反応
17 反応
あれから2ケ月間・・・、依然として向こう側世界からの通信は届かなかった。
「全く連絡がきませんね・・・、食料物資など足りているのでしょうか?
一部指導者たちで独占して・・・、なんてことが行われていないことを祈りますよ・・・。」
向こう側世界の様子が全く伝わってこないというのは、本当に困りものだ。
恐らく施しを受けことになるという先行きへの不安から、こちら側からの要求を飲み込めずにいるのだろうが、他に選択肢があるようには到底思えない。
それなのにどうして意地を張っているのだろうか・・・、本当に自滅への道を選ぶつもりなのだろうか?
しかも、その選択は本当に向こう側世界で生き残っている人たちの総意なのだろうか?疑問に感じてしまう。
「そうだね・・・事情を聞かされていない一般の人たちへのメッセージともいえるビデオを送り付けることにより、反応があることを期待していたのだが、どうやら見込み外れのようだ。
自分たちの世界がしでかしたことの罪の重さを実感して自ら命を絶とうとしている・・・なんてことがないことを祈るのみだ・・・。」
向こう側世界へメッセージを送り付けることに自信を持っていた霧島博士だが、通信室の席で困り果てたように机に突っ伏す。
「僕が思うに・・・、やはり別次元へのアクセスを試しているのではないのですかね?
もう我々の世界から搾取することはあきらめて、別な次元から強奪することを始めたのではないですか?
以前と違って量的には強奪しなければならない分は減っていますからね・・・、我々の世界ほど食料物資に余裕がある世界ではなくても、大丈夫という判断ではないでしょうか?
我々は向こうの世界に対抗する手段をある程度取得してしまいましたから・・・、そんなところからしつこく食料物資を確保しようとするより、我々以外の世界から強奪した方がより手軽ではないのでしょうか?」
すると突然大雪君が自信ありげに推察する・・・彼はこの前から別次元へ移行派のようだ・・・、確かにその考えもありかなと、俺も何となく想像はしていた。
「まあ、その可能性は否定できない・・・、だが、向こう側世界だって選択肢は必要なはずだから、複数次元を選択することが可能であれば、もちろん複数次元から食料物資を調達しようとしていたはずだ。
その方がマシンによる強奪などしなくても、それこそ隠し農場だけでまかなえたはずだしね。
それをしなかったという事は、少なくとも我々の世界以外で食料事情に余裕がある・・・、つまり世界人口がそれほど多くはない世界が・・・、その上科学技術が遅れているという条件も加わってくるという訳だが・・・。
食料事情に余裕があっても侵略行為は許すはずなどないのだから、科学技術が発達している場合は我々の場合よりもはるかに強烈な反撃が見込まれたはずだ。
しかも一撃での全滅ではなく対抗しうる化学兵器で、次元間での大規模戦闘となる可能性が高い。
そうなると一般市民たちに次元を超えての強奪行為を行っていることがあからさまになってしまうし、その戦争行為や被害に対して責任を取らされる場合も出てくるだろう。
そんな自分たちが不利になるような危険性を冒したとは考えにくい。
おそらく我々以外の次元では十分な対抗措置が予想されるとして、選択肢はなかったはずだ。
今更新しい次元世界が見つかるとも思えないしね・・・、だから我々世界への干渉が不可能となってしまうと、後は自滅しかない・・・と、想定している。
まあ、自分たちよりももっと科学技術が進んだ世界に対して働きかけて、自分たちを救済してもらうようお願いすることはありうるがね・・・、ただしそれを行うには現状・・・つまり核シェルターでの生活を余儀なくされた理由を明確に説明しなければならない。
その行為を許してもらえるかどうかも怪しいところだし、なにより我々世界への暴挙を明らかにすることにより、核シェルター内の一般市民たちにも伝わってしまうはずだ。
そんなことをするくらいなら、我々世界から施しを受けた方が、はるかに簡単だと考えているだろう。」
すぐに赤城がその考え方を否定する・・・、ううむ、そうか・・・、まあ事情を知っているこちら側世界へ助けを求めるのが一番手っ取り早いのは当然だな。
「では・・・、こういった方法はいかがでしょうか?
移送器は次元間をつないで物を運びまーす・・・、それを中継するのです。
例えば、食料物資的には困ってはいない次元を見つけたとしまーす・・・、ですが科学技術力は自分たちに引けを取らないとしまーす・・・、直接その次元から強奪行為を行えば・・、強烈な反撃を食らってしまいまーす。
下手をすれば、今度こそ自分たちは滅ぼされてしまうかもしれませんね・・・。
ですので・・・別次元を経由するのです・・・、向こう側世界とこちら側世界へ行き来する移送器のほかに、別次元へ行き来する移送器を作りまーす。
その移送器をこちら側世界の地下基地において、そこから別次元へアクセスするのでーす・・・、そうすることにより、強奪された次元は我々の次元が強奪行為を行っていると判断して、我々に攻撃を仕掛けてくることになりまーす。
いうことを聞かなくなった我々にも打撃を与えることが出来るし、一石二鳥ではないですか?」
すると突然、巨大液晶モニターの向こう側からとんでもない意見が・・・、アメリカの研究者からのようだ。
つまり次元間の転送をして強奪行為を行うという事のようだ・・・、そんなことがもし可能であれば、非常に恐ろしいことになってしまう・・・。
だが、あり得ない方法ではないはずだ・・・。
「次元間のアクセスという事に関しては・・・、そういった手順も可能となるかもしれないね・・・。
だが、向こう側世界の霧島博士が設計した移送器の考え方では、その方法は不可能だ・・・、理由は移送器の次元移送が一方通行という事にある。」
アメリカの研究者の恐ろしいコメントに対して、霧島博士がゆっくりと答え始める。
「一方通行・・・という事が原因・・ですか?
一方通行だとしても、相手先の次元にも移送器を送り込んで相手側次元からの電波を受信することにより双方向通信ができ、リモートコントロールが可能となるではないですか。
その電波を、また別次元へ飛ばすことで、その先のマシンだってコントロールできるはずですよ。」
ちょっと霧島博士の説明の意図が見えない・・・、マシンを送り込むのは2段階になってしまうだろうが、マシンを操作する電波は次元移送装置を経由して、送ることはできるはずだ。
「いや、そうではない・・・、移送器で次元の向こう側世界をのぞいた時のことを思い出してほしい。
向こう側世界に電源を付けた移送器を送り込み、ビデオカメラやマシンからの映像を受け取ったよね?
あの移送器はこちら側世界から向こう側世界へ物を送り込む移送器と、まったく同じものを送り込んだはずだ。
それなのに、どうして向こう側次元の電波が送られてきたと思う?」
すると霧島博士がホワイトボードへ寄っていきながら振り返って質問してくる。
「そっそれは・・・、移送器がこちら側世界へアクセスするように設定されていたからではないのですか?」
すぐに大雪君が答える・・・うんうんそうだ・・・と俺も思う。
「そうだ・・・、移送器は向こう側世界からこちら側世界へ物を送るように設定されていたから、電波を送ってきたわけだ。
だとしたら、同じ移送器でどうしてこちら側世界から向こう側世界へ物を送れると思うのか?
Aという次元からBという次元へ物を送り届けられるよう設定された装置があるとする。
当然B次元の座標などが設定されているはずだ・・・、その装置をB次元で動かした場合・・・、A次元へアクセスすると思うかね?
座標というのは相対的なものだから、A次元から見た場合のB次元の座標に当たる、C次元へアクセスしてしまうはずだ。
そうなると電波はB次元からC次元へ送信されることになり、次元移送がうまく行っているかどうかすら、確認ができないね・・・。
かといって、B次元から見た場合のA次元の座標をどうやって取得する?計算で成し遂げられないことはないはずだが、それには宇宙の作りや次元間の構造などすべて把握できていないと無理なことだ。
つまり絶対座標を取得できなければ、その次元から見た場合のアクセス先の次元座標を設定する以外方法はないわけだ。」
霧島博士が、ホワイトボードにA→B→Aと一旦矢印を戻して見せてから、それを消してB→Cと書き換えて見せる。
ううむ・・・だったら、一体どうやっているというのだ・・・?
「移送器というのは実にうまく設定されている。
移送器が別次元へ物を送っている最中には、同時に電波も飛ばしていることが分かった・・・、つまり、こちらの次元から電波を飛ばしているぞと知らせているのだ。
その電波を次元を超えて受信した移送器は、その電波が来ている次元座標へアクセスするよう、自動設定されるよう工夫されているわけだ。
電波の周波数の変化や位相のずれ及び強さに加えて、クロック信号の間隔なども解析しているようだ。
つまり移送実験するときに相手側世界へ移送器を送り届けて起動すると、こちら側世界の移送器からの信号を受け取り、その送信元の座標を突き止めて自動で移送先を設定してくれるわけだな。
そうすることにより、未知なる次元でも移送器を送り込むことで電波が返ってくるという訳だ。
移送器が双方向通信でさえあればそんなことはしなくてもいいわけだが、実際考えてみて相手先に何の装置もないのに電波が返ってくることなどありえないことだから、まあ当然といえば当然の考えだ。
やろうと思えば、こちら側世界から別次元へのアクセスを試みるという事は可能だろうが・・・、当然のことながらリモートで行うことは無理だ・・・向こう側世界からの移送器の信号を受けて、移送先が向こう側世界に戻ってしまうからね。
そうなるとリモートではなく直接操作する必要があるわけだが・・・、植民地の人々は別次元への侵略行為を許すはずもないから実験はできなかっただろうし、マシンを使って秘密裏に操作するにしても、相手先次元の状況を確認するには大規模な解析装置が必要となってしまうから、こちら側世界でそれを行うのは目立ってしまうよね。
なにせ、向こう側で得られた他次元の座標データはすべて使えず、1からやり直しとなってしまうわけだ。
どうやって別次元の座標を取得するのかわからないが、恐らく相当高度な解析装置と演算装置が必要となることだろうね。
向こう側世界だけの実験で行うには、こちらを経由して・・・という次元の中継移送は無理という事だ。」
霧島博士がホワイドボードの表記を消しながら笑顔を見せる・・・これでちょっと安心する・・・。
でも、そうなるとますます何の反応もないという事が、べつの不安になってくる・・・。
<ピーピーピー>すると突然、通信室内に甲高い警報が鳴り響いた・・・見ると阿蘇が持っている巨大な通信機の音のようだ。
すぐに阿蘇が通信機のマイクに向かって呼びかけている。
「オーケィ・・・ウィーキャンゴーナウ。
フィリピン政府からの通信です・・・向こう側世界の所長さんから連絡がありました。
至急来てほしいそうです。」
すぐに阿蘇がほっとしたような笑顔で告げる・・・よかった・・・。
モニターの向こう側のメンバーたちにも円盤に乗船して連絡を待つように告げ、地上へのエレベーターに乗り込む。
「あなたたちの勝利ですよ・・・インターネットにアクセスして、そちら側世界への強奪の記録を流しましたね。
それにより、こちら側世界の暴挙が一般の人たちにも知れ渡るようになり、連日各国首脳たちのところへ人々が殺到いたしました。
ついには暴動のような事態になりまして・・・、各国の指導者たちは更迭されて拘束されております。
私たちのように直接強奪にかかわってきた者たちも同罪として拘束されましたが、私だけは連絡係としてこの場に連れてこられております。」
所長の打ちひしがれたような、線の細い声がぼそぼそとコントロール装置のスピーカーを通じて流れてくる。
そうか・・一般市民が蜂起したのか・・・、霧島博士の読みは間違っていなかったという事だ。
そうして首謀者や関係者たちは拘束されたと・・・、するとラッキョウたちも拘束されたという事か・・・。
「どうも・・初めまして・・・、新倉俊三と申します。
新政府代表として、ご挨拶させていただきます・・。」
すると、どこかで聞いたような声が聞こえてきた・・・新倉・・・?
「我々世界が存続するための措置とは言え・・・、あなたたちの世界に対して行った数々の暴挙・・、許しがたいものがあります。
しかも我々にはその内容を一言も明かさずに・・・、核攻撃による地上世界の破壊に関しても、我々世界の国々の紛争が拡大して双方が同時に核攻撃に踏み切ったものだと聞かされておりました。
平和な日々が続いていたのに突然各国で政変が発生し、わずか1週間で世界規模にまで派生する恐れがあるとされ、我々は用心のために核シェルターへの避難を誘導されたのです。
まさかそれが・・こちら側世界からの手探り状態での反撃であったとは、想像もしておりませんでした。
今回あなたたちからのメッセージを受け取り、市民が一斉に蜂起して各国首脳を更迭いたしました。
さらに元凶ともいえるフットヒル社の幹部を、それぞれの地域の核シェルター内でそれぞれ拘束しております。
あなたたちの望みは、あなたたち世界から食料物資を強奪することを計画した首謀者たちを明らかにすることと、適正な法的手続きを踏んで処罰することとお伺いいたしましたが、まさにその首謀者たちをとらえることに成功しました。
ですが・・・首謀者たち全員の引き渡しは致しかねます・・・、我々には我々世界の法律がございます。
裁くのであればその法律で裁かせていただきたいと思うわけです・・・、もちろん法律の解釈も異なれば、そもそも法律そのものがあなたたち世界のものと異なるという事は承知しております。
ですが・・・この問題は我々の問題でもあるわけです・・・申し訳ありませんが、我々側で裁かせてください。
すべての核シェルターという訳ではありませんが、それでもいくつかのシェルター内には裁判官や検事及び弁護士の方もいらっしゃいます。
それぞれの国や地域にのっとった法律で、それぞれの地域の首謀者たちの処罰を決めたいと考えております。
もちろん裁判の記録もお見せいたしますし、何だったらタイムリーに裁判の様子を放送しても構いません。」
新倉俊三が新たな提案をする。
ううむ・・新倉俊三・・・、彼が向こう側世界の代表となったという事か・・・、というより日本のシェルターの代表者なのかもしれないが・・・。