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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第8章
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戦争終結…そうしてアクセス

16 戦争終結・・・そうしてアクセス

「了解しました、こちら側からの要求は・・・そちら側世界の首謀者・・・とは申しませんが、トップの方たちが協議したうえで今後の対応を決めてください。

 こちら側としましては、無理にそちら側世界からの技術力供与を受けようとは致しません・・・、それは旧植民地域にも徹底させるつもりです。


 ですが・・・正式な貿易関係を行うとするなら、供給される技術に対する単価なども細かく設定していかなければなりませんので、開始までにそれなりに時間は必要と考えます・・・恐らく数ケ月は費やすでしょう。

 その間・・・そちら側世界の備蓄が持つかどうかも心配ですので・・・なるべく早く返事を頂けることを期待しております。


 その際は、旧植民地行政府への通信回路は開けさせておきますから、そちらを経由して我々を呼んでください。

 旧植民地にはこれからも定期的に円盤を就航させますが・・、24時間常にいるという訳ではありませんので、ご了承ください。


 それでは・・・。」

 そう言ってから赤城は通信を切るよう指示を出した。


「いっ・・・いいのですか?あんな要求を出してしまって・・・、先行きを悲観して向こう側世界から捨て身の報復攻撃とか・・・、やってこないですかね?」

 すぐに後ろへ振り返って、赤城に問いただす。


「ああ構わんよ・・・別に食料物資の供給を止めると言っているわけではない・・・・、向こう側世界の進んだ技術を提供いただく代わりに、正当な対価として供給すると言っているわけだ。


 ただし今までの植民支配していた関係ではなく、あくまでも対等な関係で行うという訳だから、当然のことながらキューブのようなブラックボックス化した細工はやめにしていただくがね。


 その形であれば、こちら側でもそのものを解析して技術を盗む・・・というと言葉は悪いが、進んだ技術力を学ぶことも可能となる・・・それでも解析の技術もないから、すぐには無理だがね・・・。

 解析技術の向上を早急に推進することにより、こちら側世界の技術力の飛躍的な向上が見込めるわけだ。


 いずれは向こう側世界に追いつくことも可能となるだろうし・・・、そうなれば技術力の供与を受ける必要性はなくなるわけだが・・・、だからと言って食料物資の供給を取りやめることはしない。

 人道支援の立場からも・・・、支援は続けることはあらかじめ約束しておく。」


 赤城は妙にすっきりしたような顔で答える。

 その顔を見て俺は・・・、これで向こう側世界との戦争は終結したのだという事を理解した。


「でっ・・ですが・・・、向こう側世界のトップというか指導者・・・、つまりこちら側世界から食料物資を強奪することを計画実行していた首謀者たちを表に出して適正な処罰を下す・・・。


 生体による次元移送ができない今ではこちら側世界の裁判にかけることは難しいでしょうが・・・、それなりの刑に服させるという事が条件となるわけではないですか?

 それはのめないとばかりに、自決を望んだりしませんかね?


 その時にこちら側世界を道連れに・・・なんてことも・・・。」

 俺はいまだに所長のある言葉が耳に残っている。


 所長は以前、核ミサイル搭載の攻撃衛星のみならず様々な兵器をこちら側世界に送り込んでいるという事を言っていた。

 危なそうな衛星の大半はすでに向こう側世界へ送り返してはいるのだが、それ以外にも地上や海中などに兵器を隠してはいないだろうか?


 なにせ巨大円盤だって100機以上の数が隠されていたわけだ・・・しかも広大な牧場を兼ね備えた農場までこの世界のいたるところにあった・・・、まだまだ未開の地が多いこの世界で、そのような戦略兵器が隠されているとしたなら、大きなダメージを受けてしまうという事になる。


「まあ・・・そのような無謀なことはしでかさないと考えている・・・、あくまでも希望的推測だがね。


 それよりも・・・こちら側世界の技術力が向上すれば・・・、それこそ移送器の改良を重ねて生体での次元移送が安全に行えるという実証も行えるわけだ・・・、動物実験を重ねてね。


 さらに・・・生体での次元移送は無理でも・・・、大罪を犯した向こう側世界の人々をこちら側世界で受け入れるという事には、かなりの抵抗が予想されるからね・・・、向こう側世界へのアクセスを行って環境を変えることはできるかもしれない。」

 すぐに霧島博士が口を開いた。


「環境を変える・・・?ですか?」


「そうだ・・・たとえば、核の灰を収集して一ケ所に集め、それを無効化するとか・・・それが出来なければ固めて廃棄するとかだね。


 巨大円盤に真空ポンプをつけて地上の核物質を吸い込んで回るわけだ・・・、自然に環境が戻るまで待っていたら200年かかる場合でも、そうやって汚染物質を除去して回れば、早い段階で地上へ出られる可能性が高い。

 そうはいっても、1年や2年のレベルではないだろうがね・・・。


 恐らく向こう側世界の霧島博士もそういう事は計画されていたと考えるが・・・、いかんせん環境改善を行うべき巨大円盤の手持ちがなかった。

 まあ、我々が大半を破壊して一部を取得したからだがね・・・、恐らくこの時まで、向こう側の霧島博士は詳細を知らされてはいなかったのだろう。


 そのために理由をつけて植民地での円盤製造を行ったのだろうが・・・、それも手っ取り早く行える生体での次元移送計画の移送先として利用されるだけに終わってしまった。

 それもこれも向こう側世界の指導者たちの意向によるものだと、霧島博士は嘆いておられた・・・。


 そもそも、こちら側世界に隠してあった百台以上の巨大円盤だって、向こう側世界へ戻して汚染物質の除去に役立てるべきだったわけだ。

 ところが当初は霧島博士たち研究者には、こちら側世界から強奪を続けていたことも、更にその反撃を受けて世界の大半が死滅したこともひた隠しにされていたらしい。


 さらに反撃を受けた後でもマシンによる強奪が依然として続けられていたし、マシンを無効化された後は急きょ巨大円盤を復活させ、更にその圧倒的攻撃力を見せつけたのち、加工貿易を行うことを要求してきたという訳だ。


 その円盤を特攻ともいえるやり方で爆破及び奪取したのち、ようやく霧島博士たち一部の研究者たちに事の詳細が告げられたのだと言っていた。


 しかも当初は、植民支配した国や地域の人々からは感謝されて慕われているとさえ報告していた・・、まあ実際のところ、その場面だけ切り取ればその表現は間違ってはいなかったがね。


 霧島博士は事態を収拾するべく、生体での次元移送の可能性をほのめかせたうえで、環境改善に役立てるための円盤製作を計画した。


 しかし、その計画では円盤製作に十年必要とし、更に環境改善まで含めたらその後十年以上は必要という試算結果に至り、向こう側世界の指導者たちの猛反発を受けたという訳だね。


 指導者たちは・・・恐らくそれほど若くはないのだろう・・・、一生を穴倉の中で終えるわけにはいかないと、霧島博士に生体での次元移送に注力するよう要求したということだ。


 霧島博士は言いはしなかったが・・・恐らく家族を人質に取られたとか・・・、断れない立場に追い込まれていた様子だ。

 それで仕方なく生体での次元移送のメカニズムを開発し、自ら先頭に立ってこちら側世界へやってきたという訳だ。


 つまり・・・向こう側世界の指導者たちの間違った判断で・・・、自らを破滅的な状況へ追い込んでしまったという事を明らかにして、そうして向こう側世界に正常な環境を取り戻すのだという事を理解させることが出来れば、無謀なことはしかけてこないだろう。


 円盤製作の工場は依然としてアメリカ、フランス、中国で建造中だし、世界中の部品組み立て工場もすでに稼働待ちの状態だ。

 部品供給を受ける必要性はあるが、フル稼働できれば百台の円盤など2年あれば製作可能なはずだ。


 そこから十年・・・、長いようだが決して絶望的な年数ではない・・・。」


 霧島博士が向こう側世界の環境を改善する方策を披露する・・・、それもこれも、向こう側世界の霧島博士に対して、きちんと情報公開さえしていれば、間違った方向へ進まずに済んだという訳だ・・・。


 いや、最初から霧島博士にこちら側世界のような文明社会から強奪を計画しているという事を報告すれば、絶対にあの人はそれを認めなかっただろう・・、どんな手段を講じてでも次元移送装置を使えなくしたはずだ。


 つまり・・・霧島博士の知らないところで行われた数々の暴挙であるにもかかわらず、一人でその罪をかぶって散っていったわけだ・・・、唯一こちら側世界での裁判の時だけ、自分には何も知らされてはいなかったと主張していたわけだが・・・本当に悔やまれる・・・。



 その後1ケ月間・・・、向こう側世界から一切の通信が行われることはなかった。

 世界中の旧植民地には数日に一回ずつ円盤で巡回はしたのだが、今までのように駐留軍を送り込むことはしなかった。

 すでに植民支配からは解放済みだし、下手に刺激をしてマシンと駐留軍との戦闘になることは避ける目的からだ。


「しかし・・・一切の通信がないですよね・・・、食料の備蓄はそれなりに確保してあるのでしょうが、それにしても遅すぎますよね・・・。」

 俺は先行きを悲観して、向こう側の指導者たちが最悪の選択をすることを恐れていた。


 なにせ巨大円盤の建造による向こう側世界の環境回復の提案など・・・、向こう側からの呼びかけがないため行えていないのだ。


 そのまま技術供与を続けていき、しまいには与える技術も底をつき、最終的にこちら側世界からの施しを受けざるを得なくなってしまうと想定していると、誤った判断を下してしまう恐れがある。

 先日の交渉の時に、どうして明るい先行きを説明してあげなかったのか、俺は少し疑問を感じている。


「うーんそうだね・・・あまりにも返答が遅すぎるよね・・・、こちら側からの提案を断るとかもう少し自分たちにも有利な関係になるよう交渉するとかの算段があってもいいと考えていたのだが・・・、まったくのなしのつぶてだからね。


 何をしているのだろうか・・・。」

 司令部地下の通信室で、赤城も少し困惑した表情だ。


「もしかすると・・・、向こう側世界は今度こそ本当に原始社会の次元を探しているのではないですかね?

 そうして、そこで誰にも迷惑をかけずに農業を行って食料を確保する・・・、そうすれば我々に頼らずに済みますよね?」


 すると大雪君が口を開く・・・、確かに文明の発達していないというより人類の誕生していない次元を見つけることが出来れば、そこで安全に食料調達ができるだろう・・・、流石に動植物は存在するだろうから。


「いや・・・それは無理だろう・・・、向こう側世界だって当初は様々な次元にアタックしたはずだからね、何千何万という次元を調査したうえで、我々の世界を選択したはずだ。

 それをいまさら付け焼刃のような形で再調査したところで見つかるはずはない。


 まあ、やっていないとは言わないのだが・・・、新しい場所が見つかる可能性は限りなくゼロに近いという訳だ。」

 するとそこへ白衣姿の中年男性が現れて話に加わる・・・、霧島博士だ・・・いつになく登場が遅い。


 だがまあそうか・・・、そんなところが見つかってさえいれば、わざわざこちら側世界から強奪する必要性はとっくになかったはずだものな・・・。


「それより・・・新しい作戦だ・・・、これも向こう側の霧島博士の残してくれたコントロール装置にあったファイルからの情報だ。


 向こう側世界の通信網にアクセスする・・・、そうしてこちら側世界の事情を放送する。」

 そうして思いもかけないことを告げる。


「向こう側世界の通信網にアクセス・・・ですか?」


「そうだ・・・、向こう側世界のデジタル信号に変換した電波を送り込むのだ・・、というか電波の発信機を向こう側世界へと送り込むのだな。


 向こう側世界の地下基地へマシンを送り込んだ時のように、近い距離で通信をするのであれば発信機は互いの世界側にあってもよかったのだが、今回は向こう側世界の衛星に電波を届かせる必要性があるので、発信装置を向こう側世界に送り込まなければならない。


 発信装置を作り上げるのに少し時間がかかってしまったが、同時に向こう側世界が行ってきた数々の悪行というか強奪行為とこちらとのやり取り・・・、新倉山君の裁判や向こう側世界の霧島博士の裁判の様子も含めて全てをビデオにして発信する。


 うまく向こう側世界の一般民衆がその映像を目にすることが出来れば・・・、手順通りに事が進めば、インターネットというネットワークにアクセスするようだから、恐らく可能と考えている。


 発信装置の設計図はすでに各国に送付済みで、送信する映像をこれからコントロール装置のメール添付で行うから、各国ともに円盤をスタンバイさせておいてくれ。

 そうして発信機をバルーンに結び付けてから、移送器を使って向こう側世界へと送り込む。」


 霧島博士は自信ありげに、にやりと微笑む。

 そのまま会議はいったん終了し、円盤を動かして霧島博士がメールを送信する。


 その後、司令部基地のグラウンドにいって、次元移送装置を長いポールの先に括り付けて、反対側をグラウンドの土に深く差し込む。

 地上から十mくらいの高さに次元移送装置が位置している状態だ。


「水素ガス入りの風船だ・・・、向こうの霧島博士のリクエストではヘリウムという事だったが、こちら側世界では高価すぎるので水素で代用している。

 発信装置の重さに少しだけ浮力が勝る程度に調整してあるのだが、窒素と一緒に充てんしているので、危険性は少ないはずだ。


 これにより、すぐに上空高くまで上がることはなく、ゆっくりと時間をかけて横風に流されながら漂っていくだろう。

 計算では36時間ほどは大気中に浮かんでいられるはずだ・・・、それを世界8ケ所で行うわけだから、それだけの時間映像発信を続ければ、ひとめには必ず触れると考えている。」


 霧島博士はそういいながら水素入りの風船を付けたロープから手を放すと、下部に四角い箱を結びつけた黄色の風船が数分の時間をかけてゆっくりと上昇していき、やがて次元移送装置のところで瞬間的に消失した。

 まさに希望の風船が昇っていった・・という感じだ。



「送付した映像を見てみるといい・・・。」

 通信室へ戻った後で、霧島博士が100インチ液晶にビデオを映し出した。

 それは、この世界が受けた数々の暴挙の記録だった・・・。



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