かれて棚に並んでいるではないか・・・、何と、これらすべてが特売???


 いや、どうも違うようだ、この世界の物価は俺たちの世界と異なり、ずいぶんと安い様子だ。

 おかげで、充分な買い物ができそうだ・・・、次は缶コーヒーと思って探して回ったが、缶コーヒーの自動販売機は見つからず、仕方なく牛乳屋で瓶に入った牛乳を1本10円で購入した。


 これをそのまま昨晩過ごした公園へ持ち込み、ベンチで朝食なのか昼食なのか、はたまた昨日食べ損ねた晩飯なのか分らないが、久しぶりの食事にありつく。

 コロッケを半分にしてからそれを1枚のトーストで包み込み、そのままかぶりつく。


 それを6回繰り返し、トースト1斤とコロッケ3個を瞬く間に食べきった。

 流石にトーストはしっとりしているようで飲み込みにくく、瓶の牛乳1本では足りなかったが、ここは公園、飲み水には事欠かなかった。


 ふうー・・・、最後にもう一度水飲み場で水をがぶ飲みして、ようやく一呼吸着いた気分だ。

 口の周りを手で拭こうとして、ふと気が付く・・・、そう言えば籠城している間、最初はひげも剃ってはいたのだが、2週間目で充電が切れてからはそのままにしていた。


 電源は勿論あった訳だが、無停電電源の消費を気にして、髭剃りの充電は行わずにいたのだ。

 こんなことなら最後にフル充電してシェーバーを持って来るんだった・・・、元の世界に置きっぱなしにしていたのを悔やまれる・・・、なにせ、生きてここへこうしていることが、あの時は全く想像もしていなかったからな・・・。


 榛名朋美にこれから会おうとしているのに・・・、困った・・・、うーん・・、かといっていくら物価が安いからと言って、シェーバーどころか剃刀も購入するのをちょっとためらう・・・、なにせ、彼女にいつ会えるか分らないのだ。


 こちらの世界でも、彼女がゲーセン通いしているか、わからないし・・・、何より、あのゲーセンでいいのかすらわかっていないのだ。

 少し考えて、当面はゲーセン通いということにして、榛名朋美の姿を確認してから、それからカミソリや歯ブラシなど身支度を整えて、彼女に接近することにした。


 どうせこの世界に知り合いは1人もいないのだし、格好を気にすることもあるまい、格好よりまずは食べ物だ。

 俺たちの世界を一瞬にして消滅させられてしまったストレスから、折角準備した食料を床にぶちまけて、その為にひもじい思いをしたためか、まずは食べ物の確保を行うことにする。


 榛名朋美が何時ごろゲーセンに行くか分らないが、俺が通っていた頃は仕事帰りばかりだったから深夜が多かった。

 その為、今日もゲーセンに行くのは深夜にしよう・・・、なにせ、初めてのゲーセンで何もしないでただじっとしていると怪しまれるし、かといって1ゲーム50円のゲームを延々とこなしていては、すぐにゲーム代が底をつく・・・、それは食費もなくなることを意味しているので、得策ではない。


 少しこの公園でのんびりとしてから、暗くなってからゲーセンへ向かおう・・・、昨晩の感じだと、余り遅くまで営業している様子ではなかったから、彼女が通っているのであれば、そんなに粘らなくても充分に出会う可能性はあるはずだ。


 そう考えながら、腹も満たされたので、公園のベンチで少し横になった。

 昨晩は夜遅くで街灯もまばらで分らなかったが、公園のベンチは木製だ。

 しかも、使われずに放置されているような、お飾りのベンチではなく、木の板の腐食もなくきれいに手入れされている様子だ。


 俺たちの世界では公園のベンチと言えばグラスファイバー製が主流で、鉄製の足に木の板が取り付けられているのも見かけたが、大半が使われずに木が腐っているかシロアリなどの餌食になっていた記憶がある。

 秋口の昼間の気候は、暑くもなくて昼寝には最高だ・・・、ベンチに横になってついウトウトとして・・・、気が付いたら辺りは真っ暗で、体が冷え切っていた。


 まずいまずい・・・今何時だ・・・?とか考えたが、時計を持ってきていないことに気が付いた。

 携帯電話の普及から時刻確認は全て携帯で行っていた為、腕時計などこのところした事がない。

 肝心の携帯電話は・・・、とっくにバッテリー切れで、地上が消滅してからは無停電電源の残量を危惧して・・・と言うか、かけてくる相手を想定することも出来なかったので、充電することもなく机の上に放りっぱなしだった。


 長い事無用の長物だったために、持って来ようと考えることもなかった。

 地上が無事だった間は、あの部屋の中には妨害電波が出ていたはずで、アンテナが立ったことは一度もなかったし、地上との交渉も内線電話を用いて行っていただけだからな。


 失敗した・・・、携帯を持ってきて、こっちの世界で、手当たり次第に電話を掛けて見るんだった。

 友人関係の一人くらいこっちの世界でも友人でいたかも知れなかったのに・・・、シェーバーよりもこっちの方が悔やまれる・・・。


 完全な片道切符のはずだったのに、意外と持っていく事に気を使っていなかったということが、改めて分る。

 なにせ、到底持ち出し不可能な、アームマシンのコントロール装置なんて持って来たくせに、自分の持ち物などほとんどなく、ある意味身一つだけで来たようなものだからな。


 まさか、あんな地下深くとは考えもしていなかった・・・・というか、分りそうなものだったのに・・・・、軽くて小さくて持ち運びできるシェーバーとか携帯電話の方が余程役に立ったのだ・・・。


 まだ他にも、洗面道具とかも持ちこんていたはずなのに・・・、まあいい・・・、ゲーセンへ行こう・・・、それとなく周りの様子を伺いながら、榛名朋美の姿を見かけたら、明日にでも身支度を整える買い物をして、それからまたゲーセンで出会えるよう祈ろう・・・。


 うまい事声をかけることができれば・・・、気味悪がられずに話を聞いてもらえることができれば・・・、何とか俺のした事を伝えられるかもしれない・・・。


 あの時点では、死ぬことと次元移動することがほぼ同等となっていて、半ばやけ気味でAEDのプローブを貼りつけながら、次元移送装置のスイッチを入れたのだ。

 言ってしまえば、半分自殺のようなものだったわけで、死んでもいいつもりだったのだからあまり深くは考えていなかった。


 まさか次元を超えて生き残っているなどとは考えてもいなかった訳だから、まあ仕方がないのだ・・・、生きていることを喜びこそすれ、持ってこなかったものをぐちぐち悩んでいても仕方がない・・・、俺が、案外と小さな人間だったということを改めて・・・と言うか、認識する。


『ギィッ』ゲーセンの扉を開ける・・・、中には高校生くらいだろうか、若い男の子たちのグループが数組、それぞれシマを作ってゲーム機の周りにたむろしていた。

 先ほど来た時は、学校の授業中だったからだろうか、閑散としていたのに今は結構にぎやかだ。


 俺は、開いているピンボールマシンの所へ行き、50円玉を投入する。

 見た感じ、榛名朋美は来ていないようだ・・・、かといって、彼女が来るまで何回も出入りしていては怪しまれてしまって、警察でも呼ばれてはかなわない。

 ここは、ゲームに興じるふりをして、時間をつぶして彼女を待つのが一番だ。


 ピンボールゲームは、腕さえよければ延々と続けていられるゲームではある・・・、まあ、爪の届かない位置へとボールが弾かれてしまってはどうしようもないのだが、そうさせないように注意を払いながら、なるべく失敗しない様粘るつもりだ。


『ゴンッ・・・ビョーン・・・、チンッチンッ・・ボンッ・・チンッ・・・カチャッ・・ブンッ・・ビヨーンッ・・・チンッ・・・』ピンボールマシンの中を金属のボールが駆けまわり、どんどんとカウンターの数字が加算されていく・・・『おおすごい』『へえ・・・・やるじゃん』『大したことないよ』なぜだか、俺の後ろ側が騒がしくなってきた・・・一体どうしたと言うのか・・・まさか警察を呼ばれてはいないだろうな・・・怪しげな浮浪者とか。


 なけなしの50円を無駄にするわけにはいかないので、振り向くことも出来ず、後ろの騒ぎの原因が分らないことを気に掛けつつも、目線はボールをひたすら追い続ける。


『チンッ・・チンッチンッ・・ビヨーンッゴンッ・・・チンッチンッ・・・ガチャン・・ビヨーンッ・・ブンッ』

(しまった・・・)マシンの丁度中央部に大きく目立つように青くラインが引かれているが、白銀のボールはそのラインを一直線に下ってきている。


 丁度そこは、玉を弾き返すべく俺が操作する爪と爪の真ん中に位置する・・・・つまり、アウトだ・・・。

 何とか落下するタイミングに合わせて爪を、右左とタイミングをずらせて操作するが、かすりもせずに玉はそのまま爪の間を通り過ぎた。


『ビョーンッ・・・ゴンッ』無情にも玉は、アウトゾーンへ落下した・・・、やれやれ・・・残玉はあと4発か。

 ちょっとため息が漏れる・・・、なにせ時間つぶしの為には、1球でもっと粘らなければならないのだ。



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