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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第1章
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籠城2

第12話 籠城2

 とりあえずの操作が終わったので、俺は操作盤の周りをくまなく調べ出した。

 勿論、異次元に物質を送る、あのオブジェを探すためだ。

 必ずこの部屋のどこかにあるはずなのだ。


 なぜなら、今も異次元世界とモニター上ではあるが繋がっているのだ。

 次元を超えて有線でケーブルを繋げることなど、出来るはずもない。


 無線でデータの送受信をしているのであろうが、コントロールはこちら側なのであるから、こちら側の送信装置を常にON状態にしておき、異次元世界との通信をしているのだと考えている。

 だから、こちらのデータ送信器を次元移送装置(勝手に命名)近くに置いているはずだ。


 勿論、データ線を延長して地上施設に移送装置を置くことも考えられるが、これほどまでに徹底したテロ対策を実施しているのであるから、有事の際にはこのコントロールルームだけで独立して稼働できるように設計されているはずだ。


 その為、この部屋の中のどこかにあのオブジェがあるはずである。

 コントロールルーム内は常に数台のカメラでモニターされているので、普段はさりげなく見回すくらいしか出来なかったのだ。


 ゲーム機そのものの操作盤周りなどをくまなく見ていくが、それらしい装置は見当たらない。

 あのオブジェは、倉庫などに置くためのもので、その他の場所用は形が異なっている可能性もある。

 しかし、そうなると簡単には見つけることは出来ないであろう。


 俺は、部屋の壁側にあるロッカーの確認を始めた。

 と言っても、後から個人用に割り当てられた仮設のロッカーではない。

 開けて見たところで、女性陣のお菓子などが出てくるだけだ。


 籠城が長期化した時などにはありがたいかもしれないが、替えの下着などでて来たら困るので、個人のロッカーを開けるつもりはない。

 個人ロッカーが設置される前から置いてある、共用の用具置き場だ。


 まず5つあるうちの一番左側は、いつも使用している備品類が入っているロッカーだ。

 電池類、停電のための懐中電灯や救急箱などが入っている。

 当初は、各人の弁当箱もここに1時置きしていたので、中段にスペースが開いている。


 その隣から3つのロッカーは、この施設の取扱説明書などが保管されたロッカーだ。

 テロ対策の対応方法とか、神経ガスの散布方法など克明に記載されている。


 最後の一つは、どうやら清掃用具ようだ。モップや箒に塵取りが入っていた。

 残念ながら、ここでも無いようだ。


 部屋に備え付けのトイレや給湯室なども確認したが、それらしい装置は見当たらない。

 俺は、もう一度操作盤の所へ行き、机の下にもぐってみる。

 そうして、ハブから出たLANケーブルの行き先を手繰って見た。


 すると、ケーブルは床下に繋がっていて、ケーブルを引っ張ってみると、部屋の奥方向に向かっている様子だ。

 俺は、部屋の奥の床を足で何度か踏みつけて見た。

 すると、何ヶ所か柔らかい感触があったので、すぐにカーペットをめくってみると、床下収納が見つかった。


 収納庫の蓋は2つあり、1つをめくると、見慣れたオブジェがあり、その脇に無線LANと思われる箱があり、LANケーブルが刺さっている。

 もう一つの蓋を開けると、そこには真っ黒な四角い箱がいくつも置かれていた。


 書類の束があったので取り上げて見ると、無停電電源装置となっている。

 停電時などのバックアップ用の電源のようだ。

 四角い箱は、床面の奥まで続いているようで、いくつあるのか上から見ただけでは把握しきれない。


 資料をざっと見る限りでは、電源供給を立たれても1ヶ月間は操作可能となっている。

 頼もしい限りだ。


 俺は、オブジェが入っている収納庫の中も見回して、取扱説明書などないか確認した。

 すると、奥の方に書類の束が見える。

 慎重に手を伸ばして、それを掴みとる。


 なにせ、今でも次元間の通信が可能という事は、オブジェは稼働中なのだ。

 その移送範囲に手を触れると、どうなってしまうのか。

 指先だけ吹っ飛んで、異次元世界へと送られるのだろうか。


 俺は、とりあえず元通りに蓋をして、カーペットを戻した。

 オブジェの電源は、見た限りでは収納箱の隅のコンセントに繋げられている。

 停止させたい時には、それを外せばいいだろう。


 俺は、いつもの自分の席に戻って、次元位相装置の取扱説明書を読みだした。

 結構分厚い書類だが、時間だけはたっぷりとあるのだ。

 この説明書だけでも、ある程度は証拠能力があるのではないかとも考える。


 しかし取扱説明書には、装置名は遠距離通信装置となっている。

 無線LANの通信範囲を超える遠距離間の通信装置となっていて、稼働時にはオブジェの適用範囲内には強力な電磁波が発生しているので、決して手を触れないようにと大きく危険マークと共に記載してある。


 それはそうだろう、いくら床面に隠してあるとはいえ、施設内に置いてある書類なのだから、次元移送するための装置だなどと記載してあるはずもない。

 この施設の過剰なまでの警備体制(テロ対策)などは、巨額の収益が上がるゲーム業界の戦争ともいえる情報合戦対策だとすれば、何とでも言い訳は付く。


 更に、いつ何時危険にさらされるかもしれないわけだから、関係者には緊急時対応の教育は必要となるだろう。

 その為、緊急対応時のマニュアルも整備し、いつでも閲覧可能な状態にしておくのであろうが、次元間の移送装置は、この部屋では通信のみにしか使用しない為、その名目が遠距離通信装置であっても何ら支障がないのだ。


 なにせ、コントロールルーム内の空気は、フィルターを通して常に清浄な状態が保たれ、地上が核攻撃に晒されてもバッテリーが続く限りは安全という事だ。


 この書類が、異次元世界への侵略行為の証拠となることはあきらめたが、少なくとも分ったことはある。

 この装置の影響範囲は、装置間隔を広げることにより範囲が拡大し、連続あるいは接触して一塊でさえあれば、効果を発揮するという事だ。


 その為、この部屋からでも異次元世界に物を送付することは可能だ。

 その際は、狭い床下収納庫から装置を取り出して、床面に装置を配置して真ん中に送信する物質を置けばいいのだ。


 最悪の場合、俺は自分が集めた証拠書類とコメントを記入して、異次元社会に送信してやろうとも計画した。

 そうこうしているうちに、すっかり遅い時間になってしまった。

 既に午前2時だ。


 長期間の籠城では体調管理は一番重要だ。

 とりあえず本日は就寝することにした。

 用心の為に、停止しているエレベーター内と階段部分に神経ガスを散布してから、就寝した。



 翌朝、午前6時には目が覚めた。

 前日が遅かったせいで、まだ意識ははっきりとはしていないが、自分の行いを鑑みて、ゆっくりもしていられないため、行動を開始することにする。


 操作盤のモニターを切り替えていくと、依然として各基地のシャッター前では、基地を攻略しようとシャッター前に爆薬を仕掛けて爆発させたり、ロケット砲などの攻撃を仕掛けて見たり、各都市様々な方法でアタックしているようだ。


 それから首をもたげて、大きなモニターパネルに目をやった。

 こちらも、どの都市のコントロールルームも平穏状態である。

 それはそうであろう、未だに神経ガスが通路中、エレベーター中に充満しているのだ。

 通路を映した映像では、画面がまっ黄色になっているほどだ。


 当面は安泰と判断して、俺は操作盤のモニターに目を移した。


 暫く向こうの世界で行われている破壊工作を、まるで子供が砂で作った城を取り崩している様を見るかのような、微笑ましい気持ちで眺めていると、ついに一部の基地で外側のシャッターがこじ開けられ、内部に部隊が侵入していく姿が、映し出されていく。


 基地内部のシャッターは、今まで攻略しかけられた時から考えると、簡単には開けられないであろう。

 なにせ、建物内部であることから、余り大量の爆薬は使えないはずだ。

 建物自体が崩れ落ちる危険性があるからだ。


(まだまだ、先は長いねえ)なんて考えながら、ふと視点を頭上のモニターに映す。

 東京コントロールルームのビル1階に、人だかりができている様子が映し出されている。

 俺はモニターを切り替えて分割表示から、1画面表示に切り替えた。

 それを待たずに、向こうではカメラに向かって、話し始めた様子だ。


「私は、日本支社の支社長だ。

 新倉・・・いや新倉山順三君、君の目的はなんだね。

 施設を占拠されて、早24時間が経過している。


 その間、施設で実施すべき計画が滞っていて、わが社は大損害を受けている。

 大至急、馬鹿な真似は止めて出て来なさい。

 君の処分に関しては、出来るだけ軽く済むように善処するつもりだ。


 会社への不満があれば、極力希望に沿うように検討する。

 だから、すぐにエレベーターを稼働して開錠の上出てくるように。」


 支社長と名乗る初老の男は、モニター画面に向けて大声で話しかけてきた。

 ついに、所長である俺の上司には任せてはおけないと判断したのであろう。

 日本のトップのお出ましだ。


「俺は、この会社が異次元世界へ侵略行為を行い、その世界から大量の食料を強奪していることを知っている。

 少なからず証拠も集めている。

 だから、観念してそのような行為を止めるんだ。


 すべてを世界に知らしめて、相応の罰を受けろ。

 そうするまでは、俺はここに留まるつもりだ。」


 俺は、マイクを通じてその男に返答した。

 すると男は驚いたように表情を変え、傍らにいた俺の上司にくってかかる。


「どうして、こんな重要な事を報告してこな・・・」


「精神を病んだうえでのたわごとか、あるいは罪を軽くするため・・・報告しなかった・・・」

 向こうのマイクを通じて、2人の会話が漏れ聞こえてくる。


 すぐに、支社長と名乗る男は、周りの男数人を呼び寄せて耳打ちをした。

 男たちは、群がっていた群衆を押しのけて、エレベーター周りから排除していく。

 やがて、ビルの1階部分からは人影もなくなった。


 すわ総攻撃か・・・とも考えたが、今のところは何ともない。

 よく考えれば、湾岸沿いとはいえオフィスが立ち並ぶビル街に立地の建物である。

 いくらその建物の中から人払いをしたとしても、突入攻撃など仕掛けようものなら、その音で周りの一般市民が飛び出してくるだろう。


 もし、実施するのであれば、秘密裏に音もたてないように攻略する方策を立てるはずだ。

 少なくとも、平日の昼間である今は大丈夫であろう。

 俺は、少し昼寝をして、夜間は起きていることにした。



 翌日になると、既にほとんどの基地で、建屋表のシャッターは破壊され、内部へ部隊が侵入していた。

 それでも、内部シャッターは未だにどの基地でも破られてはいない様子である。


 頭上のモニターに目を移すと、昨日人を排除した東京コントロールルームのビルに、2人の人影が見える。

 1人は見覚えがある。昨日見た日本支社長だ。


「私は、アジア地区担当の上席部長だ。主に穀物の物流を担当している。

 君の主張に関してだが、君は大きな勘違いをしている。

 わが社が、食料を異世界から強奪して、この世界に届けていると言っているようだが、そんなことは断じてない。


 君の就職先は、世界的な総合商社ではあるが、君が担当しているのはあくまでも、シミュレーションゲームの開発だ。

 違法な方法で取得した食料は、わが社は断じて受け取らない。

 これは約束する。


 だから、すぐに出てくるんだ。

 今なら、勘違いでしたで済むかもしれないぞ。」

 上席部長は支社長に促されて、天井から吊り下げられたマイクに向かって語りかけてきた。


「おはようございます、上席部長。

 私は新倉山と申します。

 上席部長もこの会社で行われている、人道上誤った行為をご存じありませんか。」


「だから、言っているだろう。

 君が言うようなことは、実際には行われていない。

 私が保証する。だから出てきてくれ。」


 上席部長は、尚も同じ言葉を繰り返し、俺を説得しようとする。

 しかし国際的な会社とはいえ、オフィスを不法占拠されたくらいで、アジア担当のえらいさんが説得に出てくるだろうか。


 ましてや、彼の言うとおりだとすれば、それこそたかがシミュレーションゲームの開発部署なのだ。

 俺の主張が食料に関する事柄なので、自分が出て来たようにしているが、まさに食料供給に関わる危機に際して、穀物担当の上席部長が対応に来たのではないだろうか。


「説得には応じるつもりはありません。

 あまりしつこいようなら、神経ガスで充満したエレベーターのドアを開けますよ。」

 俺がそう言うと、2人は驚いた様子で、後ろを振り返りつつもその場を逃げるように去って行った。



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