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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
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終わりへの道

第13話 終わりへの道

 4日目になると、内部シャッターもついには破壊され、内部倉庫に部隊が突入を始める基地が出て来た。

 中には、倉庫内に強奪した食料が移送されずに残っている基地もあり、その基地では手作業で食料の搬出も始まっている。


 駆動していないガードマシンや搬送マシンを調べ出す者や、オブジェに触ってみるなど、制圧した倉庫内部の確認に忙しそうだ。

 本来ならばオブジェも含めて、マシンは自爆させるべきなのであろうが、俺はそうはしない。


 彼らが持ち帰るなりして分析して、どれほど理解できるかは不明だが、圧倒的存在であったガードマシンの攻撃力や防御力に関して、少しでも研究できれば彼らの役に立つだろう。

 うまく行けば俺の計画が失敗して、再びこちらからの侵略行為が始まったとしても、対抗手段が出来るかもしれない。


 しかし、それにはある程度の時間が必要だろう。

 今日持ち帰って、明日には出来ると言った程度のものではないはずだ。

 俺は、ますますこの場を死守しなければならないとの義務感をつのらせた。


 俺は、ふと思いついて、頭上のモニターを地上波のテレビ画面に切り替えた。

 そういえば、テレビニュースのチェックをすることを忘れていたのだ。


 朝のニュースでは、最近の天候不順から野菜の収穫が激減し、高値が予想されると告げていた。

 それに伴い、餌不足から牛や豚、鶏肉などの価格にも影響し、更には主食である米も不足する恐れがあるという内容だった。


 季節は既に秋口に入り、米の収穫などはどの産地でもとうに終えたはずで、つい最近までは今年は豊作で昨年よりも価格が下がると報じていたにもかかわらずにだ。

 このところ日本全国的に晴天続きで、天候不順などと言ったことは、どうしても考えられないし、台風だって今年は運よく日本を避ける様に、発生した台風の大半は太平洋側か日本海側へ抜けて行っていたはずだ。


 やはり、俺の推測は正しくて、異次元からの食料供給が絶たれたために、食料不足となっているのだろう。

 いずれ、世界的な食料不足の為、パニックに陥るはずだ。

 そうなれば、天候不順のせいにばかりはしていられない。


 どうして、今までは安定的な食料供給がなされていたのかを、明らかにしなければならない。

 殺人も含む強奪行為のどこまでを明らかにするかは別として、別世界から食料を調達していたというくらいは、説明として明らかにされる可能性だってある。


 そうなれば、俺が資料を渡しておいた友人たちが、報道機関などに実際に行われていたことを伝え、世界中に暴露されるという、俺のシナリオが完遂する。


 俺は、忘れないようにテレビ画面も分割モニター内に含める設定にして、頭上モニターを各コントロールルームの監視画像に切り替えた。


 そうして、操作盤モニターの異次元世界の基地画像に目をやる。

 依然として、東京基地には一切攻撃の手が入らない。

 もしかすると、本当に俺の事を信用して、俺のマシンがシャッター前に浮いている間中は、世界中の他の基地が稼働することはないと判断しているのであろうか。


 なんにしても、他の基地では少しでも異次元世界であるこちら側の技術力を探ろうとしているのか、倉庫内の壁紙をはがしてサンプルとして持ち帰ったり、オブジェを起動していたコンセントの電流電圧を測定したりと、休む間もなく入れ代わり立ち代わり、交代で人の出入りがある様子である。


 そうして俺がコントロールルームを占拠して1週間が過ぎ、2週目ともなると、ついに限界が近づいてきたのか、世界のあちこちで食料を求める人々が暴徒と化し、暴動が起こり始めたようだ。

 日本ではまだそこまでは行かないようだが、それでも野菜や肉の高騰が続き、ついにはキャベツ1玉千円という、かつての水準に達しようとしていた。


 以前も、このような食料事情だったのだろうが、一旦解決して安定供給されていただけに、誰かが意識的に食料を隠し持っているという疑念が湧き始め、特に海外では食料関連の大手商社の倉庫が群衆に襲われると言ったことが、日常的に行われるようになって来たようだ。


 いよいよ、今まで隠してきた事実を、公表しなければ治まらなくなってくるだろう。

 俺は、日々のニュースを注視しつづけた。


 14日目になって、東京コントロールルームのビルに、ガスマスクをかぶった数人の人間がやってきた。

 彼らは、ビルのエレベーターホールで、何かの装置を確認していたかと思うと、そのうちの3人だけがその場に残り、彼らはマスクを脱いだ。


 俺には3人とも顔に見覚えがあった。

 一人は日本支社長と、もう一人は先日訪れた上席部長。


「私は、アメリカ本社の社長です。

 新倉山さんの主張を認めましょう。

 確かにおっしゃる通り、我々の世界は異世界である別の地球と戦争状態にあります。


 戦争と言うのは、その国と国、あるいは世界と世界が覇権を争うもので、その過程の中で大量の犠牲者とか、略奪行為など行われる場合もありますが、それらは全て戦争と言う名の下で行われる、正当な行為です。

 決して恥ずべき行いではありません。


 ですから新倉山さんも、現実を認めて出て来てください。

 戦争状態を国民の皆様に明らかにしなかった政府にも責任があるとして、新倉山さんを罪に問うようなことはしないと、閣議決定いたしました。


 ご存じのように、このままでは世界的な食糧危機を迎えてしまいます。

 どうか、世界の人々を救うためにもお願いいたします。」


 社長は、手に持った文面を確認しながら、カメラに向かって演説をした。

 俺は、3人の姿を確認してすぐに、モニターをスマホでビデオ撮影を開始した。

 これは十分な証拠になる。


「こちら、新倉山です。

 社長がおっしゃることに一部訂正を求めます。


 戦争状態とおっしゃっていますが、相手の世界はこちらの世界に対して、何ら攻撃手段を持たない、一方的なこちらからの侵略行為です。

 先方には多大な犠牲を与え、食料の略奪行為を繰り返しておりますが、こちら側の被害は皆無です。

 このような行為は、戦争行為とは言えません。」


 俺は、この2人えらいさんに真実が伝わっていないはずがないと考えている。

 世界的規模で行われている事柄であり、日本支社長の独断であるはずがないし、ましてや、ゲーム開発部門だけでの判断であろうはずもない。


「こちらサイドの被害もありますよ。

 送り込んだロボットは、何十機も破壊され、その都度交換を迫られ、更には基地製作の資材もこちらから送付した資材で行われています。


 敵の破壊工作により、常にそれらを更新し続けている訳です。

 被害が全くない訳ではありません。」


「そんなものは被害とは言えないでしょう。

 こちらが、略奪行為をするために送り込んだ装置や施設が破壊されているだけであり、そのような行為さえやめてしまえば、向こうの世界からこちらの世界に干渉することはないはずです。」


 俺の問いかけに対して、社長の認識は甘いとしか思えない。

 略奪行為の最中での戦闘などの詳細に関しては、報告を受けていないのであろうか。

 向こうの世界の住民を殺戮しているという事への、罪悪感を微塵も感じられないのは、なぜなのだろう。


「そうは言っても、今の食料事情を知っていますか?

 毎日のニュースを、特に海外事情をご覧になってください。

 どうお考えになりますか?


 食料がなくて飢えて亡くなって行く幼い命が、いま、この瞬間にどれだけいると考えていますか?

 この地球上の百億の人々に対して、誰もが飢えずに暮らしていける環境を、与え続けなければいけないのです。」


「だからと言って、別世界とはいえ、同胞ともいえる人間たちの食料を強奪していいという理屈にはならないでしょう。

 彼らだって、我々と等しく命があるのですよ。」


「だから、これは戦争なのです。

 彼らが生き残るか、我々が生き残るかの戦争なのです。

 遠慮していては、我々は食糧危機の元、絶滅への一途を辿ってしまう。

 これは、いうなれば緊急避難的措置なのです。」


「緊急避難?そんなバカな理屈は通らないでしょう。

 もし仮に本当にそう考えていらっしゃるのであれば、この事を公にしてみればいい。

 そうできない限りは、ここを動くつもりはありません。」


 もう少し、ここで籠城を続ける必要性があるだろう。

 今飛び出して行っては、内部だけで片付けられてしまいかねない。

 俺の身柄を警察にでも引き渡してくれればいいが、闇に葬られる可能性の方が高い。


 今の食料事情を解決する手段の裏話を、ある程度明かした状態でなければ、出て行くのは危険だ。

 幸いにも、後1週間は十分に食料が持つ。

 それ以上たっても改善しなければ、さすがに耐えることも出来なくなってしまうが、その時は仕方がない。

 潔く出頭しよう。


 俺は、彼らの姿がビルから居なくなるのを確認したのち、操作盤のモニターで各基地の映像を眺めることにした。

 すると意外な事に、どの基地にも全く人影が見られなくなっていた。

 勿論東京基地には、攻撃の手も伸びては来ていないのだが、他の都市の基地の全てに関して、人影が見当たらない。


 モニターカメラを切り替えて、各基地の外側の景色を見ても人影さえも写らない。

 不思議に思った俺は、俺のマシンを操作して辺りの雰囲気を探ろうとした。

 幹線道路に出て見ても、人影どころか車も通らない。

 一体どうしたのだ。


 まさか、こちら側から最後の手段として、大量殺りく兵器でも送られたのだろうか?

 それにしては、何の衝撃もなかった。

 俺のマシンはコントロール下にあるので、そこにいくらかの外圧が加われば、操作盤に表示されるはずなのだ。


 俺は不安な気持ちを抱えたまま、マシンの高度を上げて、どこかに動く影がないか探すことにした。

 すると、遠くの方に大きな飛行物体が見えた。

 俺はマシンを操作して、その飛行物体に近寄って行く。

 それは本当に巨大な飛行船と、熱気球の集団であった。


 丁度、その下の地上にはたくさんの人であふれかえっていて、紙吹雪が舞う中鼓笛隊がパレードをしている。

 何かの祭りであろうか。

 それにしても、都市の全ての人が参加するような祭りなんて、すごく盛況だ。


 俺は、そのパレードが、既に2週間侵略行為がなされていないことに対する、祝賀パレードかも知れないと感じて、マシンのカメラを通じてその様子をじっと眺めていた。


 そうなのだろう。彼らには明確な原因は判らないが、執拗に強奪を繰り返していた、異世界からの侵略行為が成りを潜めたのだ、

 祝賀ムードにもなるだろうな。


 俺は、そのような祭り気分も、残り1週間ほどしかないのだという事を考え、モニターの向こうの人々に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 俺にもう少し力があれば、もっと長い間けん制できていたかもしれない。

 少なくとも、食料をもう少し準備しておけば、後2〜3週間くらいは耐えられたのかも知れない。

 俺は、眼下で小さな存在である人々を見守る、神のような気持ちでモニター画面を見つめていた。


 次の瞬間、真っ暗になった。

 いや、モニター画面は付いていたのだが、照明が切れたのだ。


 同時に激しい揺れを感じた。

 すぐに、予備電源に切り替わったが、照明に関しては無停電電源に繋がってはいないようで、一旦切れてから予備電源に切り替わったようだ。



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